IMFと開発途上国
調査研究報告書
国宗 浩三 編
2007年3月発行
しかし、上記の批判に応えるかたちで2005年に提示された中期戦略は、IMFが組織内外にわたる改革を敢行するであろうと見なす材料に乏しい。今後の進展を待たねばならないが、現時点ではIMF が負うべき機能とその根拠を再定義し、加盟諸国が直面する問題に対してどこまで関与するか、他機関との連携や役割分担を明確にしていく視点が欠落しているからである。
1990年代後半のアジア危機を見れば分かるように、ワシントン・コンセンサスの画一的適用では、世界経済の安定的発展を図ることは出来ない。
IMFはあまり多くの目的を追求すべきではない。いろいろな専門家が言うように、IMFの役割は開発ではない。国際金融システムの安定を確保するための短期資金の供与に集中すべきである。
IMFが有効に機能するには、簡素で、誰にでも分かりやすい意志決定構造でなくてはならない。年間500時間、7万頁にもなる文書を理事たちが議論するのは無駄である。今なら、グローバルな不均衡、すなわちアメリカの膨大な経常収支赤字と中国、日本、産油国の黒字をどう調整するかといった優先順位の高い問題に対処すべきである。
本稿の中では、Financial Programming モデルとGlobal Economy Model を中心に紹介している。その結果、前者は予測には有用だが学術性は薄いこと、後者は学術性や経済政策の効果の評価には利点をもつが予測には不向きなモデルであることを、本稿は指摘している。
IMFでは、融資条件のスリム化を目指す改革が行われているが、それでも数十年前と比べて、現在の融資条件が肥大化していることは事実である。
融資条件が肥大化したのは、「構造的コンディショナリティ」と呼ばれる条件が多く挿入されるようになってきたことが最大の理由である。これは、中長期的な経済成長にとって必要な(とIMF が考える)経済改革を求めるものである。これに対して、マクロ経済政策を通じて比較的短期に国際収支を改善するための政策については、IMF の創設時から基本的にその考え方は変わっていない。それが、
本稿で検討するフィナンシャル・プログラミングと呼ばれる枠組みである。
本稿では、フィナンシャル・プログラミングのコアとなるモデルと、基本的な拡張モデルについて詳しく検討する。また、国際収支危機への対応という大きな枠組みの中で、それがどのように位置づけられるべきかについても考察する。
最初に、IMFという国際機関が存在しているのに、それに加えて地域レベルの金融協力がなぜ必要なのかという点について、「自己防衛」、「外貨準備の節約」、「競争による便益」「IMF との補完性」、「国際関係上のメリット」という5つの理由を提示する(第1 節)。次に、東アジア地域における金融協力の枠組みの推移を振り返る(第2 節)。
以上を受けて、東アジアにおける金融協力を推進していく上での課題を、「資金量の問題とモラル・ハザード」(第3 節(1))、「IMFプログラムとの関係」(第3 節(2))、「メンバーシップの問題」(第3 節(3))、「組織形態の問題」(第3 節(4))の4 点に分けて論じる。
最後に、通貨危機への対応以外のテーマとして「為替協調」、「資本市場の育成」の二つについて論じる。