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雇用を通じた貧困削減:中間報告

調査研究報告書

2006年2月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
山形 辰史 編『貧困削減戦略再考—生計向上アプローチの可能性—』アジア経済研究所叢書4、2008年3月発行
です。
第I部 経済発展における貧困層の雇用創出
序章
雇用を通じた貧困削減:国際比較研究 pdf (150KB) / 東方孝之・山形辰史
発展途上国が貧困削減を実現する過程では、どの産業部門が貧困層に雇用を提供してきたのだろうか。本稿は栗原・山形(2003)で提示された手法を発展させ、雇用創出を通じた貧困削減の過程において製造業と農業の果たす役割が大きく異なることを示す。まず、雇用の構造変化をみることによって、貧困削減に成功したタイやインドネシア(ただし通貨危機以前)では全就業者のみならず貧困層就業者に限ってみても、農業従事者の割合が減少するにつれ、製造業被雇用者の割合が増加した。つまり、これらの国では貧困層に雇用機会を与える役割が農業から製造業へと徐々にシフトしていったことが示された。次に、部門別の相対的貧困集約度からは、農業における貧困層の相対密度が常に一国平均を上回っていたこと、そしてやはり農業において同密度が基本的に増加傾向にあったことが確認できた。これは貧困削減に成功した国のみならず、本稿で対象とした全ての国(インド、インドネシア、タイ、中国)において確認された。このことから、製造業部門が貧困層を吸収し、その結果貧困層が減少した場合であっても、農業部門が相対的に多くの貧困層を雇用し続ける傾向があることが明らかとなった。

第1章
インドネシアのマイクロファイナンスは、インドネシア庶民銀行(BRI)の広い支店網とその融資額の多さなどで代表され、グラミン銀行とは異なる形のマイクロファイナンスの成功例として取り上げられる。その発展が貧困対策と整合的であるのか、BRI とそのほかの実施機関とはどのように異なるのか、またマイクロクレジットがどのような層に利用され、雇用創出に役立っているのかという視点から、自己雇用者を中心にインドネシアのマイクロファイナンスと貧困削減対策について再考する。

第2章
世界の人口の約一割は障害者であると言われており、その比率は開発途上国ではいっそう大きいと言われている。貧困削減の問題を考える際には、貧困との双方向的因果関係が強く言われている障害者の問題を抜きにしては考えることはできない。一方で、雇用を通じた貧困削減については、障害者の雇用は、ただ一般の雇用に付随するような形では解決が難しいため、途上国各国の条件や成功例等に鑑みながら、注意深い検討と政策提案が必要である。本稿では、どのような枠組みでそれが可能であるのか、その方向性を提示していく。

第II部 労働者保護政策と貧困層の厚生
第3章
貧困層にある労働者に高い報酬を与え、労働条件を向上させることは、その労働者の勤める企業の競争力の低下、およびそれによる生産縮小、ひいては当該労働者の解雇という形で、労働者本人に悪影響が及ぶ可能性が、理論的にはある。カンボジアの縫製業の発展はこのジレンマから抜け出す方途を考察するための興味深い例を与えている。カンボジアはアメリカとの二国間協定によって、他の低所得国が課されているものより高い労働条件の遵守が求められている。カンボジア縫製業に特徴的な点は、この高い労働条件および最低賃金の遵守が、先進国の消費者および労働組合団体から高い評価を得ることにつながり、それらがむしろセールス・ポイントと見られていることである。事実、カンボジア製の衣類の輸出実績は、繊維・衣類貿易が自由化された2005年初めからも増勢を保っている。そしてこの増勢の裏付けとなるのが、2005年以前のデータに示された縫製企業の平均利潤率の高さと、外資の貢献度の高さであった。

第4章
本章の目的は、労働組合と最低賃金制度の賃金・雇用・分配面における効果について先行研究をレビューし、それらがケニア製造業の高賃金・低雇用問題の分析視角になりうるかを検討することにある。労働組合と最低賃金制度の賃金・雇用面での効果には統一的な見解があるわけではない。また、両者の所得分配や貧困削減に対する効果も可能性は指摘できるが明確な結論には至っていない。これらの効果は分析対象国の労働市場や経済環境と深く結びついているようである。ケニアの賃金水準は他の途上国と比較しても高く、ケニア製造業の成長を阻害する要因になっているものと推測できる。結論として、ケニア製造業の高賃金・低雇用問題を明らかにするには、労働組合と最低賃金制度に焦点をあてることは有効な分析視角となりうる。

第III部 貧困層向け雇用政策の効果
第5章
この論文では貧困層に向けた雇用政策の有効性に関する経済学的研究の現状をターゲッティングやインセンティヴに焦点を当てて展望し、貧困削減において実行可能で望ましい雇用指向開発戦略のあり方を考察して見たい。貧困削減において貧困層(あるいは女性や障害者といった不利な境遇にある人々)自身の雇用を促進することの重要性は1970年代のILOの「世界雇用プログラム」(WEP)以来認識されてきた。特に一定の支出で貧困層へのインパクトを最大にする方法として注目されているのがターゲッティングである。雇用プログラムの場合には参加に何等かの費用がかかるように仕組みを設計し、プログラムに参加する人が貧困層だけにする「自己ターゲッティング」も提案されている。しかし現実には生産要素市場の不完全性などがある状況では自己ターゲッティングも十分な効果を上げられない可能性もある。この報告では雇用プログラム設計のあり方に示唆を与えるような研究を展望したい。

第6章
本稿は行政制度の脆弱な開発途上国を中心に実施されている、「ソーシャル・ファンド」(社会基金)と呼ばれる、地方分権型・住民参加型貧困対策が、どのような政策的意図によって実施され、果たして意図した政策目的が達せられたのかをニカラグアの事例を用いて実証的に検証するものである。暫定的な分析によれば、ニカラグアのソーシャル・ファンドは二つの経路を通じて、貧困削減に寄与しえいることがわかった。一つは、ファンドが実施する労働集約的な公共事業による低所得者層の雇用創出であり、いま一つは貧困層が裨益する医療・教育を中心とする事業により得られる生産性の向上である。しかし、ソーシャル・ファンドは既存の行政組織を侵食し、弱体化させているのではないかという疑念も残る。