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カナダ小麦ボード(CWB)改革による穀物流通の変化

海外研究員レポート

トロント

2014年8月発行
PDFpdf (480KB)
(1)CWB改革の概要
本稿では、カナダ小麦ボード(The Canadian Wheat Board、以下CWBと略称)改革によるカナダ穀物流通(特に小麦、キャノーラ)の変化について、2014年3月に実施した現地調査と最新の資料に基づいて考察していく。前回の報告書で記述したように、保守党のハーパー政権はCWBによる販売独占体制(一般に「シングルデスク」と呼ばれる)の改革を一貫して政策課題として掲げ、2007年5月には大麦輸出の選択制導入を閣議決定した。ただし2007年7月には、連邦裁判所が本閣議決定を無効と判決したため、大麦輸出への選択制導入は頓挫することとなった。

しかし、2011年5月に実施された下院選挙で、保守党が単独過半数を獲得とすると、ハーパー政権は再びCWB改革を強力に推し進めていった。ハーパー政権は2011年10月に小麦・大麦の流通自由化を明記したMarketing Freedom for Grain Farmers Actを下院議会に提案し、同本案は2011年12月に議会で可決された。その結果、2012年8月1日にCWB法が改正され、CWBの独占廃止が正式に決定されるとともに、小麦・大麦に対する販売選択制が導入されることが決定されたのである。その一方で、小麦・大麦の独占販売権を撤廃されたCWBに対しては、私有化(あるいは廃止)に向けて5年間の猶予期間が設定されることとなった。

また、シングルデスク廃止直前の2012年6月28日、カナダ政府はCWBに対して約350億カナダドルの資本注入を行うことを決定した。これはCWBが競争的な穀物流通のアクターに転換するためのコストを政府が負担するもので、CWBの年金や離職後給付、退職手当、コンピュータシステム、プールアカウント廃止のための費用として利用されることとなっている1。またカナダ政府はCWBのシングルデスク廃止にあたって、Western Grains Research Foundation(WGRF)、Canadian International Grains Institute(CIGI)、Canadian Malting Barley Technical Centre(CMBTC)といった民間団体に対して任意のチェックオフ制度を実施することも決定した。カナダ政府はこれらの民間団体に対して、2018年までの5年間にわたって研究開発資金を提供することで、穀物関連の調査研究や市場開発を促進することを目指している2

(2)CWBによる穀物流通企業との業務提携の推進
CWBは元来、エレベーターやターミナルといった穀物輸送・保管のためのインフラ設備を保有していなかった。そのため、販売独占権の撤廃後に穀物流通企業として経営活動を行うためには、他の穀物流通企業との業務提携(企業買収を含む)を通じてインフラ設備の利用権を獲得するか、あるいは自前のインフラ設備を建設することが不可欠となった。そこでCWBは2012年3月1日に穀物メジャーであるカーギル(Cargill)と穀物取扱に関する戦略的協定(strategic agreement)を締結した。この業務提携によって、CWBは農家からの穀物買付にあたって、カーギルが保有する30余りの設備(facility)を利用することが可能となった3

このカーギルとの契約を皮切りに、CWBはカナダ国内の大手穀物商社との穀物物流に関する提携を進めている。CWBは2012年6月21日、カナダ最大の穀物企業であるヴァイテラ(Viterra)と穀物取扱協定(grain-handling agreement)を締結した。この契約締結によって、CWBと穀物販売契約を交わした農家は、ヴァイテラがカナダ西部に保有する流通施設(カントリーエレベーターなど)でCWB向けの穀物を販売することが可能となった4。また同日には、ヴァイテラを含む6つの穀物企業(Viterra, Mission Terminal, West Central Road and Rail, Delmar Commodities, Linear Grainと、Agro Source)との穀物取扱契約の締結をCWBが発表した。この契約締結によって、6月21日以前に契約を締結していた2つの企業(Cargill and South West Terminal)を含め、8社の保有する120以上のカントリーエレベーターでCWBの購入する穀物が取り扱われることとなった5。さらに2012年8月1日には、カナダの大手穀物企業であるリチャードソン(Richardson)との穀物取扱契約の締結も発表された。本契約では、リチャードソンがカナダ西部のプレーリーに保有する40カ所の流通設備で、CWB穀物の取扱が認可された6

