文字サイズ

標準
国・テーマ インデックス
レポート・出版物

タイにおける学位論文の電子公開——タマサート大学の事例を中心に——

海外研究員レポート

バンコク

小林磨理恵

2017年3月発行

PDF (436KB)

1.はじめに

大学等研究機関における研究成果のオープンアクセス化がグローバルな規模で推進される現在、タイでも同様に、研究成果を電子化し公表する積極的な動きがみられる。近年では、大学に提出された学位論文の電子化公開も徐々に進展している。

日本では文部科学省の学位規則の一部改正により、2013年4月以降に提出された博士論文はインターネットを利用して公表されることが義務化された。日本は原則として全ての博士論文をオープンアクセスの対象としたが、タイでは学位論文の公表について国レベルでの統一的な規程は存在しない。学位論文をどのように公表するかは各大学の方針に委ねられ、取り組みの状況は様々である。主要な国立大学の一つであるタマサート大学では、同大学図書館が提供するオンラインデータベース(TU E-theses)を介して、学位論文全文の電子版を制限なく公開している。一方、他の主要大学の状況をみると、チュラーロンコン大学では、大学外のインターネット環境から電子版にアクセスする場合には、利用登録を条件としている。またチェンマイ大学やマヒドン大学では、電子版へのアクセスを大学内に限定している。タイ国内での学位論文の公表形態を大別すると、(1)電子版のオープンアクセス化、(2)電子版の限定的な公開、(3)大学図書館における製本版の公開に分けられるが、現時点でタマサート大学のように学位論文をオープンアクセス化している事例は数少ないとみてよい。

本稿では、タマサート大学における学位論文の提出形態の変遷、オンラインデータベースによる学位論文の電子公開とその検索方法について報告する1。なお、ここでの「学位論文」は、博士論文と修士論文を指し、学部の卒業論文を含まない。

2.学位論文の提出形態の変遷

2010年以前のタマサート大学では、一本の学位論文につき製本7冊の提出を義務化していた。提出された学位論文は、タープラチャンキャンパス、ランシットキャンパスの各中央図書館や、学部図書室、「ブックバンク」と呼ばれる保存書庫などに収蔵された他、タイ国立図書館に納本された。タープラチャンキャンパスの中央図書館(プリーディー・パノムヨン図書館)では、地下3階の開架式書架にハードカバー製本の学位論文が収蔵されている。同大学図書館司書によれば、「学位論文に係るタマサート大学学則」の2010年改正により、製本の提出が7冊から4冊に変更されて以降、国立図書館には納本していない。国立図書館では学位論文コレクションを所蔵しているが、学位論文の納本は義務ではないとのことだ。

学位論文の提出方法が大きく変更されたのは、2015年のことである。同学則の2015年改訂版2は、学位論文の提出について、その全文の電子ファイルをオンライン上の学位論文管理システム(以下、オンラインシステム)を通じて提出するものと規定した。同改正では、同時に製本2冊の提出も義務づけており、タマサート大学図書館では引き続き製本を収蔵した。しかし、同学則は2016年に再び改正され、2016年1学期(2016年8~12月)以降は製本の提出を完全に廃止し、電子ファイルの提出に一本化することが規定された。同改正以降は、同図書館は学位論文の製本版を収蔵せず、オンライン上で電子版のみを公開している。学位論文の提出形態に係る学則改正の変遷は、表1を参照されたい。

表1 学位論文の提出形態に係る学則改正(「学位論文に係るタマサート大学学則1992年」)

改訂版 施行年 改正事項
2006年版(第2版) 2006年度~ 製本7冊、CD-ROM 3枚、要旨3部を学部に提出
2010年版(第3版) 2010年度~ 製本4冊、CD-ROM 1枚、要旨1部を学部に提出
2015年版 2014年度2学期~ 全文の電子ファイルをオンラインシステムを通じて提出、製本2冊を学部に提出
2016年版 2016年度1学期~ 全文の電子ファイルをオンラインシステムを通じて提出
(出所)「学位論文に係るタマサート大学学則」各年版3を基に筆者作成。
3.学位論文電子版の公開

オンラインシステムを通じて提出された学位論文には、まずシステム上で剽窃チェックがなされる。その後の審査で合格と認められた学位論文は、タマサート大学図書館の電子資料担当の司書によりメタデータが付与された後、学位論文データベース(以下、TU E-Theses)に登録される。電子版のメタデータ作成と並行して、目録担当の司書が製本版の学位論文の書誌データを作成し、オンライン所蔵目録(以下、OPAC)に登録する。

