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アジア太平洋地域における自由貿易圏の実現に向けての進捗

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.19

石戸 光・鍋嶋 郁
2013年9月13日
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アジア太平洋地域における自由貿易圏の実現に向けては環太平洋パートナーシップ協定(Trans-Pacifi c Partnership: TPP)の拡大や東アジア包括的経済連携(Regional Comprehensive Economic Partnership:RCEP)の実現・拡大が有望な道筋と見られている。2012年度にはこれらの取り組みにおいて様々な進展があった。また、インキュベーター的な役割を担うアジア太平洋経済協力(Asia Pacifi c Economic Cooperation: APEC)においても更なる貿易自由化への前進があった。今後の課題としては、物品貿易のみならず、サービス貿易の自由化も図らないといけないであろう。




TPP
日本は2013年3月15日に正式にTPP交渉参加の表明をした。2011年11月以来交渉参加の協議を行っており、既に6カ国からの承認は得られているが、アメリカ、オーストラリアとニュージーランドからの承認を得ないといけない状況であり、日本の参加は早くても6月以降になるであろうとの見通しである。TPP拡大交渉は既に16回行われており、交渉済みとなっている項目もある。これらは再交渉はされないとの認識である。そのためTPPの交渉が妥結前に日本が交渉に早急に参加し、ルール作りに積極的に参加する必要がある。現在の予定では2013年内にTPP交渉の妥結を目指すとしている。


APEC
TPPやFTAAPのインキュベーター的な存在であるAPECにおいても今後の貿易自由化に対して進展があった。環境物品・サービス(EGS)の自由化である。地球温暖化対策や持続可能な成長促進の一部として重要視されていたが、WTOのドーハ開発ラウンドでは議論が進展していなかった。そのなかで、APECは54 品目の自由化に対する合意がなされた。今後は2015年までに関税率を5%以下にするほか、現地調達率等を含む非関税障壁の撤廃を謳うものである。以前にもWTOの情報技術協定(ITA)についてAPECが先駆者的な役割を果たしたのに鑑みると、今回のAPEC での成果はWTOにおけるEGSの自由化に対しても大きく前進させる可能性があるといえる。


FTAAPに向けたサービス貿易自由化の政策課題
(1)アジア太平洋自由貿易圏の「インフラ」としてのサービス貿易自由化
GATSによるサービス貿易自由化交渉が機能していない現在、TPPやRCEPによる広域の経済統合プロセスにおいてサービス貿易自由化を一元的に進めていく必要がある。特に物流や金融などサービス産業には、「雇用の重要性」に加え、製造業を含めた他産業を支える「インフラとしての重要性」がある。

しかし、アジア太平洋地域においては、統一的なサービス貿易自由化の政策努力は未だ存在しない。RCEPの中心としてのASEAN(東南アジア諸国連合)では、域内のサービス貿易自由化を含めたASEAN経済共同体(ASEAN Economic Community: AEC)を2015年に実現するべく、ASEAN サービス枠組協定(ASEAN Framework Agreement on Services:AFAS)が1995年に締結されている。この協定はASEAN 内のサービス貿易を段階的に自由化するのと同時に、複数存在しているASEAN+n型の協定の一元化を意味するRCEPのまさに核となりうる既存の枠組みである。

(2)低いサービス貿易自由化の度合い
AFASおよびASEAN+n型のサービス貿易の自由化は約束表(Commitment Tables)をもとにして行われており、その書式はWTOのGATS 約束表をそのまま踏襲したものである。GATS型の約束表では、個別のサービス分野ごとに(1)完全自由化、(2)部分的自由化、(3)自由化の約束をせず、という3 つの自由化約束状況を記載している。それらに1点、0.5点、0点と点数をつけ、単純平均することで自由化度とする「ホクマン指数」(Hoekman Index)を算出することができる。ホクマン指数では、「完全自由化」は1点、自由化約束が全くない場合には0点となる。

APECメンバーのサービス自由化の度合いをホクマン指数で見ると、平均は0.21と1を大きく下回っている。分野ごとにばらつきがあり、例えば観光関連サービスや実務サービスでは多くのAPEC メンバーの自由化度は高く、健康関連サービスおよび運送サービスでは多くのAPECメンバーにおいて自由化度は低くなっている。したがって今後FTAAPを形成するために一元的に開放すべきサービス分野に関しても自由化の度合いに共通性があり、協調的なサービス貿易自由化の議論がAPECにおいて必要である。

表1にはAFASの第5パッケージ、第8パッケージおよびASEAN+n型のFTAにおけるサービス自由化度のホクマン指数を示す。平均でみてAFASの第8パッケージ自由化度は、最も高い。ただし0.5を下回っているため、「約束せず」の分野が優勢であることが分かる。自由化度が最も低いのはASEAN・中国FTAとASEAN・韓国FTA である。これらの協定を比較すると、やはりASEAN 内のみの枠組みであるAFASが最も自由化を進行させており、RCEPの中核としてAFASを注視しておくべきであろう。

(3)FTAAPに向けたサービス貿易自由化の提言
サービス貿易の自由化度をアジア太平洋諸国・地域で一元化するためには、以下の点を提言したい。

① FTAAP への道筋としてのAFASおよびASEAN+n型のFTAのなかでは、AFAS(第8パッケージ)の自由化度が相対的には最も高い。しかしさらに向上させる余地があり、今後はAFASにおけるサービス貿易の自由化度をさらに高め、RCEPを実現すべきである。
② FTAAP へと至る道筋としてのTPPでは、サービス自由化はネガティブリスト方式であり、公表されていないものの、自由化度は高いことが想定される。したがってRCEPの取り組みは TPPを意識した形で「競争的」に行われる必要がある。
③サービス貿易自由化により、製造業を含めた他産業の振興のための「サービス・インフラ」が整う点を重視した政策取り組みが重要である。TPPでは、サービス分野の自由化を目指す協調的な取り組みが情報として得られていない。
④そこでFTAAPのインキュベーターとしてのAPECは、GATS 約束表をベースとしながらも、サービス貿易の自由化推進とそれに伴う国内の構造改革に関する独自のプロジェクトをTPPの下支えとして立ち上げるべきである。

(いしど ひかり/千葉大学教授、なべしま かおる/新領域研究センター上席主任調査研究員)




表1 AFAS(第5パッケージ、第8パッケージ)およびASEAN+n型協定におけるサービス自由化度(ホクマン指数) アジア・太平洋諸国
  AFAS第5パッケージ
(2006年)
AFAS第8パッケージ
(2012年)
ASEAN・中国FTA ASEAN・韓国FTA ASEAN・豪・ニュージーランドFTA 平均
全体
平均
0.27 0.42  0.20 0.20 0.23 0.26
(出所)各FTA のサービス貿易約束表をもとに計算。


本報告は以降の項目も含めて2013年3月時点での情報をもとに執筆されている。


本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。