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中東における民間企業の成長と課題

調査研究報告書

2009年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
土屋 一樹 編『中東アラブ諸国における民間部門の発展 』研究双書No.590、2010年発行
です。
第1章 
はじめに
第1節 中東地域の経済停滞と民間部門開発
第2節 信用市場不完全性と経済成長
第3節 中東地域の民間部門開発への理論モデルの示唆
まとめ -中東地域の民間部門開発のマクロ経済的課題


信用市場の不完全性の視点から中東地域、特に中東アラブ諸国、の民間部門開発におけるマクロ経済的課題を考察する。2009年1月のアラブ連盟経済社会開発サミットで提案された民間部門開発への具体策が中小企業支援基金設立であるように、信用市場の不完全性が民間部門開発の阻害要因の一つであることは地域の政策決定レベルで共有されている。信用市場の不完全性を改善する諸政策および諸制度の整備がマクロレベルで経済成長および雇用創出に結びつくには諸条件が存在し、これらを考慮したマクロ経済的課題の設定が民間部門開発を促進する上でも重要であると思われる。ゆえに、本稿では代表的な信用市場不完全性に関する理論論文をレビューすることで、信用市場の不完全性から生じる「借入制約」と「収益性制約」、及び「技術制約」、「初期賦存制約」という関連する諸概念との関係を整理する。その上で、理論が示唆する内容が中東地域の民間部門開発においてどのような意味を持つか議論し、マクロ経済的課題を探る。

第2章 
はじめに
第1節 イスラーム金融とは何か
第2節 イスラーム金融商品の利得決定メカニズムの理論とその改訂
第3節 金融市場の統合性をめぐる実証研究へ向けて
おわりに -中東諸国の金融市場を対象とした実証分析に向けての展望-


本研究は、中東諸国の金融市場に注目し、そこで業務を展開している民間企業にとってより円滑な資金の確保を可能にする金融市場の統合の度合いについて、イスラーム金融を手がかりとして実証的に検討するための分析枠組みを提示することを試みたものである。

その1つの方法として、イスラーム金融商品から生じる利得と近代資本主義型金融の利子との間で裁定が働く余地があるかどうかを検討することが、上記の課題を明らかにする鍵となることを提起した。そして、マレーシアの金融市場を対象とした先駆的研究をレビューし、そこで明らかになる検討結果がどのように金融市場の統合性の議論と関わりうるのかについて考えた。

第3章 
はじめに
第1節 中東諸国の移行経済とEU の南方拡大
第2節 中東諸国のEU への経済的依存の拡大
第3節 経済成長と技術進歩
第4節 実証分析
第5節 結論


本章は、中東諸国の中でも経済改革先行国であるエジプトを分析の中心とし、他の中東諸国と比較しつつ、EU との輸出や直接投資の拡大、所得格差の発散および技術進歩の誘発を検証し、技術進歩に基づく今後の持続的経済発展の課題を展望したものである。特に、
技術進歩の停滞の問題を中東諸国に共通する課題として位置づけ、1990 年代後半よりエジプト経済の総要素生産性成長率が回復している点に着目し、広義の技術進歩の要因分解に金融市場の発達の影響を考慮することで分析を展開した。本章では、人口ボーナス期に資本蓄積から技術進歩に依存した生産構造に転換することが重要であり、そのために金融深化を図ることが鍵であると結論づけた。

第4章 
はじめに
第1節 湾岸諸国における産業多角化の進展
第2節 MENA 諸国の企業経営の特徴
第3節 湾岸諸国非金融産業の資金調達構造
おわりに


本章では、企業の資金調達手段に注目し、企業にとっての資金調達環境の不備もしくは未発達が、産業ごとの資金需要に十分に対応することができず、石油産業以外の産業が十分に育成することが困難である可能性について考察を行う。

湾岸産油国各国ともに産業多角化の重要性は認識し、努力は進めているもののマクロデータ、産業レベルデータを見る限りでは、明らかな成果が現れているとは言いがたい。ドバイ・バハレーン両国が、さらなる産業の育成をはかるためにはさらなる資金調達環境の整備が必要である。特に銀行部門の育成は大型の投資プロジェクトを遂行する製造業やインフラ事業に長期資金を提供するために必要不可欠である。豊富な投資需要を抱えるドバイにおいては、長期資金を提供するための金融装置が必要である。一方で、投資需要が十分でないバハレーンの場合では、小口の事業資金を提供できるような中小企業金融システムなどの整備が必要ではなかろうか。

第5章 
はじめに
第1節 事業所センサスの概観
第2節 県別の事業所の分布
今後の研究に向けて


従来、自営業は大企業を中心とした近代的雇用の拡大に伴い淘汰・消滅すると考えられてきた。ところが、エジプトでは自営業は雇用創出に依然として大きな役割を果たしている。しかも、近年、その役割は拡大傾向にある。本章は、センサス統計に依拠し、こうして役割拡大傾向にあるエジプトの自営業の現状を空間分布の観点から明らかにする。

第6章
エジプトの小規模企業 pdf (98KB) / 土屋一樹
はじめに
第1節 小規模企業に関わる法制度と政策
第2節 ビジネス環境
第3節 エジプトの小規模企業
第4節 小規模企業とインフォーマル部門
おわりに


エジプトの小規模企業に関わる現状を整理する。小規模企業を取り巻く環境は2000年代に入って大きく変化している。小規模企業発展法(2004年)において、小規模企業は零細企業と小企業に区分されるとともに、発展支援体制が明確にされた。また、小規模企業のビジネス環境は最近数年間で急速に改善されつつある。エジプトの典型的な小規模企業として労働者数5 人未満の卸・小売企業が想定できるが、例えば企業家の性別によって教育レベルや資本規模に差異が見られるなど、企業間の違いは大きい。そのため、小規模企業の行動を分析するには、まず企業特性や企業家の特徴などによって小規模企業を分類することが必要である。