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アジア主要国のビジネス環境比較

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.11

ジェトロ・アジア大洋州課海外調査部
2012年8月31日
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自らの経営判断による海外進出へ
景気の低迷による日本国内市場の縮小に加え、円高の進行、エネルギー制約などの要因が重なり合い、アジア市場へ生き残りの活路を求める中小企業の進出が加速している点が、近年の日本企業の海外投資の特徴である。親会社や取引先への依存による進出形態ではなく、自らの経営判断で、新たな販路、新たなビジネス領域を開拓するための海外進出である。

ある中小自動車部品メーカーによれば、「近年は、日本国内で受ける発注も、日本のみならずアジア各国の顧客の拠点に納入するグローバル見積もりの提出が求められるケースが増加している。」という。中国やインドネシアへの拠点設立によって、これらの発注にもある程度対応できる体制が整う。加えて、日本を除く第3 国間発注を取れるチャンスも拡大し、難易度の高い仕事は日本に還元できる可能性もある。また、海外では系列を離れた取引先の開拓や、国内では相手にされない日系大手セットメーカーへの営業も可能である。さらに、海外進出によって受注領域を拡大し、試作や技術支援などの工程を本社に還元しているケースもある。近年、中国へ進出を果たした中小治工具メーカーは、「海外進出に伴い、国内での試作工程に加え、ニーズに対応できていなかった現地での量産化が可能になった。結果として、試作+量産+据付け+仕様変更を一括で受注できる体制が整い、受注が拡大。試作加工は本社で対応。ロイヤリティや配当を通じて本社へ利益を還元することも可能」と話す。


海外進出の形態が、取引先への追随やコスト削減要請ではなく、新規市場や新規ビジネス領域開拓という、より主体的な目的に切り替わっている中では、当然のことながら、自社の経営判断、自社の責任により進出先を決定し、現地のビジネス環境に対応して行く必要がある。なかでも、生き残りを賭けて海外展開を図る日本の中小企業にとっては、予見されるリスクをいかに事前に把握し、その段階で必要な準備・対策をどれだけ講じられるかが投資プロジェクトの成否、ひいては会社の存続を左右するといっても過言ではない。

国・地域によって異なるビジネス環境上の問題点
しかしながらアジアの投資・ビジネス環境は大きな変化の最中にあり、また同じアジアという地域の中でも、各国の経済発展のレベルや産業構造、外資政策、外資の参入状況などが大きく異なる。そのため、現地で日系企業が直面する投資・ビジネス環境上の問題もその段階に応じてさまざまである。

このような問題意識のもと、ASEAN主要国(シンガポールは除く)にインド、中国を加えた7カ国について、各国・地域のビジネス環境上の特徴を外資規制、インセンティブ、税務手続き、電力・インフラなど主要項目ごとに横並びでの比較を行った。

まず、外資規制・規則を見ると、各国とも製造業に関しては一部の例外業種を除き、100%出資可能かつ認可不要が原則となっている。他方、サービス業については小売業や金融業などをはじめ自由化されていない業種が目立つ。また出資比率規制に加え、国内法・ガイドラインによりライセンスやビジネス範囲への制限を課すケースも散見されるため、実際のケースを踏まえた事前調査が必要である。

進出に伴う用地取得は、原則として認められない国が大半である。マレーシアやタイにおいては政府認可ベースで工業用地の取得が可能だが、土地が政府の管理下にある中国やベトナム、インドネシア等では使用権などを得て操業せざるを得ないのが実態である。

税金・税制では、上記各国の法人税の実効税率にそれほど大きな開きはない。ただし、企業誘致を目的とする優遇税制の適用要件や対象期間が大きく異なる。このため、例えば、優遇税制の適用範囲の大きいタイやマレーシアでは、進出日系企業が実際に支払う法人税は、上記実効税率よりも大幅に低く抑えられていることが多い。これに対し、インドや中国では法人税そのものの優遇は少なく、税率どおりの負担となるケースが大半である。ベトナムやインドネシアなどでも優遇措置の適用範囲がタイやマレーシアと比較して限定的である。

また、税務手続きでは特にベトナムで、費用の損金算入要件が厳しく、また政府の発行する公式領収書が求められる。また、インドネシアをはじめ多くの国で税法の不透明な運用や税務官による恣意的で不公正な課税等が問題になっている。

労働市場については、高インフレなどを背景とした労働賃金上昇が、各国・地域に進出する多くの日系企業にとって最も深刻な問題として認識されている。コスト増とあわせ、生産拡大に労働力供給そのものが追いつかない国も出てくるなど、かつての「安価な労働力が豊富なアジア」のイメージは一変している。とりわけ中国やベトナムにおける労働力の逼迫と労務コストの上昇が深刻である。

