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スリランカの対外経済開放政策――進展するも新たな懸念

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.113

2018年3月23日発行

PDF (698KB)

  • スリランカはFTA交渉を積極的に推進。2018年にシンガポールとのFTAに署名したほか、中国との交渉が進捗、新たにバングラデシュと交渉開始。
  • インドとの経済・技術協力協定(ETCA)は、スリランカ側の反対で停滞。他のインドとの二国間のプロジェクトも遅延。
  • 2018年2月の地方選挙以降、対外経済開放政策に否定的な潮流が顕在化。

スリランカでは、2015年1月に成立した政権下でラニル・ウィクレマシンハ首相の主導により積極的な対外経済開放政策が打ち出された。2018年1月にはシンガポールとのFTAに署名したほか、マレーシア、インドネシアなどASEAN諸国や中国との交渉も進行中である。スリランカは、これらの国々との輸出入を促進するというよりも直接投資の誘致、それによる国内経済の高度化・多様化に期待を寄せている。他方、懸案のインドとの経済・技術協力協定(ETCA)は国内の労働者や医師・弁護士などの専門職の反対が強く、実現していない。

対外開放強化政策に至るまで

図1 輸出入のGDP 比(左軸)と成長率(右軸)

出所:Central Bank of Sri Lanka, Annual Report 2016

スリランカ内戦は、2009年に終結するが、実はスリランカはその前の内戦期から5%を超える成長率を達成していた(図1参照)。しかしながら、この成長に輸出の寄与は少ない。輸出のGDP比は2000年以降、継続して低下している。輸出の停滞は、輸出構造が高度化・多様化が進んでいないことによる。輸入に関しては、2000年代後半以降に保護主義的な傾向が強まったことで抑制された。
南アジアのハブを目指す

現政権の経済政策はウィクレマシンハ首相自らが指揮監督し、マリク・サマラヴィックラマ開発戦略・国際貿易大臣らが政策立案の中心となり、輸出主導の成長を目指して改革を行おうとした。しかしながら、政権発足直後は、政府歳入を増やすことが喫緊の課題となり、付加価値税(VAT)率改革(11%から15%に引上げ)国家建設税(NBT)課税対象範囲の拡大や内国税(IR)法改革などの税制改革に取り組む必要があった。  

2017年9月発表の「ビジョン2025」においては、スリランカを南アジアのハブとして発展させる方向性を明確に打ち出すことができた。ハブ構想そのものは、マヒンダ・ラージャパクサ前政権(2005-15)においても示されたが、同政権は国内産業保護に向かった。これに対して、ビジョン2025では、ハブであることの利点を生かして民間投資を呼び込み、輸出産業の発展を促進することによる成長を目指している点が異なる。

積極的なFTA交渉

首相らは税制改革と共にオープンな対外経済政策としてFTAの締結を目標とし、2018年1月にシンガポールとの署名で実現した。このほかマレーシア、インドネシア、中国との交渉も進んでいるといわれ、2017年12月にはマレーシアのナジブ首相が、2018年1月にはインドネシアのジョコ・ウィドド大統領がスリランカを訪問した。

ただ実際にはこれらの国々とスリランカとの輸出入額は決して大きくない(表1参照)。FTA締結は、輸出入を増やすというよりも、これらの国からのFDIを念頭に置いたものであると中央銀行総裁は述べている。投資が輸出の高度化・多様化を促し輸出を増やすこと、農業や生産性の低いサービス業から製造業へ労働移動を促進することが期待されている。さらにFTA締結は、スリランカがグローバル・バリューチェーンに入る準備があるというシグナルになるとしている。

表1 スリランカの主な輸出・輸入相手国(2016年)

インドとの交渉は停滞

ASEAN諸国の他、バングラデシュともFTA交渉が本格化した。その一方でスリランカにとって輸出・輸入で関係の深いインドとのETCA交渉は停滞した。

前年に引き続きスリランカ側の医師・弁護士などの専門職などが強硬に反対しているためだ。また、インドが実施することになっていた発電所などのプロジェクトが急遽取りやめになるなど混乱した。ETCAや各種プロジェクトは、スリランカがインドのバリューチェーンに入り込むための手段であるだけでなく、スリランカ国内で台頭する中国企業とバランスをとるという役割を期待されているはずであるが、二国間の交渉ペースは一向に上がらない。

垂れ込める暗雲

首相らが主導する対外開放経済政策により、欧米に偏った輸出先をASEAN向けにも多様化し、投資誘致により産業構造の高度化・多様化する道筋が開けると期待された。しかし、2018年2月の地方選挙で与党は大敗を喫した。勝利したのはラージャパクサ元大統領らの勢力であり、経済政策としては国内保護政策を標榜する。選挙の結果を受けて、連立政権のパートナーでもあるマイトリパーラ・シリセーナ大統領も首相の経済政策に苦言を呈し始めた。  

始まったばかりの開放政策はいきなり壁に突き当たった。

まとめ

スリランカは、インド洋のハブとして機能できる位置にありながらその優位性を生かしてこなかった。ASEAN諸国および近隣諸国とのFTAは、すぐに輸出入を増やすことにつながることはないだろうが、投資誘致により長期的にスリランカの経済構造を変革させる原動力となると期待できる。  

スリランカのハブとしてのポテンシャルが生かされるかどうかは、今後のFTA交渉推進・署名したFTAの運用を行う政治的意思にも依存することになる。

(あらい えつよ/地域研究センター)

本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。