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ベトナムのテレビ放送の変化

海外研究員レポート

ベトナム

2014年10月発行
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テレビは庶民の身近な娯楽である。ベトナムでも1日の内外の仕事を終えた後、テレビを楽しむ人が多い。総務省統計局ホームページ掲載の『世界の統計2014』によれば、2002年のベトナムのテレビ保有世帯率は52.7%であったのに対し、2011年には87.8%にまで上昇している。

ベトナムのメインニュース番組は、ベトナム国営テレビ(VTV)により毎日夜7時から40分超放送されるThời Sự 19giờ (19時の時事)である1。VTVはベトナムのテレビ放送の中心的役割を担う政府機関であり、その前身は1970年9月に創設された2。地方に行った際に土地の人に話をうかがっても、同番組を視聴しているという人は多い。天気予報を挟み、Thể thao 24/7(スポーツ24/7)というスポーツニュース番組がこの後放送されるため、この時間帯にこれらの番組を観れば、日本のNHKニュースウオッチ9を通して観るのと似たような形となる。

筆者が最初にベトナムに赴任した1999年~2001年時と本報告執筆時点を比較すると、Thời Sự19 giờは以下の点で変化している。
(1)当時メインキャスターを務めていたキャスターたちは、19時の時間帯から別の時間帯に移動するか、別の番組の司会を務めたりしている。
(2)キャスターの服装は、以前から女性キャスターはアオザイ、男性キャスターは背広とネクタイを着用している。その点は現在も変わらないが、女性キャスターのアオザイ、服飾品、男性キャスターのワイシャツ、ネクタイの色彩、デザインはより多様化し、鮮やかになった。また、キャスターの背景の画像は静止画像であったのが現在は動画になっている。
(3)メインキャスターは当時一人であったが、本報告執筆現在、二人となった。一人が国内ニュース、もう一人が国際ニュースを担当している。
(4)かつては北部発音のキャスターのみであったが、南部発音のキャスターが加わった。
(5)国際ニュースについては、かつて外国のテレビ局が放送したニュース画像をそのまま放送したりしていた。しかし、現在では連日、ベトナム人特派員が各国の状況を伝えている。VTVのホームページ(2014年9月24日アクセス)によれば、2012-13年だけでブリュッセル(欧州地域担当)、シンガポール(ASEAN地域担当)、日本、中国の4カ国に海外支局が開設され、アメリカ、ロシア、ラオス、カンボジアの支局と合わせて計8カ国に海外支局が設けられている。
(6)毎日ではないが、番組には「民が尋ね、大臣が返答する」という、担当キャスターの質問に政府閣僚が答えるコーナーが設けられ、国民の関心事項について担当大臣が直接説明を行う機会のひとつとなっている。
上記した諸点を鑑みても、世代交代、放送技術の進歩、国際化・海外進出の進展など、さまざまな変化をベトナムの看板ニュース番組も経てきたことが分かる。

変わったのは、Thời Sựのようなニュース番組だけではない。例えば、昔も外国製作のドラマをベトナムでは放送していたが、以前は一人の担当者が、登場人物すべての声の吹き替えを行っていた。女性も男性も、子供も大人も同じ声。どこか忙しなかった。しかし、今では多くの番組でそれぞれの役に対してそれぞれ別の吹き替え者がつくようになった。

外国の人気番組の雛形を持ち込んだ番組も登場してきている。例えば、本報告執筆現在、土曜日夜8時からVTV3で放映されているVua đầu bếp (Masterchef Vietnam)。この番組の雛形はイギリスで生まれたもので、職業に関係なく、腕に覚えのある「料理人」たちが互いの腕を競い合う料理番組である。毎回「試合」に負けた者が番組を去る勝ち残り戦で、例えば、出場者それぞれに10万ドン(1ドル=約21000ドン)を渡し、スーパーで食材を購入させ、調理の腕を競わせる。そして、この「試合」で最も美味と評価された料理を作った者に、残りの出場者それぞれが次の「試合」で使用する主要食材を、生きたスッポンなど3種の生物のなかから割り当てさせ、その上で互いに競わせるなど、毎回さまざまな趣向が準備されている3

また、同じVTV3では歌手になることを夢見る若者たちの挑戦を題材とする番組が最近まで放送されていた。韓国の業界関係の後援を得た未来のスター発掘番組で、バラード、ラップ、ダンスなどさまざまな技量を磨いてきた若者たちが、韓国でのレッスンを含めた歌手としてのデビュー機会獲得を目指して、互いにパフォーマンスを競い合う番組であった。

