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中国の水汚染問題解決に向けた 流域ガバナンスの構築 
—太湖流域におけるコミュニティ円卓会議の実験—

調査研究報告書

2009年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
大塚 健司 編『中国の水環境保全とガバナンス —太湖流域における制度構築に向けて— 』研究双書No.588、2010年発行
です。
第1章
太湖流域の水汚染問題の現状 pdf (266KB) / 水落 元之
太湖は上海市から西方に100km 程度に位置する中国第三の湖であり、表面積は2,338km2、平均水深は1.89mと浅い淡水湖である。湖本体は江蘇省と浙江省の省境に位置し、流域界は江蘇省、浙江省および上海市に跨っている。利水目的は主に、水道水、工業および農業用水、漁業、水運、観光であるが、経済の急激な発展により980 年代後半から富栄養化の進行が著しく、藻類の異常増殖による利水障害が頻発している。流域のGDPは2006年で中国全体の11.6%を占める。湖全体の水質状況の現状は劣Ⅴ類、主要汚染指標は全窒素であり、1990年代中期よりその傾向は同じである。流域における窒素の発生負荷の70%は江蘇省からであり、全体に占める都市排水、工業排水、農業面源の割合はそれぞれ19、29、52%で農業面源負荷が卓越している。これらの状況を背景に様々な対策が講じられており、5ヶ年毎の水質保全計画に沿って実行されている。前期の第10次5カ年計画(2001~2005年)では、工業排水や都市生活排水に関して処理施設の建設などが進められたものの、COD 排出規制目標を達成することが出来なかった。しかしながら2007年5月下旬から6月上旬にかけて藻類の大規模な異常増殖に見舞われ、長江の導水により急場を凌いだが、その後2020年までを見据えた保全計画が緊急に制定された。さらに江蘇省では排出負荷の大きな排出源に対して国家基準の最上位レベルを超える厳しい上乗せ基準が制定された。

第2章
中国において水汚染問題を解決し、水環境保全を実現するためにどのような仕組みをつくっていくべきか。本章では、まず中国における河川・湖沼流域の水汚染問題の状況をふまえ、水環境保全をめぐるガバナンスの諸問題を明らかにしたうえで、問題解決に向けて「ステークホルダー間の合意と協力」を積み上げることによる流域ガバナンスの構築が求められているのではないかと問題提起を行った。次に、それを具体化していくためにローカル・ガバナンスに注目して、中国における問題点の整理を行った。さらに、水汚染問題の深刻な太湖流域の事例について、国、江蘇省、無錫市による関連政策の動向を概観するとともに、ローカル・ガバナンスの改革に向けた取り組みを検討した。そのなかで、ステークホルダーの対話による紛争の解決および未然防止メカニズムとしてのコミュニティ
円卓会議の試みに注目して、2008年度に太湖流域において行われた社会実験の経過について、海外共同研究および現地調査にもとづいてとりまとめた。最後に今後の研究課題を指摘した。

第3章
本稿は、行政への決定に関する参加の問題を日本の河川行政に例をとって、その論点を検討した。責任行政の原理と参加の関係を明らかにし、具体的に法制度がどのように参加制度を取り入れていったかについて検討した。参加規定を設けた河川整備計画策定手続きの執行としての3モデルがあり、それぞれの課題を提示した。また、法によらない参加の二つのタイプについて、その課題と問題点を提示した。これらの事例から、3つの課題を、中国への示唆として提示した。

第4章
日本では地方分権一括法が原動力となり、全国的に地方自治体による独自課税創設の動きが活発になっている。地方環境税の創設は、住民にとって、税の仕組みとその運用が日常化し、また受益者と負担者の関係が明確になることから、住民の政策形成への参加をうながし、結果として地方自治を促進し、民主主義社会の醸成につながることが期待される。森林・水源環境税は、都道府県や市町村の地域固有性をふまえた上で、環境保全を目的とした経済的手段のひとつであり、森林の公益的機能に着目して、住民の税による参加を意図したものである。こうした取り組みの中には、萌芽的ではあるが、神奈川県のように水資源問題を流域全体でとらえる視点を盛り込んだ事例もある。

本章では、第一に環境政策と経済的手法の活用について議論した上で、第二に日本における森林・水源環境税をめぐる議論について論点を整理する。第三に森林・水源環境税の実施状況をもとにその特徴と問題点について考察を加える。以上の議論をもとに、第四に森林・水源環境税の事例として、高知県森林環境税、神奈川県水源環境保全再生県民税、茨城県森林湖沼環境税について検討した上で、日本における森林・水源環境税の経験について、流域ガバナンスと費用負担の視点から論じ、今後の課題を提示する。

付録 pdf (47KB)