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中国の対外政策と「一帯一路」構想

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.109

2018年3月22日発行

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  • 「一帯一路」構想は、対外政策の理念を示すものであるが、統一的政策パッケージではなく、既存の政策を網羅・再編したものと理解すべきである。
  • 実際のプロジェクトをみると、政府間ベースのもの、商業ベースのもの、その混合型などが混在している。評価に当たっては、受入国側の事情にも目配りし、総合的に行う必要がある。
  • 中国経済は先進国型となり、資源輸入や製品輸出を通じて途上国経済への影響を強めている。今後構想に期待されるのは、中国から援助受け入れ国への産業移転を促進することである。
「一帯一路」構想(以下、構想)は、それが習近平国家主席の外遊に際して提起されたことが示すように、一義的には対外政策の理念を示すものである。一方、現在の中国の対外的影響力を支えているのは何といっても経済力であり、理念の具体化は経済協力として現れる。「『一帯一路』構想と中国の対外政策の新展開」研究会では、並行して実施した「『一帯一路』構想の中国経済への影響評価」研究会と相互に補完しあうことを目指し、構想の対外政策としての側面に焦点を当てて分析を行った。
対外政策における構想の位置づけ

構想は、新規に打ち出された統一的な政策パッケージというよりは、既存のものも含めた個別の対外政策を網羅・再編したものだといえる。トップ指導者のアイデアとして登場した構想について包括的な政策文書「シルクロード経済帯と21世紀海上シルクロードの共同建設推進のビジョンと行動」(国家発展改革委・外交部・商務部共同発表)が公表されたのは、習国家主席の外遊から1年半経過した2015年3月のことであり、政府が後追い的に準備を始めたことを示唆している。また、同文書では、基本理念として「①平和協力、②開放と包摂、③相互学習、④相互利益とウィンウィン」が挙げられ、より具体的な枠組みとして「①共同発展・共同繁栄、②東アジア・欧州の二大経済圏を繋ぐ、③陸上・海上の大通路建設、④沿線各国の開放・協力ビジョン策定」が謳われているものの、具体的プロジェクトが示されているわけではない。

構想のイメージをより具体的に示したのは、2017年5月に北京で開催された「一帯一路国際協力サミットフォーラム」であった。130ヵ国以上が参加した同フォーラムにおいては、具体的なプロジェクト案件の取り決めのほか、多数の協力覚書、経済貿易協力取り決めが締結され、資金支援の拡大が約束された。こうして構想の輪郭が示され、同フォーラム以降、中国国内の報道や論説において「構想は建設段階に入った」とされるようになっている。

構想関連プロジェクトの実態

研究会では、構想関連プロジェクトから複数のケースを選択し、その狙いや融資方式、実施体制に関する分析を行った。具体的には、ジェトロ海外事務所による一斉サーベイを行った上で個別事務所に依頼して現地調査(中央アジア、パキスタン、ドバイ、ジブチ)を実施した。その結果、国によりプロジェクトにより実態は多様であることを確認できた。大別すると、①エネルギー、資源分野を中心に当初から政府間の取り決めで開始されたもの、②中国企業(その多くは国有企業)が商業ベースで始め、継続しているもの、③商業ベースで始めたが途中から債務返済などの問題を巡って中国政府が介入し、外交案件化したもの、などである。

融資の方式も多様である。報道ベースではAIIBの融資が注目されたが、実際に多額の融資を行っているのは、中国国家開発銀行、中国輸出入銀行、シルクロード基金である。全体像の把握は難しいが、構想の実施に合わせて公表された中国国家開発銀行の例では、2013年以降に構想「沿線国」に対して140件、1300億ドルの融資が実行されたとされる。その規模からしても同行の融資が重要である。なお、設立後2年を経過したAIIBの融資は24件、42億ドルとまだ小さい。また、当初懸念されていたように、融資が中国の意図によってゆがめられることはなく、多くの融資は世界銀行やアジア開発銀行との協調融資方式で行われている。

沿線国の視点から見た構想

「沿線国」=関係国と位置づけられている諸国の立場から見た構想の意義や課題はどうだろうか。各国・地域を専門とする研究者からの報告を受けて意見交換から明らかとなった問題点・課題は次のようなものである。そもそも、ロシアやインドなど域内の大国は構想に対して警戒的である。前者は「一帯一路国際協力サミットフォーラム」にプーチン大統領が出席したものの、国内では「構想で利益を得るのは中国ばかりではないのか」との議論も少なくない。後者はフォーラムに代表すら送っていない。ただし、AIIBには中国に次ぐ金額を出資しており、同行設立以来の2年間で5件、10億ドルと最大の融資受入国となるなど、実利は確保している。受け入れ国ごとに状況は大きく異なる。

また、頭記した、経済的影響分析の研究会の結論と重複するが、個別のプロジェクトをめぐっても、①中国と受け入れ国の思惑の食い違い、②構想と既存の多国間枠組みとの調整の必要性、③構想で二国間・多国間に跨るプロジェクトを実施する場合の調整機構の不在、等の課題が存在する。このうち、①に関しては、受入国側の事情を分析する必要がある。そもそもプロジェクトは受入国の同意がなければ開始できない。また、受入国には、構想関連の投資を自国の開発計画に組み込んでいる例もある(タイなど)からだ。この場合は、構想が想定しているように「沿線各国の開放・協力ビジョンを策定」したと解釈できる。②③については、今後の経過を観察しなければならないが、既に外交努力が開始されているし、AIIBの融資では、他の融資元との間で融資条件の協調が実施されている。  

なお、中国の経済援助資金の流れは複雑である。JICA研究所の報告では、その初歩的な整理がなされた。中国の経済協力がOECD諸国のODA概念と異なることは知られているが、発展途上国資金の流れからODA相当分、商業借款、輸出バイヤーズクレジット、国際機関への支出等を抽出すると2015年で合計134億ドルあった。同年の日本はODAだけで150億ドル(総額ベース)と上回っているが、中国の実績も小さくはない。中国の援助プロジェクトについては、プロジェクト実施の主体にほぼ中国企業が指定されるなどのタイド案件がほとんどであることや、建設労働者も中国から派遣されることが多いため、ホスト国への経済的恩恵が少ないことが最大の問題となっている。

中国経済のポジション変化と構想

構想を見る上で中国経済のポジション変化も見逃せない。中国が日本を含む東アジアから部品・中間財を輸入して最終製品とし欧米等へ輸出するという「三角貿易」論は次第に妥当しなくなっている。中国はすでに「貿易収支黒字・資本収支赤字」の先進国段階に入っており、構想は「黒字還流」の意義も帯びていた。また、国際的に対中国輸出依存度の高い国々が増加しており、それら諸国が中国の需要変化に振り回されることも珍しくない。先進国も中国製品の輸出=対中輸入の増加に大きな影響を受けている。資源の対中輸出増のために当該国の為替レートが上昇して製造業を圧迫し、結果として資源国への「逆戻り」を余儀なくされるケースも発生している。構想には、中国からこれら諸国への製造業投資を促進する効果が期待される。

今後の課題

中国経済のプレゼンスは今後とも高まり続ける。対外政策の視点から構想を見るとき、そこには、単なる経済援助の枠組みである以上の役割が求められている。構想と関連づけて強調されている「国際的生産能力協力」には、中国企業が直接投資によって生産能力移転を行い、受入国の工業化に資する効果がある。構想がこのプロセスを支援していくことが重要であろう。

(おおにし やすお/新領域研究センター)

本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。