国際協力も進めている。例えば2013年に日越国交樹立40周年を迎えたことを記念して、VTVは日本のTBSテレビとドラマ「Người cộng sự(パートナー)」の共同制作を行った。同ドラマは、ベトナムの植民地支配からの独立運動を指導したファン・ボイ・チャウ(1867-1940)と、日本からの援助獲得を視野にファン・ボイ・チャウが訪日した際に支援を行った日本の浅羽佐喜太郎医師(1867-1910)との交流を描いたもので、2013年9月29日に両国(ベトナムではVTV1)で放送された。なおVTVは、韓国などとも同様の協力を進めている4

番組だけでなく、コマーシャルにも変化は及んでいる。かつては、静止画像に音声解説がつくだけという形のコマーシャルがよく見られた。しかし、今やコンピュータグラフィックスを駆使したコマーシャルが当たり前のように普及している。コマーシャルもひとつの表現世界を形成するようになっている。

他方、ベトナムの伝統、文化を守り、歴史的経験を残し、伝えていこうとする番組もまだ多く放送されている。例えば、ディエンビエンフー戦勝60周年(1954年5月7日-2014年5月7日)を迎える際には、多くの関連番組が製作、放送された。今年12月22日には、1944年12月22日にヴォー・グエン・ザップ将軍(1911-2013)の指揮によりベトナム人民軍の前身であるベトナム解放軍宣伝隊が創設されてから、70周年を迎える。おそらく関連行事の報道や関連番組が制作、放送されるだろうと思われる。

テレビは時代を映し、茶の間と外の世界を繋ぐ。ベトナムの伝統、文化、歴史に対する目配せを維持しながらも、近代化、国際参入の波は、VTVにも確実に押し寄せている。台風接近に伴う注意警戒の呼びかけなど、充実が目立つ気象情報報道を含め、VTVを中心とするベトナムのテレビ放送の役割・機能は、ベトナム国民の生活において大きな影響力を持ち続けると思われる。

表 VTVの主な放送チャネル(参考)
放送チャネル 主な放送内容
VTV1 政治経済関連、時事ニュース番組全般。
VTV2 科学技術、教育関連番組全般。
VTV3 娯楽関連番組全般。
VTV4 在外ベトナム人、ベトナム在住外国人向け番組全般。
VTV5 少数民族向け番組全般。
VTV6 青少年向け番組全般。
(出所)VTVホームページ(2014年9月24日にアクセス)に基づき筆者作成。
(表注)筆者が参照した当該ページには、南部向けのVTV9、その他のチャネルについては記されていない。
なお、上記表中のVTV5については、テレビ上でチャネルの存在を確認したことがなく、筆者は視聴したことがない。


脚 注


  1. ニュース量に応じて放送時間は延長される。VTVのホームページ(2014年9月24日、2014年9月30日にアクセス)に掲載された番組表によれば、VTV1のThời Sựは朝9時、12時、16時、19時の1日4回放送され、その内放送時間が最も長いメインの番組が19時から放送されるThời Sự19giờである。
  2. VTVのホームページ(2014年9月24日にアクセス)によれば、現在VTVは複数の放送チャネル(表参照)を有し、5つの地方放送センター(フエ、ダナン、フーイェン、ホーチミン、カントー)、3つの有料放送会社(VTV Cab, SCTV,VSTV=K+)を傘下に収めているとされる。VTVの他、現在では情報・通信省傘下のベトナムマルティメディア総公司(VTC)、国防省のQPVN、公安省のANTVもそれぞれ全国向けの放送活動を行っている。また、ベトナムには64省・中央直轄市(5中央直轄市、59省)が存在するが、ベトナム統計総局発行の『ベトナム統計年鑑2012』によれば、それぞれが地元放送局を設けている。
  3. 2013年3月末~2014年3月末のハノイ赴任中、日本でも知られる「アイアンシェフ(料理の鉄人)」のベトナム版が放送されているのを筆者は数回見かけた。
  4. 2014年8月8日、ベトナムのハノイにおいて、VTVと韓国のCJ E&M による、ドラマTuổi thanh xuân(青春時代)の共同制作に関する記者会見が開かれた。

本稿の内容及び意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。