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中国農村改革と農業産業化政策による農業生産構造の変容

調査研究報告書

池上彰英・寳劔久俊 編
2008年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
池上彰英・寳劔久俊 編『中国農村改革と農業産業化』アジ研選書No.18、現代中国分析シリーズ3、2009年12月25日発行
です。
はじめに pdf (417KB)
第1章
本章では、まず速水農業問題論の枠組みにもとづいて、中国の主要な農業問題が1990年代後半頃、食料問題から農業調整問題に変わったことを明らかにした。次に、蔡昉らの議論を紹介するかたちで、中国における農村・都市間労働移動がルイスの転換点に近づいていることを示し、そのことが農業に与える影響について考察した。最後に、農業問題の転換期にあるという意味でも、ルイスの転換点にさしかかっているという意味でも、現段階の中国が1960年代のわが国とよく似ていることから、第16回党大会(2002年)以降の中国の三農政策を、1961年に制定された日本の農業基本法と比較検討することによって、三農政策の意義や期待される政策効果などを分析した。

第2章
本章では、建国以来長く数々の規制を設けて農民の都市への移動を抑制してきた中国において、農民の離農がどのように実現してきたかを制度面から整理する。まず、建国初期より農民の地域間移動を厳格に規制してきた戸籍制度の緩和、また都市における農民工に対する就業規制政策の変遷と緩和を整理する。その上で、特に2001年以降公布・施行されている農民工保護政策の流れに注目し、その背景を考察すると共に、近年における農民の離農と定住の可能性は近年最も高まっていることを指摘した。

第3章
中国の農業産業化の現場で、地方政府の龍頭企業支援が市場を歪曲していること、企業との契約取引において農家の利益が侵害されているという指摘がなされている。本章では養蚕業を例に、先進的産地である江蘇省・東台市における契約取引システムのケースを取り上げその実態を分析した。そして、地方政府が龍頭企業に特定の農村を割り当てており、それが資本市場を歪曲し、農家の契約相手選択の機会を奪っていることを指摘した。他方で、企業は養蚕農家に対して技術指導や各種助成行っており、それらは両者にとって長期的契約関係を締結し経営を安定させる上で利益があることを指摘した。

第4章
2000年代中国の農業政策の基本である「農業産業化」の政策の実態、問題点についての調査研究が蓄積されてきている。これらは、(1) 「農業産業化」政策の重点が特定企業の支援となっていた、(2) 企業と農民の間の契約取引が不安定であった、(3) 龍頭企業の独占によって農民が「搾取」されていたという批判をしている。内蒙古・塞飛亜は、契約取引による鴨の養殖に依存している。彼らの経験をみると、適切な設計のかたちを模索しつつ、契約を安定化させ業態拡大してきたといえる。またライバルの同業者が存在し、市場での競争とともに農民にオファーする養殖契約についても競争関係にあり、それが塞飛亜を鍛えていた面もあった。しかし、ライバルの経営悪化、鳥インフルエンザのショックが、契約取引の形態をまた脆弱なものに戻してしまった可能性がある。

第5章
本章では、農業産業化の重要なアクターである農民専業合作組織に注目し、その変遷について各種の資料や調査データに基づいて整理した。次に、中国でも有数の農業生産地域である四川省を事例として取りあげ、四川省と成都市における農業産業の実態とその特徴を考察した。さらに、四川省新都区での実態調査と四川省成都市(金堂県、邛崃市)に対する行政村アンケート調査を用いて、農業産業化における行政村の機能を考察することで、(1) 地域によって農業産業化の主導主体が明確に異なること、(2) 農業産業化が進展している地域ほど、農民組織あるいは龍頭企業と行政村との関係がより親密であること、という結果が導かれた。

第6章
本章の目的は、中国で農業産業化が推進されることによって、地域社会や村落コミュニティがどのような方向に再編されていくのか、この問題を内蒙古・寧城県の食肉加工業、野菜栽培、および江蘇省・東台市の蚕糸絹業の調査記録を基に検討することである。地域の社会経済の特質、また業種の特性によって、寧城の場合は村落単位に重ならない政治的リーダーシップが農業産業化の鍵であるのに対し、東台の場合は村落が農業産業化の重要な単位として、凝集力を強めつつある点が示唆された。