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包括的成長へのアプローチ - インドの挑戦 -

調査研究報告書

平島成望・小田尚也 編
2009年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
Edited by Shigemochi Hirashima, Hisaya Oda, and Yuko Tsujita Inclusiveness in India  —A Strategy for Growth and Equality—
Palgrave Macmillan IDE-JETRO Series, June 2011
です。
第1章 
開発戦略の最優先課題が、構造調整政策から貧困削減政策にシフトしてから、発展途上国の開発過程における貧困研究が盛んになり、多くの研究業績が発表されるにいたった。インドにおいても例外ではなく、従来等閑視されていた貧困地域に関する詳細な研究が発表されるようになった。しかし、従来の貧困研究の欠陥は、フロー・タームによる貧困線の確定と、フロー・タームの貧困削減対策に焦点が集中した点であろう。その結果、貧困層が集中する農村地域における農業成長率の促進が、貧困削減の解と看做されてきた。しかし、インドの現況からは、貧困がより多く集積している農村の非農家層の、フローとしての所得のみでなく、ストックとしての資産保有の現状とアクセスの問題を無視しては、「持続的」な貧困対策を策定することは出来ないと考えられる。さらに、貧困は人間の尊厳にかかわる状態であることを考えると、農業セクターの経済分析のもつ限界は明らかである。

本章は、このような観点に立ち、貧困問題を、「地域開発としての農業・農村セクター分析として位置づけ、フローのみでなくストックの視点をいれた「格差」の問題」として分析する有効性を検討する。研究対象としては、インドにおける貧困州の代名詞的なビハール州を取り上げ、District 単位の問題点を検討し、第2段階に予定されている村落レベル調査に関する予備的考察を行なう。

第2章 
This chapter focuses on the relationship between asset ownership and poverty in rural India. By reviewing the empirical literature, we find that the ownership of assets is strongly associated with the levels of income and consumption.

Moreover, asset holdings are crucial for gaining access to credit, which in turn influences the education decisions of poor households. The current pattern of asset holdings in rural India is unequal, and inequality has increased during the 1990s. The bulk of rural household assets is kept as land, which suggests that the asset position of the smallest holders is declining in absolute terms. While successive land reform initiatives have been undertaken by state governments, they have not led to significant equalization of asset holdings. Moreover, market forces and policy-induced distortions have tended to work in favor of higher inequality in asset distribution. If national and state governments are serious about poverty reduction, they may first need to consider undoing some of the artificial distortions.

第3章 
This chapter provides an overview of educational achievements and challenges in Bihar, one of the India’s backward states. There still exists disparity in educational opportunities between Bihar and India as a whole, and across socio-economic, gender, location among other factors within Bihar. Nevertheless, overall access to school has slowly increased over the years, however, unequal opportunity in access to an equitable quality of education remains. The recent government teacher policy, as well as the mushrooming of private schooling, would further lead to a hierarchy of schools, exacerbate socio-economic opportunities and intensify the socio-economic status quo for future generations.

第4章 
本稿ではインドのビハール州を取り上げ,州間格差とインフラストラクチャー(インフラ)の整備の関係,中央・州政府間の財政関係を議論する。ビハール州はインドで最も貧しい州の1つであり,また他州との経済格差が拡大傾向にある。この要因としてインフラ整備の不足が指摘される。ビハール州など低所得州への中央・州政府間の財政移転が不十分であり,現状の税分与や計画支出の移転では,格差の解消は困難であり,逆に格差が拡大する可能性がある。

第5章 
本稿ではインドにおける「金融包括」について1960年代末以降の取り組みを概観するとともに、家計データに基づきその成果を検証する。また金融包括に関する最近の先行研究について、特にデータを用いた定量分析を中心に、分析内容と主な結果を概説する。

第6章 
インドでは1980年代以降、少数派ムスリムと多数派ヒンドゥーの対立が問題となっている。しかし近年はムスリムの問題はその社会的後進性に注目が集まっている。本稿では「ムスリム問題」がその後進性との関連で議論されるときにほぼ必ず焦点となるムスリムの高い「出生率」、低い「教育レベル」を取り上げ、近年の研究を基にそれについて現在どこまで理解が及んでいるのかまとめる。そして最後に政府はそのような問題に対してどのような対策をとりつつあるのか紹介する。

第7章 
「包摂的成長」を掲げる現行の第11次5カ年計画は、児童(0~6歳)性比の改善を目標の1つに挙げている。インドにおける性比(男性人口に対する女性人口比)の問題は、アマルティア・センが「喪われた女性たち」と述べたように、他の殆どの国と異なり、女性人口が極端に少ないことである。かつては人口全体の性比が問題にされていたが、2001 年センサス公表後は、問題の焦点は児童性比の低さに絞られてきた。出生率や死亡率の改善が進む一方で児童の性比が悪化しているという矛盾した状況について、数多くの研究は、この問題の原因の一部は、経済発展および社会開発の進展にあることを明らかにしている。また問題の解決には、女性のエンパワーメントやエージェンシーといった概念の再考が不可欠であることを示唆している。

第8章 
1960年代後半から、ウッタル・プラデーシュ州では国民会議派の衰退が顕著に見られるようになった。このような全体的な傾向の一方で、州議会選挙での会議派の得票率および獲得議席数には大きな地域的差異が存在した。本章の目的は、1957~69年に行われたウッタル・プラデーシュ州の州議会選挙での投票行動の地域的差異の要因を実証的に分析することである。分析によって得られた主な結果は、次の2点である。第一に、既存研究で展開されているような議論とは異なり、農業生産性の地域格差と政党の得票率の地域的差異の間には関連性は認められない。第二に、いずれの定式化の下でも、選挙区あたりの候補者数が会議派の得票率に大きな影響を与えている。これらの実証結果から、候補者の参入による政治的競争の激しさに地域的差異があることによって、会議派の得票率や獲得議席数についても地域的差異が生み出されている可能性を指摘する。

第9章 
Old Age Consumption, Dependence, Education, and Government Roles / Seiro ITO