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日中韓FTAの影響分析 —韓米FTA水準の譲許を仮定して—

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.4

奥田 聡
2012年8月31日
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FTA拡充に動く北東アジア
世界大の貿易自由化における最適解の導出を目指したWTOが頓挫するなか、世界各国はそれに代わる自由貿易ネットワークを自前で構築すべくFTA(自由貿易協定)拡充を競っている。

北東アジアに位置する日中韓の3国では、貿易立国を標榜する韓国が韓米FTAを妥結させるなど目立った動きを見せていたが、経済規模の大きい日中両国の動きは鈍かった。それでも2010年に入ると日中でのFTA拡充に向けた動きが活発化してきた。

日本では長引く経済の停滞を背景に改革に機運が生じ、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加に向けた準備が2010年秋以降進められている。中国では中国ASEAN FTAに基づき、ASEAN 先行6カ国との間で関税が2010年初から原則撤廃となった。同年6月には台湾との間のFTAである両岸経済協力枠組協議(ECFA)が締結され、一部品目での関税減免(アーリーハーベスト)が2011年初から実施されている。韓国では2011年7 月に韓EU FTAが発効し、2012年3月15日には妥結後約5年を経て韓米FTAが発効した。


難航した北東アジア域内FTAと最近の変化
北東アジア3国はFTAの積極推進にひとまず舵を切った形であるが、域内貿易依存度が年々高まってきたにもかかわらず、域内でのFTA、とくに二国間FTAは遅々として進まなかった。

日中、韓中FTAについては、日本と韓国が自国の農業や軽工業などの脆弱部門への影響を恐れたほか、対米同盟への配慮から長らく慎重な態度に終始した。日韓EPA は韓国側が対日赤字の増大を懸念したほか交渉過程での日本の農産品開放幅が小さいとして2004年秋以来交渉が中断している。

だが、日本のTPP参加の動きや韓米FTA発効など最近のできごとと朝鮮半島をめぐる情勢の流動化は、北東アジアにおける二国間FTA停滞という構図に一定の変化をもたらしている。日本のTPPへの取り組みと韓米FTA発効により、両国は中国へアプローチしやすくなった。また、北朝鮮による局地的軍事挑発や権力継承などで朝鮮半島情勢が流動化する中、中国の北朝鮮に対する影響力行使への期待が高まっていた。これと関連し、韓中FTAの正式交渉が間もなく開始されることが伝えられている。

粛々と進められてきた日中韓FTA
対立が先鋭化しやすい二国間FTAに代わり、サイドラインとして粛々と進められてきたのが日中韓FTAである。二国間FTAは域内国際情勢の変化で動きが停滞する可能性もあるが、日中韓FTAはそのような影響を受けにくいというメリットを有する。

これまで日中韓FTAは、長い準備期間を経てきた。2003年から2009年まで民間共同研究が実施され、2010年5月からは産官学共同研究が行われたが2011年12月に終了した。これを受け、2012年中にも正式交渉入りする可能性が高まっている。

日中韓FTAの意義は経済規模の大きい北東アジア3国をカバーすることだけではなく、より広域の貿易自由化、すなわちASEAN+3、ASEAN+6、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)などを実現するための重要な里程標としての役割も兼ね備えている。

日中韓FTAの影響推計
  1. 主要仮定
    日中韓3国の間で貿易を自由化した場合、各国の利害得失はどのようになるのであろうか。最新の貿易統計に基づいて推計してみることにする。

    現在のところ、日中韓FTAの内容については具体的な議論がない。そこで、日中韓3国での関税譲許を韓米FTAの韓国市場における1年目の引き下げ率とした(完成車を開放猶予する2010年修正協定ではなく、即時開放する原協定に準拠)。これによると発効後3年以内の関税撤廃品目は全体の94%に上る。価格変化への反応度合いを示す代替弾力性はGTAP2005年版の数値を各国共通として準用し、輸入統計は各国とも2010年の詳細品目別数値(HS8~10桁レベル)を用意した。韓国については輸出品に対する関税払い戻しを勘案し、その対象となる輸入額については推計対象から除外した。これらに基づき推計した結果は下の表に示す通りである。さらに詳細な推計結果についてはアジア経済研究所ウェブページ(http://www.ide.go.jp)を参照されたい。

日中韓FTAの影響総括 (単位:100万ドル)
輸出国 輸入市場 輸出純増
日本市場 中国市場 韓国市場
日本 -10,363 61,281 8,384 59,302
中国 11,940 -48,336 11,124 -25,272
韓国 1,046 31,095 -13,209 18,932
(第三国) -2,623 -44,040 -6,299 -52,962
(出所)筆者計算。

  1. 最大のメリットを得る日本
    最も大きなメリットを得るのが日本で、輸出純増額は593億ドルに上る。これが実現すると、日本のGDP を約1.1%押し上げる計算となる。そのほとんどを中国市場から得ており、中国への輸出増は613億ドルに上る。国内市場への影響は104億ドルであるが、このうちほとんどが中国からの衣類等の輸入で占められる。
  2. 輸入純増となる中国
    一方、中国は日韓両国への輸出増を実現するものの、本国市場での輸入の大幅増加を埋め合わせられないものと推計された。中国の輸入純増はGDP の約0.4%に相当する253億ドルに上る。対日輸出増の大部分は衣類など繊維製品が占めるが、対韓輸出増は繊維のほか化学、鉄鋼、電機なども目立ち、最近の韓中間の比較優位変化を色濃く映す。
  3. 韓国はひとまず輸出純増を確保
    韓国は189 億ドルの輸出純増を得ると推計された。これにより韓国のGDP は約1.9%押し上げられ、国内経済へのインパクトの観点からは韓国の得るメリットは小さくない。ただし、メリットの大部分は中国市場から得られるもの(311億ドル)であり、対日輸出純増は10億ドルに過ぎない。また、対中輸出増も日 本の約半分で、韓国の対中輸出との対比では相対的に少ないメリットしか得ていない。
  4. 第三国は対中輸出を大きく減らす
    欧米や台湾など第三国は530億ドルの輸出純減となる。その大部分が中国市場で発生(440億ドル)し、次いで韓国市場(63億ドル)で発生する。

多めに見積もった推計値であることに留意
上で見た推計を解釈するに当たっては、多めに見積もった推計値であることに留意する必要がある。代替弾力性は市場・輸入先ごとに見れば実際には非弾力的と考えられる場合も多い。韓国の対日輸入はそうしたケースとも考えられる。また、FTA利用率は平均で約85%程度と仮定(中国市場)したが、最近発効した韓EU FTAの利用率62%(対EU 輸出)であることからして、かなり高めの仮定と言える。
(おくだ さとる/地域研究センター動向分析研究グループ長/本稿は平成23年度政策提言研究の成果の一部である)

本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。