(3)CWBによる買付方式の多様化7
2012年8月のCWB法の改正を受け、CWBは穀物買付方式の多様化を一層、推し進めてきた。まず穀物の買付面では、穀物年度を通じた従来のAnnual Pool制に加え、Early Delivery Pool制とWinter Pool制が導入された。Early Delivery Pool度では契約期限が通常のプール制よりも1ヵ月程度早く(2013/14年度は通常のプールの期限が2013年10月31日であるのに対し、Early Delivery Poolは2013年10月4日)、かつデリバリーの期限も半年ほど早く設定され(通常のプールが2014年7月31日であるのに対して、2014年1月31日のデリバリー期限が設定)、プール契約の精算期間がより短く設定されている。同様に、Winter Poolでは契約期限が2014年2月14日と遅く、デリバリー期限も2014年7月31日に設定されていて、年度下半期でプールする形となっている。

また、プール契約のなかに先物取引を含める契約も導入されている(Future Choice Annual Pool, Future Choice Early Delivery)。これらの契約は、CWBが期間を通じたプール・ベーシスを設定し、販売農家が市況に応じて先物価格をロックできるというもので、プール制による価格変動のリスク削減と農家自身による先物市場での価格設定を同時に行えるメリットがある。

他方、プール制以外のキャッシュ契約(cash contract)も導入され、期先限月契約(Deferred Delivery)、先物優先契約(Futures First)、ベーシス優先契約(Basis First)といった契約方法から、農家が自由に選択することが可能となっている。期先限月契約とは、CWBが指定する一定の価格で特定等級の穀物を期限までにデリバリーするという契約である。それに対し、先物優先契約とベーシス優先契約はともに先物市場を利用した販売契約で、ベーシス(あるいは先物価格)とデリバリー期限を先に設定し、一定の期限(デリバリーの期限、あるいはCWBの設定する期限)までに先物価格(あるいはベーシス)をロックインするものである。
 
(4)CWBによる民営化に向けた組織改革
その一方で、CWBは民営化に向けた組織改革も進めている。日本貿易振興機構トロント事務所(2012)および、報告者によるCWB担当者へのヒアリング(2014年3月)によると、2012年のシングルデスク廃止以前には、CWBの職員数は400人を超えていた。しかしながら、2014年3月時点での職員数は100人弱にまで削減されるなど、職員のリストラを急速に行っている。

そしてこの大規模なリストラは、CWBの業務内容の縮小とも密接に関連する。CWBには海外市場で穀物輸出を促進するための部門(Market Department)が存在し、長期的な視点からカナダ産穀物の海外市場の開拓を推し進めてきた。しかしながら、CWBのシングルデスク廃止後は、譬えCWBの営業努力によって新たな海外市場を開拓できたとしても、その顧客向けの穀物をCWBが確保して輸出できるとは限らず、海外の顧客をほかの穀物企業に奪われてしまうケースも想定される。そのため、海外市場開拓を専門とする部門を維持することが困難となり、CWBはMarket Departmentの廃止を決定した。また、CWBが取り扱う穀物の取引量が減少した結果、穀物取扱業務に必要な人員自体も削減されてきた。そのため、CWBを退職した職員が、他の穀物商社に再就職するケースも多いという。

その他、CWBはカナダ政府機関であるAAFC(Agriculture and Agri-Food Canada)が実施するAdvance Payment Program(農業生産者のキャッシュフローを改善するために資金を前渡しする制度)業務を担当してきた。しかし、2013年3月からAdvance Payment Program業務がAAFCに移管されたため、CWB内の担当部門自体が撤廃された8

その一方でCWBは穀物農家との契約関係を維持するため、CWB向けに穀物販売を行う農家に対してCWBの株主となる権利を付与する制度を導入した。すなわち、2013/14年度、あるいは2014/15年度にCWBとのプール契約を締結し、CWBに穀物をデリバーした農家、あるいは2013年8月1日から2015年7月31日までにCWBとキャッシュ契約を行った農家に対して、2017年のCWBの完全民営化後に、穀物販売量1トンあたり5ドルの持分を受けると権利を付与するというものである。報告者がCWB担当者に対して行ったヒアリングによると、穀物農家による持分が民営化後のCWB株式全体の何割を占めるかについて明言することはできないが、1~2割程度といった低い割合にとどまるという見通しが示された。

