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食料危機と途上国におけるトウモロコシの需要と供給

調査研究報告書

2010年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
清水 達也 編『変容する途上国のトウモロコシ需給 —市場の統合と分離—』研究双書No.596、2011年発行
です。
第1章
本章ではまず、2008年の食料危機に関する先行研究を概観した。主要穀物の価格高騰は様々な要因が重なり合って発生したが、中でもバイオ燃料原料としての需要拡大が重要である。

次に主要穀物の中で生産量が最も多く用途が広がりつつあるトウモロコシについて需給構造を概観した。トウモロコシは他の主要穀物と比べて、供給面では単位面積あたり収量の増加のペースが速く、輸出は米国をはじめとする少数の国に集中している。需要面では食料、飼料、バイオ燃料のほか、工業用の原料など用途が広がっている。

第2章
本章では、アメリカのトウモロコシの需給状況について、アメリカ農務省(USDA)のデータを中心にして整理した。特に近年のトウモロコシ需給に最も大きな影響を与えている燃料エタノールとの関係について明らかにした。そのうえで、トウモロコシの価格高騰にエタノールが与える影響について考察するために、トウモロコシを含む主要穀物の価格決定の仕組みについて検討した。

穀物価格(現物価格)は、先物価格とベーシスから構成されるが、基本的には先物価格の動向が最も重要な構成要素である。しかしながら、現物の需給の動向が反映されるのはベーシスであることから、現物市場における需給関係が現物価格に与える影響は限定的である。しかしながら、現物需給の将来予測は、先物価格を決める投資家の投資行動決定の要因の重要な構成要素である。それだけに2010年2月決定された再生燃料基準の改正が注目される。

第3章
本章では、メキシコにおけるトウモロコシの生産・流通・消費に見られた変化を概観する。トウモロコシは、メキシコでは古くから主食の地位を占め、また革命後の体制のもとでは国民統合の象徴として政治的・イデオロギー的役割をも付与されてきた。しかし、1980年代半ば以降、急ピッチで進行した自由化政策の下で、この作物は純粋に「経済財」として捉えられ始めているということができる。2000年代に入ってからは、トウモロコシを輸入代替しようという政策も推進されているが、それは政策担当者にとって、また少なからぬ生産者や需要者によってトウモロコシが「経済財」と認識されているがゆえのものであると言えるのである。

以下、本章では、第2節でメキシコのトウモロコシをめぐる地理的・歴史的背景を概観した後、北米自由貿易協定(NAFTA)の制度設計がトウモロコシの経済的・社会的位置づけの変化に対応できなかった模様を記述し(第3節)、第4節ではこの作物の新たな輸入代替政策について見ることで、その位置づけが複雑化している様子を跡づけたいと考えている。

第4章
本稿では、21世紀になってから恒常的な輸出産品となったブラジルのトウモロコシにに注目し、需要と供給の両面を各種の資料や調査データに基づいて整理した。供給面では、年2回収穫されるトウモロコシを第1作と第2作に分けて、生産量の増加に対する寄与率を計算した。これから、単収の増加が全体の生産量増加に寄与する部分が大きく、地域的には新興産地の中西部における第2作の貢献が大きいことを明らかにした。需要の面では、主たるユーザーである鶏肉産業を取りあげ、鶏肉の国内消費の変遷と寡占化が進む食肉産業の再編について分析した。この結果、ブラジルの単収は伸びているものの、水準では米国等と比較するとまだ低く、さらに伸びる余地があり、かつ新規開拓可能地が残されているため大幅な増産余力があり、今後とも輸出が拡大するという結論が得られた。

第5章
2008年にアルゼンチンで起こった、輸出規制、農業ストライキ、干ばつによる生産・輸出の減少は、食料危機の一因として取り上げられることが多かった。しかし中期的に見るとアルゼンチンの農業生産は拡大の一途をたどってきた。同国の農牧業生産の中心地であるパンパでは、1970年代以降の農業化の進行、1990年代の穀物と油糧作物の生産増加、そして2000年代に入ってのダイズ生産の飛躍的拡大と、生産・輸出の両面において食料供給の拡大に貢献している。

このような農業生産拡大の要因となったのが、経済自由化を背景とした農業関連部門への投資拡大、遺伝子組み換え種子や不耕起栽培などの新しい農業関連技術の普及、生産要素を柔軟に組み合わせる新しい生産組織の出現など、農業部門における構造変化である。

本稿では、1990年代以降のアルゼンチンの農業生産・輸出の拡大を概観した後、その要員となった上記の3つの構造変化について詳しく分析する。

第6章
中国では人々の生活水準の向上とともに、豚や家禽類などトウモロコシを主な飼料とする動物性タンパク質に対する消費需要が増加し、2000年頃からはコーンスターチやアルコールなどトウモロコシの加工製品に対する需要増も著しい。これらの旺盛な消費需要を背景に、2000年代に入っても中国のトウモロコシ生産量は増加し続けている。

ただしトウモロコシは元来、ほかの穀物と比べて主食としての消費需要が少なかったことから、中国では2000年代前半までトウモロコシの需給均衡のため、販路の確保という問題が常に存在した。そのため、中国政府はトウモロコシの地域間流通システムを構築するとともに、政府管理のもとで余剰トウモロコシの海外輸出を行ったり、トウモロコシを原料とした加工業の発展を政策的に支援してきた。

しかし2007年頃から中国国内のトウモロコシ在庫量が減少し、世界的な穀物価格が高騰してくると、中国政府は食糧安全保障のため、トウモロコシなどの穀物に対する厳しい輸出規制と加工利用の制限を行うと同時に、穀物の政府買付価格を大幅に引き上げるなど、食糧増産を政策的に支援してきている。

そこで本稿では、中国のトウモロコシの供給体制と需要体制の変遷と現状を整理し、トウモロコシの国内流通システム構築に向けた取り組みと課題を明らかにする。さらに世界的な穀物価格高騰に対処するため、中国政府が強力に推進してきた食糧安全保障政策に焦点をあて、その政策内容と経済効果、農業政策としての問題点について議論していく。

第7章
タイのトウモロコシ生産は、1950年代の後半から30年ほどの間、急速な拡大を遂げた。これは日本などアジア市場の需要に導かれたものであった。本章では、1990年代初めまでのトウモロコシ輸出拡大期に焦点を当てて、タイのトウモロコシ産業の展開過程と、なぜそれがアジア市場で比較優位をもちえたのかを、主に統計データによって確認するものである。

第8章
本稿では、東南部アフリカ諸国におけるトウモロコシの生産、輸出入、価格動向、農業政策を検討する。トウモロコシを主食とするこの地域では、トウモロコシの輸出入量が国内生産量と比べて小さく、国内消費量のほとんどを自国内での生産でまかなっている。そのため2008年の世界市場における穀物価格高騰の影響は限定的であった。ただしトウモロコシの生産量は不安定で、年ごとの天候、政府の農業政策、国内の政治経済状況などによって国内価格は大きく変動する。仮に国内の生産減と国際価格高騰が同時に発生した場合には、この地域における食糧事情は深刻な悪影響をこうむる可能性がある。