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後発開発途上国の開発戦略:中間報告

調査研究報告書

2009年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
山形 辰史 編『グローバル競争に打ち勝つ低所得国—新時代の輸出指向開発戦略 』研究双書No.592、2011年発行
です。
目 次 pdf (41.6KB)
第1章
貧困削減のための開発戦略 pdf (65KB) / 山形辰史
貧困削減戦略に注目が集まる中、その前半部分を構成するはずの開発戦略への関心は薄れている。現在の後発開発途上国向けの開発戦略を探求するために、本章は2つの試みを行う。

第一に、これまでの開発戦略の議論の歴史を回顧し、どのようにして開発戦略への興味が起こり、また薄れてきたかを確認する。具体的には、東アジア経済の実績に対する評価の高まりと共に政府の役割を重視した開発戦略の議論が活発になり、アジア通貨危機を境とした同経済の退潮と共に開発戦略に興味が失われていった。これに波長を合わせるかのごとく、経済学の潮流も変化した。

第二に、現在における後発開発途上国向け開発戦略を編み出すために重要と思われる観点を挙げ、その可能性を展望した。より具体的には、(1)貧困層が有する(安価な)生産要素を集約的に用いる産業を重視すること、(2)これまでの開発戦略ではあまり議論されなかった、環境変化や政策・制度変化に対する動学的変化(資本蓄積、技術進歩等)とそれに伴う要素価格変化(そして要素価格と技術革新の相互作用)、を重要な視角として指摘した。

第2章
産業セクターに中立的な投資環境整備が経済成長政策の中心として据えられていることから、開発途上国の開発戦略として労働集約産業が注目されることは少なくなった。しかし、最近では、アフリカをはじめとした後発開発途上国の開発戦略論において、同産業の発展の重要性を強調する論調が見られる。その背景には、投資環境整備だけでは成長が生じていない後発開発途上国の現実や、一次産品への依存が経済成長に悪影響を与えているという研究結果があり、産業セクターを意識した政策介入の重要性が開発経済学のなかで高まりつつあることが指摘できる。開発戦略としての有効性は、一時的な政策介入によって、後発開発途上国が労働集約産業に競争力を持つことができるかどうかという点にかかっている。

第3章
技術進歩は経済成長の源泉であり、経済成長の貧困削減効果を考えるにあたっては、どのような技術進歩が貧困層の賃金上昇や雇用拡大につながるのか把握することが重要となる。そこで、本章では、技術進歩が労働者の厚生(賃金所得や雇用の分配)にどのような影響をもたらすのかを理論的に整理する。そして後発開発途上国の工業化の第一段階ともいえる縫製業を例に取って、ミシンや生産システムの技術進歩が労働者の賃金や雇用に与える影響について考察する。

技術進歩は持続的な経済成長(平均所得の上昇)にとって不可欠だが、しばしば一部の生産要素の生産性を向上させる、またはその生産要素を相対的に多く需要するという要素偏向をもち、要素間の価格差(例えばスキル偏向的技術進歩による高スキル・低スキル労働者間の賃金格差)を拡大させる。内生的技術進歩の議論によれば、技術進歩の要素偏向の方向は、企業が生産要素の供給状況や要素価格、製品価格、労働市場制度などを前提に利潤を最大化するように決定される。

縫製業において、ミシン技術の進歩は手縫いの技術を不要にするという意味では基本的に未熟練労働使用的(偏向的)であるが、ミシンの導入による作業時間の短縮や自動機導入による省人化は、未熟練労働を代替する。また生産システムの改善は、少品種大量生産の深化の場合には未熟練労働使用的(偏向的)に、そして多品種少量生産へのシフトの場合には熟練労働使用的(偏向的)に、労働力の配分を変化させる。ただしどちらの場合でも、全ての労働者(特に作業監督者)に生産管理知識という意味での「熟練」が要求される。バングラデシュやカンボジアなどの後発開発途上国における縫製業が、貧困削減・雇用創出に寄与しつつ持続的に発展していくためには、高額な機械の導入より、労働者への教育・訓練を通じた生産管理システムの改善の方が効果的と考えられる。

第4章
近年の貧困削減に関する議論では、農村における農業部門から非農業部門への労働移動が不可欠であり、非農業部門の拡大が貧困削減に重要な役割を担っていることを強調している。本稿ではこうした貧困削減戦略を念頭に、近年活発な議論が展開されている産業構造変化の分野での議論を紹介し、その位置づけを整理する。

第5章
貿易自由化と貧困 pdf (47KB) / 樹神昌弘
貿易自由化が、開発途上国の中でも貧困層に属する人たちに、どのような影響を与え得るかについての考察をする。具体的には、この問題に関して、これまでに行われてきた実証研究がどのようなことを明らかにしてきたかについてのサーベイを行う。本稿では、特に2つの視点から考察を試みている。1つ目の視点は、貿易自由化は「貧困削減」に良い影響をもつかというものである。2つ目の視点は、貿易自由化が開発途上国内の「経済格差」を縮小する効果をもつかというものである。

貿易自由化に関するこれらの側面についての実証研究のサーベイを行った結果、「貿易自由化は貧困を改善してきた」と推測されること、「貿易自由化は経済格差を拡大する」と推測されることを提示している。

第6章
開発途上国を含め多くの国々では、労働市場を規制するために様々な法律や制度が設けられている。しかし、それに対して、規制が労働市場の機能を著しく歪め、実際にはその意図に反して、労働者の厚生を引き下げる役割を果たしているという主張が盛んに行われている。本章では、労働法制が経済活動に与える影響を分析した実証研究を批判的に検討することを通して、開発途上国の経済発展に対して労働法制が果たす役割を考察する際に、どのような視点が重要であるのかを議論する。

具体的には、本章は以下の2 つの点を強調する。第一に、先進国における労働法制の影響に関する実証的な研究に共通する問題点を整理し、開発途上国における労働法制の影響を分析する場合にも同様の問題が起こりえることを指摘する。第二に、開発途上国における労働法制の影響を分析する場合には、「法制度の履行」の問題を考慮することが不可欠であるという点を議論する。そして、開発途上国の経済発展に対して労働法制が果たす役割の重要性そのものに疑問を投げかける。

第7章
国連が2005 年を「国際マイクロファイナンス年」と宣言したことや、2006 年にグラミン銀行とその創設者ムハマド・ユヌスがノーベル平和賞を受賞したことに代表されるように、貧困削減におけるマイクロファイナンスの役割に対して期待が高まっている。本章で、マイクロクレジットがこれまで期待通りの成果を収めてきたのか、マイクロクレジットが高い返済率を維持することができたメカニズムは何か、また新たな挑戦としてのマイクロ保険の現状と課題は何か検討する。