この農家への持分付与のほかに、CWBはベンチャー・キャピタルやCWBの顧客企業、あるいは穀物商社との出資交渉も行っている。穀物商社については、カナダ国内で経営を行う既存の大手穀物企業というよりも、カナダ西部の穀物流通への参入経験のない穀物商社が主たる交渉相手であるという。このような外部企業からの出資の受入は、民営化後の資本構成や農家持分比率とも密接に関連するため、CWBの今後の出資交渉の行方を注視していく必要がある。

(5)CWBによる穀物買付動向
では2012年8月のシングルデスク廃止以降、CWBはカナダの穀物市場で流通する小麦の何割を確保できているか。シングルデスク廃止前には50%を確保できるとの予測もあれば、CWBは独自のインフラ設備を保有しないため、25%未満にとどまるとの見通しも出るなど、穀物企業や日系商社の間で意見が分かれていた(日本貿易振興機構・トロント事務所2012)。

企業別の小麦契約率については公式統計が発表されていないため、正確な動向を明言することはできないが、報告者によるCWB担当者へのヒアリング(2014年3月)によると、CWBが確保した小麦の割合は約20%であったという。その一方で、他のカナダ国内の穀物企業や日系商社へのヒアリングによると、CWBが確保した小麦の割合は10%程度にとどまったのではないかという意見も聞かれるなど、CWBと穀物企業では見解が異なる。いずれにしても、CWBが確保できた小麦の割合は予想を下回るもので、穀物農家によるCWB離れが急速に進展していることは確かである。さらにCWBの取扱量が大幅に減少してしまえば、本来、多数の農家が参加することでリスク・プーリングを行うプール契約の前提条件が崩れてしまい、プール契約による価格保証が機能不全に陥ってしまうことも危惧される。

他方、カナダ国内の大手穀物会社が農家に提示する小麦買付契約について、現地でのヒアリングや各社のHP掲載情報に基づいて確認したところ、他の大手企業ではプール契約は実施されておらず、すべてキャッシュ契約が採用されている。この事実に鑑みると、小麦農家はプール契約以外の取引を主体的に選択したと見なすことが可能であり、農家のキャッシュ契約志向の強さを窺うことができる9。また、前述のようにCWBは独自の物流インフラを保有していないため、他の穀物企業のインフラ設備を利用する必要がある。そのため、手数料負担や規模の経済性の面からも、CWBは他の穀物企業と比べて比較劣位にあることが予想され、小麦買付面で遅れをとっていることが考えられる。

また、CWB離れの背景には、カナダ西部地域の穀物農家による農業経営のあり方とも関連している。カナダ西部地域は小麦とキャノーラの栽培が中心で、作付のローテーションや価格変動に応じて作付パターンを調整している。そして西部地域の多くの農家は、シングルデスクの対象外であったキャノーラの栽培を行ってきたため、CWB以外の穀物企業との取引関係があり、プール契約以外の販売方式を通じてキャノーラを販売してきた。したがって、これらの農家はシングルデスク廃止後、既に取引関係のある穀物企業に対して、小麦・大麦の販売契約を選択することは想像に難くないと思われる10

(6)CWB改革に対する評価と2013/14年度の穀物流通の混乱
それでは一連のCWB改革は、生産農家によってどのように評価されているのか。CFIB(Canadian Federation of Independent Business)がCWB改革の初年度(2013年)に実施した穀物生産農家への調査によると、平原州(プレーリー)の農家はCWB改革の効果を高く評価している。すなわち、平原州に所属する81%の農家がCWB改革によってプラスの効果があったと回答し、負の効果があったと回答した農家の割合(9%)を大きく上回った。また、正の効果があったと回答した農家のうち、78%の農家は「自らが生産した農産物に対するより大きな管理権限を獲得できた」と回答し、「市場のシグナルが良くなった」あるいは「より競争的な価格にアクセスできるようになった」とそれぞれ66%の農家が回答している11

