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TPPは「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)」実現に貢献するか?

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.40

鍋嶋 郁・島添 順子
2014年5月7日
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  • アメリカ主導のTPPは、かつてP4の描いていたTPP像とかけ離れてきており、TPPがFTAAPへの道筋になり得るのかは疑問である。
  • TPPとRCEPの融合は厳しいものがあり、これらの協定・連携は将来的にも併存すると考えられる。
  • しかし、日米は両国関係を強化する一助として、FTAAP構築への取り組みを継続するであろう。





アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現には、環太平洋パートナーシップ協定(Trans- Pacific Partnership: TPP)の拡大や、東アジア包括的経済連携(Regional Comprehensive Economic Partnership: RCEP)が有望な道筋であるとされてきた。しかしこれらの取り組みが進むなかで、徐々に各国の思惑にずれが生じている様子が見られる。特にTPP交渉進展に伴い、米国とその他の国々との間で、TPPの位置づけに関する認識の差が明らかとなってきており、TPPの内容、特に質に対しての合意も形成されていない。このような状況下では、RCEPやTPP以外のFTAに係る各国の動向が、アジア域内における自由貿易圏の構築に影響を与えていくと考えられる。

TPP交渉の現状
現在のTPP交渉は、実質的には日米自由貿易協定交渉の色合いを強めており、かつての日米貿易摩擦問題ほどではないとはいえ、同様の問題が再燃する可能性が高い(実際、米国の自動車産業に対する姿勢は過去と変わりがない)。

交渉は既に何度か頓挫しており、2013年中とされた合意予定を逃し、2014年2月下旬に行われた閣僚会議、4月の首脳会談においても合意には至っていない。2014年11月に行われる米国での中間選挙後に締結されるのではないか、との楽観的な予測もあり得るが、少なくとも現時点では、アメリカ側は期日を設けず交渉を行うとしている。また、実務者間の合意が成立したとしても、議会からオバマ大統領に対し「貿易促進権限(TPA)」が付与されなければ、締結、批准は確実ではないため、TPA付与前に実際に交渉が前進するとは考えにくい。

交渉が難航しているのは、自由貿易協定の根幹をなす関税部門に加えて知的財産、市場アクセス、競争政策、環境、政府調達などの分野である。米国政府は現在、議会、産業界に最後の提案・コメントを促しているが、米国議会は為替操作を禁止するための “Currency Clause” 挿入を要望しており、日本も本条項の対象となるのは間違いない。ただし、本条項を含む協定には、日本のみならず各国は合意しないだろう。

また、TPPは「スパゲッティ・ボウル」の解消に寄与していない。TPPでは既存の二国間協定を優先するため、RCEPとは異なり関税表は二国間ごとに別々となる。例えばサプライチェーン拡充には、特に中小企業にとって共通関税表の方が有利であるが、現在交渉中のTPP下では「スパゲッティ・ボウル」に伴うこの問題は解決しないことになる。米国以外の企業とそのサプライチェーンにとっての利点は、米国市場へのアクセスだけとなっている。

RCEP
RCEPがアジアの地域統合において付加価値を持つには、ASEAN+AU, NZよりも高品質なFTAである必要があり、サービス産業の自由化は欠かせない。ただし、現状ではこのようなFTAが誕生する可能性は低い。

TPPと比較すると、RCEPは発展途上国に対して寛大である。これは、RCEP交渉に参加している16カ国のうち、日本、オーストラリア、ニュージーランドを除く13カ国はすべて発展途上国扱いであるためである。ただし、この「発展途上国」の定義が濫用される危険性もあり、この場合、RCEPの質の低下が危惧される。また、RCEPはリーダー国が不明確であり、特に日中韓FTA未成立の現状は、RCEPの早期締結にとって悪影響を生じさせている。東南アジア最大国のインドネシアは、リーダーシップを取れる立場ではあるが、現在のところ貿易自由化に対し、かなり内向きになっている。

TPPからFTAAPへの道筋
APECメンバーエコノミーが、アジア太平洋自由貿易圏構築のために立ち上げた自由貿易協定に、P4(シンガポール、チリ、ニュージーランド、ブルネイ)がある。P4は、将来的にはAPECメンバーからの追加参加を待って、アジア太平洋自由貿易圏へと発展させる計画であった。しかし、現在進行中のTPP交渉はP4拡大交渉とは何ら関係がなく、12カ国による新規交渉となっている。つまりTPPは、当初のAPECによるFTAAP構想からは変質している。

また当初は、TPPとRCEPを将来的に融合することによりFTAAPに至る道筋が考えられてきた。しかし、実際にはTPPとRCEPは哲学、質、構成国が非常に異なるため、融合の可能性は極めて低い。RCEPとTPPは併存し、発展途上国はまずRCEPに参加後、TPPに加盟するステップが望ましいのかもしれない。

いずれにせよ、TPPは、APEC加盟国によるFTAAP成立へのステップとはならない可能性が高くなっている。第一に、現在のTPPはAPEC加盟国から構成されているが、今後TPPがこのような形態にとどまることはない。実際、米国は、コロンビアとコスタリカへのTPP拡大を視野に入れているが、併せてFTAAPをAPEC加盟国に限定しない自由貿易圏とする可能性を示唆した。第二に、TPPがFTAAPへの道筋とならない場合、APECメンバーエコノミーが自らFTAAP構築へ向けた提案を行う必要があるが、すべてのAPECメンバーがFTAAPに対して前向きな訳ではない。第三に、TPPの主導権がP4から米国へと移行した結果、TPP自体が米国の自由貿易協定戦略の一部となった感がある。このため、APECメンバーエコノミーがFTAAPへ至る道筋という大義名分を、TPPが失いつつあるのが現状である。

とはいえ、2014年4月の日米共同声明に見られるとおり、日本と米国は太平洋地域における両国関係の一助として、FTAAPを含むAPECメンバーエコノミーとしての協力、そしてTPP協議を継続するだろう。中国、韓国の動向がこの動きにどう絡んでくるか、今後もFTAAPをめぐる動きを注視する必要がある。

まとめ
日本のTPP交渉については、米国における批准環境が整うまでは早急に進めるべきではなく、慎重に状況を見極めつつ継続すべきである。また、交渉が長引くようであれば、共通関税表の適用やROOの簡素化等も可能な限り推し進めていく必要がある。

同時に、TPP交渉をはじめとするFTA全般に関して、学術的に裏付けのある議論を深めるべきである。これにより、1980年代に見られた日米貿易摩擦と類似した事項が俎上に乗るのを可能な限り回避し、問題とされた際にも反論する素地を作ることもできる。またTPP交渉が難航している現状では、日本は他のFTAに係る取り組みにも力を入れ、長引くTPP交渉がアジアにおける自由貿易圏形成に対して悪影響をおよばさないよう、尽力すべきである。

(なべしま かおる/新領域研究センター上席主任調査研究員、しまぞえ じゅんこ/研究企画部専任調査役)





本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。