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国際経済への統合深化に向けたミャンマーの課題

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.25

山田康博・久保 公二
2013年9月13日
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国内外で高まる改革への期待
2011年3月に樹立したテインセイン大統領率いる新政権の下で、ミャンマーの経済発展への期待が高まっている。2010年11月に総選挙が行われて形式的には民主化が進み、さらに新政権が民主化運動指導者アウンサンスーチー女史との和解を図ったことで、それまでの軍政に対して経済制裁を課していた欧米諸国との関係が改善し、ミャンマーの国際経済への統合に向けての障害が取り除かれつつある。




ミャンマーにとって、アジアの近隣諸国の成長経験から学ぶことは多い。タイやベトナムといった近隣諸国の成長経験の背景には、いくつかの共通点がある。ひとつはマクロ経済の安定化をとおした、人的・物的資本の蓄積に適合する経済環境の整備であり、もうひとつは貿易開放度を高めて外国投資を受け入れて国際経済への統合を深めることである。

マクロ経済の安定化に関しては、ミャンマーの新政権は際立った改革を実施してきた。2012年4月には、30年来の固定為替制度が廃止され、管理フロート制への移行がなされた。また、輸出獲得外貨でしか輸入を認めないという「輸出第一政策」が同月に廃止され、2013年中にIMF協定第8 条を満たして「8 条国」のステータスを確保することを目標に、残る経常勘定取引規制も緩和が図られている。財政面でも、それまで財政に統合されてきた国営企業の財政からの分離が進められ、財政法案も国会で審議されるようになり、財政の健全化に向けた動きが顕著である。さらに、財政赤字の貨幣化を防ぎ、より機動的な金融政策を可能にするため、中央銀行が財政歳入省から2013年4月に分離される見込みである。これらの改革によって、ミャンマーのマクロ経済環境は大幅な改善に向かっている。

もうひとつ国際経済への統合に向けた改革はどうだろうか。特に注目されるのが、外国投資の受け入れであり、そのカギとなるのが、投資環境の改善である。投資環境がいかに整備されつつあるのかについては、日本をはじめとする諸外国からも高い関心が集まっている。投資環境の整備に向けて、改正外国投資法およびその細則が2012年11月と2013年1月に公布され、経済特別区法の審議が続いている。投資環境の変化という観点から、ミャンマーの現状を整理し、今後を展望しよう。


経済特別区(SEZ)は投資環境整備の切り札になるのか?
ミャンマーが外国投資を呼び込むにあたって、まず課題として浮かび上がるのが未整備なインフラストラクチャーである。長らく続いた経済の低迷のため、ミャンマーのインフラは、ないものづくしである。ここには、安定した電力の供給、上下水道、港湾・道路網、通信網の整備といったハード面のインフラと、投資の許認可制度などのソフト面のインフラが含まれる。

外国投資の受け入れにあたってのこうしたボトルネックの解消の切り札としてミャンマー新政権が考えているのが、経済特別区(Special Economic Zone: SEZ)の整備である。これは、限られた資源を集中的に配分することで、ハード面でのインフラのボトルネックの解消を図る戦略である。また、ミャンマーでは他の途上国と同様に、外国企業が脆弱な国内企業の成長の芽を摘んでしまわないかといった不信感があるなかで、インセンティブ・スキームを経済特区内に限定することは、国内政治的にも合意が得られやすい。

しかしミャンマー新政権は、経済特別区に資源を集中的に投下する戦略にまい進しているわけではない。新政権は、公正な所得分配と高成長との両立を掲げ、地域間の均衡ある発展を志向している。こうした志向が、経済特別区の乱立につながり、地域間の均衡ある発展が具体的な政策を伴わないスローガンとなってしまう懸念がある。実際、ミャンマーでは、経済的合理性を十分に考慮せずに全国18地域に工業特区(Industrial Zone)が設立され、そのほとんどが休眠化しているという実情がある。

また、経済特別区でのソフト面でのインフラの整備にも懸念材料がある。現在、2011年1月に制定された経済特区法の改正が進められているが、経済特区法の運用が政府当局の裁量を認める場合、手続きの遅延や、汚職の温床になって投資環境整備を阻むことも懸念される。現に2012年11月に制定された外国投資法と、2013年1月に制定された細則も、当局の裁量の余地を大きく残している。新しい外国投資管理は、ミャンマー投資委員会(MIC)でのワン・ストップ・サービスを目指した野心的な制度であるが、分野によってはミャンマー企業との合弁(42分野)や特定の条件を満たすこと(27分野)を外国企業に課しており、その審査にはMIC の裁量が残る。経済特区法には、より高い透明性が求められる。


外国企業との接触をとおしての制度構築に期待
ただし、外国投資をめぐる制度で、外国企業に対してさまざまな条件や制約を課して、結果的に政府当局の裁量を残すのは、ミャンマーに限ったことではない。たとえばミャンマーの外国投資法で、ミャンマー企業との合弁を条件づけている分野の多くは、日用品・消費財であるが、こうした分野で自国企業を保護する制度は他の国でもしばしば用いられている。

経済特別区のスキームについて、ミャンマーにとって示唆的なのがベトナムの経験である。ベトナムの外国投資誘致のための特区制度は、1992年にホーチミン市の二つの輸出加工区(Export Processing Zone)から始まった。そのうちの一つタン・トゥアン輸出加工区は台湾企業とベトナム国営企業の合弁で管理会社が設立され、台湾側がインフラの整備を担った。より重要なのが、輸出加工区での外国企業の操業をとおして、外国投資を管理する制度の問題点が明らかになったことである。この経験が、後に輸出加工区・工業特区の管轄の一元化と地方政府への権限移譲をはじめとする、ソフト面のインフラ整備につながっていった。

ミャンマーの経済特別区法について、多くの外国企業が投資にコミットできる環境を準備するために、踏み込んだ内容になることが期待される。外国投資を受け入れ、そこで発生する問題を克服していくことこそが、これまでミャンマーに欠けていたソフト面のインフラ整備と、将来の国際経済への統合深化につながってゆく。


《付記》本稿はBRC Report No.10をもとに、書き下ろしている。

(やまだ やすひろ・くぼ こうじ/ JETRO バンコク事務所バンコク研究センター[BRC])



本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。