ただし、改革初年度である2012/13年度は北米で発生した干ばつの影響で、小麦やキャノーラなどの穀物価格は上昇基調にあり、カナダの小麦輸出量も対前年度比9.3%増の1897万トンであった(図1を参照)。そのため、2012/13年度では穀物農家が小麦輸出を通じて相対的に高い販売収入を享受することができた。また、同年度にはCWBによるシングルデスク廃止による物流の混乱もみられず、輸出も順調に行われた。このような穀物農家にとって良好な穀物市況とスムーズな物流が、CWB改革に対する農家の高い評価に繋がっていると考えられる。そのため、CWBのシングルデスク廃止の効果について、改革直後の調査結果で判断することは早計と思われる。

実際、2013/14年の冬期には、CWB改革の意義と効果について再考すべき動向が数多く見られる。2013年のカナダ小麦生産量は過去最高の3753万トン(対前年比38.0%増)に達し、キャノーラ生産量も過去最高を更新するなど、カナダ産小麦・キャノーラの供給量は大幅に増加した。そして世界的な小麦の増産を受け、小麦の国際価格は2012年11月をピークに下落傾向に転じ、2014年前半の小麦価格は2012/2013年度の干ばつ発生以前の水準に低迷している。そのため2013/14年度のカナダ産小麦の輸出量(予測)は2200万トンと対前年度比16.0%の増加にとどまり、小麦の在庫率も26%に上昇している(前年度の在庫率は19%)12


図1 カナダにおける小麦の生産・輸出・在庫状況
図1 カナダにおける小麦の生産・輸出・在庫状況
(出所)USDA PSD Onlineより報告者作成。

史上最高の小麦・キャノーラの生産量に加え、2013/14年度の冬期はカナダ国内の多くの地域が記録的な寒波に襲われた。その結果、カナダ物流の中心である鉄道輸送には大幅な遅延や混乱が発生し、また寒波のために通常よりも少ない車輌での輸送を余儀なくされるなど、カナダ各地のカントリーエレベーターから輸出港までの鉄道輸送は非常に混乱した状況にあった。このような鉄道網の混乱は穀物輸送のみならず、石炭や石油といったカナダ国内の天然資源の輸送にも混乱をもたらすとともに、バンクーバーなどの輸出港に停泊する貨物船にも深刻な影響を与えている13。バンクーバーでの現地調査によると、2014年3月末現在で、バンクーバー港にある穀物用倉庫は半分以下が空の状態で、港湾では40~50隻の船が穀物の到着を待っている状態にあった。

この穀物物流の混乱について、平原州のメディアではCWB廃止による鉄道輸送の調整力低下を原因とする論調も展開されている14。ただし、これらのメディアでも報じられているように、2013/14年度の鉄道流通の混乱は、CWBの廃止による物流調整機能の低下に起因するものと断定することはできず、過去最高記録を更新する穀物生産量や記録的な寒波の影響といった要因も指摘されている。また、カナダの2大鉄道会社の1つであるカナディアン・ナショナル鉄道(Canadian National Railways; CN)のCEOは、鉄道輸送混乱に関する最も根本的な理由の一つとして、穀物サプライチェーンの調整機能の欠如を主張している15。しかしながら、鉄道インフラの老朽化と鉄道輸送能力の不足は、この穀物輸送問題が発生する以前から指摘されていて、必ずしも最近の現象ではない。むしろ、2大鉄道会社による鉄道輸送の独占のために鉄道インフラへの投資が抑制されてきたことが、鉄道輸送混乱の根本的な原因と見なすことも可能である。

このように、CWB改革に対する評価は穀物流通全体の構造や天候状況といった多様な要因と関連している。したがって、CWB改革の効果については、中長期的な視点に基づく慎重かつ客観的な評価が必要である。

(7)CWBの穀物流通強化に向けた新たな取り組み
前述のようにシングルデスク廃止以降、小麦・大麦流通におけるCWBの存在感は予想以上に大きく低下してきた。そのため、CWBは2013年末から穀物流通企業との業務提携を超えた、より積極的な経営を打ち出し始めた。すなわち、CWBは自前の設備による穀物流通を強化するため、カナダ国内の穀物流通企業の買収と自前のカントリーエレベーターの建設を推し進めている。

