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付加価値貿易分析 発展途上国への展開

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.47

2014年5月19日
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付加価値貿易の計測
付加価値貿易研究は、かつて企業データを用いたサプライチェーン分析が中心であった。しかし、2011年にアジア経済研究所とWTOが共同研究成果を発表して以来、国際産業連関表を用いた分析への関心が一気に高まった。また、期を同じくして様々な国際機関・研究機関が国際産業連関データの作成に着手し、以降、データ作成に関する国際的な協力体制の構築が模索されている。

産業連関表を用いた付加価値貿易の計測手法としては、国際的な価値の流れを各国の国内最終需要とリンクした形で捉えるアプローチがある。産業連関分析の世界では、伝統的に「国内最終需要が誘発した付加価値額(Value-added induced by domestic final demand)」と呼ばれる指標であり、多国間国際産業連関表への応用ではDaudin et al. (2006/2009)やJohnson and Noguera (2009/2012)によって以下の形で定式化された。





<s国の国内最終需要が誘発したr国の付加価値額>
<s国の国内最終需要が誘発したr国の付加価値額>

ただし、v^rは他国の要素を値0とするr国の付加価値係数(行)ベクトル、Lはレオンチェフ逆行列、f^(*s)はs国の国内最終需要(列)ベクトルである。右辺のL∙f^(*s)は、s国の(国産財および輸入財両方に対する)国内最終需要が、直接的・間接的に誘発した各国各産業への生産波及効果である。これを、r国の付加価値係数に掛け合わせることで、「s国の国内最終需要が誘発したr国の付加価値額」が求められる。これが、「r国のs国に対する付加価値輸出」(あるいは「s国によるr国からの付加価値輸入」)として計測されるものである。

ここで注目すべきは、この手法による付加価値貿易の計測にあたっては、仕向け市場(TiVA^rsではs国)におけるすべての最終需要が考察の対象となる点である。たとえば、自動車を例にとって、日本の米国に対する付加価値輸出を考えてみよう。トヨタあるいはニッサンが日本の工場で生産した自動車を米国へ輸出する。これが、日本国内に付加価値を発生させるというのは極めて明解である。ところが付加価値貿易の場合、GMやFordなど米国産の自動車に対する米国居住者の消費需要も、日本の付加価値輸出の対象となりうる。なぜなら、GMもFordも、デンソーなど日本のサプライヤーから部品や原材料を調達している可能性があるからだ。同様に第三国による対米輸出、たとえば韓国のヒュンダイ社やドイツのフォルクスワーゲン社の車も日本の付加価値輸出の媒体となりえるのである。

すなわちこのアプローチでは、業者どうしが実際に取り引きする財やサービスは付加価値を運搬する「乗り物」に過ぎず、それが、どこの国のどういう製品なのかということは問題としない。あくまでも、複雑に絡み合った産業間ネットワークのなかで、付加価値フローの起点と終点の関係だけを見ようというのである。

中国の影響力
付加価値の視点で見ると、中国の対米黒字は大幅に縮小する。では、国際貿易に対する中国の影響力は過大評価されているということであろうか。付加価値貿易の研究が米中貿易摩擦という極めて政治的な問題を念頭に始まったことは否めない。WTOからすれば、米国の対中赤字が「実際は」これまで考えられていたほど大きくない、という事実は、米中両国の通商交渉を促す立場としては歓迎すべきことである。また、巨大な貿易黒字を理由に市場開放や人民元切り上げへの圧力を受けている中国にしても、付加価値貿易の考え方は「国益に資する」という認識であり、現在、中国政府は巨費を投じてこの研究の推進を図っている。

しかし、このような貿易収支に関する衝撃的な研究結果、そしてその大きな政治的含意にもかかわらず、これらは中国の世界経済に対する影響力の評価を決して下げるものではない。付加価値貿易における「付加価値」とは国民経済計算の国内総生産(GDP)と同義である。したがって、すでに世界第2位のGDPを誇る中国の影響力が小さいはずがない。

表1は東アジア・米国経済圏の付加価値フローをマトリクス化したものである。表側が付加価値の源泉国(origin)、表頭が仕向先(destination)で、交点がそれらの国の間を移転した付加価値額である。また、各国の輸出入合計値と地域平均値との乖離度によって値を標準化し、それぞれ域内付加価値フローへの輸出貢献度/輸入貢献度とした。図1はこれらを1985年と2005年でプロットしたものである。

この20年間で米国と日本の存在が著しく後退したのに対し、中国の影響力が劇的に高まったことが観察される。注目すべきは、それが輸出サイドのみならず輸入サイドでも大きく伸びている点である。東アジア地域において、中国市場が成長エンジンとしても重要度を増していることが分かる。

他の東アジア新興国は、その相対的な経済規模ゆえ付加価値の分配において中国ほどの影響力はない。しかし、図中左下の点群を詳細に見れば分かるように(図1右図)、すべての国が輸出/輸入いずれかで貢献度を高めている。これは、この期間でこれらの国々が域内生産ネットワークに対する連関を深めていったことを示している。

(いのまた さとし/開発研究センター上席主任調査研究員)



表1 東アジア・米国経済圏の付加価値フロー(1985、2005年)
表1 東アジア・米国経済圏の付加価値フロー(1985、2005年)
(出所)アジア国際産業連関表(IDE-JETRO) 1985年、2005年(暫定版)から筆者作成。

図1 域内付加価値貢献度(1985、2005年)
図1 域内付加価値貢献度(1985、2005年)
(出所)アジア国際産業連関表(IDE-JETRO) 1985年、2005年(暫定版)から筆者作成。


本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。