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東アジアの経済統合 —理論と実際

調査研究報告書

平塚 大祐 著
2010年3月発行
目次 pdf (10KB)
第1章
東アジアの経済統合と課題 pdf (134KB) / 平塚大祐
本章は、本研究全体の研究課題を設定している。第1の研究課題は、東アジアの経済統合がどのような面において進展しており、どのような面において遅れているのか、東アジア経済統合の実態を理解することである。第2の研究課題は、東アジア経済の統合の進展の裏側において、東アジアの経済に何が起きているのかという問題である。東アジアでは、国内の産業集積が集中し国内経済格差が開いているのであろうか。また、国際間格差は縮小しているのであろうか。第3の研究課題は、経済統合のなかで、現地企業、とりわけ地場中小企業がどのような役割を果たしてきたか、そして、今後、どのような役割を演じることができるのかという問題である。第4の研究課題は、東アジア域内国同士による地域貿易協定(RTA)が増殖を始めたが、RTAは域内にどの程度の恩恵をもたらし、域内の産業立地にどのような影響を及ぼすのであろうかという問題について検討することである。もし中小企業がFTA利用上不利であるならば、東アジアは経済統合を進めるに当たり中小企業が不利にならないような政策措置を考える必要がある。

第2章
本章の問題関心は、生産ネットワークがどういう実態を持ち、どのように発展するのかという点にある。そして、東アジア、特に、中国に比べて市場が小さいASEANの生産ネットワークにはどのような展望が持ちえるのであろうか。この問題について、本章は、タイにおいて操業している日系ハードディスク・ドライブ企業の部品調達を事例的にとりあげている。ハードディスク・ドライブは、輸出産業であるためゼロ関税で部品を調達でき、部品及び組立完成品が軽量コンパクトであるため輸送費が小さく、経済統合によって何が起きるのかを示唆している。観察結果から、輸出生産目的の軽量コンパクトなハードディスク・ドライブ生産では海外サプライヤーからの調達が多く国際生産ネットワークが発達していることを指摘している。また、国際生産ネットワークは、地理的に近接している近隣諸国を柱とするネットワークとなっている。さらには、同一の部品を複数国、複数企業から調達している。他方、国内部品サプライヤーは、トラックで2、3時間の範囲に立地し集積している。

第3章
ジェトロが2006年、2007年、2008年に実施した『在アジア日系企業の経営実態』のインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムにおける調査を用いて、ASEAN6カ国において操業している日系企業の販売行動、中間財調達行動について、現地、日本、第3国との販売、調達比率について分析し、次のような観察結果を得ている。第1に、ASEAN6カ国において操業している日系企業は、第3国への輸出、第3国からの調達が進んでおり、輸出プラットフォーム化が進んでいる。これは、日系企業は、日本に研究開発、キーパーツの業者選定、マーケッティング、資金調達等の本社機能サービスを残しながら、受入国の現地の豊富な未熟練労働力を活用し生産販売を行っており、第3国への輸出販売もそれぞれ現地と輸出先の要素賦存状況の違いを考慮し輸出販売している。第2に、現地の経済規模が大きい国では、産業が集積し、現地販売比率も大きくなり、同様に、第3国の経済規模が大きい場合、第3国への輸出販売比率は高くなる。第3に、日系企業の販売、調達行動は、現地法人の操業年数と関係があり、操業年数が長くなればなるほど現地販売・調達比率と第3国輸出・調達比率は高くなり、逆に対日販売・調達比率は低くなる。第4に、第3国からの調達については、産業全体では、地理的距離は有意となり近隣諸国から調達する傾向があるものの、電子産業と自動車では地理的距離は有意な結果とはならなかった。このことは、付加価値の大きい基幹部品を本国や米国から調達し、細々とした部品を近隣から調達していることを示唆する。第5に、受入国の貿易費用は、現地販売率、現地調達率とは共に正の関係にあるが、第3国への輸出販売率、第3国からの調達率とは負の関係にあり、受入国の関税率が高いほど、第3国からの調達、第3国への輸出販売率は低下する。すなわち、輸出プラットフォームとなるためには、関税比率の引き下げが必要である。