CWBは2013年11月26日、CWBは穀物取扱協定を締結しているMission Terminalを含めた穀物流通企業3社を買収することを発表した(買収手続きは2013年12月31日に終了)。買収対象となるのは、Mission Terminal, Les Elevateuors des Trois-Riveres(ETR)、Service Martitimes Lavic Letie(SML)である。Mission Terminalはカナダ西部とThunder Bayにおいて穀物(小麦、大麦、キャノーラ、ライ麦、麻、豆類、オート麦)買付を行う企業で、Mission Terminal Thunder Bayはミッション川の河口に位置する穀物ターミナルで、13万6500トンの貯蔵能力を有し、年間150万トンの穀物を取り扱う。ETRとSMLはともにケベック州のToris-Riveiresに位置する穀物企業・荷役会社で、前者は穀物では11万トン、アルミナでは7.8万トン、コークスでは2万トンの貯蔵能力を保有する16。CWBによるこの3社の買収の背景には、カナダ東部地域の穀物流通を強化することで、欧州・アフリカ市場向けの穀物輸出を展開していくことが予想される17

またCWBは、カナダ東部における自社の穀物流通を強化するため、マニトバ州のPortage la Prairie市のBloomにおいて、カントリーエレベーターを建設することを2014年3月24日に発表した。本プロジェクトはCWBによる最初のエレベーター建設であり、建設予定のエレベーターの貯蔵能力は3万4000トンで、130輌の貨車に穀物をバラ積み可能なループトラック(loop truck)を備え、1時間あたり6万ブッシェル(約1633トン)の積載が可能となるという18。本エレベーターは2015年の秋から稼働する予定で建設が進められ、エレベーターの建設費用は2000~3000万ドルに上ると推計される。このエレベーターは、カナダ東部の穀物流通の中心地であるThunder Bayに向けた穀物流通の拠点となることが期待されている19。前述のようにMission TerminalはThunder Bayにターミナルを保有することから、エレベーターの建設はMission Terminal買収との相乗効果を狙ったものと考えられる。なお、2014年4月10日には、サスカチュワン州のColonsayにおいて4万2000トンクラスのカントリーエレベーターを建設する計画も発表された20

さらに2014年4月17日にCWBはカナダ西部における穀物流通のネットワークを強化するため、Prairie West Terminal (PWT)の全株式取得に関する契約を締結したことを発表した(買収は2014年6月9日に完了)。PWTの買収額は4300万カナダドルに上り、PWTが保有する7.8万トンの穀物設備をCWBが保有することとなった(PWTの株式85.8%分を1株あたり2100ドルで買取)21。なお、本契約に先立つ2014年1月16日、CWBはPWTの株式10.02%を取得することを発表し、Mission Terminalが保有する2.1%の株式分を含め、PWTの12.11%の株式を保有していた22。このように、CWBは民間の穀物物流企業として自立的な経営ができるよう、組織改革を急速に進めていると考えることができる。

その一方で、CWBによる自前の流通インフラ設備の建設や企業買収については、その意義を疑問視する声も多い。カナダの穀物流通は4社の大手企業によって寡占されていて、それらの企業が穀物物流全体の約9割以上の物流設備を保有している。そのような状況のなか、CWBが新たな設備を建設したとしても、流通取扱の絶対量や効率性の面で大手穀物企業に大きく劣り、穀物物流のアクターとして存在感を示すことは非常に厳しいことを大手穀物会社の担当者は指摘する。


図2 カナダのカントリーエレベーター総数と平均貯蔵能力
図2 カナダのカントリーエレベーター総数と平均貯蔵能力
(出所)Annual Report of the Monitoring Canadian Grain Handling and Transportation (2011-2012 Crop Year), published by Quorum Corporation in 2012 http://www.quorumcorp.net/reports.html)より報告者作成。

実際、図2に示したように、カナダではカントリーエレベーターの集約化と大規模化は2000年前後から急速に推し進められている。この実態に鑑みると、後発の穀物企業がカナダの穀物流通に参入することは難しい状況になっていると考えられる。むしろ、自前の穀物物流インフラを増強するよりも、海外で構築してきたネットワークや過去の実績を利用して、穀物流通のシンクタンクとして機能することを目指した方が良いのではないかとの声も聞かれる。ただし前述のように、海外市場の開発部門を廃止するなど、そのような声とは逆の方向に改革を推し進めている。

