skip to contents.

ドイモイ下ベトナムの「国家と社会」をめぐって

調査研究報告書

寺本 実 編
2006年3月発行
まえがき pdf (9KB)
序章
試みにあたって pdf (54KB) / 寺本実
はじめに
第1節 先行研究の概観
第2節「国家」と「社会」という用語について
第3節 本中間報告書の構成


本研究会における「国家と社会」という言葉について考察する。発案の源は古田元夫東京大学大学院教授が著作の一部で、現在ベトナムで展開中のドイモイの「ダイナミズム」の分析、理解の際に用いられた「国家と社会」という分析視角にある。筆者もそれに習う形で記述を試みてきたが、日本のベトナム地域研究においてその枠組みを正面に立てての取り組み、さらにそれをフィールド調査、各分野研究において検証する試みはこれまでなされてこなかった。欧文も含めたベトナム地域研究における「国家と社会」という視角に基づいた諸業績を概観し、古田教授が端緒をつけた分析視角を広い領域での適用を目指して展開を試みる。

そして、既存研究が論じてきた「関係(relations)」を超えて「関係性(relationship)」を考察することの意味を簡潔に記したい。

第1章
はじめに
第1節 各級地方政府の位置付け
第2節 全国およびタイビン省の障害者について
第3節 障害者福祉の現状—生活状況に関するフィールド調査から—
第4節 障害者福祉における「国家と社会の関係性」
今後の課題


本稿はベトナム、特に地方に暮らす障害者の基本的生活状況の理解とそこにおける国家と社会の関係性を考察しようした取り組みの1年目の成果である。


第2章
はじめに
第1節 ベトナムにおける国家と公民社会
第2節 国家と実社会の関係性
おわりに


ベトナム共産党の公的イデオロギーに基づく国家と公民社会の関係に対して、公民社会とは別の次元で動く「実社会」の存在を措定し、「実社会」の一部としてNGO活動の事例をとりあげ、国家と「実社会」の関係を考察する。

第3章
はじめに
第1節 集団経営時代の組織的移住政策の展開
第2節 家族請負時代の組織的移動の展開
第3節 ドイモイ以降の組織的移住政策の展開


ベトナムにおける新経済区への組織的移住政策を通して、国家と社会の関係がどのように変化していったのかを国家の側から検討する。1960年から2000年までの40年間を3つの時期に区分し、政策の目的・方針、国家の社会観、関与の方法、実際の移住規模などについて概観する。特に、政策の変化を促した各時期の転換の契機に着目し、どのような要因が両者の関係の変化につながっていったのかを考察する。

第4章
はじめに
第1節 古田の描写と一般化・普遍化・包括化
第2節 新制度派、「市場」・「政府」・「共同体」、インプリケーション
第3節 開発途上国・移行経済国・ベトナムにおける経済開発の過程 — 古田の描写から新制度派を援用した描写へ —
第4節 「政府」と「市場」および「共同体」との関係性についての評価 — 旧思考の克服と「共同体」の積極的利用の緊要性 —
おわりに


古田元夫氏のベトナムにおける“国家”と“社会”に関する議論は、ことその経済開発の過程に関する限り、新制度派的な経済開発論を援用した、開発途上国 ・移行経済国の一つであるベトナムのそれに関する議論へと一般化することが可能である。この場合、1986 年以来の同過程は、基本的には“国家”=「政府」が1986 年以前にその代替を試みた“社会”=「市場」・「共同体」(ここでは特に後者)の機能をそれぞれに返還してきた過程であると評価しうる一方で、1986 年以前と同様な、“国家”= 「政府」による“社会”=「市場」・「共同体」(同)に対する規制を是とする認識もまた部分的にせよ形を変えて継続しており、こうした認識と実態との乖離、“国家”=「政府」による政策的ミスマッチ・「失敗」もまた、ときとして看取される。現在のベトナムにおける“国家”と“社会”との関係あるいは「政府」と「市場」・「共同体」(同)との関係には、このように形容しうる側面がある。

第5章
はじめに
第1節 ベトナムにおける農村から都市への人口移動概観
第2節 人口統計学的アプローチと経済学的アプローチ
第3節 イデオローグ・政策当局者・学者らの認識と政府による規制
第4節 人口移動にみられる経済社会の実態と「共同体」の役割
第5節 ベトナムにおける農村から都市への人口移動についての評価
おわりに


第4章の議論をさらに実証するよう試みた論考。「共同体」、ここでは親族・縁者のネットワークが農村から都市への人口移動、さらには都市開発・農村開発に対して果たす役割が、ベトナムの少なからぬイデオローグ・政策当局者・学者らにあってはしばしば過小評価されがちであり、ベトナム政府にあっても「戸籍登録制度」に代表される規制メカニズムをなおかつ維持していることは、「政府」による「市場」・「共同体」(ここでは特に後者)に対する規制を是とする認識が形を変えて継続していることの現れの一つであり、こうした認識と実態との乖離、「政府」による政策的ミスマッチ・「失敗」もまた等しく看取される。こうした状況を改善するべく、ベトナム「政府」は、現在の経済開発の過程において、「市場」だけでなく、「共同体」をも、その失敗を最小化しつつ、いっそう積極的に活用していくことが緊要である。