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新興民主主義の安定

調査研究報告書

川中 豪 編
2009年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
アジア経済』2011年1月 第52巻第1号
アジア経済』2011年3月 第52巻第3号
アジア経済』2011年9月 第52巻第9号
です。
はじめに / 目次 pdf (43.2KB) / 川中 豪
第1章 
新興民主主義の安定 pdf (82KB) / 川中 豪
民主主義の安定をめぐる議論は、民主化の議論と民主主義制度の生み出す政策的帰結の二つの民主主義研究の流れの双方の上に立つものである。経済発展と政治体制、社会構造と政治変動、政治的主体の戦略的行動といった民主化をめぐるこれまでの議論に対し、ゲーム理論の導入はこれらを統合した議論を生み出そうとしており、さらにそれは実証主義的な民主主義研究との接合を進め、より一般的な政治体制の理論を生み出す可能性を見せている。

第2章 
本稿では権力分有論を中心に、分断社会で民主主義が安定的に機能するメカニズムと条件を論じた文献をレビューする。分断社会の民主主義には、多数派支配と競り上げという不安定化要因がある。権力分有論には多極共存アプローチと統合アプローチの2種があり、おもに前者は多数派支配、後者は競り上げを抑制する制度と条件を論じている。権力分有論は実証理論であると同時に規範理論でもあり、2つのアプローチに対して、実証面、規範面の双方からの批判がある。民族や宗派を代表するエリートを妥協に導くインセンティブ構造の解明と事例研究の積み上げが必要とされている。

第3章 
本稿では民主主義の安定における違憲立法審査の役割について、以下の2つの疑問をもとに先行研究レビューを行った。第1に、違憲立法審査が先進国民主主義国のみならず新興民主主義にも急速に広がったのはなぜか。第2に、違憲立法審査は、どのような条件の下で多数派の横暴を抑制できるのか。過去約10 年間の先行研究の知見によれば、第1に、違憲立法審査が近年世界的に広がったことの大きな理由は、旧支配エリートが民主体制下でも政治的影響力をある程度維持するために、違憲立法審査が有効だったことである。違憲立法審査は体制移行期における旧支配エリートの脅威感を弱め、彼らが民主主義体制を受け容れやすい環境を作り出す。この機能は、民主主義体制の定着に貢献しよう。第2に、違憲立法審査が多数派の横暴を抑制するために、判事の身分保障など、法制度的な保証は必ずしも不可欠ではない。むしろ重要なのは、立法府と行政府の間、あるいは政党間に競争状態が存在することである。それにより、司法府は時の多数派から独立した判決を下しやすくなる。より洗練された手法としては、司法府の中で党派性の均衡を作り出し、すべての党派に判決を遵守させることや、裁判所が世論やメディアを動員して対抗立法を抑止することなどがある。ところで、これまでの研究で手薄な領域は、司法の説明責任の問題である。少数派エリートを代弁する司法審査が、特に文化的亀裂が深い国々で実施されていることが最近判明している。このような反多数派審査が政治的に持続可能かどうかについて今後の分析が期待される。

第4章 
憲法の政治経済学 pdf (57KB) / 川村 晃一
いまや憲法は、世界のほとんどの国で制定され、普遍的ともいえる存在となった。本稿は、「憲法の政治経済学」として興隆しつつあるリサーチ・プログラムにおける憲法研究を概観する。憲法とは何かという点については、社会契約論的な立場と憲法を慣習として捉える立場の間で見解の違いがある。また、憲法をプリコミットメント装置、またはコミットメント装置として捉える立場についてもここで検討する。最後に、憲法がどのように制定されるのかというダイナミズムに迫ろうとする研究を整理する。