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国際資本移動と東アジアの新興市場諸国

調査研究報告書

国宗 浩三 編
2009年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
国宗 浩三 編『国際資金移動と東アジア新興国の経済構造変化』研究双書No.591、2010年発行
です。
第1 部:テーマ別研究

第1章 
金融グローバル化の進展に伴って、先進国では政府部門が保有する外貨準備は一貫して減少している。ところが、開発途上国においては、逆に外貨準備は増加し続けている。

本稿では、まず、先進国と途上国の外貨準備保有高の推移を確認し(第1節)、続いて、金融グローバル化の進展を概観する(第2 節)。そして、両者の関係についての簡単な計量分析結果を示す(第3節)。

こうした分析の結果、先進国については、金融グローバル化と外貨準備保有の負の相関関係がロバストに確認できたが、途上国については、単純な関係ではなさそうである。よりはっきりとした結果を見いだすためには、途上国グループ内での多様性を考慮にいれた
分析が必要であり、この点は次年度の研究会において、さらに詳しく追求する予定である。

第2章 
アジア諸国における対外資本取引の自由化1980 年代後半から1990 年代始めにかけて始まったが、1990年代後半のアジア金融危機を経て、アジア諸国の対外資本取引は、国によってかなり異なる様相を見せている。例えば、韓国のように、アジア金融危機以降、資本流入のうち証券投資の割合が急増した国がある一方、インドネシアやフィリピンは、依然として資本取引の大きな部分を借入れが占め、証券投資や直接投資のシェアの伸びは鈍い。中国については、独自の資本取引規制政策により証券投資が抑えられている一方、1990 年代半ば以降急速に海外直接投資の受け入れが進んでいる。本稿は、対外資本取引の自由化に関する既存の研究を簡単にレビューするとともに、アジア諸国内で資本取引の多様性を考える上で重要と思われる論点を考察する。

第3章 
本稿では、国際資本移動のうち公的に行われるもの、特に開発援助の動向や今後の課題について考察した。まず、OECDデータを利用して、援助を受け入れる側の地域や国ごとに民間資本移動との規模の比較を行うとともにドナーや支出分野に見られる傾向を分析した。たとえば、アジア地域の開発援助における日本の貢献度が非常に高く、その援助の多くが経済インフラの建設や整備のために利用されてきたことなどを確認することができた。

次に、先行研究をサーヴェイし、開発援助をめぐる議論の変遷と現状について概観した。

経済成長に対する開発援助の有効性が問われるなか、問題の所在をドナー側に求める研究が進められつつある。ドナー間の援助協調が今後の課題となるであろう。

第2 部:国別研究

第4章 
中国の対外資本取引制度は、1978年以降の改革開放政策の中で、マクロ経済管理の必要に基づいて定められてきた。94年の人民元改革では、資本取引規制が強化されたが、それゆえに、97年のアジア通貨危機の際には、通貨危機・銀行危機に陥ることを回避できた。2001 年のWTO 加盟以降は、中国をめぐる国際資本フローに変化が生じ、対内直接投資・経常黒字などを通じて海外から大量の資金が流入し外貨準備が急増、国内の過剰流動性がマクロ経済政策運営上の難題となった。

中国は「人民元の自由化」、すなわち変動相場制への移行、人民元の完全兌換性の実現、資本取引の自由化、を最終的な目標としている。しかし、国内の経済・社会の安定にとって重要な投機的資金(ホットマネー)の管理や金融システムの効率性向上といった課題が残っており、基本的に資本自由化には慎重な姿勢を採り続けている。一方、グローバル金融危機と世界同時不況の中で始動している内需振興策は、海外から比較的高い評価を得ているが、対外不均衡の是正に寄与するかどうか、国内の構造改革(「発展方式の転換」)と両立することができるかどうか、という点にも留意する必要がある。

中長期的には、実物経済だけでなく金融経済(マネー経済)の面でも中国経済のグローバル化が進展するとみられる。それに伴い、中国の世界経済への影響および責任がますます大きくなることは言うまでもない。中国発のグローバル金融危機発生の可能性という観
点からも、中国の経済発展、産業構造の変化、金融資本市場の国際化、およびそれらによって生じる国際資本フローの変化に注視すべきである。

