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ASEAN諸国のグリーングロースに向けて

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.17

堀井 伸浩
2012年10月26日
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はじめに
近年、世界的に再生可能エネルギーの導入が急拡大している。もちろん全体に占める比率から言えば、依然わずかな割合に過ぎず、2010年時点で世界全体の狭義の意味での再生可能エネルギーの消費量は1.3%に止まる(広義の再生可能エネルギーとして水力、原子力を算入すると13.0%となる)。しかし近年の成長は目覚ましい。例えば、太陽光発電の設備導入量は2000年から2010年にかけて世界全体で年平均39.2%で成長、風力も同様に26.9%と非常に高い成長を継続してきた。特に2008年以降、従来再生可能エネルギーの導入を牽引してきた欧米諸国の経済が変調をきたし、再生可能エネルギーへの投資を急減させる中、中国・インドを中心とするアジア地域が存在感を増している。注目すべきは、中国・インドでは再生可能エネルギーが新たな成長産業として経済成長の一翼を担っていることである。

本稿では、再生可能エネルギーの導入を通じてエネルギー安全保障、環境改善とともに新しい産業振興による経済成長、あるいは地方の自立的成長をASEAN諸国で実現する方策を中国・インドの事例を通じて考える。




1. ASEAN諸国の再生可能エネルギー導入目標
ASEANでは2007年時点で、一次エネルギーに化石燃料以外のエネルギーが占める比率が27.6%と比較的高くなっているが、そのほとんどが薪などの木材系バイオマスである。1995年と比較すると石油が減少する一方(43.6%→ 36.2%)、石炭と天然ガスが大幅に比率を上昇させ(石炭4.6%→14.8%、天然ガス16.4%→21.4%)、他方で水力、地熱、そしてバイオマスなどのその他エネルギーの占める比率はむしろ減少している(35.4%→27.6%)。すなわち域内の石油産出量が減少する中、石油からのエネルギー転換が進んだものの、その代替を担ったのは主に同じ化石燃料であり、むしろ経済発展に伴って非商業用エネルギーである伝統的バイオマスの消費量は減少の趨勢にあると言える。

再生可能エネルギーの導入状況について知るために電源別の発電量構成を見ると、2007年は水力が12.4%、地熱が3.0%、そして風力や太陽光が含まれるその他が0.7%である。1990年の状況を確認すると、水力18.4%、地熱4.5%、その他1.2%であり、この間経済成長とともにエネルギー需要が大幅に増加(年率7.9%)した結果、むしろ化石燃料への依存度が高まる結果となっている。

エネルギー構造の化石燃料への傾倒は環境面、そしてエネルギー安全保障面でASEAN諸国にとって今後制約要因となると予想される。省エネルギーが進む想定の将来見通しにおいてさえ、2030年まで年率10.4%でエネルギー消費は増加し、2007年の3.6倍に達すると見込まれる。地球温暖化への対応は今後途上国に対しても求められる可能性は高く、それ以前に石油のみならず、石炭や天然ガスも域内の産出量の伸びは鈍化していくことが予想されている。

こうした点から、ASEAN諸国は2030年にはこれまでゼロであった原子力の比率を6.4%、水力を16.3%、その他を6.1%に引き上げることが予測される(他方、地熱はむしろ2.7%に比率は低下する)。この予測の背景には、各国がそれぞれ再生可能エネルギーの野心的な導入目標を掲げていることがある。特に注目されるものをいくつか挙げれば、(1)インドネシアが2025年に地熱を5%、バイオ燃料を5%に引き上げ、(2)マレーシアが1,340MWのバイオマス、854MWの太陽光を2030年までに導入、(3)フィリピンが新規に1,500MWの地熱、2,100MWの水力、950MWの風力を導入、(4)シンガポールが太陽光の発電設備比率を5%に引き上げ、(5)タイが合計で6,329MWの再生可能エネルギーを導入、(6)ベトナムが2030年までに2,100MWの風力、2,400MWの小水力を導入といった状況である。

2. 中国・インドのグリーングロース
以上のように今後大きな進展が見込まれるASEAN諸国における再生可能エネルギーであるが、先行する中国やインドと比較すると明白な違いがある。それは導入される再生可能エネルギー技術の担い手が、中国やインドでは国内メーカーが主であるのに対し、ASEAN諸国では海外メーカーの設備の導入にもっぱら依存している点である。

例えば中国では風力発電は2005年から2010年にかけて年率104.1%と毎年ほぼ倍増の勢いで成長したが、成長の原動力となったのは国内メーカーの成長であった。2005年の国内メーカーのシェアは44.2%であったが、2010年には82.5%にまで上昇した。太陽光も2007年頃より国内メーカーがパネル生産量を急激に増大させ、2010年には約11GWと世界の45%前後を占めるようになったとされる。

こうした結果、中国やインドでは再生可能エネルギー企業が急激に成長し、世界のトップランキングに顔を出すようになっている。風力ではトップ15社のうち中国メーカーは7社、インドも1社がランクインしている。太陽光でも世界上位5社のうち4社が中国メーカーという状況である。

他方、ASEAN諸国の状況を見ると、例えばインドネシアは地熱発電の導入が相当に進んでいるが、その設備は多くが輸入された海外メーカーの設備であり、またタイで建設が進む世界最大級の太陽光発電所のソーラーパネルも日本のシャープ製である。

自国企業の成長は経済と環境の両立、エネルギー安全保障など大きなメリットがある。更に中国メーカーの製品は価格を大幅に低下させることに成功しており、価格低下が海外メーカーと比べた中国メーカーの競争優位の源泉であると同時に、割高な再生可能エネルギーの導入コストを抑制する面でもメリットがあることは注目に値する。

3. ASEAN諸国のグリーングロースに向けて
中国・インドの国内メーカーの成長要因については特に、(1)規模の経済性を始めとする競争力の源泉、(2)技術的キャッチアップの経路、(3)政府の産業政策を通じた支援の効果が注目に値する。より具体的には、(1)国内の市場規模、(2)中国メーカー同士および海外メーカーとの競争条件、(3)知的所有権戦略と海外技術の移転状況、(4)企業インセンティブと政府の産業政策との関わり、(5)人的資本、企業家精神の形成といった点が検討の対象となる。

中国の風力と太陽光について比較すると、両者の発展段階には若干の違いがある。風力はもっぱら国内市場に依拠し、巨大な国内市場が国内メーカーの育成に大きな役割を果たしたが、太陽光は世界市場への輸出が中心である。技術導入も風力は様々な形で政府の産業政策を通じた支援があったが、太陽光は産業政策の影響が非常に少ない状況であった(但し近年の欧州市場の急激な縮小で、第12次五カ年計画では中国国内市場の育成に向けた産業政策、企業支援が実施される見込みである)。両者の違いを生み出している要因は何か、またその違いがどのような発展の違いを生むのかが今後の検討課題となろう。

現段階ではまだ仮説的ではあるが、ASEAN諸国への政策提言として、(1)域内全体として統合された市場を実現(市場規模を確保)するための制度・政策のすり合わせ、(2) ASEAN全体で一体化した技術開発・導入スキームの検討、(3)再生可能エネルギーへの投資リスクを軽減するための諸政策(特に化石燃料への補助金の削減)などが考えられる。

(ほりい のぶひろ/九州大学大学院経済学研究院准教授)



本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。