skip to contents.

広東省対外経済部門の高度化と「幸福広東」の実現 日本の経験を踏まえた政策提言(I)

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.42

丸屋豊二郎
2014年5月7日
PDFpdf (425KB)
広東省には、電気電子産業から自動車産業まで多くの日系企業が立地したことで、製造業による経済活動は成熟し、労働力供給不足による賃金の上昇や産業高度化を目指した委託加工生産への制限などにより、企業の経営環境は変化している。こうしたなか、広東省政府は直接投資をさらに受け入れ続けるだけでなく、地場企業の海外展開を政策的に促進し、循環経済を実現し、物流業などの産業を高度化したいと考えている。

「広東経済の高度化と日中経済連携の課題(IV)」研究会は、2009年にジェトロと広東省政府との間で締結された覚書における協力内容の中核事業に位置付けられており、2013年度における本研究プロジェクトは、広東省政府からの要請に従い、(I)広東省企業の海外展開の促進、(II)広東省の投資環境整備、および(III)広東省における経済・社会・文化の高度化を研究内容とした。本稿では、(I)について詳しく述べる。(II)および(III)については、それぞれポリシー・ブリーフNo.43、44を参照されたい。





日本の中小企業の海外展開支援策——日本の経験を踏まえた広東省への提言
中小企業は経営規模が小さいことから、海外展開に向けたハードルが大企業に比べて高いのが実情である。このため、中小企業の海外展開を政府が支援していくことは極めて重要である。広東省政府が省内企業の海外展開を支援するうえで留意すべきことは、以下のとおりである。

まず第1に、中小企業の海外展開ニーズは多岐にわたるため、企業のニーズや課題を的確に把握し、それぞれの段階(輸出、提携、海外進出)に応じて支援メニューを構築する必要がある。

第2に、中小企業支援機関が複数の機関にまたがる場合には、支援機関同士の連携を強化し、支援を受ける中小企業にとって、どの機関がどのような支援を行っているのかをできるかぎり「見える化」していく必要がある。

第3に、支援メニューを通じて海外展開に成功した中小企業の事例をひとつでも多く創出し、成功事例を各種媒体等でPRしていく取り組みも重要と考える。

広東省における企業の国際化の事例研究
広東省の地場企業は国際経営の重要性を強く認識しており、海外展開で一定の成果も獲得している。美的集団に代表される大企業は、製品開発、生産、販売など、経営の各側面において大きな進展を見せている。一方、中小企業は先進国からのOEM受託生産だけなく、海外市場、とりわけ新興市場の開拓に積極的に乗り出している。しかし、海外展開の経験が豊富な日系企業と比べると、広東省企業は経営組織や人材の国際化、そして海外でのサプライヤーの育成といった面において、まだ初期段階にあるといえる。日系企業の国際経営の経験を参考にするとともに、同じく広東省に多数集積している日系企業との交流、提携関係を深めることは、広東省企業の国際化の水準の向上につながる。例えば、日系中小企業と中国企業のマッチングの場を提供することによって、前者は販売拡大、後者は技術力の向上、というWin-Winの関係を築くことが期待できる。

広東省からの二次展開の構造——産業高度化に向けた課題
広東省では労働集約的な加工組立業は、労働力不足と賃金率上昇によって苦しい経営に直面している。印刷機械や通信機器の日系セットメーカーは、ベトナムへと二次展開を進めているのが現状である。印刷機械メーカーでは、高級機種を広東省で生産し、普及品生産をベトナムへ移管するという動きが加速しつつあり、広東省での生産量は今後も減少を続けるものと考えられる。しかしながら、多くの部品メーカーが指摘したように、定着率を向上させ、企業人材の育成に適した労働市場を作り上げることで、産業高度化への道は残されている。したがって、広東省が企業に内在する高度化機会を活用するためにも、熟練工の定着に向けた定住促進策を進め、企業人材として有望な人を広東省に留めるための積極的かつ柔軟な政策運用が要望される。

広東省の同一産業に属する地場企業の操業形態間のパフォーマンスの違い
2008年の経済センサスを用いて広東省の地場企業間のパフォーマンスの違いを調べた。その結果、日本や欧州で見られた「直接投資企業の方が輸出企業よりも、また、輸出企業の方が国内販売のみの企業よりも、労働生産性がよい」というパターンとは異なることが分かった。

つまり、広東省の地場企業について、国際化した企業より国内販売のみの企業の労働生産性が十分に高いことがいくつかの産業で確認された。そのため、労働生産性が高いにもかかわらず、国内販売のみに従事する企業の国際化を促進する必要がある。また、通信電子機器製造業に属する企業については、直接投資企業の方が生産性は相対的に高いことが分かった。政府等の海外展開支援策により、通信電子機器製造業に属する企業の直接投資がさらに促進されることが予想される。一方で、国内販売のみの企業のなかには、生産性が悪い企業も多い。そのため、企業間競争を促進することで、生産に必要な資源をより生産性が高い企業が活用することができるような構造改革が求められている。

《参考文献》
  • 日本貿易振興機構海外調査部国際経済研究課(2013) 「2012年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」
  • Mayer, T., and G. I. P. Ottaviano (2007) “The Happy Few: The Internationalization of European Firms. New Facts Based on Firm-level Evidence,” Bruegel Blueprint Series. Vol. III.

  • (まるや とよじろう/福井県立大学教授)



    本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。



    No.43 広東省対外経済部門の高度化と「幸福広東」の実現 日本の経験を踏まえた政策提言(II)
    No.44 広東省対外経済部門の高度化と「幸福広東」の実現 日本の経験を踏まえた政策提言(III)