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ミャンマー軍事政権の行方

調査研究報告書

2010年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
工藤 年博 編『ミャンマー政治の実像 —軍政23年の功罪と新政権のゆくえ—』アジ研選書No.29、2012年3月14日発行
です。
序章 
はじめに
1.新憲法の制定と特徴
2.国家防御法とスーチー氏の拘束
3.再燃する少数民族問題
4.国際社会の対応
5.本書の構成
おわりに

ミャンマー軍政は2008年5月に、自分たちに有利な条項を盛り込んだ新憲法を、国民投票で国民の圧倒的賛成を得たという体裁を整えて制定した。この新憲法の下で総選挙が実施されれば、選挙結果に関わりなく、国軍は国政に一定程度の影響力を確保することができる仕組みになっている。また、2009年8月のスーチー氏に対する有罪判決と、同月の少数民族武装勢力との武力衝突は、ミャンマー軍政が民主化勢力と少数民族勢力という国内の2 つの反政府勢力を押さえ込み、2010年の総選挙を成功裏に実施し、軍政主導の新政権を樹立しようとする、国軍の強い意思を示すものであった。一方、2009年にはミャンマーを取り巻く国際関係においても、大きな変化があった。アメリカが従来の強硬路線を転じ、ミャンマー軍政との直接対話に乗り出したのである。アメリカの政策転換は、先進国を中心に国際社会にも波紋をもたらした。今後、ミャンマーを取り巻く国際環境が大きく変わる可能性も出てきた。序章では、こうしたミャンマーの新展開を紹介し、その背景を解説することで、2010年総選挙とその後の動きを展望するための、材料を提供する。取り上げる「新展開」は、新憲法の制定とその特徴、国家防御法とスーチー氏の拘束、再燃する少数民族問題、国際社会の対応とその変化の4点である。

第1章
はじめに
1.ミャンマー政軍関係研究
2.総選挙の前提条件
おわりに

この小論には2つの目的がある。ひとつは,ミャンマー政軍関係に関する先行研究をまとめることである。これまでの研究は大きく3つに分類することができる。第1に,政局を重視する研究,第2 に,軍事的側面に着目する研究,第3 に,長期にわたる政軍関係の構造を考察する研究である。もうひとつの目的は,こうした先行研究を利用しながら,2010年総選挙の前提条件を明らかにし,そのうえで選挙後の政軍関係上の変化を予想することである。2つのシナリオを提示したい。

第2章
新憲法の概要と特徴 pdf (36KB) / 伊野憲治
はじめに
1.新憲法の概要
2.新憲法の特徴

2008年に成立したミャンマーの新憲法の概要整理し、国家形態・権力の在り方などを中心にその特徴を指摘したうえで、今後のミャンマー政治において、国軍がどのように関わろうとしているのか、またそれが憲法上どのように規定されているかを明らかにする。

第3章
はじめに
1.ビルマにおける民族紛争の背景
2.停戦合意とその後
3.国民会議
4.新たな憲法:好機か難題か
5.2010年の選挙における民族政治家と政党
6.国境警備隊:統合は失敗か?

本論文は,1988年以降の軍事政権の時代に,なぜ紛争当事者が停戦状態へと至ったのか,その合意の本質は何なのか,これらの協定の帰結はいかなるものであったのか,そしてなぜ停戦が恒久的な平和をもたらさなかったのか,等の問題を検討する。特に停戦合意後の政治過程に関して,本論文は国民会議における憲法起草のプロセスに焦点を当てる。ミャンマー軍政はこの討論の場を,長く続く政治的な不満に対処するためのメカニズムとするべく,停戦グループのリーダーを招待してきたからである。本論文はまた,停戦協定がもたらしたもう一つの帰結,すなわち地方振興や以前は敵対していたグループがビジネス面で協力する機会がもたらされた点にも言及する。この点は恐らく,停戦協定が長期間にわたって政治的解決へとは発展せずに継続してきたことの要因のうちでも,最も重要なものの1つであろう。そして最後に,2008年以降のミャンマー軍政による国境警備隊への少数民族武装勢力の編入問題について検討する。

第4章
はじめに
1.宗教研究の動向
2.宗教全般に関わる状況と政策
3.仏教・サンガ政策
4.現政権におけるサンガ政策
5.政府中枢による宗教実践とメディア
おわりに

ミャンマーの現政権下における宗教に関わる政策と宗教をめぐる諸状況について、先行研究と基礎的資料を通じて、前政権と比較しつつ現状を報告する。具体的には、(1)宗教全般に関わる政策、(2)仏教、サンガに関する政策、(3)政府要人の宗教実践、あるいは宗教政策を前提としたより広い社会的反応という局面を扱う。

第5章
はじめに
1.教育の今日
2.1988 年以降の教育政策
3.公教育のほころび
4.軍事政権による教育政策のゆくえ

基礎教育分野においては、人々の教育のニーズの高さと国際社会の圧力に対応する形で、1990年以降カリキュラムや教員養成制度の改革が行われてきたが、一方で社会の底辺層においては、依然として不就学や中退の問題がみられる。高等教育においては、地方での大学の展開、遠隔教育の拡充政策は、高等教育のアクセスの増加とともに、民主化運動の担い手であった学生の分散化、非政治化に有効に働く一方で、教育の質を下げることにつながった。政権の目指しているものは、社会の安定を支える多数を占める一般庶民のために最低限の教育を提供することと結論づけられる。一方で公教育からはじき出された社会の底辺層のための僧院学校や、より高い質の教育を求める層のための私立学校などの代替教育機関が生まれつつあり、今後政権がどのような方法で公教育の信頼性を上げていくのかが、政権の信用を確保することにつながっていくであろう。

補足資料