第5章
本稿の目的は、通貨危機以降における国際資本移動の基調変化を整理した上でその要因を明らかにするとともに、再び通貨危機に陥る可能性につき考察することである。

まず国際資本移動については、(1)経常収支は企業構造改革を背景とした企業の資金不足幅の縮小により黒字から赤字に基調が変化した、(2)外国人証券投資収支は外国人株式投資に係る規制緩和により流入超幅が拡大した、(3)その他投資収支に関しては銀行借入が急激に流出するリスクが依然として残っているとの点を示すことができる。また経済構造の脆弱性が解消したことに加えて、通貨危機回避のための環境整備がなされていることから、韓国が再び通貨危機に陥る可能性は低いと言える。

第6章
1997年のアジア危機発生当時、フィリピンでは、1980年に導入した構造調整融資のコンディショナリティに始まる金融部門改革と監督行政の強化を15年以上(3政権)にわたって実行している最中であった。中央銀行の再建を含め、金融分野関連法の制定・改正と施行、資本取引を規制緩和や自由化に合致した監督権限の付与等について一応の体裁が整ったのは、21世紀に入ってからである。一方、長期にわたる諸政策も金融(特に銀行)部門を大幅に再編するには至らず、アジア危機による不良債権の増加を政府主導で処理する財政的余裕を持たなかった同国では、金融機関の財務健全化に関して近隣東南アジア諸国に遅れる形となった。しかしこれには、国内経済の産業構成や金融部門自体、立法=行政機関間の改革への温度差、司法制度面などの要因が絡んでおり、政権のリーダーシップや関係監督機関の指導のみでは限界がある。アジア危機以降において特に重要視されている資本市場の拡大を図るには、地域金融協力枠組みなどをその推進力として利用していく必要があろう。

第7章
アジア経済危機から10年を経て、タイ経済は順調に成長率を回復し、資本流入も再開した。この概ね堅調に見えるタイ経済の回復過程で金融システムがどのような役割を果たし、また変容してきたかについて考えるための論点整理を行うことが本稿の目的である。金融システムの変容は、(1)国内の経済政策、とりわけタクシン政権下での抜本的な成長戦略の見直し、(2)それと密接な関係を持って進められた証券市場への政府の関与と抑制的な金融セクターの再編プラン、および(3)実物・金融両面における国際金融環境の変容、の3点から考察される必要がある。

タイの金融システムや資本流入構造の変容は、東アジア各国の変容とかなりの部分共通点を持つものである一方、直接投資の持続と製造業製品輸出による成長などはタイに特徴的なものである。この違いがどこから来たのか、今後、個々の論点の詳細な検討が必要である。

第8章
本論では、まず中長期的な視点から、1997年の金融危機以前と以後で、インドネシアの国際収支、銀行部門の構造がどのように変化したのかを検討した。国際収支についてみると、危機前の構造は経常収支赤字基調と資本・金融収支の大幅黒字基調であったが、
危機以後は経常収支の黒字基調と資本・金融収支の赤字基調へと変化している。2000年代初めからは、経済の回復に伴って、徐々に資本の流入が増加し、資本・金融収支は黒字へと変化しつつあった。しかし、資本・金融収支を構成するポートフォリオ投資および
その他投資の動向は、金利裁定に基づいて激しく変動するという性格を持っており、インドネシアの資本・金融収支の構造は、現在でも脆弱である。また銀行部門は、危機以降金融仲介機能を十分に回復していないままである。このような状況の下で、海外投資家を新
しいオーナーとする銀行は、収益率を上げるために、消費者金融を中心に貸し出しを伸ばすというビジネスモデルに転換しつつあるように見える。

2008年第4四半期以降、サブプライム問題に端を発する世界経済の危機は、インドネシアにおいても大変深刻な影響をもたらしている。この事実は、インドネシアの国際収支構造が引き続き脆弱であることを明らかにしている。また国際的な国際収支支援システムも危機後十分に整備されているとはいえない。これらの面で早急な対応が必要である。