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中国の産業はどのように発展してきたか

調査研究報告書

渡邉 真理子 編
2011年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
渡邉 真理子 編著『中国の産業はどのように発展してきたか』勁草書房、2013年発行
です。
第1章
1. はじめに
2. 旺盛な参入への注目
3. 「旺盛な参入と低い価格」めぐる理論的分析
4. 中国の企業戦略と産業構造の特徴に関する仮説

中国の産業発展に共通する原理を整理するのが、本プロジェクトの目的である。この分析のとっかかりとして、「旺盛な参入と安い価格」を中国の産業構造の特徴と捉え、これを分析する概念を呈示する。具体的には、固定費を回避する企業の戦略と政策によって安価に抑えられてきた生産要素が作用しあい、市場への参入コストが引き下げられれ、安価な製品を大量生産するプロセスとなっている。このプロセスの弱点は、独自に技術開発をする余地がないため、技術的ブレークスルーを引き起こせないことである。このため、製品の内容、品質、価格が同質化してしまう。しかし、当初、消費者の所得水準は低く、品質などへのこだわりも弱かったため、こうした戦略は需要に適合したものであったし、さらに中国の所得水準が向上したあとも、発展途上国市場での安価で同質化した財への需要を開拓している。また、中国の巨大な生産能力が海外からの商業ベースでの技術提供を呼び込み、技術革新能力に欠ける欠点を補い自律的な発展が可能なしくみが構築されつつある。

第2章
分散的な市場構造 pdf (292KB) / 木村 公一朗
1. はじめに
2. 家電・エレクトロニクス製品
3. 輸送機械
4. 素材
5. 時系列の短い製品
6. おわりに

本章では中国の市場構造に関して、各品目における上位3社集中度(C3)と上位5社集中度(C5)や、その推移をまとめた。ここで取り扱った10品目(テレビ、エアコン、携帯電話機、自動車、オートバイ、粗鋼、セメント、医薬品、ビール、紙)のうち、携帯電話機以外の集中度は、相対的に低い水準にある。しかし、集中度の推移は一様ではない。近年上昇しているものが多い一方で、下落しているものや、低い水準で横ばいになっているものもある。集中度が今度、どのような水準で安定するのかを予測することは難しい。しかし、現時点に関して言えば、多くの品目の市場構造は依然として分散的である。

本章の加筆・修正版は以下のとおり。
資料:10産業の発展プロセスpdf (472KB) / 木村 公一朗・渡邉 真理子(2013年4月5日アップロード)


第3章
1. はじめに
2. 中国のさまざまな産業で参入企業数が多い理由
3. 参入と退出
4. 企業が赤字になる理由
5. 水平統合の進展
6. 企業グループが形成される論理
7. 戦略的資産を獲得するための合併
8. 競争制限的な合併
おわりに

中国の各産業には概して非常に多数の企業が参入している。自動車産業の例に見られるように、中国政府は「過剰な」企業を整理しようと企業間の統合の推進してきた。そのため過去には企業自身の経営戦略に基づかない「受動的」な企業グループ化が多かった。しかし、最近は企業の経営戦略を実現するために行われる統合も増えている。中国企業に典型的なのは戦略的資産を獲得するために行われる企業合併であり、独立したメーカーとして存立するための基礎的条件を得るためのものから、技術的なボトルネックを解決するために戦略的に重要な部品等を作る企業を垂直統合するものもある。さらに、ごく少数ではあるが、寡占企業間の競争を有利にするための統合も見られる。

第4章
1. はじめに
2. 国内流通に占める「市場」の地位
3. 専業市場システム
4. ツーサイドプラットフォーム
5. 新興市場に適した流通システム

中国の製造業の発展において、「市場」というユニークな流通形態が大きな役割を果たしてきた。本章の前半では中国の国内流通における「市場」の地位を確認したうえで、「市場」の本質がツーサイドプラットフォームであり、「市場」を抱えた産業集積では分散的、競争的、かつ重層的な構造が形成されやすいことを指摘した。後半では、「市場」はツーサイドプラットフォームとして、小規模需要への対応と需要情報伝達の面で優位性があり、中国のような新興市場の開拓にとりわけ適していることを説明した。そのうえで、こうした優位性は後方連関効果の誘発と企画デザイン能力の向上、という二つの面で中国の産業高度化に寄与しうることを指摘した。

