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2016年米大統領選挙のアイデンティティ・ポリティクス

海外研究員レポート

ワシントンD.C.

2016年8月発行
PDF (438KB)
はじめに

米国では、両極端の二人が大統領選挙を争うことになった。一人はニューヨーク出身の元大統領夫人であり、上院議員と国務長官(2009–2013年)を務めた69歳のヒラリー・クリントンである。もう一人は、公職に就いたことのない同じくニューヨーク出身のビジネスマンで億万長者のドナルド・トランプだ。両者ともそれぞれ民主党と共和党の予備選挙で勝利し、党の指名を獲得したものの、最新のギャラップ世論調査によると、平均的なアメリカ人はどちらの候補に対しても好感を抱いていない。7月18–25日に実施された新しい調査によると、37%のアメリカ人が両候補に対して好意的な評価をしているのに対し、58%は好ましくないと評価している 1 。50%以下の否定的な評価のまま大統領選挙を戦った候補者はかつていない。トランプとクリントンは、その意味で記録破りの候補者と言えよう。

さらに、今回の選挙で特徴的なのは、重要な社会・経済的問題に焦点を当てた包括的な政策ではなく、アイデンティティ・ポリティクスが両候補の選挙キャンペーンを動かしていることだ。アイデンティティ・ポリティクスとは、共通するものを持った人々が共通の政治的目標に向かって結束することを意味する。イデオロギー、年齢、性別や地理など何でも共通のアイデンティティになり得る。民主党と共和党の大統領候補は両者ともアイデンティティ・ポリティクスを利用して、相手に対して優勢にキャンペーンを進めようとし、支持者を動員して投票に導こうとしているのだ。本報告では、両党の大統領候補者が選挙に勝利するためにターゲットにしている集団に焦点を当て、それぞれの戦略を考察する。

1. ドナルド・トランプ

共和党の大統領候補ドナルド・トランプは、経済的、人口的そして文化的に周縁化され既得権益を奪われたと感じる保守的なキリスト教、白人労働者層そして地方部の白人の支持を獲得しようとアピールしている。トランプの選挙キャンペーンは、ヒスパニック系や黒人などのマイノリティー集団に反発する人々からも共感を呼んでいる。世銀の主任エコノミスト、ブランコ・ミラノヴィックの調査によれば、アメリカの労働者層は、自由貿易とアウトソーシング(外部委託)によって実質賃金が下がり、世界で最も損失を受けたグループである 2 。2008年には住宅バブルがはじけ、主に低収入のコミュニティーに大損害をもたらした。プリンストン大学の経済学者アンガス・デートンとアンネ・ケースによる最近の調査では、他のすべての人種とエスニック・グループの死亡率が下がっているのに比べ、白人の中年層のアメリカ人、特に学歴が高校卒業以下の人々の間では死亡率が上がっている 3 。ゆえに、トランプのスローガン「アメリカを再び偉大にしよう(“Make America Great Again”)」は、白人キリスト教徒が中心の「問題のない社会」を享受できた忘れさられた黄金時代を取り戻そうと訴えているのだ。

トランプが問題視しているのは、削減されなければならない国際貿易であり、アメリカ人の仕事を奪うことで経済的損害をもたらし、アメリカ人の安全を脅かしている部外者、移民である。よって、トランプが移民や他のマイノリティー集団を大げさに攻撃する時は、実際には大統領選挙に勝利するための鍵と考える主な支持者層にアピールをしているのだ。American National Election Study(ANES)の2016年パイロット調査のデータ 4 は、白人の人種的アイデンティティと白人が不当な扱いを受けているという考えの両方が、共和党の予備選挙においてトランプを強力に支援する要素になったことを示している。

