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広東経済の高度化へ向けた政策課題-日本の経験から-

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.21

丸屋 豊二郎
2013年9月13日
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目覚しい経済成長を遂げた広東経済も、リーマン・ショックを契機にかつての勢いを失っている。労働集約的な輸出主導工業化に暗雲が立ちこめただけでなく、電子・通信や電機・機械など広東のリーディング産業にも伸び悩みが見られる。広東経済は、言わば「中進国の罠」に直面しており、産業の高度化(高付加価値化)が喫緊の課題となっている。

アジア経済研究所は、ジェトロが広東省政府と締結した覚書に基づき、広東省政府と共同で広東省の産業高度化に関する研究を実施した。本稿は2012年度の成果である「広東経済の高度化へ向けた政策課題」(産業編)の概要をまとめたものである。




自動車産業高度化に向けた目標と課題
広東省の自動車産業が高度化へ向けて中期的に目指すものは、中国で唯一の日系完成車、部品メーカーの集積地である。そのため、市場動向を反映した産業発展戦略の適宜な軌道修正と、既進出企業とのコミュニケーション強化による問題点の定期的把握、迅速な対応がとられる体制の整備が必要である。

具体的に取り組むべき課題は、第一に、自動車の「安全」など根幹に係わる高品質部品・部材の生産および供給基地化。第二に、上記高品質部品・部材の現地化を促すため、政府主導のもとでの多様な素材の調達が可能となる市場の整備。第三に、汎用品を含めた部品・部材での日系企業と中国系部品メーカーとのアライアンスの深化。第四に、市場に合わせた自主ブランド車・関連製品の生産を促すため、市場情報を生産現場にフィードバックできるようなインフラの整備。第五に、生産面での「すり合わせ技術」や、調達・販売に精通した人材の育成。最後に、市場環境の速い変化や各企業の事業計画、戦略に基づいた政府の「攻め」の政策導入と支援が求められる。


電機・電子産業の高度化へ向けた課題
電機・電子産業の高度化への課題は、第一にキーデバイス関連企業の集積促進とサプライチェーンの強靭化である。そのためには、中国企業と外資系企業の協業を推進することで共同研究開発など企業間連携や取引を促すことが重要である。特に新技術の共同開発では、中国企業と外資系企業との中長期的な取引関係の構築が欠かせない。発注者の受注者側に対する不当な条件の強要を防止する法整備も必要である。また企業が技術革新や新しいノウハウの導入に踏み切るため、知的財産権の保護強化と濫用防止といった措置が必須となる。

第二に、生産現場の高度化に欠かせない経験豊富な熟練工の定着など、企業人材の高度化のため政府の積極的かつ柔軟な対応が求められている。
第三に、企業と行政の健全な関係の確立が求められる。来料加工1廠の独資化以後も徴収されている「総合管理費」は不当徴収の性格が強く、撤廃すべきである。また税務当局、環境局など行政機関による過剰な査察、関税や税金に係わる制度や解釈の不統一、恣意的な運用を改め、透明性を高めることが肝要である。


ローカル電子・家電産業の高度化へ向けた課題
広東省のローカル電子・家電産業は、不特定多数の企業間で網状の取引構造をもつバリューチェーンが形成され、広東省の電子・家電産業の発展を支えてきたが、高度化に向けて取り組むべき課題も多い。

第一に、下請け中小企業の保護である。地方政府は一般的な中小企業支援を進めているが、下請け関係の合理化、健全化を目的とする対策は少ない。電子・家電産業のさらなる展開を図るためにも、日本の経験が参考になろう。

第二に、電子・家電産業のアセンブラーは部品メーカーへのアクセスが容易で、複数のコア部品を共有することも可能なため、同質化競争に陥りやすい。この問題解決のため、一部の中小企業は研究開発強化でコア技術を掌握し、ニッチ市場の開拓に活用している。しかし、中小企業は研究開発資源が不足しているため、政府は資金面だけでなく、外部研究機関との連携など積極的な支援措置が必要である。


卸売・物流・小売業の政策課題と提言
広東省の流通業の高度化および豊かな消費生活を実現するため、現在の「売ることができる商品を売る」から「売れる商品を売る」への市場構造転換が求められている。このために取り組むべき主要な課題は次のとおりである。

まず、卸売業によるリテールサポートビジネスの小売業への導入である。これにより、売り上げの増加だけでなく、急速なニーズ変化に応える商品ラインナップが達成できる。またメーカーの商品力も育成され、連鎖的効果が得られる。

第二に、法規制遵守の徹底強化として、代金回収を厳格に遵守する制度構築および小売業に対する各種費用の徴収にかかる既存規則の運用厳格化が求められる。また、過積載輸送が品質に悪影響を与えるケースも見られ、厳格な遵守を徹底する必要がある。

第三に、コールドチェーンの普及のためには、「見えない価値」に対する消費者理解が必要である。そのため、政府主導による啓蒙活動や認証制度構築が必須である。


コンテンツ産業の育成と日本企業との協業
中国のコンテンツ産業は、中央政府の振興政策のもと、国産保護のための政策が推進されている。しかし、消費者が求める高品質なコンテンツが多く生み出される状況には至ってない。

映画やドラマ、アニメなどのエンタテイメントコンテンツの制作では、製作技術やコアとなる企画能力など、海外のコンテンツ制作会社とのビジネス交流が最小限に留められているだけでなく、国内の製作者も自由な環境でコンテンツを制作できる状況にない。他方、流通面では、従来のテレビメディアに加え、インターネットやモバイルメディアの台頭により、巨大な流通機構が生まれている。

コンテンツは産業であり文化でもある。中国政府の方針を全面的に方向転換することは難しい。そこで、広東省に「コンテンツ産業特区」を作ることを提案したい。広東省は、テンセント社を筆頭とする巨大なデジタルコンテンツの配信・流通機構を擁しており、コンテンツ産業の物販化、キャラクターグッズ販売のための製造業種も中国随一の規模を誇る。特区内で実証的に開放し、日本(外国)企業とのコラボレーションを積極的に推し進めれば、中国コンテンツ産業の「質」は大きく向上するであろう。



脚 注                    
1. 広東省で多く見られた法人格のない加工廠による無償委託加工取引。広東省政府より2012年末を期限とした来料加工廠の独資による法人化が義務付けられた。



(まるや とよじろう/福井県立大学教授)



本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。