同図書館の電子資料担当部門は、電子ファイルで提出された学位論文のTU E-Thesesへの登録作業と同時に、電子ファイルが存在しない製本版の学位論文を電子化する作業も行っている。同図書館司書によれば、学位論文の著作権はタマサート大学に帰属することから4、著者から電子版の公開の許諾を得る必要はないとのことだ。2017年2月現在、TU E-Thesesには1953年から2015年までの学位論文の電子版が登録されているが、これらは提出された全学位論文を網羅しておらず、特に出版年が古い学位論文については多くが未登録である。電子化作業の進展とともに、徐々に充実したコレクションが形成されることを期待したい。

懸念されるのは、電子版の学位論文がTU E-Theses上で公開されるまでに時間がかかっている点である。電子ファイルが存在する学位論文の製本版の標題紙には、電子版にリンクするためのQRコードが印刷されているが、QRコードを読み込んでもリンクされないことがある。これは、製本版の公開が電子版の公開よりも迅速であることを意味する。TU E-ThesesとOPACの登録状況をそれぞれみると、2017年2月現在、TU E-thesesで電子公開された学位論文の出版最新年が2015年である一方、OPACに登録されている(つまり、図書館が製本版を所蔵している)学位論文の出版最新年は2016年であり、やはり製本版の公開の方が速いことを示している。先述のとおり、学則の改正により、2016年8月以降に提出された学位論文には製本版が存在しない。したがって、同学則改正が、実質的に学位論文公開の遅延に作用する可能性があり、今後図書館の課題となろうことが予想される。

4.タマサート大学の学位論文の検索方法

タマサート大学の学位論文を検索する窓口は3つある。1つ目はEBSCOディスカバリーサービス(One Search)、2つ目はOPAC、3つ目はTU E-thesesである。各データベースが持つ特性を踏まえ、上手く使い分ける必要がある。以下にその方法を紹介したい。

  1. EBSCOディスカバリーサービス(One Search)
    タマサート大学図書館が提供する学位論文の形態には、製本版と電子版の両方、製本版のみ、電子版のみの3パターンが想定されるが、閲覧したい学位論文の形態がどれに該当するかは検索してみないと分からない。あらかじめ閲覧する学位論文のタイトルを特定している場合は、EBSCOディスカバリーサービス(One Search)を利用して検索するとよいだろう。ディスカバリーサービスとは、複数のデータベースの情報を一括検索できる仕組みである。OPACとTU E-thesesも同サービスの検索対象に含まれているので、製本版と電子版の学位論文を同時に検索することができる。一方、タイトル等の情報が特定されていない場合には、同サービスは適さない。数多くのデータベースを検索対象としているため、タマサート大学の学位論文以外の資料が多数ヒットしてしまうためである5
    [アクセス] http://library.tu.ac.th/index.html
  2. OPAC
    OPACは同図書館が所蔵する学位論文製本版の情報を網羅し、その電子版の有無についての情報を含まない。同図書館が所蔵する全ての学位論文が検索対象となるため、タマサート大学以外の大学に提出された学位論文でも、同図書館に所蔵されていればヒットする。あらかじめタイトルを特定せず、キーワード等を用いて関心のある分野の学位論文を網羅的に探すときに適している。
    まず検索窓にキーワード等を入力し、CollectionのうちThesesにチェックを入れて検索実行する。検索結果の一覧から、閲覧したい学位論文のリンクをクリックすると、書誌と所蔵の詳細情報が表示される。電子版の有無を確認する場合には、そのタイトルをコピー&ペーストし、TU E-thesesで再度検索する必要がある。2016年8月以降に提出された学位論文には製本版がないため、それらをOPACで検索してもヒットしない点に注意を要する。
    [アクセス] http://koha.library.tu.ac.th/cgi-bin/koha/opac-search.pl
  3. TU E-theses
    TU E-theses は、OPACでヒットした学位論文の電子版の有無を確認する場合や、電子版が公開されているタマサート大学の学位論文のみを検索対象とする場合に利用するとよい。また、2016年8月以降に提出された学位論文はTU E-thesesでの電子公開のみであるため、該当の学位論文を閲覧する際には、必ず同データベースを用いて検索する。
    キーワードやタイトルなどを検索窓に入力して検索実行すると、検索結果が表示されるので、閲覧したい学位論文を選択する。注意を要するのは、全文ファイルのダウンロード方法である。画面右側にサムネイルが表示される場合は、それをクリックすると全文ファイルをダウンロードできるが、これは比較的新しくアップロードされた学位論文に限られる。多くの場合は、メタデータのうち、Identifier (Full Text)のURLから全文ファイルを入手できる。ただし、ブラウザにGoogle ChromeやMozilla Firefoxを使用する場合、URLの最後のスラッシュ以降の文字列を削除してURLを開く必要がある。詳しくは、タマサート大学図書館の提供する手引き6を参照されたい。
    なお、TU E-thesesは、同図書館が提供する電子コレクション(電子化された貴重図書や洪水被害の記録資料などを含む)の一つとして位置づけられており、所属研究者の研究成果を集積し、発信する「機関リポジトリ」の一部ではない。
    [アクセス] http://beyond.library.tu.ac.th/cdm/search/collection/thesis
5.おわりに

