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カナダ農業の特徴と穀物生産動向について

海外研究員レポート

トロント

2014年8月発行
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(1)カナダの概要
周知のように、カナダは広大な国土を誇る農業国である。国土面積は998万4670km2とロシア連邦に次ぐ世界第2位で、面積では中華人民共和国(960万km2)を上回り、日本の国土面積の約27倍に達している。また、カナダの地理的特徴はその多様性にあり、アメリカ国境に近いカナダ中央部では農業に適した肥沃な平原地帯(プレーリー)が広がる一方で、カナダ西部にはロッキー山脈などの広大な山岳地帯がそびえ立ち、また五大湖などの湖や河川もカナダ全域で数多く見られ、最北には北極ツンドラへと続く原生林も広がるなど、地域によってその様相は大きく異なる。

その一方で、カナダの総人口は3534万4962人(2014年1月現在)と他の大国と比べて非常に少なく、日本の総人口(1億2729.5万人、2014年4月1日現在)と比べても1/4程度(27.6%)、中国の総人口(13億6072万人、2013年末現在)と比較すると、わずか1/50(2.6%)にとどまる。

表1では、州別の人口数と面積の状況について整理した。なお、カナダはアメリカと同様に独立主権を有する州を構成単位とする連邦国家であり、10の州(province)と3つの準州(territory)から構成される。州政府は立法権を連邦政府と分割しているのに対し、準州はいわば連邦政府の直轄地であり、その権限は連邦法によって規定されている点に注意されたい1。この表1からわかるように、カナダの人口は主に4つの州(オンタリオ州、ケベック州、ブリティッシュ・コロンビア州、アルバータ州)に集中し、それらの州では面積も相対的に大きいが、それでも人口密度は10~25人/km2と非常に低く、日本337人/km2、中国の144人/km2、そしてアメリカの33人/km2も大きく下回っている2。また、カナダ北西部に位置する準州はツンドラで覆われた厳しい条件のため、その面積の大きさの割に人口数は3~4万人と非常に少なく、人口密度は非常に低い状況にある。

表1 カナダの州別人口、面積、人口密度
表1 カナダの州別人口、面積、人口密度
(出所)Statistic Canada,Natural Resource Canadaより筆者作成。
(注)人口は2013年7月1日現在、面積は2005年2月1日更新データに基づく。

(2)カナダ農業の地域区分
このようなカナダの地理的条件は、農業生産のあり方とも密接に関連している。カナダの国土の大部分は森林や湖沼、山岳等に覆われているため、農用地(farm area)は主にアメリカ国境付近に限定されていて、農用地は国土面積の6.7%(6759万ヘクタール)に過ぎない。ただし、それでもカナダの農地面積は日本の農地面積(456万ヘクタール)の14.8倍の面積を誇っている。広大な農地面積と肥沃な土壌といった自然環境は農業生産の面で比較優位を持つため、カナダは世界有数の農業生産国となっている。図1に示したように、カナダ農業(10州)は自然条件の特性から、大きく以下の4つの地域に分類される。

(1)中央カナダ(オンタリオ州、ケベック州)
(2)平原州(アルバータ州、サスカチュワン州、マニトバ州)
(3)太平洋岸(ブリティッシュ・コロンビア州)
(4)大西洋岸(ニューブランズウィック州、ノヴァスコシア州、プリンス・エドワード・アイランド州、ニューファンドランド・ラブラドール州)


図1 カナダの農業地域の分類
図1 カナダの農業地域の分類
(出所)『国際農業・食料レター』(「カナダ:TPP交渉における供給管理5品目の位置づけ」)2013年11月号(No.175)、2ページを参考に筆者作成。

