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開発問題と福祉問題の相互接近 - 障害を中心に -

調査研究報告書

森 壮也 編
2006年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
森 壮也 編『障害と開発—途上国の障害当事者と社会—』研究双書No.567、2008年発行
です。
キーワード pdf (326KB)
第Ⅰ部 「開発と障害」-基本的枠組み
第1章
第1節 はじめに
第2節 なぜ『開発と障害』が登場してきたのか?
第3節 現在の『開発と障害』へのアプローチとその担い手の問題点
第4節 開発途上国の村落開発と障害者をつなぐCBR
第5節 障害自助グループと開発-援助をめぐる観点
第6節 『開発と障害』をめぐるその他の問題
第7節 まとめ
参考文献


『開発と障害』は開発分野の新しいイシューである。WHOの推計によれば,世界の全人口の10%は障害者であり,その数は五億人,うち80%が開発途上国,特に農村部に居住していると言われている。開発途上国では,従来も慈善アプローチによる解決策はあったが,それは極めて限定的な効果しかもたらしていない。今後はむしろ開発アプローチ,すなわち開発過程に障害者がその主体的な一員として関わるという視点に移行していくべきで,エンパワメントとメインストリーミングという複線アプローチでの取り組みの必要がある。その根底には障害の社会モデルがある。

第2章
はじめに
第1節「開発と障害」と社会指標
 1.「人間開発」アプローチと障害
 2. 政策評価と社会指標
 3. DALYの問題点
第2節 バリアフリーに向けた社会指標
 1. 社会統計指標の役割
 2. 日本の社会指標発達史における障害
むすび:今後の社会指標の課題
参考文献


本稿では障害者の自立や社会のバリアフリー化を進める政策や施設(障害者に利用しやすい公共施設や交通,情報通信など)の指標化という視点から人間開発指数を改善する方法を考察してみたい。不利な状況にある人々に対する「開発アプローチ」について問題提起を行ってきた国連開発計画の人間開発指数は人間の活動能力(ケイパビリティ)の拡大から発展評価を試みた指標として注目されてきた。しかし人間開発指数は代表的(平均的)個人を対象にしているために,障害者の生活能力改善に貢献する社会的基盤の評価には適していない。「障害の社会モデル」という言葉に示唆されるように,個人のケイパビリティは個人がおかれた状況によって違うので,個人の特性や能力と実際の生活の質を媒介する社会的文脈を十分に考慮することのない「生活の質」指標は,障害と生活能力の間にあるメカニズム(あるいは社会的排除のメカニズム)を明らかにしない危険性を持っている。本稿では開発研究で参照されることの多い「障害調整生存年数」(Disability-Adjusted Life Years DALYs)を事例にして,当事者としての障害者を素通りしてしまう可能性を持つ指標化の問題点を考察する。後半では日本の社会統計における障害(あるいは障害者)の位置付けを「人間開発」の概念から歴史的に検討し,それが狭い意味での福祉分野に偏り,社会のバリアフリーから見て不十分であることを考察した。最後に人間開発指数にならった地域指標を試作して,「障害と開発」というテーマに適した社会指標作成方法を考察してみたい。

第3章
第1節 はじめに
第2節 開発援助と障害:その課題
第3節 統合と分析のフレームワーク:ケイパビリティ・アプローチ
第4節 実践のフレームワーク:複線アプローチ
第5節 具体的な方法論:メインストリーミングのために
 1. 障害政策:メインストリーミングの枠組み形成のために
 2. 障害教育-障害平等研修:メインストリーミングを推進する人材育成のために
 3. 開発の障害分析:メインストリーミングの指針と確認
 4. “草の根”からのメインストリーミング戦略:開発における障害へのコミュニティ・アプローチ
 5. 障害者の実施プロセスへの参加支援:一人ひとりの声を聞くために
第6節 フレームワークとツールを超えて:開発援助と障害の更なる課題
参考文献


開発援助という文脈における障害との取り組みにおいて,根源的かつ今日的課題のひとつは開発と障害の取り組みの乖離である。重要な原因の一つは「障害の医学モデル」の蔓延であり,もうひとつは国家の経済発展を指向してきた開発の枠組みにある。分析的枠組みおよび戦略的取り組みの両者において開発と障害は統合される必要がある。分析的枠組みとしてはセンのケイパビリティ・アプローチが,また戦略的枠組みとしては複線アプローチが有効と考えられる。

第Ⅱ部 法制度と「開発と障害」
第4章
第1節 はじめに
第2節 障害者の権利条約に向けての歴史的背景
第3節 条約と開発・国際協力
 1. 開発という文脈での条約提案
 2. 特別委員会
第4節 まとめ
参考文献
資 料