タマサート大学の学位論文は、製本版、電子版ともに、世界最大のオンライン総合目録であるWorldCat(OCLC)でも検索できる。同大学図書館は、こうした国際規模のデータベースに参加することで、研究成果の発信を強化している。一方、タイ国内の大学図書館のオンライン総合目録であるThaiLISへの登録は、メタデータの件名付与に対応できないため、停止状態にあるという7。ThaiLISは日本のCiNii に相当し、タイ国内の学位論文を横断的に検索する際に非常に有用なツールである(全文ファイルの閲覧には登録を要する)。ThaiLISがタイの学術情報発信の基盤であることは間違いなく、主要な大学の学位論文が網羅されない現状には改善の余地があるといえる。大学図書館間の一層の連携により、ThaiLISに学位論文を含むタイ国内のあらゆる学術資料の書誌・所蔵情報を集積させていくことが望ましいだろう。

脚注


  1. 本稿の執筆にあたり、タマサート大学図書館司書の皆さんに情報を提供していただいた。ここに記して感謝の意を表したい。
  2. 2014年度2学期(2015年1~5月)以降に施行。
  3. 次の「学位論文に係るタマサート大学学則」を参照。なお、学則の全文は「タマサート大学学則データベース」(regu.tu.ac.th)にてダウンロード可能(2017年2月21日最終閲覧)。
    • ระเบียบมหาวิทยาลัยธรรมศาสตร์ว่าด้วยวิทยานิพนธ์ พ.ศ. 2535 พร้อมฉบับแก้ไขเพิ่มเติม ฉบับที 2 พ.ศ. 2549
    • ระเบียบมหาวิทยาลัยธรรมศาสตร์ว่าด้วยวิทยานิพนธ์ (ฉบับที 3) พ.ศ. 2553
    • ระเบียบมหาวิทยาลัยธรรมศาสตร์ว่าด้วยวิทยานิพนธ์ สารนิพนธ์ และการค้นคว้าอิสระ พ.ศ.๒๕๕๘
    • ระเบียบมหาวิทยาลัยธรรมศาสตร์ว่าด้วยวิทยานิพนธ์ สารนิพนธ์ และการค้นคว้าอิสระ พ.ศ.๒๕๕๙
  4. ข้อบังคับมหาวิทยาลัยธรรมศาสตร์ว่าด้วยการศึกษาระดับบัณฑิตศึกษา พ.ศ. ๒๕๕๓ แก้ไขเพิ่มเติมถึง ฉบับที่ ๙ พ.ศ. ๒๕๕๙(「大学院に係るタマサート大学学則2010年 改訂第9版、2016年」)
  5. キーワード等を入力して検索実行し、検索結果を表示させてから、画面左側に表示される絞込み機能を用いて「学位論文」だけに絞り込むこともできる(Source TypesのうちDissertations/Thesesをクリックする)。しかしこの方法をとると、他大学の学位論文はヒットするが、タマサート大学の学位論文はヒットしない。それは、タマサート大学の学位論文のメタデータのうちDocument Typeが、「Theses」ではなく、「Book」(製本版)、「Text」(電子版)に指定されていることによると考えられる。
  6. http://203.131.219.180/tulib2013/download/user_manul_guide5/userguide_for_eThesis.pdf
  7. ThaiLISに登録された資料のメタデータの件名は大学図書館によって異なり、タイ語件名(ThaSH)、米国議会図書館件名(LCSH)などが使用されている。タマサート大学図書館では、学位論文のメタデータにはキーワードを付与し、件名を付与していない。
本稿の内容及び意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。