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台湾総合研究Ⅲ——社会の求心力と遠心力

調査研究報告書

2010年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
沼崎一郎・佐藤幸人編『交錯する台湾社会』研究双書No.600、2012年3月発行。
です。
目次 pdf (100KB)
第1章  
「台湾総合研究Ⅲ 社会の求心力と遠心力」研究会では,1年間の討論を通して,全体に関わる問題として,台湾社会の統合性と、求心力と遠心力という表現の多義性とが明らかとなった。本稿では、先ずこの2点について、論点を整理する。求心力と遠心力については、3つのモデルおよびその複合モデルを提示する。次に,筆者の担当する社会階層とエスニシティの領域における知見と課題とを概観する。特に重要な点は社会階層、エスニシティともに複雑化していること、そのため多元的な理解が求められていることである。

第2章  
「台湾意識」を強調してきた民進党政権の2期8年が終わり,新しく誕生した国民党・馬英九政権は経済の立て直しなどを理由に中国大陸との人的・経済的交流(「通商」・「通航」・「通郵」)促進を進めている。こうして「中国と台湾」との関係が新たな局面を迎えつつあるいま、オーストロネシア語族系の先住者である〈原住民〉は「中国」や「台湾」をどのように認識しているのか。本稿では,対原住民政策史、国政選挙における原住民の投票行動,馬英九政権成立後の原住民をめぐる社会・政治状況,個々の原住民(本稿の場合はブヌン)の語りなどを整理することで,この問題に対する初歩的な検討を試みた。本稿における検討からは、(1)原住民地区における高い国民党支持の具体的状況、(2)長年にわたる国民党支配を通じた原住民社会と国民党との間の密接な関係,(3)閩南系住民に対して原住民(ブヌン)がもつマイナス・イメージと民進党不支持との関係、(4)「原住民(族)」ラベルの浸透/理念の未浸透、(5)原住民エリート・原住民運動家層における現状への危機感/一般レヴェルにおける生活重視などの諸点が明らかになった。

第3章  
李登輝,陳水扁政権から馬英九政権への変化,経済的発展とその後の衰退は、外省人における台湾の求心力と遠心力に如何に作用したのだろうか。本稿では韓国華僑を対象にその問題を探る課題の検討を行った。馬英九の政策は、台湾と中国との一体感を強め、一般的にこれは韓国華僑の愛国心を高めている。また,台湾経済の低下と中国経済の発展は台湾の魅力を低下させる要因だが、台湾、大陸に基盤を持つ韓国華僑の活躍の場も拡大させている。同時に長年住んだ台湾を離れられない者もいれば、台湾の政治的不安定さ、経済力の低下から台湾を離れる者もいる。「住み慣れた」という生活上の拘束力は政治、経済の問題とどのように関係するのであろうか。これらの問題は,外省人にみる台湾の求心力と遠心力を見るうえで重要な手がかりとなる。今後、これらの関心から調査分析を行う。

第4章  
新移民政策の形成と展開 pdf (400KB) / 田上 智宣
現代台湾において、新移民(婚姻移民,労働移民)の存在はますます大きなものになりつつある。中でも東南アジアと中国大陸出身の女性を中心とする婚姻移民は、今後の台湾の国民統合にとって重要な意味を持っている。戦後の国民党政権は、台湾から他国への移民に対して消極的黙認の立場をとっていたが、1980年代から移民政策策定の議論が開始される。しかし,受け入れとしての移民を含んだ移民政策に着手するのは1990年代末になってのことである。陳水扁政権期は移民政策に関係する法制度を整備しなければならない時期であったが、居留申請の人数制限や身分証取得までの期間延長、就労の制限など、特に大陸籍配偶者に対しては厳格な制度に変更していったことで、人権侵害との批判を受けることになった。

第5章  
東アジアの諸社会はジェンダーに関してかなり違う様相を持っている。女性の社会進出は,中国系社会でもっとも進みやすく、日本が中間、朝鮮半島がもっとも保守的である。この点では台湾は日本よりも先進的なのである。これに対して、高齢者を働かせるかどうか,という点に関しては、日本が非常に積極的で、台湾を含む中国系社会は大変消極的である。比較を通じて,「歳をとっても働くことは健康にいい」と信じている日本社会と、「歳をとって働くことは不幸なことだ」と考える台湾社会双方の「奇妙さ」が浮き彫りにされる。