第4章
経済統合により、産業の立地がどうなるのか。空間経済学によれば、輸送費の低下によって、労働の移動が自由に移動できる国内において工業がある都市に一極集中し、この結果、その他の都市は工業化されない状況が発生する核・周辺構造が発生する。そして、国際間においては、輸送費が低下すると、生産は賃金の低い国から高い国へと移転するという国際分散が起きる。本章は、タイを事例に、国内ではバンコク及びその周辺に産業が大集積し、空間経済学の予測通りの状況が発生していることを観察する。また、東アジアでは、国内の賃金格差は小さく国際間賃金格差が大きいことから、工業シェアーが各国とも上昇し、工業が賃金の高い国から低い国へと国際分散していることを指摘する。こうした国内の核・周辺構造と国際分散構造の議論を踏まえ、東アジアにおいて経済統合が進んだ場合、工業化が遅れているベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーを巻き込みながら、産業の国際分散を通じて、東アジアが全体として発展していくことを主張する。

第5章
本章は、貿易統計を用い、財別に貿易特化係数を観察することにより、東アジアでは、後発国が消費財→資本財→中間財の順に先発国をキャッチアップしながら発展してきたことを観察している。東アジア域内において産業の国際分散が起こり、産業の発展が東アジアから他地域に移転してしまうのではなく、東アジア全体が発展してきたのである。そうした後発国によるキャッチアップが消費財産業から始まっている点である。他方、近年では、電子産業等において、急速にキャッチアップが進展している。これは、従来の輸入段階から輸出段階へと移行するのはなく、いきなり輸出段階に移行する産業があり輸出プラットフォームしていることを示唆している。

上記のように、東アジアでは理論が提示するように、東アジア域内で国際分散が起こり、雁行形態的にキャッチアップが発生している。後発国のキャッチアップを成功させるためには、一国が政策にとりくむのではなく、関税率削減、貿易円滑化措置、物流ネットワークの整備など地域ぐるみで取り組むことにより、輸送費を削減する必要があるだろう。



第6章
東アジアにおいて施行済みのFTAの事後評価を行うことを目的としている。本章では、JETROが実施している日系企業活動実態調査を用い、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、ベトナムのASEAN6カ国を対象として、FTA利用の決定要因の実証分析を行い、利用率が低い要因を検討している。その結果、FTAは、大企業がFTAを利用する傾向にあり、中小企業はFTAを利用できない傾向があること、またFTAは自動車等の一部の産業が利用していることを指摘する。また、部品等の中間財調達を多くの国・地域から調達している企業ほど、FTAを利用あるいは利用検討している傾向にある。企業は、中間財輸入の際には、中間財輸入関税免除制度を利用しておりそれに慣れている。今後、企業にとっては、FTAを利用するか、それとも従来通り中間財調達免除制度を利用するかの選択肢があるが、FTAの利用促進のためには、原産地証明書の申請手続き取得の簡素化を図る必要があることを主張している。

第7章
本章は、前章までの検証結果、検討を踏まえ、1)東アジア経済統合の現状、2)東アジアの産業集積と国際分散、3)CLMV諸国の発展可能性、4)現地企業、地場企業の発展、5)地域経済協定の恩恵について議論している。そのうえで、東アジア経済について、市場の小さな国は市場の大きな国とともに発展できるか、東アジア経済統合の要素:輸送費の削減という観点から、東アジアの経済統合と経済について展望している。東アジアが目指すべき統合は、先発国はより付加価値の高い産業へと進展し後発国は付加価値が低い工業財に特化し、次第に付加価値の高い工業財へと技術の階段を昇りながら、地域が全体として発展するような経済統合である。そのためには、関税率の削減、貿易の円滑化措置、サービスの自由化が不可欠であるとしている。同時に、CLMV諸国のような開発途上国の場合には、インフラ整備が不可欠であることを主張する。

参考文献 pdf (43KB)