(1) ラテン系
トランプは、アメリカは国境をコントロールできれば強国と認識されると主張している。1,100万人を超える不法滞在移民を全員強制送還するというトランプの主張も、ナショナル・アイデンティティの問題として捉えることができる。移民への反感と国境の安全保障に対する不安を選挙キャンペーンの強力な動員のテーマにして、トランプはメキシコ移民を強姦犯呼ばわりするキャンペーンを始めた。トランプは2016年6月にトランプタワーで大統領選出馬を公式に表明した際、次のように述べている——「メキシコが送り込んでくる人々は、ベストな人々ではない。……彼らは麻薬や犯罪を持ち込む強姦魔だ。中には善良な人もいるかもしれないが」 5 。トランプは、トランプ大学の詐欺疑惑訴訟を担当する米連邦判事でさえも攻撃している。インタビューで、米連邦地裁のゴンザロ・クリエル判事は「メキシコ系」であり、ラテン系弁護士連合のメンバーであるため、この訴訟を担当するのに「絶対的利害関係の衝突」があると述べている。

トランプのこれらの発言は、明らかにアイデンティティ・ポリティクスにもとづいている。これらの発言によって、トランプは米国内のラテン系全体を自己防衛のために活発化させ、社会を分断し二極化することができるだけでなく、自分の支持者層に強い大統領候補者としてアピールすることができるのだ。ピュー・リサーチセンターの最新のデータによれば、今年多くのラテン系市民が選挙人登録を行っている。しかし、トランプのラテン系不法移民に対する発言に同意するラテン系コミュニティーもある。世論調査によれば、ラテン系の10%がトランプに好感を抱いている。これは、トランプがメキシコとの国境に壁を建設し、費用はメキシコの負担とすると提案したアメリカで最もラテン系の多い国境沿いの町で、予備選挙において多くの票を集めたことを説明する。トランプは予備選挙においてテキサス州で最も高く得票した。ラテン系住民が大多数を占めるテキサスのウェブ郡、隣接するザパタ郡、そしてさらに西のテレル郡とハズペス郡でも勝利したのだ。ピュー・リサーチセンターによれば、2016年の大統領選挙で投票権があるラテン系はこれまでの記録上最も多い2730万人にのぼり、そのうち半数が2000年以降に生まれた市民である。 6
(2) ムスリム
不法移民に対する攻撃とあわせ、トランプは支持者を獲得しようと反ムスリムのレトリックを選挙キャンペーンに利用している。ムスリムは米国の人口の1%程度でしかない。2015年12月のカリフォルニア・サンバーナディーノでの銃乱射事件の直後、トランプは「アメリカの代表者たちが状況を把握できるまで、ムスリムの米国への入国をすべて完全に閉ざす」と述べ、シリア難民を含む全ムスリムの入国を禁じる提案をした。トランプがこの発言で特定の宗教全体を標的にしたことも、アイデンティティ・ポリティクスのよい例である。イスラームは西欧と戦争状態にあるかとCNNのインタビューで問われた際、トランプは「イスラームはアメリカを嫌っている」と答え、「とてつもない憎悪がある。我々は問題の原因を突き止める必要がある」と強調した。トランプは、米国全土のムスリム登録のデータベース構築、モスクの閉鎖、ムスリムの米国市民へのさらなる監視の強化を支持すると表明している。トランプはまた、2001年9月11日にニューヨークのツインタワーが崩壊した際、ニューヨークとニュージャージーで数千人ものアラブ系アメリカ人が祝杯をあげるのを見たと述べている。