(1)の中央カナダはトロントやモントリオール、オタワといったカナダ有数の大都市を抱える地域で、穀物(トウモロコシ)、豆類(大豆)の栽培の他に、酪農や野菜栽培、施設園芸といった都市近郊型農業を主としているのに対し、(2)の平原州は肥沃な平原が広がるカナダ最大の大穀倉地帯で、小麦や大麦といった穀物はもとより、菜種(キャノーラ)のカナダ最大の産地でもある。(3)の太平洋岸にはバンクーバーなどカナダ有数の大都市があり、(1)の中央カナダと同様に都市近郊型農業を形成している。ただし、ブリティッシュ・コロンビア州の西部はカナディアン・ロッキー山脈と呼ばれる4000m級の山岳地帯に覆われているため、中央カナダと異なり農地面積は相対的に少なく、穀物・油糧種子の栽培面積と生産面積は非常に限定される。他方、その多くが半島で構成される(4)の大西洋岸は、森林資源や海洋資源に恵まれていることから、林業や漁業、畜産業が相対的に進展する一方で、農地面積は非常に限定されているため、作物栽培では他の地域と比べて大きく劣っている3

(3)カナダの農業経営の特徴
このような農業地域別の農業経営状況の相違を明確にするため、州別の農家数、総農地面積、農家あたり平均農地面積について表2に整理した。2011年の農業センサスデータに基づいて作成した本表から明らかなように、(1)~(3)の3つの地域は農家数と総農地面積において圧倒的な割合を占めていて、カナダ全体に占める割合はそれぞれ96%と98%となっている。また、農地面積の面では平原州の割合が高く、カナダ農地全体に占める平原州農地面積の割合は81%、農家数でもカナダ全体の47%を占めている。さらに農家あたり平均農地面積で見ても、平原州の平均耕地面積はカナダ全体のそれを大きく上回っていて、マニトバ州は459ヘクタール、アルバータ州は473ヘクタール、サスカチュワン州に至っては675ヘクタールであるなど、土地集約的な大規模農業経営が行われていることが統計からも確認できる。さらに、2006年センサスと比較して、2011年には平原州で農家数の減少と平均農地面積の増加といった農業生産の集約化が進展していることも注目される。



表2 カナダの農業地域別の農業概況
表2 カナダの農業地域別の農業概況
(出所)Statistics Canada, 2011 Census of Agricultureより筆者作成。

地域別の農業経営のあり方についてより詳しく考察するため、表3では農家の主要な農業経営形態とその農家数について、農業地域別に整理した。中央カナダ(ケベック州、オンタリオ州)では油糧種子・穀物生産を主とする農家数も相対的に多いが(特にオンタリオ州)、酪農農家と養豚農家の数が非常に多く、ともにカナダ農家全体の約8割を占めていて、家禽・花卉関連の経営を行う農家数も相対的に多いことがわかる。これは前述の中央カナダ地域の都市近郊型農業のあり方を如実に示していて、牛乳・乳製品、鶏肉や豚肉といった畜産物、そして生鮮野菜や花卉を大都市向けに生産している。太平洋州の経営農家の特徴も中央カナダのそれと類似しているが、畜産業(牛肥育、家禽)や果樹・ナッツ類、花卉の栽培を行う農家の割合が相対的に高いと行った特徴が見られる。それに対して、平原州では油糧種子・穀物を主とする農家数が相対的に多く、平原州合計でカナダ全体の約7割を占めるとともに、牛肉用の肥育も非常に盛んなことがわかる。

表3 主要な農業経営形態と農家数(2011年)
表3 主要な農業経営形態と農家数(2011年)
(出所)Statistics Canada, 2011 Census of Agricultureより筆者作成。

なお、都市近郊型農業の発展と関連するが、カナダでは農産物価格の安定化を目的に5品目(牛乳、乳製品、鶏肉、七面鳥、鶏卵、採卵)を対象に、個別農家ごとの生産割当量の配分など、出荷を一元的に管理する供給管理制度が導入されている4。この制度は、(1)生産管理、(2)国境措置による輸入量の管理、(3)生産費に基づく価格決定の3つの柱から成り、それらが互いに組み合わされることで価格の安定化を実現しているという。生産管理については、連邦法(1972年の農産物エージェンシー法)に基づいて連邦政府によって設置されたマーケティング・エージェンシーが、需給見込みに準じて全国的な年間販売・生産計画を設定し、各州への割り当てを行う。州段階では各州法に基づいて設置されたマーケティング・ボードが各生産者への割当量の配分を配分するといった仕組みになっている。また、これらの品目について国外からの輸入については、低率の輸入関税枠と150~300%前後に設定された枠外関税を維持することで、適切な輸入量の管理を行っているという。

