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ASEANのグリーン産業成長に向けて 再生可能エネルギー市場の域内統合と共通の産業政策を

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.41

堀井 伸浩・鍋嶋 郁
2014年5月7日
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再生可能エネルギー導入で先行していた欧州が急減速するなか、ASEAN各国は引き続き高い目標を掲げ、導入政策を強化している。特に表1(後掲)の国々は固定価格買取制度(FIT)を採用するなど積極姿勢を示している。ASEANにとって再生可能エネルギーの導入はエネルギー安全保障、環境政策としての側面に加え、新産業の振興によるグリーン成長が期待される。エネルギーシステムが未完成で、島嶼あるいは山岳・森林地帯に農村部が広がるというASEAN地域の条件は、再生可能エネルギーという選択肢のメリットがむしろ先進国よりも大きい。




中国のグリーン成長モデルからの示唆
しかし、現在の制度では再生可能エネルギーの導入量は増えるとしても、設備は輸入に依存し、域内企業の育成にはつながらない可能性が高い。その点、導入する技術の担い手として国内企業の成長に成功した中国のモデルを考察することは有意義である。

中国では風力発電は2005年から2010年にかけて毎年ほぼ倍増の勢いで成長し、そのなかで国内企業のシェアも44.2%から82.5%にまで上昇した。太陽光も2010年には中国企業による生産量は約11GWと世界の45%前後を占めるようになった。こうした結果、風力は世界の上位15社のうち7社、太陽光も上位5社のうち4社が中国企業となった。

中国の風力と太陽光の発展形態には違いがあり、ASEANのグリーン成長にとって、国内市場を活用して成長した風力の事例の方が参照できる点が多い。

中国の風力企業の成長要因として、①巨大な国内市場を活用した規模の経済性、②FITではなく再生可能エネルギー利用割合基準(RPS)による競争的な導入制度、③政府の産業政策を通じた企業育成、④M&Aやライセンシングといった幅広い技術導入チャンネルの活用、が指摘できる。

高い目標で巨大な市場機会を政府がコミットして国内企業の参入を促し、しかし導入にあたっては全量買取ではなく入札を通じて競争をさせる。これはFITが高い買取価格で導入量が急増し、負担能力を超えた高コストに苦吟している欧州の状況を見ると一考に値する選択である。企業間の競争が強く働かないFITでは、結局国内企業の国際競争力は育たない可能性も高い。RPSは導入量が過少に止まりがちという批判には産業政策を組み合わせて市場規模を確保し、プロジェクトのリスクも低減させることができる。また海外企業からM&Aやライセンシングで先進技術を導入する際、巨大な国内市場を交渉条件に活用し、有利な条件を引き出すことに成功した。

風力における中国企業の成長過程においては 巨大な国内市場を戦略的に活用したことが最も注目すべき点である。また欧州の太陽光市場の急激な縮小によって、2012年前後から太陽光についても国内市場と政策の関与が強まることとなっており、再生可能エネルギー産業の持続性にとって、国内市場の規模と安定性は重要な要因となっている。

成熟技術については域内直接投資の促進を
ASEAN各国も個別の国は中国のように巨大な国内市場は確保できないが、地域協力の一環として、①域内で統合された再生可能エネルギー市場を実現(市場規模を確保)するための制度・政策のすり合わせ、②ASEAN全体で一体化した技術開発・導入スキームの検討、③再生可能エネルギーへの投資リスクを軽減する共通の諸政策(特に化石燃料への補助金の削減)を進めることで、域内で投資を行うメリットを拡大することができよう。

地熱や風力、太陽光は、技術的にはある程度成熟し、先行企業に豊富な導入実績もあり、現時点でASEAN域内の地場企業が新規参入するのは難しい。しかし、施工・設置・管理は一般的に国内企業が担い、ある程度の付加価値が期待できる。再生可能エネルギープロジェクトのサービスプロバイダーの育成支援が有望であろう。また、海外企業の域内直接投資を通じて地場生産を行うことは可能である。特に太陽光パネル製造においてはFirst Solarやパナソニックのマレーシア工場など実例もある。

またASEANには原料生産の面でバイオマスに比較優位があり、政策的な導入支援がなされれば発酵・精製設備やガス化炉など幅広い産業に対して生産誘発効果が期待できる。実際マレーシアやインドネシアではパーム油のバイオディーゼル燃料をはじめ、バイオマスを有効活用する機会が多々存在する。

ただ、いずれの場合にも海外企業を引き付ける大きさの市場規模と市場が確実に存在することを示す政府のコミットが必要である。そのためには政策目標実現に向けた具体的なロードマップを示すことが望まれる。特に投資リスクを高めているのが、ASEAN全体で510億ドルに及ぶ化石燃料への補助金で、早急に廃止の方向で改革が望まれる。その結果、再生可能エネルギーの相対的な価格競争力は高まるし、資金を域内企業の育成を目的とした共通の産業政策に振り向けることも一考に値する。

商業化前の革新技術についてはイノベーション支援を——日本との協働の可能性
しかしASEAN域内企業による新産業育成の希望がないわけではない。例えば、島嶼国であるインドネシアやフィリピンは海洋エネルギー開発で最先端に躍り出る潜在力がある。離島は電力系統に連係できず、再生可能エネルギーの競争力が高い。しかし太陽光等は出力変動が大きく、通常、ディーゼル発電がベースロードを担う。他方、海洋エネルギー(潮汐、海洋温度差、海流)も出力が安定的で、ベースロードとなり得る。現状、海洋エネルギーは高コストであるが、系統電力ではなく割高なディーゼル発電との競争であればいずれ競争可能な水準までコストを低減できる可能性もある。

現在、海洋エネルギー研究は先進国で進んでいるが、実際に稼働しているプラントは少ない。この技術はサイトごとに設計をカスタマイズする必要があり、こうしたエンジニアリング分野では経験値が重要な競争要素となり得る。したがって実際にニーズがあり、多様な開発サイトを持てるASEANは技術開発で有利な条件を持つ。離島という不利な条件を技術開発上の強みに転換し、海洋エネルギーのイノベーションの最先端を目指す戦略も望みたい。

基礎技術を持ち、ASEAN企業の立場も鑑みられる日本企業は積極的に協働の可能性を考えるべきだ。再生可能エネルギー比率が高まった際に系統を不安定化させない管理技術、蓄電池も含め、日本企業の協力できる余地は少なくないはずである。

(ほりい のぶひろ/九州大学准教授、なべしま かおる/新領域研究センター上席主任調査研究員)



表1 ASEAN主要国における 再生可能エネルギー導入計画
主な内容
インドネシア 2025年までに一次エネルギーの15%を再生可能エネルギーで供給
(内訳:地熱5%、バイオマス5%、その他の再生可能エネルギー5%)
2020年までにエネルギー由来のCO2排出量を19%削減
マレーシア 2030年までに電力の17%を再生可能エネルギーで供給
(内訳:バイオマス1340MW、太陽光854MWなど)
2020年までにCO2排出量を40%削減(自主計画)
フィリピン 世界最大の地熱発電(新規1500MW)、ASEAN最大の風力発電(新規950MW)に向けた投資、水力発電能力の倍増(新規2100MW)
バイオマス、太陽光、海洋エネルギーによる発電容量を131MW増設
タイ 2022年までに一次エネルギーの20.3%を再生可能エネルギーで供給
2020年までにエネルギーセクターにおけるCO2排出量を30%削減



本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。