多くのトランプ支持者にとって、ムスリムに対する辛辣なレトリックは、トランプのアピールの鍵となっている。特に、キリスト教徒に脅威が迫っていると感じる福音主義の若者たちの間で、このレトリックは重要なアピールポイントだ。最も裕福で影響力の強い市民は依然としてほぼ皆白人である米国で、トランプは権限も特権も奪われたと感じる白人の当惑と怒りを声に出しているのである。人口構成の変化、15年にも及ぶ中東地域での戦争、そして「Black Life Matters」などの警察の暴力に怒る若い黒人の新しいアクティビズムに対する不安感が、白人の間の憤りを形作っていると考えられている。白人の憤りは、愛国心、プライド、恐れ、そして白人が中心にいない国はもはやアメリカではないという感情と入り交じっている。最近数カ月でテロに対する不安が高まる中、安全保障への懸念を和らげようとするトランプの試みは多くの共感を呼び、これが福音主義者の間で高い支持を獲得している理由だと考えられる。
(3) 女性
ギャラップの世論調査によれば、女性10人中7人がトランプに好感を持っていない 7 。これは何も驚くことではない。トランプは過去に女性を「太った豚」、「犬」、「汚らわしい動物」などと呼んできた歴史があり、妊娠中絶は禁じられ罰せられるべきだと表明している 8 。福音主義者の保守派の集会でトランプは、ヒラリー・クリントンは最高裁判所に「急進的な判事を任命する」と警鐘を鳴らした。これは、集会に参加した反妊娠中絶活動家の多くにとって最大の関心事の一つだった。また、トランプは影響力の強い宗教的保守派のグループFaith and Freedom Coalitionの会議で「ヒラリー・クリントンは妊娠中絶のための連邦予算を要求するだろう」と述べている。一方トランプは、妊娠中絶反対の判事を最高裁判所判事に任命することを確約している。

しかし、共和党員の世論調査は、トランプが共和党の男性と女性の両方から最も高い支持を獲得していることを示している。例えば、3月21日に行われたCNN/ORC世論調査は、トランプに共和党公認候補になってほしいと考える女性は44%に上ることを示している。不法移民の入国を防ぐための十分な対策を行っていない、共和党に投票した人々を代表していないなどといった共和党に対するトランプの批判は、労働者階級の白人男性だけでなく、草の根の保守的な女性活動家の共感も呼んでいるのである。さらに、経済政策において保守的な正説を控える意向を示していることも、トランプが共和党の女性の支持を得ていることを説明するかもしれない。トランプのスローガン“Make America Great Again”は、現状に憤っている白人男性だけでなく、アメリカが文化的にも経済的にももはや認識できない国になりつつあると感じる白人女性にも支持されているのだ。多くの共和党の女性たちは、アメリカ人に安全をもたらすことのできる候補者はトランプしかいないと信じており、そのため女性に対する軽蔑的な発言をあえて見過ごしているのだ。トランプの支持は共和党の男性からの支持が女性からの支持を上回るものの、共和党予備選挙で勝った州の多くで、トランプは相当数の女性票を獲得している。

トランプの選挙キャンペーンは、ラテン系、女性、若者、大学教育を受けた人々を疎外してきたように見える。しかし、トランプはヒラリー・クリントンと接戦を繰り広げている。これには、上述のグループが必ずしもヒラリー・クリントンを熱心に支持していないことも関係している。そして、大学教育を受けていない白人有権者でトランプを支持すると目される人々は、2012年の投票者のおよそ半数を占めるのだ。世論調査によれば、クリントンは上述のグループ、特に不利な立場にあると感じている労働者階級の白人男性からの支持において、非常に脆弱であることを示している。
2. ヒラリー・クリントン

民主党は、歴史的に抑圧されてきた人々や多数派でない人々の避難場所と思われるよう取り組んできた。主に女性や少数派など、本質的に不公平な場所に生きていると感じる人々に対し、希望を与えてきたのだ。民主党は、近年アフリカン、ヒスパニック、同性愛者、女性のコミュニティーを支援してきた。民主党の伝統的な支持者層は白人労働者階級であったが、共和党に支持基盤を奪われたように見える。2014年のギャラップ世論調査によれば、民主党支持を表明する人の割合は、1950年代以降、最も低くなっている 9 。民主党は急速なグローバル化に対し、産業コミュニティーを守ることに失敗したと非難を浴びているのだ。

