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東南アジアにおける自治体ガバナンスの比較研究

調査研究報告書

永井史男、船津鶴代 編
2010年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
船津鶴代・永井史男 編『変わりゆく東南アジアの地方自治』アジ研選書No.28、2012年2月20日発行
です。
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第1章  
本章は、1990年代から2000年代初頭にかけて東南アジアの主要な民主主義国で進展した地方分権制度を、中央地方関係の様態、ガバメントとガバナンスのあり方から比較する試みである。地方分権改革から10年以上を経た東南アジアの地方分権化は、民主的な制度構築を目指す初期の段階から、現在は自治体(地方行政)のサービスがいかに住民に提供され、いかなる自治体業務を実施できるか、という行政の質を問う段階にきている。こうした行政サービスを拡大するにあたって、再び中央地方関係の再構築が問題になっている。

こうした問題関心から、東南アジア各国の地方自治制度について、中央地方関係と「ガバメント」「ガバナンス」を分析の軸を用いて比較し、各国の特徴を把握する方法を考察する。

第2章  
東南アジアにおける地方政府を比較研究するにあたって、(1)中央地方関係とそのネットワーク、(2)「ガバメント」と「ガバナンス」、という2つの論点が有用であるとの認識を示す。そのうえで、日本における経験を踏まえて、今後進展していくであろう東南アジア諸国の地方分権とその分析に一定の方向性を示唆する。とくに「ガバナンス」の内容を精査すること、「ガバメント」の存在意義を確認すること、透明性の確保の重要性を認識することを現時点では指摘する。

第3章  
インドネシアで地方分権が始まってから9年が経った。一般住民の地方分権に対する評価は比較的高いものの、中央政府には地方自治体への不信感が強く、2004年以降、ガバメント強化の名のもとに中央集権化の兆しも見える。本稿ではこの9年間の地方分権化の流れを振り返った後、少しずつ始まっているガバメント強化の試みを紹介する。その上で、企業経営の発想や住民参加の手法を取り入れて革新的な自治体運営を試みている地方首長を見ていく。その上で、ガバメント強化が単なる集権化に陥る可能性に警鐘を鳴らす。

第4章  
フィリピンの地方政府 pdf (342KB) / 佐久間 美穂
フィリピンの地方政府は、地方政治家の私財蓄積や支持者への個別利益ばらまきに資するのみで、公共の利益を生み出すことには関心が薄いと指摘されてきた。政府が法の支配のもとに政策を実施する機能を有している状態を「ガバメント」と定義するならば、フィリピンの地方政府はガバメントとして十分機能してこなかったと言える。しかし、1991年地方政府法をはじめとするルールの変更により、以前よりも公共財や雇用の創出に関心を持つ地方政府が現れ、住民から支持されるようになってきた。ルール変更の重要性を指摘した上で、現行制度化でフィリピンの地方政府に何が可能であり、何が課題として残されているかを、事例を通じて明らかにする。

第5章  
本稿はタイの地方自治制度を「ガバメント」と「ガバナンス」という文脈の中で位置づけ直す試みである。特に、1990年代半ばから農村部に設置された基礎自治体(タムボン自治体)に着目する。タイの地方自治制度の概略を説明したあと、タイの地方自治改革の事例として、自治体合併、自治体格上げ、自治体賞付与、住民参加やNGO/NPOとの関係を通して考察する。結論として、タイの自治体は「ガバメント」の側面を強化しつつ、「ガバナンス」の側面でもそれなりに機能していることが明らかにされる。

第6章  
イギリス植民地時代に形成された民族問題を内包するマレーシアでは、その解決を内政の最大課題に、新経済政策を軸とした開発の政治が地方にまで推進されていった。その過程で、ガバメントの観点からすると法的に整備された地方行政制度をもちつつも、他方で、法的に地方より優位な権限をもつ連邦政府が、行政と政党が一体化する仕組みをつくりあげていく。その結果、与党連合とりわけマレー人与党UMNOの権限を強化させた。そこで起きるガバメント運用のゆらぎについて、1999年野党政権が樹立したマレー人州トレンガヌを事例に考察した。

第7章  
多民族国家であるインドネシアにとって、各地域の慣習・文化により多様な形態・機構を持つ村落をいかに近代的行政の枠内に組み入れていくかは、建国以来の国家的課題となってきた。本章では、これまで繰り返されてきた村落再編の内容とそのインパクトを整理・検討し、地方分権化以降の村落再編を歴史的に位置付けることで、村落ガバナンスをめぐる論点と課題整理を試みる。

第8章  
1991年地方政府法制定後のフィリピンにおける地方政府のガバナンスの現状を、バターン州総合沿岸管理事業を事例として検討する。その際に、政府が法の支配のもとに政策を実施する機能を有している状態を「ガバメント」と定義する。そのうえで、地方政府がガバメントとして機能するためにはいかなるガバナンスの仕組みが有効なのかという観点から、沿岸管理事業の先行事例の問題点を整理するとともに、バターン州の事例の特質を明らかにする。

第9章 
タイにおけるタムボン自治体設置から15年を経て、農村部に自治体が創設された意義と制度上の問題を、環境問題への対応を題材に論じる。タイ農村部への自治体設置は、国家と農村社会の間を初めて直接に結ぶルートが作られ、コミュニティの問題を自律的に解決できる中間団体(組織)が創設された点で、タイの行政制度上、大きな意義をもつ。1990年代前半まで、農村住民には環境問題など利害が錯綜したコミュニティの問題解決を訴えるルートが限られ、村や行政区の範囲をこえて上位の行政組織に取り上げてもらう有効な手段がなかった。タムボン自治体の設置後は、自治体が住民の利害を調整して中央の局や地方行政組織等と意思疎通を図るようになり、農村住民は地域の開発や環境問題の解決を自治体に訴えられるようになった。

しかし、タムボン自治体は中央—地方行政等と個別に連絡・交渉できる独立性をもてた反面、中央行政との垂直的統制には制度上多くの不備が残されている。環境管理などを典型例として、内務省が自治体業務と認めながら個別法が改正されず、自治体としての業務執行に必要な法的権限が与えられていない分野が数多くある。中央行政からの手続き・技術・予算の支援が不足し、自治体単独での業務執行に限界があるなか、自治体は住民参加など独自のガバナンスや、自治体設置以前からの地方統治リーダー(行政区長や村長)との関係を利用して、こうしたガバメントの不備を補っている。

第10章 
本章では、地方自治体の首長選挙における世論調査の利用状況とその調査方法について、東南アジア諸国(フィリピン、インドネシア、タイ)の状況をまとめ、その問題点を考察している。フィリピンやインドネシアでは、政党や候補者自身が、自らの業績や有利さをアピールする材料として世論調査の結果が用いられるなど、世論調査の特殊な用法が見られる。一方で、「世論=世論調査結果」という同一視が進行しており、このことにかんする批判的な議論が必要である。また調査の実施方法についても、調査対象者の層別抽出の基準に疑問の残る部分があり、妥当性の検証が必要である。