先に指摘したように、この5品目の主要な産地は中央カナダである。政治・経済の中心であるオンタリオ州と、伝統的・政治的に独立志向が強く、フランス文化の色彩の強いケベック州の農家が主たる保護対象となっていることから、このような農産物価格の安定化政策がカナダの政治色の強いものであることが窺える。また、この5品目の保護問題はEUとの包括的経済貿易協定交渉(CETA)やTPP交渉においても大きな焦点となっている。

(4)カナダの農家販売と穀物の生産動向
カナダ生産農家による販売収入の特徴を明確にするため、図2では収入源泉別の農家販売額5の変遷について示した。図2に示されるように、家畜・酪農からの販売額は漸進的に増加し、2000年代前半まで作物栽培からの販売額を金額的に上回っていた。しかしながら、2007年の世界的な穀物価格の上昇以降、作物栽培からの収入額が家畜・酪農からの販売額を上回るようになった。2008~09年には穀物価格が落ち着きを取り戻したため、作物栽培販売額の上昇が一時的に停滞したものの、穀物価格が再び上昇し始めた2011年から作物栽培販売額が大きく上昇し、家畜・酪農販売額との格差が広がっていることがわかる。


図2 源泉別の農業販売額の変遷
図2 源泉別の農業販売額の変遷
 (出所)Statistics Canada (Table 002-0001 - Farm cash receiptsStatistics)より筆者作成。

農家販売額の変化についてより詳細に考察するため、詳細な品目ごとの販売額を表4にまとめた。作物栽培を見ると、1980年には小麦収入が作物栽培販売額の約4割を占めていたが、その割合は徐々に低下し、2010年には13.1%にまで下がった。しかし近年の小麦増産と価格上昇によって、2012年にはその割合が17.2%にやや上昇している。その一方で、キャノーラ販売額の増加が著しく、作物栽培の販売額全体に占める割合も1980年の9.7%から2000年には24.9%、2012年には27.5%に上昇し、小麦の構成比を逆転するなど、キャノーラが作物栽培の最大の収入源となった。その他の作物栽培では、花卉や野菜の構成比が1990~2000年前後に上昇しているが、その後はやや低迷する一方で、中国による大豆輸入の増大と大豆価格の上昇を受け、カナダでもオンタリオ州を中心に大豆の販売額と構成比には上昇傾向が見られる。

他方、家畜・酪農については、作物栽培と比べると純収益額の伸びや構成比は安定している。ただし、最も重要な畜産業であった牛肥育では、販売額が2000年前後から低迷し始め、家畜・畜産販売額に占める割合も2000年の35.4%から2010年には29.4%への漸減している。その他の品目では販売額・構成比の面で大きな変化は見られないが、前述の供給管理体制によって手厚い保護を受けている養鶏では販売額の大きな増加が見られ、家畜・酪農販売額に占める割合も1980年の6.2%から2012年には11.4%とほぼ倍増している6


表4 品目別の農業販売額の推移
表4 品目別の農業販売額の推移
(出所)Statistics Canada (Table002-0001 - Farm cash receiptsStatistics)より筆者作成。

次に作物栽培の動向について、もう少し詳しく議論をしていく。前述のようにカナダは小麦とキャノーラの世界的な産地であるが、世界的な穀物価格の変動に影響されながら、カナダの作物栽培も大きな変化を経験してきた。表5では、カナダの主要農産物の生産動向について整理した。この表からわかるように、1980年前後までは小麦とトウモロコシ、大麦、オート麦が主要な農作物であったが、1990年代に入るとトウモロコシと大麦の生産が低迷する一方で、キャノーラ栽培が大きく進展し、生産量を大きく増大させてきた。