(8)おわりに
2012年以降、シングルデスクの廃止とともに、小麦流通におけるCWBの存在感は大きく低下する一方で、大手穀物企業が小麦流通においても中心的な役割を担うようになってきた。他方、2013/14年度の穀物の過去最高の豊作とそれに伴う物流の混乱、さらに冬期の記録的な極寒の発生といった要因が相まって、シングルテスク廃止による負の側面を指摘する論調も高まるなど、CWB改革による穀物流通全体への影響については、カナダ国内でも見解が大きく分かれている。

穀物流通の自由化は先進国のみならず、開発途上国においても極めて重要な問題であるが、その一方で、各国の穀物流通は独自の歴史的経緯を経て構築されてきたものである。また、農業保護的色彩の強い先進国の農産物流通と、経済発展のための外貨獲得、あるいは都市セクターの消費者保護を目的とした途上国の農産物流通では、経済全体のなかでの位置づけや改革の意義が大きく異なることも事実である。したがって、カナダにおける穀物流通の改革に対する評価、あるいは新たな制度設計のあり方を検討する際には、経済理論や各国の経験を適切に参照しつつも、穀物流通発展の経路依存性や地域的特徴を十分に考慮して、慎重かつ客観的に検討していくことが不可欠である。中国経済を専門とする報告者は、カナダ・アメリカといった先進農業大国の穀物流通と中国における穀物流通との比較制度分析を通じて、本テーマについて今後も分析を深めていく予定である。


*本報告書の執筆にあたって、CWBの担当者、カナダ穀物企業の担当者、日系商社の担当者、バンクーバーの港湾関係者など、多くの方にご協力頂いた。心より感謝の意を表したい。また、現地でのヒアリングにあたって、ジェトロ・トロント事務所にご尽力頂いた。なお、本稿中のありうべき誤謬については、すべて報告者に帰するものである。

《参考文献》
  • 小沢健二(2009)「小麦の国際市場の構造とカナダ小麦局をめぐる諸問題——穀物出荷協同組合の消滅のかなでの穀物の国家貿易の存続は可能か」『農業研究』第22号。http://nohken.or.jp/22ozawa.pdf
  • 日本貿易振興機構トロント事務所(2012)「カナダ小麦局(CWB)の専売廃止と今後の行方」
    https://www.jetro.go.jp/jfile/report/07001143/report_rev.pdf
  • 松原豊彦(2013)「岐路に立つカナダの農業と農政」『農村と都市をむすぶ』2013年9月号、No. 743, pp. 46-50。



