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日中韓共同研究

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.7

田中 清泰橋口 善浩・鍋嶋 郁
2012年8月31日
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近年、技術革新が経済成長の主たる推進力になったことにより、多くの国が成長戦略の一環として技術革新能力の養成に傾注するようになった。国の技術革新力を強化するために、国家政府は、教育への公的資金の投入、研究への補助金支給、技術革新の制度面での保護などに取り組んできた。しかし、グローバル化の進展により技術革新を生み出すプロセスが従来と変わりつつあり、今日では技術革新活動はより開かれたものになってきている。その結果、組織を越えた協働によって知識と技術革新のネットワーク形成の重要性が強調されるようになった。

本共同研究では、1966 年から2009 年の日米の特許データを使って、日中韓の知識ネットワークの発展プロセスを分析した(より詳しい分析結果は『アジ研ワールド・トレンド』2011年7・8月号「トレンド・リポート」を参照)。分析では、認可された特許の技術分類を手がかりに技術特化のパターンを明らかにした。はじめに、1970年代に日本の居住者に与えられた特許を見ると、日本の強みは電子部品や半導体、次いで測量機器、光学部品やカメラ部品にあった。1980年代は1970年代とあまり変化しておらず、電子部品、半導体、測量、光学、撮影技術が最も活発な特許分野であった。1990年代と2000年代にかけて同様な技術特化パターンが見られた。

次に、中国の居住者に与えられた特許の技術特化パターンを分析すると、1970年代には特許庁が中国居住者に対して与えた特許はゼロであった。これが1980年代に移ると、「健康・娯楽」と「時計、制御、コンピューター」という技術分類において中国居住者が特許を取得するようになる。この時期、これらの分野で最も特許の申請が盛んであった。1990年代の技術特化は「分離、混合技術」に移り、生産の加工技術に係わってきている。2000年代にはいると、「電子回路、情報伝達」の分野が活発化している。

最後に、韓国居住者の技術特化を見てみると、1970年代は「照明、蒸気発電、暖房」および「有機化学、殺虫剤」の領域で群を抜いていた。1980年代には「電子部品、半導体」の分野が主導的な技術分野となり,これについで「ディスプレイ、情報記憶装置、器械」、「電子回路、情報伝達技術」の分野が続く。韓国では電子、情報伝達、そして情報技術の分野において急速な産業発展が進んだことがわかる。この傾向は1990年代でも見られた。2000年代にはいると、「電子部品、半導体」の首位は不変であるものの、2位以下が「電子回路、情報伝達技術」そして「測量、光学、撮影」、「ディスプレイ、情報記憶装置、器械」という順番になった。

上記の分析から、中国、日本、そして韓国の技術特化のパターンは近年ますます類似してきていることが分かる。つまり、日本の技術的特化は1970年代から2000年代にいたるまでほとんど変化していないが、韓国の特化の分野は1980年代から劇的に変化して、日本の技術特化のパターンを投影したものとなってきた。また韓国の技術進化と同様に、中国も技術能力の変容を経験し、電子回路と情報伝達技術へと徐々に収斂しつつある。現時点で、日本はこの地域における先導的な技術の供給者であり、それに韓国、中国の順で後を追われている。しかし、中韓の技術開発は急速に進んでいる。中国は技術能力の点では初期段階であるが、驚くべきペースで日韓を追い上げている。

日中韓で技術特化のパターンが類似化する傾向は、日中韓の企業間における技術開発競争の激化だけを意味するわけではない。日中韓の企業の技術レベルが近づいてきたことで、先端的な技術開発を共同で開発する土壌が日中韓で整ってきているとも言える。日中韓が各国内で閉じた技術革新を推進するよりも、日中韓の技術革新ネットワークを向上させることで各国の技術革新の速度を上げて、経済成長の促進へつなげていくべきであろう。

企業のグローバル競争という視点から見ても、日中韓の企業が好ましい技術開発競争を行い、必要な分野において共同技術開発を進めることは望ましいと言える。なぜなら、日中韓の各国内でしか互換性のない新製品や技術は、日中韓の各市場内で成功したとしても、非関税障壁として、三国間の経済統合を妨げる。さらには、それらの製品や技術が国際標準規格にならない限り、欧州や米国などの世界市場で成功することは難しい。WTOのTBT協定によって、国際標準規格と整合性のない製品規格を採用する経済では、一国でしか通用しない技術的標準や規格は技術的障壁と見なされる危険性もある。

日中韓の経済統合を進め、さらに世界市場における競争力を確保するには、三カ国が協調して新しい製品や技術に関する規制・規格を作成し、さらにはその国際標準化を推し進める必要がある。その際、既存の技術や規格に対して日中韓の協力を進めることは、特定の国の利益に偏った政策協調となるため、地域協力の観点から望ましくない。そのため、三カ国は新興産業を中心に協力を進めるべきであろう。

政策提言
上記の分析を踏まえて本共同研究会では以下の提言を行った。
  1. 日中韓における産業協力の優先分野
    今後ますます重要になると思われる気候変動や高齢化社会の問題、科学技術のさらなる飛躍に応じるために、日中韓は新興産業分野で三国間協力の可能性を模索するべきである。たとえば、代替エネルギー、環境保護、新素材開発、バイオテクノロジー、次世代型情報技術、先進的な製造機器、新世代の自動車、知識サービスなど、日中韓の関心が一致する新興分野が望ましい。
  2. 新興分野の標準規格と規制の共同作成
    日中韓で規制や標準規格を一致させることが望ましいが、これまでの経験によれば、既存のルールや規格についてそれを行うことはきわめて困難である。しかし、そうしたルールが十分に整備されていない上述の新興分野ならば、日中韓共通の規制・規格を共同で構築できる可能性がある。また、共同で採択した規制・規格が国際標準になるように、日中韓は協力するべきである。
  3. 標準規格と規制の共同作成に対する支援策
    規格や規制の日中韓統一を目的とした既存のメカニズムは、新興分野における規格・規制の日中韓共同作成という部分に焦点を絞るべきである。また、そうした共同作成を促すには、オープン・イノベーションを前提にした共同事業で生じうるリスクを軽減する必要があり、そのためにも知的財産権は日中韓で一様に守られるべきである。

参考文献
鍋嶋郁・田中清泰「日本の特許データから読む中国、日本、韓国の技術特化」(『アジ研ワールド・トレンド』2011年7月号)
http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Periodicals/W_trend/201107.html

鍋嶋郁・田中清泰「中国、日本、韓国の技術革新ネットワーク——特許引用パターンを中心に」(『アジ研ワールド・トレンド』2011年8月号)
http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Periodicals/W_trend/201108.html

(くろいわ いくお・はしぐち よしひろ/開発研究センター、なべしま かおる・たなか きよやす/新領域研究センター)

本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。