第6章  
本稿は政治理論家コーヘンとアラート(Cohen and Arato [1994])のモデルを用い、2008年5月以降,台湾民主政治の発展及び政治共同体の内的凝集力を考察するものである。本稿は「逆説的な民主主義の定着」(paradoxical democratic consolidation)という仮説を提起し、国民党が2008年に新しい一党優位システムを再建させたものの、二年も経たないうちに解体されたのは、構造的な危機及びリーダーシップの失敗がもたらした統治権威崩壊の連鎖的な過程であったと主張する。グローバルな金融危機と馬英九総統のリーダーシップの失敗が,市民社会登場のきっかけを作ることになったのである。市民社会が野党にかわって、「公共の利益」の内容を決め,その代表として発言することによって、有効な牽制が形成された。市民社会の牽制によって、選挙の票が大量に野党に流れることになった。票を失ったことで生じた圧力によって、国民党の政治家が立ち上がって党の政策を反対することが誘発され、馬英九のリーダーシップ危機はさらに深まった。リーダーシップ危機が深まったことによって,市民社会の勢いがますます増大し、それがもたらした選挙の票の転移効果も、野党を持続的に回復させた。このように、台湾の民主は再び強固なものとなったのであり、市民社会は台湾共同体の凝集力が再生する源泉となった。

第7章  
台湾では、1980年代半ばから1990年代初めにかけて「自力救済」と呼ばれる裁判や行政によらない、公害被害者や開発により潜在的に影響を受ける周辺住民らによる実力行使が頻発した。このような激しい公害紛争が発生し続けた背景には、権威主義体制の下での急速な産業化の進展と、政治的自由化、民主化があった。急速な経済発展に伴い環境汚染が進んでいたが、権威主義体制下では環境汚染への不満が政治的に抑え込まれていた。民主化が段階的に進む過程で、反公害運動、環境保護運動は、他の社会運動と同様に、政治的自由化、民主化を求める運動と並行して、相互に相手が拡大した「自由の隙間」を利用ながら拡大していった。本稿では、環境政策の形成期に頻発した自力救済による公害紛争、反公害運動の背景を明らかにし、「法と経済学」の枠組みを用いて台湾でそれが頻発し続けた要因とその問題点を分析する。

第8章  
現在の台湾社会は凝集性を高めようとしているのか、それとも発散する傾向にあるのか。本稿は、中国への統合を支える概念としての「中華」に着目し、この中華という概念が、戦後台湾社会の中でいかなる変化をとげてきたのかを台北にある国立故宮博物院の近年の動きを通じて整理することを目的とする。2000年の政権交代以降、本土化を推し進め、台湾を統合する概念を中華から本土化へと変えようとした民主進歩党政権下の8年間において、台北故宮ではいかなる変革が起ったのか。その流れを概観するとともに、とくに設立70周年時と80周年時に見られた博物院自身の自らの沿革に対する歴史認識の差異を通じて、台湾における中華の位置づけが台北故宮とどのように関わっているのかについて呈示する。


第9章  
台湾・中国間の経済交流の現在 pdf (647KB) / 佐藤 幸人
本稿では台湾と中国の経済関係が台湾社会に及ぼす作用を研究するための準備として、ふたつの作業をおこなった。第1に、中台経済交流の推移を観察した。それによって、台湾にとっての中国との経済交流の重要性、2000年代において貿易と投資が一段と拡大したことを確認した。第2に、陳朝政の研究と対話しながら、筆者が上海でおこなったインタビューの結果に基づいて仮説的な議論を展開したことである。それを通して、同文同種の道具からアイデンティティへの転化、台幹の位置づけ、直航の台商への影響という論点があることを提示した。

第10章
台湾では現在海運4か所、空運1か所の計5か所の自由貿易港区が設置され、運営されている。この自由貿易港区は2003年7月に法律が成立し、翌年から設置が始まった。この自由貿易港区が設置された背景を考えると、国際物流における台湾の地位が減ってきたことが考えられる。例えば、この自由貿易港区の法律が成立される前年の2002年には、台湾を代表するコンテナ港である高雄港は、韓国の釜山港にその取扱量を抜かされるとともに、上海港の猛烈な追い上げをうけることになった。このような状況下で、台湾における国際貨物の取扱高を増加させるために行われたのが自由貿易工区であったということができよう。本稿では台湾における自由貿易港区について、背景や目的を検討するとともに、現状について海運と空運の自由貿易港区それぞれについて検討し、今後の課題ついても言及する。