(1) 女性
もちろん女性は、どの層もそうであるように一枚岩ではない。例えば、ヒラリー・クリントンは、民主党予備選挙において、18歳から29歳の若い女性の間の支持で、相次いでバーニー・サンダースに敗れている。しかし、異なるグループの女性に目を向けると、クリントンは明らかに優勢だ。選挙キャンペーンを通じてクリントンは「女性問題」を理解していると強調し、賃金格差や有給育児介護休暇、妊娠中絶など、米国で女性が直面する障壁を取り除くのは自分であると主張を続けている。米国初の女性大統領というアイディアは、人々に訴えかけるものがあり、クリントンは米国に女性大統領が誕生する時が来ていると強調しているのだ。クリントンの支持者で、ビル・クリントン政権時に国務長官を務めたマデレーン・オルブライトは、「助け合わない女性には特別な地獄が待っている」と述べている。これも女性ならヒラリー・クリントンを支持すべきとするアイデンティティ・ポリティクスの一例だ。クリントンにとって、女性は予備選挙で鍵を握っただけでなく、大統領選挙においても決定的である。クリントンはツイートで、大統領に就任したら、女性は妊娠中絶の権利を行使することで罰せられることはなくなると示唆し、女性にアピールしている。一方、トランプは、クリントンは女性であることしか強みにならない大統領候補だと述べ、一蹴した 10
(2) アフリカ系
ヒラリー・クリントンの第2の戦略は人種である。クリントンは、人種と公民権において、バーニー・サンダースよりも実績があると主張している。ヒラリー・クリントンはまた、初の「黒人大統領」と呼ばれた夫ビル・クリントンの業績を利用している。ビル・クリントンは南部のアーカンソー州の出身であり、クリントン夫妻は南部のアフリカ系アメリカ人に非常に高く支持されている。アフリカ系の間のクリントンのレガシーは、ヒラリー・クリントンの選挙キャンペーンの強みとなっている。ビル・クリントンは他のどの大統領よりも多くの黒人の判事を任命した。またクリントンは、元大統領の夫と多くの公民権活動家と共に働いてきた経歴をアピールし、黒人コミュニティーの擁護者を自認しており、同コミュニティーで知名度が高い。多くのアフリカ系アメリカ人、特に南部の州の人々は、民主党予備選挙でヒラリー・クリントンを継続して強く支持した。

ヒラリー・クリントンはサンダースよりも頻繁に人種差別と白人の既得権益について語り、黒人のチャンスを増やす必要性について訴えている。アフリカ系のクリントン支持を表す一例として、銃による暴力で息子を亡くした5人のアフリカ系の母親たちが、クリントンの南カロライナ州での予備選挙キャンペーンに参加したことがある。また、クリントンは南カロライナ州にあるアメリカで最も古い黒人女子学生クラブの一つを訪れ、緑とピンクをテーマカラーにする組織に敬意を払って緑の服を着て演説を行った。出口調査によれば、民主党の予備選挙で黒人女性の投票率の方が黒人男性の投票率よりもかなり高いことを示している。地域によってはその差は2倍にもなった。州によっては90%以上がクリントンに投票したように、黒人女性はバーニー・サンダースよりもはるかに高くヒラリー・クリントンを支持した。ニューヨークでは、79%の黒人票を獲得したと出口調査は示している。