1980年代後半から障害分野のアジェンダとして意識されてきた「障害者の権利条約」の策定交渉が2001年の国連総会決議を受けて,2002年から国連障害者の権利条約特別委員会で開始されている。開発の文脈で提案された障害者の人権条約の交渉は現在も続いている。本稿では,障害者の権利条約の策定過程に現れている障害と開発・国際協力の関係に焦点を当て,分析する。

第5章
はじめに
第1節 「開発と障害」における「法」
 1.「社会法」の発展の流れ
 2.「社会モデル」の登場と権利アプローチ
 3. 国際社会における司法へのアクセスの議論
第2節 中国の障害者法制
 1. 障害者法制の発展
 2. 中国障害者保障法の概要
第3節 障害者の司法へのアクセス
 1. 中国における法律扶助制度の発展
 2. 障害者に対する法律扶助制度の発展
 3. 上海市の事例
 4. 障害者の司法へのアクセスの課題
おわりに
参考文献


人権・権利に根ざした障害者立法の考え方は,国連を中心とした国際世論を背景に発展してきており,その一部をなす障害者の司法へのアクセスへは「法の下の平等」および法律の効果的な執行手段の具体的提案として言及されてきた。司法が障害者の権利侵害に対して公正な判断を下し,法的救済が行われるメカニズムがなければ障害者の権利を語ることはできないが,開発途上国では障害者が司法へのアクセスすること自体困難な場合が多い。法律扶助制度はそうした裁判を受ける権利,司法へのアクセスの実現を援助する直接的な手段の一つである。中国では1994年に法律扶助制度が開始されたが,中国がとっている障害者法律扶助制度は,果たして障害者の権利実現に結びついているのか。本稿では「開発と障害」における法理論の発展を確認し,中国の障害者法制を概観した上で,中国における障害者法律扶助制度の現状と課題について検討する。

第Ⅲ部 障害当事者と「開発と障害」
第6章
第1節 はじめに: 障害の社会モデルとその課題
 1. 障害観の転換
 2. 従来のモデルの不備
 3. ろう者をめぐるまなざし
 4. 集団モデルの検討
第2節 ろう者の開発における障壁
 1. ろう者の諸言語,手話
 2. ろう者における開発の障壁
 3. 誤った開発=口話法教育
 4. 手話による教育の復権
第3節 西・中部アフリカのろう教育事業
 1. 世界最大級のろう教育事業
 2. ろう者たちによる教育
 3. フォスターの遺産
 4. ろう者集団のエンパワメント
第4節 アフリカにおけるろう者の達成と課題
 1. CMDが今日の開発に示唆すること
 2. 手話言語集団を取り巻く課題
第5節 集団モデルの有用性と必要性
 1. ろう者における開発が含むべき二つの要素
 2. 集団モデルの有用性と必要性
参考文献


本章では,手話を話すろう者における人間開発のあり方について検討する。西・中部アフリカにおいて,ろう者たちが主導的な役割を担ったろう教育事業の事例に注目し,ろう者の教育開発において手話とその言語集団がきわめて重要な意味をもっていたことを明らかにする。それをふまえ,少数言語集団というろう者の特性をふまえた開発計画の必要性,ならびに,個人中心のモデルをこえた新しいパラダイム(集団モデル)の必要性を述べる。

第7章
はじめに
第1節 CBRの発展
 1. 脱施設化に至る障害者ケアの概念
 2. CBRの登場
 3. CBRの普及
第2節 基本的アプローチからみたCBRの分析
 1. 障害者支援の3つのアプローチ
 2. アジアのCBR実施状況の分析
第3節 CBRの概念
 1. CBRの定義
 2. CBR の主たる目的
第4節 実施体制
 1. サービスの組織体制
 2. 総合的CBRプロジェクトの初め方
第5節 現行のCBRの問題点
 1. 障害者の参加の欠如
 2. CBRの日本の地域リハとの混同
第6節 CBRからILへ
 1. ILの歴史
 2. CBRへのILの統合の可能性
終わりに
参考文献


地域の資源を利用した持続可能なアプローチであるCBRは,提唱されてから30余年となる。その脱施設化の概念は途上国ではCBRとして実践されてきたが,障害者自身の主体性は尊重されず,アウトリーチ型CBRが主流である現在,CBRに否定的な障害者は多い。CBRは障害者の生活の質の向上,地域社会の意識の向上,障害者のエンパワーメントを目的とし,最近では貧困削減や障害者団体の役割が強調される。自立生活運動へのシフトが今後は求められる。