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イスラーム金融のグローバル化と各国の対応

調査研究報告書

福田 安志  編
2009年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
濱田美紀・福田安志 編『世界に広がるイスラーム金融 中東からアジア、ヨーロッパへ』アジ研選書No.23、2010年12月24日発行
です。
第1章
本稿ではドバイとサウジアラビアにおけるイスラーム銀行の発展過程について検討した。ドバイでは世界で初めてのイスラーム銀行であるドバイ・イスラーム銀行が1975年に誕生した。ドバイ・イスラーム銀行が生まれた背景には、利息を禁止するイスラームの考えがあったことは当然であるが、ドバイの経済を活性化させていた石油マネーが大きな役割を果たしていた。一方で、サウジアラビアは世界最大の産油国であり、また、「コーランとスンナが憲法」と定めるイスラーム国家でありながら、イスラーム銀行の発展は抑制され複雑な経過をたどった。サウジアラビアはイスラーム国家を国是として掲げており、建前上は国内に金利付きの銀行があってはならなかったが、利息を排除しては金融・経済が成り立たなかったため、銀行は、利息を手数料などと呼び替えて、事実上、利息を介在させて金融活動を行っていた。サウジ当局がイスラーム銀行の開設を公式に承認すると、利息が禁止されるべきイスラーム国家で利付きの金融が行われている実態が浮かび上がるため、政府はイスラーム銀行の活動を目立たないように抑えてきた。そのサウジアラビアでは、1990 年代からイスラーム投資信託などが拡大し、2000年代に入るとイスラーム銀行がいくつも作られるようになったものの、利息の問題はいまだ解決されておらず、イスラーム銀行の展開にも影響を与えている。

第2章
GCC 諸国においてイスラーム金融のプレゼンスは急速に拡大しつつある。その背景には、この地域における金融部門自体の拡大は無視できない。新興市場国でもあるGCC 諸国にとって、金融システムの成熟ための一つのスキームとしてイスラーム金融の成長が期待されている。しかし、GCC 諸国のイスラーム金融機関の経営については依然として未解明な部分が多い。本章では、GCC 諸国イスラーム金融機関の財務データを利用して、その資金調達構造と融資手法もしくは投資先を明らかにすることを目的としている。

本章の分析から、GCC 諸国における好調な経済成長と金融部門自体の拡大に伴って、イスラーム金融機関は急速な拡大を続けてきた。それは収益性の高いと見込まれる分野と運用方式に対して集中的な投資活動を行うことによって、高い収益を上げてきたことによるものでる。GCC 諸国のイスラーム金融機関は主に非制限的投資勘定と自己資本から資金調達を行い、ムラーバハ方式を中心的な運用方法としてきた。一方で、GCC 諸国それぞれ、さらに各イスラーム金融機関で資金調達方法と運用方法は多様性を見せ始めていることも明らかにされた。

第3章
本章では1979 年の革命後に全面的にイスラーム化(無利子銀行化)したとされるイランの銀行制度についてイスラーム化がどの程度進展しているのか、また1990 年代以降のグローバル化の進展に伴う新たなイスラーム金融の拡大に、イランの銀行制度はどのような対応をしようとしているのかを考察する。

まず第1 節では英国利権による銀行制度の導入に始まったイランの近代的な金融システムが、国家的な制度として次第に発展を遂げつつも1979 年の革命で欧米進出の手先として標的になり、その後国有化と再編統合によって大きく変質するまでを扱う。

次に第2 節では現在イランの銀行業務を規定している4 つの法律についてその内容を検討し、特にイスラーム化の中心である無利子銀行法について、その実施状況がどの程度であるのかを限られた資料から推察する。

最後に第3 節ではハータミー改革期以降の銀行の自由化・民営化の流れのなかで、現在のイランではイスラーム金融の導入への関心は全体として高まっていないことを確認し、またその理由・背景について考察する。そのような中で、近年イランの地方社会においてマイクロファイナンスに近い機能を担っているガルズ・アル・ハサネの動向は、特に注目に値するといえよう。

第4章
パキスタンはムスリム国家として英領インドから1947 年に独立した。独立直後から建国宣言、憲法そして金融機関のイスラーム化を進めるために様々なことが行われた。

本稿は、パキスタンのイスラーム金融の発展について考察することを目的としている。特に1980 年代に政府主導で築かれた制度の下でのイスラーム金融業務について、そしてそれに対するシャリーア裁判とパキスタン最高裁判所の判決も取り上げる。2002 年からは政府は積極的にイスラーム金融発展のための新体制の構築につとめ、以来イスラーム金融の発展に多大な成果を挙げることになった。パキスタンにおけるイスラーム金融は、ここ数年急速に成長している。その背景には、継続的な商品・サービスの開発、そしてシャリーア規制の遵守などがある。パキスタン中央銀行は、2012 年までにイスラーム銀行の資産保有率を全金融市場資産の12 パーセントに伸ばすことを目標にしている。パキスタンでのイスラーム専業銀行の業務実績は西洋型の銀行(非イスラーム銀行)に比べてはるかに上回っている。国民の97パーセント以上を占めるムスリムがイスラーム金融の普及を大きく支えているので、今後も国内ではイスラーム金融は拡大していくであろう。

