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ASEANにおける再生可能エネルギー産業育成の可能性

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.30

堀井 伸浩・鍋嶋 郁
2013年10月24日
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ASEANにおける再生可能エネルギーの導入の現状
ASEAN各国では再生可能エネルギー(RE)の導入目標を個別に掲げ、導入を促進している。背景として、エネルギー安全保障、農村地帯の電化、地球温暖化対策等、様々な要因がある。各国の取り組みは大まかに3つのグループに分ける事が出来る。

1番目のグループは積極的に導入を図っている国々で、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイといった国々が含まれる。 これらの国々は明確な目標を設け、実現のための政策も既に導入している(表 1)。導入促進の主要手段となるのは買取制度である。





2番目のグループはこれから導入を図ろうとしている国々であり、ブルネイ、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマーが含まれる。ブルネイ以外は最近急速に経済発展をしてきたCLMV諸国であり、これらの国々は電化率もまだ低く、エネルギー供給の増加、農村部の電化等が主な政策の関心事である。したがってREによる電力供給量増加に加え、分散型の電力として農村地域の電化率向上に貢献する手段として注目されている。

そして最後のグループとして、RE導入よりも産業としての発展と技術革新に重点を置いている国として、シンガポールが挙げられる。


表1 :ASEANにおけるRE導入目標の例
主なRE導入計画
インドネシア 2025年までにエネルギー生産の15%
2020年までにエネルギーセクターによるCO2排出量を19%削減
マレーシア 2030年までに電力の17%
2020年までにCO2排出量を40%削減
フィリピン 世界最大の地熱発電容量の構築
ASEAN域内最大の風力発電容量の構築
水力発電容量の倍増
バイオマス、太陽光、海洋エネルギーによる発電容量を131MW増設
タイ 2022年までにエネルギー生産の20.3%
2020年までにエネルギーセクターにおけるCO2排出量を30%削減
バイオ燃料の普及


中国の経験からの示唆
一方、中国では2000年代後半、風力の導入量が急増し、世界最大となった。また太陽光についても世界の太陽光パネル生産の6割を占め、最大の生産国として台頭してきた。中国でのRE産業の成長の経緯からASEANでのRE産業発展の可能性が示唆されるであろう。
 

国内の政策によって発展した風力発電
RE産業の中で、中国では風力タービンと太陽光パネル産業が急速に発展したが、この2つの産業の発展経路は大きく異なる。中国で導入された主なREは風力である。その理由としては、電力会社に対して2010年までに3%、2020年までに8%の(水力を除く)RE導入が義務付けられた事による。その際、特定技術を指定しなかったため、REの中で最も安価な風力発電が急速に増加した。また、国家主導の風力発電プロジェクトが多々存在していた事、70%以上の地場調達量の規制も風力発電機器企業の成長に寄与した。中国企業はライセンシングを通じて 風力発電技術を取得し、参入した。中国製品の品質は先進国からの輸入製品と比べると劣るが、その分は低価格と同時にアフターサービスを充実させ、競争力向上に成功した。中国企業の価格競争力の源泉は低廉な人件費に加え、巨大市場に基づく規模の経済性、安価な素材・部材費用等、中国の比較優位を有効に活用する事によって実現する事が出来た。その結果、世界の風力タービン生産上位15社のうち、中国企業が7社を占めるほどに躍進した。


海外市場の拡大政策を追い風に発展した太陽光発電
対照的に太陽光パネル製造産業は当初政府からの積極的な支援は存在せず、太陽光導入を積極的に促進していた欧米諸国への輸出により成長した。リーマンショック後、欧米諸国の財政が急激に悪化し、REに対する補助金の削減・撤廃が進んだ後に、中国政府も本格的に国内産業維持の観点から太陽光の導入を促進している。現在、グローバルでこの産業の再編が行われている最中である。今後は中国と日本において市場拡大が望まれるとされているが、既存の生産能力は両国の市場規模を大幅に超えており、新規企業が参入するのは困難であろう。

中国の経験が示唆するものとしては、市場規模が産業育成には重要な要素であるとのことである。風力の場合は国内市場、太陽光では輸出市場規模が大きな影響を与えた。更に、積極的な技術移転、各段階でのコスト削減に対する技術革新(frugal innovation)も産業の発展に貢献したと考えられる。


今後の展望 ——地熱、太陽光、風力発電分野は海外直接投資による域内生産の拡大
現時点ではASEANにおいて地熱、風力や太陽光発電機器に関する地場産業の育成は難しいであろう。これらの分野では技術が成熟しており、また先進国での導入も進んできたことで既存のメーカーの層は厚く、現時点で新規参入を図るのは難しいだろう。しかしRE技術の導入における施工・設置・運営管理の需要を地場企業が担う可能性はあり、この分野における地場企業育成を目的としたASEAN全体の産業政策を講じる意義は大きいと考えられる。また、海外直接投資による外資系企業による域内生産の支援も可能である。特に太陽光パネル製造においてはこの手段が有効であろう。


バイオマスと海洋エネルギーの可能性
その他の技術に関しては、まだASEAN地場企業による新規参入の可能性がある。特に比較優位があるバイオマスに関しては導入促進がなされれば、付随する産業に対する波及効果があるであろう。その際にも市場規模の拡大は必要条件であり、域内の市場統合を進めることが重要な政策目標である。また野心的ではあるが、島嶼国であるフィリピンやインドネシアにおいては海洋エネルギーの開発も潜在的な可能性としては大きい。この分野の研究は先進国で進んできているが、実際に稼働している発電所はまだ少ないのが現状である。海洋エネルギープラントは設置場所の条件に応じてカスタマイズする必要があり、このようなエンジニアリング分野では実際の導入経験が重要な競争要素となり得る。そのため、先行者利益が重要である。エンジニアリング技術が中心となるためにASEAN諸国でも十分に可能性はある。確立されたREの導入を進めるのと同時に、戦略的に手の届きそうな新技術開発に対する政策も視野に入れるべきである。

(ほりい のぶひろ/九州大学准教授、なべしま かおる/新領域研究センター上席主任調査研究員)



本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。