脚 注
  1. 元資料はAgriculture and Agri-Food Canadaからの公式発表であるが、本稿執筆時点では同HPの内容が修正されていた(2014年3月14日修正)。そのため、他のサイト(http://www.marketwired.com/)に掲載されていた元資料に基づいて本稿を記述した。
    http://www.marketwired.com/press-release/harper-government-delivers-support-for-a-strong-viable-voluntary-cwb-1675202.htm
  2. チェックオフ制度の詳細については、『通商弘報』(521477f443620)(「穀物企業の国際市場戦略にも影響」—カナダ小麦局による専売廃止(2))、Agriculture and Agri-Food CanadaのHP情報を参照した。
    http://www.agr.gc.ca/eng/industry-markets-and-trade/statistics-and-market-information/by-product-sector/crops/initiatives-supporting-producers/marketing-freedom-for-grain-farmers/frequently-asked-questions/?id=1311891454058#a13
  3. CWBとカーギルとの戦略的協定の詳細については、以下の資料を参照されたい。
    http://www.cwb.ca/news/28/cwb-announces-strategic-alliance-for-grain-handling-with-cargill, http://www.winnipegfreepress.com/business/cargill-ltd-first-to-forge-deal-with-wheat-board-in-post-monopoly-era-141154493.html
  4. ヴァイテラとの穀物取扱協定については、以下の資料に依拠した。
    http://www.cwb.ca/news/22/viterra-and-cwb-announce-partnership-on-grain-handling,
    http://www.realagriculture.com/2012/06/viterra-and-the-cwb-sign-a-grain-handling-agreement/
  5. http://www.cwb.ca/news/21/cwb-grain-delivery-points-expand-across-western-canada
  6. http://www.cwb.ca/news/17/cwb-announces-grain-handling-agreement-with-richardson
  7. 各販売契約の詳細については、CWBのHP(http://www.cwb.ca/programs-by-grain)を参照されたい。なお、農家との販売契約において先物取引を組み込んだ契約や、契約期間を短縮したプール契約は2000年代前半から導入されていたが(小沢2009)、プール契約を通じた農家への支払額と比較すると、これらの契約による支払額の割合は相対的に低い割合にとどまっていた。しかし、国際的な穀物価格の高騰が発生した2006/07年度には、Producer Payment Options (Fixed Price Contract, Basis Price Contract, Daily Price Contractを含む)を利用して出荷された穀物量が対前年度比で390%増加するなど、プール契約以外の取引量が大幅に増加した。また、PPOを通じた農家への支払額の割合(プール契約の支払額に対する割合)も、2005/06年度の3.9%から2006/07年度には16.4%に上昇している。この点については、CWBのAnnual Reportに依拠した。
  8. 詳細については、https://www.cwb.ca/advance-payments-programを参照されたい。
  9. カナダ国内の大手穀物会社へのヒアリング(2014年3月)によると、多くの農家は販売先のカントリーエレベーターから当日に提示される販売価格に基づき、小麦を販売するかどうかを決定していて、先物取引を実際に利用する農家の割合は限られているという。ただし、これはあくまでも買取側からの情報であるため、生産農家レベルへのヒアリング、あるいは別の調査結果から実態を確認する必要がある。
  10. 報告者が日系大手穀物企業に対して行ったヒアリング(2014年3月)によると、CWBによるシングルデスク廃止後、日本向けキャノーラ輸出で取引関係のあったカナダ国内の大手穀物企業から、日本向け小麦を確保しているという。
  11. 本調査はオンラインで実施されたもの(対象農家数は125戸)で、調査結果は2013年8月に公表された。本調査の詳細については
    http://www.cfib-fcei.ca/english/article/5354-celebrating-marketing-freedom-one-year-later.htmlを参照されたい。
  12. カナダ産小麦の輸出量についてはUSDAのデータを利用した。なお本データの数値は、カナダのCanadian Grain Commissionが公表する輸出量の数値と乖離が存在する。
  13. カナダの鉄道輸送の混乱による穀物物流への影響については、以下のBloomberg記事も参照されたい。
    http://www.businessweek.com/news/2014-03-04/grain-boom-busting-canada-farmers-on-clogged-rails-commodities
  14. この点については、以下の記事を参照されたい。
    http://www.manitobacooperator.ca/2014/04/14/new-insights-into-canadian-wheat-board-orderly-marketing/, http://www.producer.com/2014/02/clogged-canadas-grain-transportation-system-isnt-working-what-now/
  15. 本件の詳細については、CNのプレスリリース(2014年3月31日付)を参照のこと。
    http://www.cn.ca/en/media/2014/03/cn-delivers-more-than-5000-hopper-cars-to-western-canadian-grain-elevators
  16. https://www.cwb.ca/news/73/cwb-announces-agreement-to-purchase-mission-terminal
  17. CWBによる3社の買収について、穀物買付から穀物輸出に至るすべての段階を自前の設備で行えるシステムが整備されたことから、CWBのビジネスモデルの転換と指摘する論考も存在する。なお、ETRの買収によって、かつてCWBのchief executive officerで、CWBによるシングルデスク廃止の過程で解雇されたAdrian Measner (chief executive officer of Soumat, the Upper Lakes subsidiary)が再びCWBに復帰することとなった点は注目すべできある。この点については、
    http://www.producer.com/2013/12/cwb-changes-business-model/を参照されたい。
  18. https://www.cwb.ca/news/88/cwb-announces-construction-of-high-throughput-facility-in-bloom-manitoba
  19. http://www.producer.com/2014/03/new-elevator-first-of-many-cwb/
  20. http://www.cwb.ca/news/92/cwb-announces-construction-of-second-high-throughput-facility-in-colonsay-saskatchewan
  21. 本件の詳細については、以下の資料を参照されたい。
    https://www.cwb.ca/news/99/cwb-completes-acquisition-of-prairie-west-terminal
    http://www.cwb.ca/news/93/cwb-enters-into-an-agreement-to-acquire-prairie-west-terminal
    http://www.producer.com/daily/cwb-buys-pwt/
  22. http://www.cwb.ca/news/79/cwb-buys-interest-in-prairie-west-terminal


本稿の内容及び意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。