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コスタリカの持続可能な成長

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.45

鍋嶋 郁
2014年5月16日
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コスタリカは典型的な中所得国である。1980年代初頭の危機を乗り越え、ようやく以前の成長の軌道に戻ったが、今後の成長の展望に対して危機感を抱いている。その背景には輸出競争力の低下、投資国としての魅力の継続性、そしてイノベーション能力の欠如などが挙げられる。今後、コスタリカが順調な成長を遂げ、高所得国入りするには、さらなる貿易自由化、投資環境の整備、並びにイノベーション能力の向上が必要となってくることが考えられる。

発展途上国の経済成長を考えるうえで、近年「中所得国の罠」に関する関心が高まっている。以前から東アジアの成長と中南米諸国との成長に見られるパフォーマンスの違いが議論されてきた。しかしながら、東アジア諸国も低所得国から中所得国へ移行し、さらに高所得国へと移行し始めているなか、今後の成長に対して不安視する見方が強まってきている。これが中所得国の罠に対する関心が強まってきた背景である。




中所得国の罠とは
経済成長の初期は、低い人件費と大量生産による費用削減で強い競争力を持っていた産業が、経済成長とともに人件費が高まるなどしてその競争力を失っていく。一方、高度な専門知識や技術革新に大きく依存する高付加価値の製品・サービス部門への産業構造の変革は容易に進んでいかない。結果、国民の所得水準は微増していくものの、将来の経済成長が持続するのか不確実な状況となることを指して「中所得国の罠」と呼ぶ。

概念としては分かりやすいが、実際にどのような指標を用いて計測していくべきかについては様々な考えにわかれる。本稿では Felipe (2012)の定義に基づいて議論する。Felipe(2012)の定義では、中所得国とは、国民1人当たりGDP(PPP)が、$2,000~$7,250(下位中所得国)と$7,250~$11,750(上位中所得国)であり、罠にはまってくる国々は下位中所得国に28年、上位中所得国に14年以上滞留している国々の事を指す。この定義の下では、フィリピン、ブラジル、南アフリカなどは下位中所得国の罠にはまっており、マレーシア、ウルグアイ、ベネズエラ等は上位中所得国の罠にはまっている。本稿の関心であるコスタリカは、この定義上まだ罠に陥っているとは言い難い。しかし、この罠から脱却するには年平均3.4%の成長率が必要であり、コスタリカが上位中所得国になった2006年からの成長率をみると3%ほどであることから、一抹の不安が残る。なぜならコスタリカは下位中所得国の罠に陥っていた過去があるからである(図1参照)。
近年のコスタリカの成長、特に輸出産業の成長を見ると、外資系企業の誘致に起因している部分が大きい。大手IT企業の誘致にはじまり、最近では医療機器の誘致にも注力しており、これらの産業が集積しつつある。今後のコスタリカの成長の基盤は、このような輸出産業の成長と、集積効果をうまく活用することによる高い成長率の実現にあると思われる。


図1 コスタリカの国民1人当たりGDP(PPP)
図1 コスタリカの国民1人当たりGDP(PPP)
(注)Felipe (2012)の定義によるとコスタリカは1952年に下位中所得国になったが、上位中所得国になるのに、54年かかった。赤い線が下位中所得国、上位中所得国になった年を示している。(出典)データはBolt and van Zanden(2013)による。

自由貿易協定の効果
コスタリカの輸出産業にとって自由貿易協定は重要である。特に主要貿易相手国であるアメリカとの自由貿易協定が持つ意味は大きい。2005年に開始された中南米諸国とアメリカを含めた自由貿易協定であるDR-CAFTA(Dominican Republic-Central America Free Trade Agreement)や、2011年に締結された中国との自由貿易協定によって、輸出促進を図っているのである。アジア経済研究所の伊藤、田中、カシチーバ研究員による実証研究によると、DR-CAFTAはコスタリカからの輸出を促進しているが、その効果は大企業の方が享受している結果となっている。これは一般的な自由貿易協定の効果を検証している研究と整合性があり、既存の研究でも指摘されているように、今後の課題は中小企業による自由貿易協定の活用である。また、中国とのFTAの効果については残念ながらまだ協定開始からの年月が短く、きちんと検証できる状況ではない。

産業集積の効果
コスタリカの産業の集積はまだ初期段階であるとしか言えない。海外直接投資により、電子機器産業の集積は一部Heredia地域にみられるものの(図2参照)、もうひとつの重要な産業と位置付けている医療機器に関してはまだはっきりとした集積は見られない。データの不足から集積の効果を計測するまでには至っていないが、今後は十分なデータの整備を行うことで集積効果を明らかにし、誘致政策(特に工業団地などの設置)に対してより的確なアドバイスができるであろう。

図2 電子機器産業の集積
図2 電子機器産業の集積
(出典)Kumagai and Ueki (2014)

イノベーション能力
現状ではコスタリカのイノベーション能力は低いと言わざるを得ない。一般的にイノベーションの程度を測るために使用されている、GDPに占める研究開発費やアメリカにおける特許数などを見ても、コスタリカの数値は低い。研究開発費はおよそGDPの0.5%ほどである。比較的所得水準が似ているマレーシアは既に1%以上を研究開発費に注ぎ込んでいる。また特許数にしてもまだ年間十数件の特許数しかなく、イノベーション能力はまだまだ初期の段階である。

今後の成長のために
コスタリカが今後とも成長を持続させていくためにはさらなる努力が必要になってくる。短期的には自由貿易協定の促進、投資環境の整備などを通じて海外直接投資の誘致が必要であろう。そうすることによって将来的には産業集積による効果を得られる可能性が高い。また長期的にみて、イノベーション能力の向上は必要不可欠である。そのためには人的資本の質を上げていく必要がある。

《参考文献》
  • Bolt, Jutta and Jan Luiten van Zanden. 2013. "The First Update of the Maddison Project: Re-Estimating Growth before 1820," Maddison-Project Working Paper 4, University of Groningen, Groningen: the Netherland.

  • Felipe, Jesus. 2012. "Tracking the Middle-Income Trap: What Is It, Who Is in It, and Why? Part 1," ADB Economics Working Paper 306, Asian Development Bank, Manila.

  • Kumagai, Satoru and Yasushi Ueki. 2014. “Industrial Agglomeration in Costa Rica,” mimeo, Institute of Developing Economies-Japan External Trade Organization, Chiba: Japan


  • (なべしま かおる/新領域研究センター上席主任調査研究員)




    本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。