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ポスト移行期南アフリカの社会変容

調査研究報告書

2011年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
牧野久美子 ・ 佐藤千鶴子 編『南アフリカの経済社会変容』研究双書No.604、2013年3月発行
です。
第1章
はじめに
第1節 伝統的指導者を巡る議論の概観
第2節 伝統的指導者の政治制度への組み込み
第3節 伝統的指導者に対するANCの政策と対応
おわりに

伝統的指導者は非民主的な存在であるため、民主主義の実現に障害となると考えられることがある。南アでの伝統的指導者の処遇は、ANC政権の功利主義的な判断で変容しているが、多元的かつ多様な南ア社会を構成する社会集団のひとつとして扱っている。伝統的指導者はANC政権に対してその役割と機能の拡大を要請しているが、憲法の規定の範囲内に限定され、民主主義を脅かす存在にはなっていない。南ア社会には多様な利害が交錯している。民主主義を演繹的に適応しようとするのではなく、伝統的指導者に関する事項を帰納的に考察すれば、南ア社会の多元性と多様性、そして民主的システムの作用が浮かび上がってくる。

第2章
はじめに
第1節 GATTにおける南アフリカの貿易政策
第2節 政治的移行後の貿易政策の変遷
第3節 ドーハ開発アジェンダにおける交渉姿勢
結びに代えて

アパルトヘイト体制後の南アフリカの貿易政策は「国際経済体制への再統合」を基本姿勢としてきた。しかし、それをどのような手段で達成するかに関しては、時代ごとに異なっている。1994年の政治的転換後は、大幅な関税削減を中心とする貿易自由化を推進した。しかし急速な自由化は国内産業とりわけ繊維産業に大きな打撃を与え、多くの雇用を失う結果となった。このため、国際経済体制への積極的参加は維持しつつも、国内産業の保護・育成と雇用の確保に向けた産業政策を採用するようになる。最近では、戦略的な関税政策をとることによって、貿易自由化と産業保護のバランスを重視した政策へと移行してきている。また、世界貿易機関(WTO)は「国際経済体制への再統合」の象徴でもあり、南アフリカは交渉グループのリーダーを務めるなど、積極的にWTOに参加している。

第3章
はじめに
第1節 南アフリカのワイン産業
第2節 ワイン産業の再編と黒人の参入
第3節 AgriBEEとワイン産業
おわりに

本章では、ワイン産業を事例に、アパルトヘイト撤廃後の南アフリカ(以下、南ア)の商業的農業部門の再編過程を(1)農産物流通改革と(2)黒人の参入の程度と形態に着目し、検討する。南アの商業的農業は、20世紀初頭以来、政府による手厚い保護政策のもとで発展してきたが、その一端が農産物の流通規制であった。ぶどうを原料に作られるワイン産業では、業界最大の生産者協同組合組織であったKWVが、ぶどうの栽培割当(クォータ)制度などを通じて市場をコントロールし、生産者価格を保護してきた。だが、この制度はワイン流通の寡占化をもたらすとともに、南ア・ワインの質的発展を阻んできた。
民主化後、ワインの流通が自由化されると、経済制裁解除に伴う国際市場へのアクセスの拡大もあり、南アのワイン輸出は急増する。同時に、国際市場の需要を満たすため、高級品種の栽培が増加するなどの質的向上も起こった。他方、新政権による土地改革政策の導入により、黒人の新規参入の促進が新たな課題として浮上した。1990年代末から南アフリカ・ワイン産業信託基金(SAWIT)の設立を通じて、業界全体での取り組みが始まるとともに、政府の補助金を利用して農場労働者が農場の一部を購入し、ワインを醸造する例もでてきた。2000年代以降は、AgriBEE政策の展開により、黒人による土地および株式の所有や経営参加の拡大はますます重要な政治的課題となっている。にもかかわらず、ワイン産業への黒人の参入はいまだきわめて限定的なものに留まっている。

第4章
はじめに
第1節 南アフリカ企業の対アフリカ投資
第2節 南アフリカの対タンザニア投資
第3節 タンザニア進出企業の事例
第4節 南アフリカのタンザニア進出の影響
おわりに-今後の研究課題

本章の目的は、南アフリカ企業のタンザニア進出に関する研究の中間報告として、2009年8月~9月に実施した予備調査をもとに、(1)南ア企業のタンザニア進出の全体像を明らかにすること、(2)南ア企業のタンザニア進出を促した動機や社会的な背景について現段階での入手資料をもとに整理すること、(3)南ア企業のタンザニアへの進出による影響について整理することにある。タンザニアにとって南アによる対内投資残高は最大であり、南部アフリカ諸国における南アのプレゼンスほどの影響力はないものの、雇用面での貢献や幾つかの産業で同国最大シェアを誇るなど現地経済に影響を与えている。また、南アのタンザニア進出は民営化政策とも関係している。タンザニアは南アにとっての東アフリカ地域でのゲートウェイ的な役割があるものと考えられ、南部アフリカ地域を越えての南アの対アフリカ投資を考える上でも示唆を与えるものと期待できる。