第5章
本稿は、マレーシアのイスラーム金融の発展動向について考察することを目的としている。とくに、法制度、規制・監督制度、金融システム、人材育成機関などの制度面と、統計資料によるイスラーム金融制度の規模の面に着目する。また、マレーシアはイスラーム金融市場でのプレゼンスを高め、国際イスラーム金融市場のハブ化を目指すために、国際機関によるイスラーム金融ADR のルール制定や、イスラーム金融の国際機関の誘致、中東諸国との経済関係の強化などのグローバル化を意識した行動にも触れる。

マレーシアでは政府主導の下でイスラーム金融制度が発展してきた。とくに銀行部門と債券市場の発展は著しく、それに比べてタカフル部門の発展は若干遅れているようである。マレーシアはムスリム人口が多く、政府が2010 年までにイスラーム金融のシェアを20%とする目標を掲げていることから、今後も国内ではイスラーム金融は拡大するだろう。中東との経済関係の強化により、この地域からの投資を積極的に誘致しようとしてきた。しかしながら、2008 年頃から深刻になった金融危機の影響で原油価格は断続的に下落し、中東諸国の経済も悪化している。よって、オイルマネーの取り込みを狙うイスラーム金融戦略は見直しを余儀なくされるだろう。

第6章
イスラーム金融の導入が本格化しはじめたインドネシアは、2 億3 千万人という人口の約8 割をムスリムが占めることから、今後の成長が期待されている。2002 年にインドネシア中央銀行は“The Blueprint of Islamic Banking Development in Indonesia”を発表し、今後10 年間のイスラーム金融の発展のための展望をまとめた。2008 年はこの青写真における作業段階の第2 ステージから最終段階である第3 ステージへの移行の年であり、イスラーム銀行法などの整備が進んだ。本章では急速に進められているイスラーム金融制度の整備の様子について、イスラーム銀行の青写真を2004 年に出された銀行部門全体の再編計画(API: Arsitekture Perbankan Indonesia)と照らし合わせ、インドネシアにおけるイスラーム金融の位置づけを確認する。

第7章
本稿では、非イスラームの金融先進国である英国とシンガポールにおけるイスラーム金融の現状を整理することを通じ、国際金融の中のイスラーム金融という文脈の中で、世界あるいは中東・東南アジア等のイスラーム金融先進国からみた、非イスラーム国の相対的位置付けを探る。

イスラーム金融は、とりわけ2000 年代以降に飛躍的な成長を遂げ、その過程において非イスラームの金融先進国との関与も深くなった。近年の成長においては単なる量的な拡大にとどまらず、資本市場への応用、取引規模の大型化、国際的取引の拡大など様々な面での特徴がある中、非イスラームの金融機関の存在感が増している。こうした中で、政府サイドの取り組みも目立つ英国とシンガポールについて、金融機関の状況や政策対応を整理する。英国では4つのイスラーム専業のホールセール銀行が設立され、シンガポールでも1つ設立された。また両国ともイスラーム金融取引に係る二重課税の回避やスクークのクーポンとしての取り扱い等、イスラーム金融に対して着実に取り組んでいる。

また、両国とも、イスラーム国債(ソブリン・スクーク)の発行を検討した。シンガポールは2009 年初に漕ぎ着けた一方、英国では当面の検討中止が発表された。

こうした非イスラーム国の取り組みは、イスラーム諸国ひいては世界のイスラーム金融市場にもプラスとなるものである。イスラーム金融の取引技術が高度化している中、欧米系金融機関が既に持つノウハウや人材は、イスラーム金融にも転用可能なものであり、実際の事例も目立つ。こうした中で、英国やシンガポールと、イスラーム諸国とのイスラーム金融取引における協調もみられている。

第8章
本研究では、イスラーム金融の多様性を取り上げ、多くの概説・論考においてしばしば膾炙している「中東地域とマレーシアではイスラーム金融の実践のあり方が異なる」という図式(これを本研究では「西厳東緩論」と呼ぶ)をそれぞれの地域におけるイスラーム金融手法の利用の観点から再考することを試みた。具体的には、イスラーム金融機関によるリクイディティ・マネジメントのための金融手法の展開のされ方についての多様性とその地域的差異の有無を時系列的に追うことで上記の命題を検証した。その結果、1990 年代後半から2000 年代前半においては、リクイディティ・マネジメントの手法をめぐる中東地域とマレーシアの間での「西厳東緩」の傾向が確認できた一方で、2000 年代後半には、同一のリクイディティ・マネジメントの手法が両地域で用いられていることが明らかとなった。これらの検討結果から、イスラーム金融論で一般に言われている「西厳東緩」の傾向は、1990 年代(および2000 年代前半)に特有の現象である可能性が高いことが示唆でき、イスラーム金融の多様性を地域的差異という1 つの枠組みだけで捉えることは必ずしも事実を正しく反映していないということが指摘できた。

[参考資料]