資金調達制度に関しては、進出日系企業は、外貨を親子ローンにて、現地通貨を邦銀現地支店から調達するのが主流である。ただし、親子ローンについては原則として、所定の報告義務が必要であること、またインドのように金利上限や使途の制限が設けられている場合があるため、注意が必要である。配当やロイヤリティ送金上の規制は緩和の方向にあり、現状では、各国とも自由に送金できるのが実態である。ただし送金時にエビデンスとして必要となる書類の要件が各国によって異なる。


図表アジア各国のビジネス環境比較(項目別のポイント)
  タイ マレーシア インドネシア フィリピン ベトナム インド 中国(広州)
外資規制・規則 製造業は100%出資可能だが、サービス業は原則49%まで 製造業は自動車分野を除き自由。小売業、金融・保険業に出資規制あり 製造業は原則100%出資可能。サービス業の多くは出資規制・ガイドラインあり 製造業は一部を除き100%出資可能。建設業や金融・保険業に出資規制あり 製造業は原則外資100%出資可能。サービス業は国内法による規則に従う   製造業は原則自由だが、小売、不動産への出資は原則禁止。金融・保険も規制あり 製造業は一部の禁止業種を除き自由。運輸業は49%まで。国内法による規則に従う
用地取得 タイ人資本50%以上の企業、BOIや工業団地公社の認定を受けた場合は可能 外国人の土地・不動産取得は政府認可により可能。投資額により認可不要 外国人の土地所有は不可。外国企業は使用権などを得て、工業団地等で操業 フィリピン人が60%以上の資本を有する株式会社であれば認められる 土地は政府管理下にあり外国企業の所有は認められていない。使用権のみ 民間企業による土地の直接取得は困難。州政府転売・リースを受けるのが一般的 土地は政府管理下にあり外国企業の所有は認められていない。使用権のみ
税制・税務手続き 法人税率は23%と低く、優遇税制も充実。多くの企業で実負担は軽減。 法人税25%、個人所得税は最高26%で手続き簡素化が進展。優遇税制も充実。 法人税は25%。優遇税制の適用条件が厳しく、活用企業は少ない。 法人税率は30%だが、優遇税制が充実。多くの企業で実負担は軽減。 法人税は25%だが、費用の損金参入条件が厳しい。優遇税制は充実。 法人税は32%超、優遇税制は原則無し。税務手続きが極めて煩雑で負担大。 法人税率は25 %。優遇税制は年々縮小し、適用企業は限定的。  
労働市場・賃金 製造業分野の労働力逼迫が深刻。外国人労働者に対する規制も強化。 外国人労働者への規制強化でワーカー不足が深刻化。賃金上昇は緩やか。 労働力は安価で豊富だが、労働法の未整備と恣意的運用に問題。 ワーカーは豊富で賃金上昇率は低い。労働者派遣業に規制(原則不可) ワーカー不足に加え、高い離職率。高インフレに伴う急速な賃金上昇が問題 ワーカーは豊富。高度人材は不足で、離職率も高い。毎年2ケタの賃金上昇率 労働契約法施行で権利意識が向上。労働者不足と賃金上昇が顕著
資金調達制度 親子ローン、国内での外貨/自国通貨建て借入とも自由 親子ローン、国内での外貨/自国通貨建て借入とも自由 親子ローン、国内での外貨/自国通貨建て借入とも自由 外貨調達は自由だが、返済・金利のペソ返済は要登録。 親子ローンは自由、国内での外貨借入には制限。 親子ローンでの運転資金借入は不可。 親子ローンは外為管理局での外債登記が必要。
決済・代金回収 小切手決済が主流。不渡りへの罰則規定がなく、先日付小切手の取扱いに注意。 送金、小切手に加え、手形も流通。電子決済のインフラも整備 小切手が一般的だが、遠隔地取引では、資金化までの所要日数に注意。 小切手決済が主流。不渡りへの罰則規定がなく、先日付小切手の取扱いに注意。 政府は国内取引のドン決済徹底を強化。ドン急落による為替リスク大。   小切手が主流だが送金も増加。代金回収 トラブルが訴訟に発展する例が多い   小切手、送金ほか国内L/C手形も流通。小切手は同一交換所の管轄域内で通用。
電力・インフラ 産業用電力は安定。工業団地インフラも充実。スムーズな操業が可能。 電力は非常に安定的。工業団地や物流面でのインフラも整備が進展。 電力料金は安価。国内物流インフラに課題。 日系企業が進出しているところに限れば電力供給は安定的。   安定的な電力供給に課題。将来の電力不足リスク大。電力料は安価 電力は極めて不安定。企業は自家発電対応。物流や工業団地インフラも脆弱 電力不足が徐々に深刻化。事前通告による計画停電も増加。
出所:各国政府ウエブサイト、現地調査をもとにジェトロ作成。

本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。