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東アジア地域包括的経済連携の必要性

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.27

2013年9月13日
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日中韓自由貿易協定(日中韓FTA)、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に代表されるように、日本および東アジア諸国において、FTAに対する関心がかつてないほどまでに高まっている。物品規定に絞って見ると、FTAはメンバー間の関税率を大きく削減する効果を持つ。実際、世界で発効しているFTAの特恵税率を調べてみると、平均的に、GATT24 条に基づくFTAはパートナー間の関税率を2.5%、授権条項に基づくFTAは3.2%低下させており、WTO 加盟(2.7%)と同規模の関税削減効果を有している。




東アジアFTAにおける相違性
東アジアでは、2000年以降、FTAの締結、発効が加速しており、既に30 ほどのFTAが発効している。そして、FTA間もしくは国家間で様々な違いが見られる。第一に、各FTAの発効時期や関税削減スケジュールが異なるため、各年の特恵税率はFTAごと、国ごとに異なる。第二に、最終的に無税になる品目数も異なり、例えば、関税ライン・ベースでみると、ASEAN・インドFTAの自由化率は他のASEAN+1FTAに比べ著しく低い。第三に、各国の自由化品目の選択の仕方にも違いが見られる。例えば、カンボジアやベトナムは自国が競争力を有する品目を中心に自由化しているのに対し、インドネシアは最恵国税率(MFN 税率)の低い品目から順に自由化しているように見える。


FTA利用による恩恵
FTAによる特恵税率を利用する際には、まず輸出者が原産地証明書を入手する必要があり、そのために様々な書類(総部品表、製造工程フロー図、生産指図書、製品在庫記録、帳簿、伝票、インボイス、契約書、請求書、支払記録書など)を準備する必要がある。そして商工会議所等、自国の原産地証明書発給機関から証明を受けた後、それを輸入者に送り、輸入者は通関時に当局に当該証明書を提出することで、特恵税率が利用できるようになる。

このような一連の流れのなかで、FTA利用企業は様々な形で恩恵を受ける。第一に、明らかに、輸入者はより低い関税率、もしくは無税で商品を輸入できるようになる。第二に、輸出者は、上記のような原産地証明取得手続きの対価として、より高い価格で商品を販売できるか、より多くの量を販売できることが多い。例えば、北米自由貿易協定(NAFTA)を対象とした研究は、FTAの利用により、輸出価格が関税マージン(FTA税率と一般税率の差)の7割程度分、上昇していることを発見している。また、在ASEAN日系現地法人は、FTAを利用することで輸出額を平均的に3%程度増加させている。このように、FTAの利用は輸入者、輸出者の両者にとって利益をもたらす。


中小企業支援
しかしながら、必ずしもFTA税率が十分に利用されているとは言えない。韓国のASEAN各国からの輸入時における、ASEAN・韓国FTAの利用率(2011年実績)を調べると、国によって100%の利用率となっている産業もあれば、0%の産業もある。また国レベルで見ると、ミャンマーは96%、ベトナムは78%と高いが、フィリピンは42%、タイは35%と低い。このように、国によって、品目・産業によって、はたまた企業によって、FTAの利用頻度は大きく異なる。

一般に、三つの効果が企業のFTA利用に影響を与える。関税マージンが大きいほど(関税マージン効果)、輸出する量そのものが大きいほど(規模効果)、原産地規則を満たしやすいほど(原産地規則順守効果)、FTAが利用される。韓国のASEANからの輸入時におけるFTA利用率を分析すると、規模効果が原産地規則順守効果や関税マージン効果よりも、量的に大きな影響力を有していることが分かった。したがって、規模効果を刺激することが最も効果的なFTA利用促進政策と言える。そのために、FTA交渉時に自国が国際競争力を有する品目の関税撤廃を積極的に要求すること、中小企業に対する支援、国際ビジネスマッチング・セミナーの開催等による取引相手の拡大を行っていくことなどが重要となる。

中小企業支援では、輸入ではなく、輸出においてFTA利用経験のない中小企業をサポートすることが重要となる。先に述べたように、FTAを利用するに際して、多くの事務作業は輸出側で発生する。実際、在ASEANの日系現地法人では、企業規模と輸入時のFTA利用に統計的な関係がない一方、1%の企業規模の違いが輸出時におけるFTA利用確率に10%程度の違いを生む。輸出確率自身には7%程度しか影響を与えないため、一般税率であれFTA税率であれ、輸出を開始すること以上に、FTA利用開始には企業規模による違いが発生している。しかし、一度輸出時にFTAの利用を開始した企業は、それによりFTAについて多くのことを学び、経験し、そしてまた企業内にFTAを所管する担当課などを設置するかもしれない。これは、その他のFTA税率を利用する際に有益であり、実際、過去にFTAを輸出時に利用した経験のある企業は、その他の国に輸出する際にFTAを利用する確率は42%大きくなる。


東アジア地域包括的経済連携
東アジア域内では、既に多くのFTAが発効している。このようなFTAの乱立状態は、以下のような問題を引き起こす。第一に、企業格差がますます拡大する点である。上述したとおり、大企業ほど輸出を行い、その中でさらに大企業がFTAを利用する。そして、一度FTAを利用した大企業は、その他の国に対するFTA利用も容易となり、ますます多くのFTAを利用することになる。FTAの利用は輸出規模を拡大させるため、大企業はさらなる大企業へと成長していくことになる。

第二に、いわゆるスパゲティ・ボウル現象が発生する。この現象には様々な定義(そして誤解)がなされているが、日系現地法人のFTA利用行動を分析すると、多くのFTAを同時に利用するため、すなわち様々な原産地規則を同時に満たすため、現地調達分を引き上げている。もともと最適調達の結果として現地調達率が高い企業は別とすると、このような現地調達率の上昇は、最適調達からの乖離を生じさせ、FTAの便益を一部相殺するであろう。

以上の問題を解決するうえで有効なのが、RCEPなど、累積規定を含んだ、地域大のFTAの締結である。地域大のFTAが締結されれば、当該FTA内では原産地規則が共通化され、輸出先に応じて原産地規則について悩む必要もなくなる。さらに地域大の累積規定があれば、無理に現地調達分を積み増す必要もなくなる。総じて、原産地規則順守効果による負の影響を縮小することができ、中小企業にとってもFTAを利用しやすい環境となるであろう。実際、ASEAN+1のFTAにおける累積規定でさえ、関税等価率で3%程度の追加的貿易創出効果が観察されるため、地域大のFTAにおける累積規定はさらなる効果をもたらすはずである。


《付記》本稿はBRC Report No.12をもとに、アジ研ポリシー・ブリーフ No.1、及び盤谷日本人商工会議所 所報 No.604 における拙稿を大幅に加筆・修正したものである。本稿に引用されている数字も、より正確な推定値である。


(はやかわ かずのぶ/ JETRO バンコク事務所)



本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。