オバマ効果もヒラリー・クリントンを助けることになった。オバマが大統領選挙に勝った時、90%以上のアフリカ系アメリカ人の票を獲得した。ヒラリー・クリントンはオバマ大統領の実績を評価し、彼の業績を擁護することでオバマの後継者であることを示そうとした。さらに、オバマの推薦を得ることで、オバマの政治的同盟者を味方につけ、またオバマの政策的立ち位置を引き継ぐことで黒人票を固め、民主党予備選挙に勝ったのである。つまりクリントンは、オバマの大統領選挙勝利を大いに助けた黒人の歴史的に高い投票率実現に導いた黒人コミュニティーのダイナミクスに頼っているといえよう。
(3) ラテン系
ラテン系の票は非常に重要だ。アメリカの総人口に占めるラテン系市民の割合の増加、コロラド、ネバダ、フロリダなどの勝敗を左右する接戦州におけるラテン系市民の多さからもその重要さが分かる。ラテン系投票者への注目度の高さと、選挙戦における影響力の強さもその重要性を説明する。さらに、トランプの反移民キャンペーンに半ば活気づけられた形で、ラテン系市民は記録的な人数が2016年大統領選挙の選挙人登録を行っている。推計では2730万人のラテン系市民が大統領選挙で投票できる見込みだ。2012年にはオバマはラテン系の票の75%を獲得している。しかし注目しなければならないのは、アメリカに5,500万人いるラテン系コミュニティーも一枚岩ではないということだ。他のマイノリティー集団と異なり、ラテン系は民主党と共和党の両方に潜在的にオープンであることで知られる。ラテン系市民はメキシコ出身者が多いが、プエルト・リコ、キューバ、ドミニカ、エルサルバドルなど出身国も多様である。そしてラテン系の投票者は、2008年と2012年にバラク・オバマを大統領に選出した際に決定的な役割を果たした。

ヒラリー・クリントンの選挙キャンペーンは、ラテン系市民の票を獲得するプログラムを強化している。ラテン系が多い激戦州だけでなく、ラテン系が住んでいるが選挙結果を直接左右しないだろうと思われている州や、アリゾナのように選挙結果に関わってくるであろうとモニタリングしている州でも、キャンペーン要員を雇い、プログラムの拡大に取り組んでいる。予備選挙でラテン系へのアウトリーチ・プログラムを作り上げたロレッラ・プラエリ(Lorella Praeli)は、数年前まで不法移民だった。彼女は予備選挙でラテン系の動員に成功し、今や本選挙キャンペーンのラテン系担当ディレクターを務めている。ラテン系支持者の前で演説をする際、クリントンは移民が払う精神的な犠牲を語り、移民政策の包括的改革が実施されるかどうかは、11月に自分かトランプのどちらが勝利するかで命運が決まると強調している。ラテン系の問題について言えば、クリントンは移民の権利の最も強力な擁護者を自認し、オバマよりもリベラルな移民政策を推進するとしている 11 。そして大統領に就任した暁には、移民に関する政府の政策を調整する移民問題担当オフィスを立ち上げる約束をしている。また、アメリカはラテン系移民の子供を強制送還しないと公言している。

民主党は、7月の民主党大会で少数の不法移民に公式な役割を担わせ、共和党トランプとの移民政策をめぐる政策の違いを際立たせようとした 12 。また、中年カトリックの白人男性ティム・ケインを副大統領候補に選んだ。スペイン語が流暢なケインは、選挙キャンペーンを展開するにあたり、ラテン系の票集めの強みとなるだろう。またケインは、クリントン政権は「最初の100日間で」移民政策の包括的改革に着手すると誓い、オバマ大統領の強制送還を保留するプランを拡大する約束を強調している。NBCニュース・ウォールストリートジャーナル・Telemundoの新しい調査によれば、クリントンはラテン系市民の支持率において、トランプに60ポイントもの差をつけている(クリントン76%に対し、トランプ14%)。しかし、ラテン系の投票率はこれまでも低くとどまる傾向があり、2012年には40%にしか届かなかった。つまり、クリントンはラテン系の投票率を上げるという課題に直面しているわけだ。

クリントンは、 女性に対し妊娠中絶、同性愛者に同性婚以上の権利、ラテン系には移民政策の改革、黒人には市民権というように、多様なグループに対し支援を確約している。このような多様なグループを連立させることは、強みにもなり、同時に課題にもなりうる。なぜならこれらのグループは、アメリカの喫緊の課題について異なる見解を持っており、人種的・エスニック的アイデンティティが地域特有の社会経済的問題を捉え、解決するために最も有効な見方となるという考えに異なる反応を示すためだ。
おわりに