1990年のキャノーラ生産量は327万トンであったが、2000年には721万トンとほぼ倍増した。その後の2000年代前半には、生産量が500~700万トン前後に停滞したものの、2000年代後半から再び増産が進み、2010年には1279万トン、そして2013年には1796万トンに達するなど、過去最高の生産量を更新している。このようなキャノーラの急速な増産は、後述の価格効果の他に、キャノーラ栽培の技術革新も関係している。1995年に遺伝子組み換え技術を活用した除草剤耐性菜種が開発された結果、除草剤の使用数量が減少し、農家の労働負担が減少したことも農家によるキャノーラ栽培意欲の向上に貢献したと考えられる7



表5 カナダの主要農作物の生産動向
表5 カナダの主要農作物の生産動向
(出所)Statistics Canadaより筆者作成。
(注)デュラムの生産量は1991年から計上されている。

図3 小麦とキャノーラの国際価格の動向
図3 小麦とキャノーラの国際価格の動向
(出所)小麦はGulf-FOB価格( Index Mundi, http://www.indexmundi.com/)、キャノーラはBasis in Store Pacific Coast価格(Canola Council of Canada, http://www.canolacouncil.org/)を利用して筆者作成。


2012年には北米で大規模な干ばつが発生したため、カナダの小麦生産は伸び悩み、キャノーラの生産量も2011年の1461万トンから2012年には1387万トンへと減少した。しかしながら、2013年には小麦とキャノーラともに過去最高の生産量を実現している。この大幅な増産は恵まれた天候条件(平年を上回る気温の高さと湿度の高さ)によるものであるが8、小麦については作付面積の増大(対前年比10.3%増)と単収の上昇(同25.0%増)の双方、キャノーラについては主として単収の大幅増(同35.4%増、作付面積自体は4.4%減)を通じて増産が実現した。

このような小麦とキャノーラの増産の背景には、世界的な油糧種子・穀物に対する需要増大とそれに伴う国際価格の上昇が存在する。図3では、2000年以降の小麦とキャノーラの国際価格を整理したものである。キャノーラの価格は2004~2005年にかけて低迷していたが、2007年から再び上昇傾向を示し、2008年にはピークを更新する水準まで価格が高騰した。その後の2009年にはやや落ち着きを取り戻したものの、2010年からキャノーラ価格は再び上昇し始め、2012~2013年には2008年のピークを上回る水準に達している。また、小麦についてもキャノーラとほぼ同様の動きを示していて、2008年と2012~13年の小麦価格高騰を観察することができる。

(5)小麦・キャノーラの輸出動向
前述のようにカナダの総人口は約3535万と少なく、穀物に関する国内消費市場は限定されているため、カナダは伝統的に小麦を積極的に海外市場に輸出する戦略を採ってきた。そしてキャノーラについても、日本やアメリカ、中国といった海外市場で販路を拡大しながら、生産拡大を続けてきた。また近年はトランス脂肪酸による健康への悪影響が世界的に注目されてきたこともあり、トランス脂肪酸の含有量の少ない植物油、特にキャノーラに対する需要が高まってきたことも、カナダにおけるキャノーラ生産を後押ししている。

以下では主としてUSDAのデータベース(Production, Supply and Distribution Online, PSD Online)を利用して、カナダにおける小麦・キャノーラの輸出動向について確認していく。まず図4では、小麦の国内生産量と輸出量、期末在庫量について図示した。図から明らかなように小麦の国内生産量と輸出量の連動性が非常に強いこと、カナダ国内で生産された多くの小麦が海外市場に輸出されている。輸出量の国内生産量に対する割合は、1980年代平均が78%、1990年代平均が72%、2000年代平均が69%とやや低下する傾向も見られるが、1980年代から一貫して年間1500~2000万トン程度の輸出を行うなど、カナダの小麦生産にとって海外販売が非常に重要であることがわかる。また、期末在庫量についても生産量や輸出量との相関が強く、1980~90年代にかけては在庫率が30~40%と相対的に高い水準にあった。しかし、世界的な穀物価格の高騰が進んだ2007年前後から、在庫率は顕著な低下をみせていて、2010年以降は20~30%の水準に低下している。