第5章
はじめに
第1節 中国と南アフリカの経済関係
第2節 南アフリカの家電市場
第3節 中国企業の進出と競争環境
おわりに

中国企業はどのような理由から海外進出を決定し、進出先でどのような成果をあげているのだろうか? 本論では家電産業(テレビ)を対象に、中国企業による対南ア投資の要因と、その成果を分析する。南アフリカのテレビ市場では、日韓メーカーがドミナントな地位を築いているものの、中国の海信(Hisense)と厦門華僑電子(XOCECO)も市場の一角に食い込んでいる。その他の中国家電メーカーとくらべて、両社には対南ア投資をおこなっているという共通点がある。中国から南アフリカまでの高い輸送費と、南アフリカの高い輸入関税が存在するため、南ア家電市場では海外直接投資(FDI)の方が輸出より有利な進出モードになっている。しかし、技術力やブランド力のある日韓メーカーと、低価格路線をとる量販店のプライベートブランドに挟撃されるかたちで、中国メーカーは激しい競争に直面している。

第6章
はじめに
第1節 アフリカの都市的なるもの
第2節 南アフリカの都市
第3節 都市における移民
第4節 中国系都市住民・都市移民のダイナミズム
おわりに

南アフリカの都市景観は、民主化の前後からの20年間で大きな変化を遂げた。国際的な資金や投資開発の促進が都市部を中心に進んでいるからであるが、都市開発の下で、移民貧困層の流入、治安の悪化、空洞化などの大都市の退廃的側面も注目されるようになっている。政府のグローバル都市戦略の一方で、アフリカ化が進んでいると言われる南アの大都市を、まずアフリカにとっての都市とは何か整理しながら、大都市内部の中国人移民の空間が南アフリカ社会の変容と都市のダイナミズムをどう受け入れ、移民空間の形成に反映してきたのか史的に整理する。

第7章
はじめに
第1節 南アフリカへの移民の歴史的経緯
第2節 アパルトヘイト廃絶後の移民
第3節 南部アフリカ地域における南アフリカ移民政策の含意
おわりに—内面化された排外主義

近年の南アフリカには歴史的に恒常化してきた移民の流れと近年の新たな移民の流れが混在している。アパルトヘイト廃絶以降、南アフリカに移民が集まるのは、この国が経済的、教育的、そして政治体制の変更という経験も含めた政治文化的に傑出するアフリカの中心国として姿を現しつつあることを示している。しかし、実態を把握することが困難な非正規移民が増加し、人権の擁護を含む移民の処遇が問題となっている。とりわけ深刻に受け止められている現象は、南アフリカ黒人による外国籍黒人に対する暴力である。この現象は、南アフリカという国家と社会が自国社会および国際社会において自らをどのように位置付けているかという文脈において検討されるべき課題である。一国の移民政策は国家がどのような国家的展望を持ち、ナショナル・アイデンティティを構築しようとしているのかを如実に反映する。こうした問題関心に基づき、本章は、南アフリカにおける移民に対する南アフリカ政府と社会の対応を整理し、近年の南アフリカ国家の志向性を検討する。

第8章
はじめに
第1節 日本・南ア関係の概観
第2節 日本における反アパルトヘイト運動
第3節 南アで活動する日本のNGO
おわりに

南アフリカの体制移行は、アパルトヘイト国家と敵対してきた南ア市民社会を大きく変容させると同時に、反アパルトヘイト国際連帯運動に取り組んできた外国の市民社会にも役割変化を迫るものであった。本稿は、そうした外国の事例として日本を取り上げ、南アの体制移行の前後における日本・南ア関係について、南アの体制移行への日本の市民社会の対応を焦点として検討するための準備作業として、(1)アパルトヘイト期から現在にかけての日本・南ア関係の概況、(2)日本の反アパルトヘイト運動の歴史、および(3)1990年代初期に南ア支援を開始した日本のNGOの活動についての整理を行う。
本稿での検討を通じて、貿易・投資関係を基軸とする両国関係のあり方には体制移行の前後で強い連続性が認められること、そうした状況で、日本のアパルトヘイトへの荷担を中心的な問題としていた日本の反アパルトヘイト運動は、容易に活動の方向性を変更するのが困難であったこと、そしてその困難は、日本の援助政策における政府と市民社会の関係の転換期と南アの移行とが時期的に重なったために増幅された可能性があること、が浮かび上がった。また、1990年代初期に南ア支援を開始したNGOが、市民同士の草の根の交流・支援を基本にしつつ、政府資金をも利用しながら現在まで活動を継続していることを確認した。