アメリカの大統領選挙において、アイデンティティ・ポリティクスが重要な役割を果たしていることは明白だ。トランプはアイデンティティ・ポリティクスを使って社会を分断し、二極化させることで支持を獲得しようとしている。民主党も今まで掲げてきた経済政策アジェンダよりも、同性婚やフェミニズムといったアイデンティティ・ポリティクスを優先させている。民主党と共和党、共にアメリカ国民をグループと種族に分断する選挙戦略をとっているのである。アイデンティティに基づく選挙は、選挙キャンペーンの焦点を社会的・エスニック的アイデンティティに集中させている。このため、多くの投票者の関心が、新しい政権がどのような政策を作り、どの政策を変えるかということではなく、どのチームが勝つかということに集中しているのである。

(了)

脚 注


  1. Gallup, Jul 26, 2016. "For First Time, Trump's Image on Par With Clinton's"
    ( http://www.gallup.com/opinion/polling-matters/194000/first-time-trump-image-par-clinton.aspx )
    Milanovic, Branko "Global Income Inequality by the Numbers: In History and Now- An Overview"
    ( http://heymancenter.org/files/events/milanovic.pdf )
  2. The Washington Post, Jan 13, 2016.
    ( https://www.washingtonpost.com/news/wonk/wp/2016/01/13/this-may-be-the-most-important-chart-for-understanding-politics-today/?wpisrc=nl_wonk&wpmm=1 )
  3. The New York Times, Nov 2, 2015. "Death Rates Rising for Middle-Aged White Americans, Study finds"
    ( http://www.nytimes.com/2015/11/03/health/death-rates-rising-for-middle-aged-white-americans-study-finds.html?_r=0 )
  4. American National Election Studies, "ANES 2016 Pilot Study"
    ( http://www.electionstudies.org/studypages/anes_pilot_2016/anes_pilot_2016.htm )
  5. トランプの表明演説の全文は、Washington Postに掲載。
    ( https://www.washingtonpost.com/news/post-politics/wp/2015/06/16/full-text-donald-trump-announces-a-presidential-bid/ )
  6. Pew Research Center, Jan 19, 2016. "Millennials Make Up Almost Half of Latino Eligible Voters in 2016"
    ( http://www.pewhispanic.org/2016/01/19/millennials-make-up-almost-half-of-latino-eligible-voters-in-2016/ )
  7. Gallup, April 1, 2016. "Seven in 10 Women Have Unfavorable Opinion of Trump"
    ( http://www.gallup.com/poll/190403/seven-women-unfavorable-opinion-trump.aspx )
  8. The Telegraph, June 4, 2016.
    ( http://www.telegraph.co.uk/women/politics/donald-trump-sexism-tracker-every-offensive-comment-in-one-place/ )
  9. Gallup, Jan 7, 2015. "In U.S., New Record 43% Are Political Independents"
    ( http://www.gallup.com/poll/180440/new-record-political-independents.aspx )
  10. Boston Globe, Apr 29, 2016. "Many see a misdeal in 'woman's card' remark"
    ( http://www.bostonglobe.com/news/politics/2016/04/28/woman-card-creates-furious-debate/9J5aDdjQxmIrndFQ4IBdKI/story.html )
  11. The Washington Post, Jul 14, 2016. "Clinton tells LULAC: Future of immigration reform is dependent on her winning the White House"
    ( https://www.washingtonpost.com/news/post-politics/wp/2016/07/14/clinton-to-stress-commitment-to-deferring-deportations-in-speech-to-latino-group/ )
  12. The Washington Times, Jul 25, 2016. "Illegal immigrants take stage to address Democratic convention"
    ( http://www.washingtontimes.com/news/2016/jul/25/illegal-immigrants-address-democratic-convention/ )
本稿の内容及び意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。