図4 カナダにおける小麦の生産・輸出・在庫状況
図4 カナダにおける小麦の生産・輸出・在庫状況
(出所)USDA PSD Onlineより筆者作成。

図5 カナダにおけるキャノーラの生産・輸出・在庫状況
図5 カナダにおけるキャノーラの生産・輸出・在庫状況
(出所)USDA PSD Onlineより筆者作成。

他方、キャノーラの国内生産、輸出量、期末在庫を整理した図5をみると、国内生産の増進に合わせて、キャノーラの輸出量も増加していることがわかる。カナダからのキャノーラ輸出は2000年代前半には300万トンを上回り、2000年代後半には800万トン前後に達し、現在もその水準を維持している。ただし小麦と異なり、生産量に対する輸出量の割合が5~6割程度と低いのは、カナダ国内で搾油されるキャノーラ油とキャノーラ・ミールの輸出が含まれていないことが関連している。カナダ統計局のデータによると、キャノーラ油の輸出量は2000年代半ばに100万トンに達し、2010年には218万トン、2013年には226万トンとなっている。キャノーラの油分比率は40~45%といわれているが、それに基づいて単純換算すると、2000年代から2010年代前半のキャノーラの輸出比率は7~8割に達する。したがって、キャノーラにおいても海外市場での販売が極めて重要であることが指摘できる。

(6)穀物流通の概要9
このようにカナダは小麦などの穀物と油量種子の世界的な産地の一つであることから、平原州で生産される穀物を如何に効率的に輸出するか、そして生産者に公正な機会と価格を保証して販売するかが重要な政策課題となってきた。そのためカナダでは、1935年に設立された連邦政府の公社(crown corporation)であるカナダ小麦ボード(The Canadian Wheat Board、以下CWBと略称)が、2012年まで小麦と大麦の販売を独占的に管理してきた(ただし1998年以降は公社ではなく、shared governanceのもとで穀物流通を管理)。

平原州では1920年代に農業販売者の販売協同組合として小麦プールが数多く設立され、共同の中央販売機構(central selling agency)を通じて小麦を輸出していた。しかし世界恐慌による小麦価格の暴落によって、小麦プールは多額の負債を抱え倒産状況に追い込まれてしまった。そのため、1930年に連邦政府が中央販売機構の総支配人を指名することを条件に債務保証を行ったことによって、連邦政府が小麦プールの経営を資金的に支え、事実上の管理下に置くという仕組みが形成され、1935年にはCWBが設立された。ただし当初は、穀物生産者がCWBとその他の穀物商社を選んで設立して販売する仕組みであったが、CWBによる販売独占体制(一般に「シングルデスク」と呼ばれる)が形成されたのは、第二次世界大戦中にインフレ抑制のために物価統制を実施した1943年のカナダ小麦ボード法改正後であった。

戦後もCWBによる販売独占は継続され、平原州とBC州のピースリバー地域の穀物生産者を代表して、同地域で生産された小麦、大麦、オート麦の販売と輸出を独占的に行う権限が法律によって付与された。CWBの目的は、生産者にできるだけ高い収益を実現するとともに、市場への公平なアクセスを保証することにある。そのため、出荷した同量・同一等級の穀物に対して、すべての生産者が同じ収益を得られるよう、同一穀物の販売価格をプールする「価格プール制」が導入されている点が大きな特徴である。また、小麦、大麦、オーツ、ライ麦、キャノーラ、アマニという主要6作物については、生産者が毎年申請する作付予定面積に基づいて出荷割り当てが行われてきた。ただし、1992年からはキャノーラとアマニが、1993年7月からはライ麦、オーツ、飼料用小麦・大麦が出荷割当の対象から外されるといった調整も行われた。