第5章
1. はじめに
2. 需要と消費の全体的傾向
3. 国内市場の地域的重層性
4. まとめ

本稿の目的は、中国の各産業で見られる、分散的な多数の企業による激しい価格競争の背景となった国内需要を概観とすることである。そのような作業の出発点となる初歩的な仮説は、そのような競争は、多数の企業に参入の機会を与えるだけ市場規模が大きく、また多様性であること、特に能力的に未熟な企業の成長の苗床として機能する中下位市場に厚みがあるということである。そのために本稿は、中国の需要を、投資、消費(都市と農村)、地域間の多様性(格差)という視点から、主に統計データを整理することで概観する。日本の経験とインドとの比較を随時行う。最終的に、中国の多数の企業による分散的な激しい競争の背景には、所得面で市場に大きな多様性、重層性があること、それは都市と農村のそれぞれの内部の格差と地域的な格差の広がりがもたらしたことを確認した。また各所得セグメントがそれぞれ大きく成長しているもわかった。多様性、重層性を深める要因として、巨大都市の急速な高度化と底辺市場の規模的成長が同時に起こったことも確認できた。それはより多様性の少ない日本やインドとの比較からより明らかになったと考えられる。

第6章
はじめに
1. 中国の経済発展と農業問題
2. 食糧流通制度の改革と食糧価格
3. 中国の賃金水準と農民工
おわりに

本稿では、経済発展と農業問題との関係をマクロ的視点から描いた速水[1986]の理論的枠組みに依拠しながら、中国の安価な食糧はどのようなメカニズムによって生み出されたのかについて、計画経済期と改革開放期の2つの時期に分けて考察していく。計画経済期には、食糧の統一買付・統一販売によって都市労働者の食糧価格と賃金水準を抑制し、都市部の重工業化のための原資を獲得してきた。
それに対して改革開放期には、農家は労働集約的・土地節約的な農業技術を採用することで、食糧の高い生産性を実現してきたが、その一方で経済発展による所得水準の向上によって食糧需要は低迷するなど、賃金財としての食糧の機能は著しく低下してきた。そのため、政府は食糧価格の買い支えや生産者への支援強化といった農業保護的政策を強化し始めている。したがって、1990年代後半には中国は食料不足問題を克服し、農業構造調整という新たな問題に直面する段階に達したといえる。

第7章
1. はじめに
2. 高度成長期における中国のエネルギー生産・消費状況
3. 政府によるエネルギー価格の低位誘導とその評価
4. 近年のエネルギー価格の市場化の進展とその背景、展望
5. おわりに

本章では、工業成長に対する主要投入財であるエネルギーに関して、特に中国の主要エネルギーである石炭に焦点を当てて、その価格政策の変遷を回顧し、人為的に低価格へと政策的に誘導されてきた経緯を整理した上で、その効果あるいは副作用について考察する。工業を中心とする産業が発展する過程においては、安価なエネルギーは中国企業の変動費用を抑えることに寄与してきた一方、エネルギー供給を増加させるインセンティブをエネルギー企業に与えることができず、エネルギー不足の状態が長く続くという問題があった。しかし高度成長が更に加速した2000年代後半以降、政府によるエネルギー価格の低価格誘導は見直しが進んでいる。その背景には、①産業の高度化、そして②外貨準備高の増加による海外エネルギーの輸入余力の増大がある。以上を踏まえて、今後のエネルギー価格および海外からのエネルギー輸入の展望を行う。結論としては、今後エネルギー価格はより一層市場において決定される度合いが増していくこと、その結果、国内価格が国際価格よりも割高となる局面が生じた場合には海外からのエネルギー輸入が行われること、そしてその頻度と輸入量の大きさは決して少なくないと考えられることを指摘している。

第8章
資金制約にどう対応してきたのか pdf (142KB) / 渡邉 真理子
1. はじめに
2. 横断的特徴:公有企業優先の資金供給システム
3. どうやって資金を調達したのか
4. 資金が規模と取引形態を制約している
5. おわりに

中国の金融システムは、改革開放の歴史の中でつねに企業や産業の発展、自由化に遅れをとり、現在にいたるまで公有部門を優遇するシステムとなっている。それにも関わらず中国の企業と産業が驚異的な発展を実現できた、資金制約にどのように対応してきたのだろうか。本章は、エピソードをもとにこの点について考察する。起業と事業の拡大については、公有部門へのアクセスがあるほうが絶対的に有利であった。しかし、改革の進行により、商売の拡大による自己資金の蓄積、海外からの資金の調達といった経路が増えた。さらに、事業を進めるための運転資金については、手元資金を上回る取引が行われているが、その背景には、売り手と買い手の間で売り手が与信をしたとしても、買い手が前金を支払う、残金の支払いのタイミング調整するなどにより、確実に資金が支払われるしくみが編み出され、取引規模とそこで流れる資金の額が拡大するしくみが編み出されていた。その際に、中小規模の企業でも参入が用意になるように、販売や部材の調達といった機能を外注し、固定費を変動費にする工夫が同時になされていた。資金制約の厳しい「体制外」の企業でも参入が可能になる取引の工夫が、旺盛な参入が可能にしていた。