松原(2013)によると、CWBが行う価格プール制の仕組みは以下の通りである。すなわち、毎年8月1日から始まる穀物価格を通して、CWBが平原州の穀物生産者の代理人として販売した売上金額から必要経費(運賃、保管料、管理経費など)を差し引いた金額を、特定穀物の等級・出荷量に応じて均等に配分する仕組みである。穀物農家がエレベーターに穀物を出荷する際に概算支払額(initial payment)を受け取り、穀物年度の終了時に精算した金額が振り込まれる。したがって、この制度では生産者全体でリスクをシェアすることで、年間を通して販売額を均等にならして安定化しているのである。

その一方で、シングルデスクではシカゴの先物市場の価格動向を見ながら穀物を機動的に販売するといった農家の行動が認められていないこと、プール制ではいろいろな要素がプールされてしまうため、農家が享受できる価格の根拠が不明確となり、制度としての透明性に対して農家が不満を持つことが多かった。また、CWBによる穀物流通の独占はアメリカなどから自由貿易を阻害する要因であると指摘されていて、WTOや自由貿易協定において議論の対象となってきた。そのため穀物産地の一つであるアルバータ州の穀物生産者団体が中心となり、NAFTA発効後の1990年代半ばからCWBへの改革圧力が強くなった。その結果、1998年にはCWBの組織改革が行われ、連邦政府任命のコミッショナー制(定員5名)を廃止して、定員15名(10名は穀物生産者による選挙、5名は連邦政府による任命)の理事会が導入されるとともに、従来の価格プール制に加えて、先物市場の動きに連動して販売できるオプション制が導入されたが、CWBによるシングルデスク体制は維持された。

しかし、CWBによるシングルデスク体制の廃止と選択販売制を公約としてきた保守党のハーパー政権が2007年1月に誕生すると、CWBの独占廃止が急速に進められ、CWB法の改正によって2012年8月1日からCWBによる独占廃止と小麦・大麦の販売選択制が導入されるに至った。そしてCWBに対しては、私有化(あるいは廃止)に向けて5年間の猶予期間が設定されることとなった。

このCWB改革による小麦流通の変容について考察するため、報告者は2014年3月に農業関連の政府機関・穀物企業が数多く立地するウィニペグ市と、カナダ最大の穀物輸出港を抱えるバンクーバー市で、穀物関連企業の流通担当者に対してヒアリング調査を実施した。その調査結果を含めたカナダ穀物流通改革の動向については、次回の現地情勢報告で改めて記述する予定である。

《参考文献》


脚 注
  1. カナダの政治体制については、財政制度等審議会・海外調査報告書(2007年6月)第2章第4節(カナダ)
    http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/kaigaichyosa1906/kaigaichyosa1906_11.pdf)を参照した。
  2. 人口密度は各国統計局のHP、帝国書院HP
    http://www.teikokushoin.co.jp/statistics/world/index03.html)に基づく。
  3. カナダ各州の自然環境や概況については、北海道カナダ協会HP
    http://www.canada-society.com/about.php)などを参照した。
  4. 5品目に関する農産物価格の安定化の仕組みとCETA・TPP交渉の動向については、『国際農業・食料レター』2013年11月号、および松原(2013)を参照した。
  5. 「販売額」は、原文では'Farm cash receipts'となっているので「農家現金粗収入」と翻訳した方がより正確であるが、理解しやすさを考慮して「販売額」とした。
  6. 1990年代から2000年代のカナダ農業生産の構造変化は、1994年1月から発効された北米自由貿易協定(NAFTA)による影響も大きい。NAFTA加入後のカナダ農業の構造変化の詳細については、小沢(2005)を参照されたい。
  7. 「菜種生産の限界に挑むカナダ」(『植物油INFORMATION』第89号(日本植物油協会、2014年2月17日発行))
    http://www.oil.or.jp/info/89/index.htmlに基づく。
  8. http://www.agrimoney.com/news/canada-nudges-higher-canola-wheat-crop-estimates--6290.htmlを参照。
  9. CWB設立の歴史的経緯やCWB改革の動向については、松原(1995)、松原(2009)、松原(2013)、
    CWBのHP (http://www.cwb.ca/)、
    Mapleleafweb.com (http://www.mapleleafweb.com/features/canadian-wheat-board)に依拠した。


本稿の内容及び意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。