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マレーシアの外国人労働者

海外研究員レポート

マレーシア

2014年7月発行
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1.外国人労働者に依存するマレーシア経済
マレーシアで生活していると、日常的に外国人労働者と接する機会がある。レストランやガソリンスタンドの店員、メイドの多くは外国人である。製造業、建設業、プランテーションにおいても外国人労働者はすでに欠かせない存在になっている。2012年末時点で、マレーシアの総雇用者数1272.3万人のうち、外国人労働者の比率は13.5%、約170万人に達する 1。 また、この数字は合法外国人労働者で、マレーシアには非合法の外国人労働者がさらに200万人いると言われている。もし、この数字が正しいとすれば、実に労働者の4人に1人が外国人ということになる。

日本の外国人労働者数は2013年10月末時点で過去最高の72万人に達したが2、比率からすれば、マレーシアの1/10以下に過ぎない。日本の雇用者数約5500万人にマレーシアの外国人労働者比率を当てはめると、外国人労働者は約740万人相当となる。

本稿では、世界でも最も外国人労働者比率が高い国の一つであるマレーシアの外国人労働者問題について概観する。 
 
2.マレーシアの人口動態
マレー半島は他の東南アジアの地域とくらべて、もともと人口が少ない場所である。マレーシアの人口は、2013年に3000万人を突破した。しかし、2億4000万人の人口を擁するインドネシアは言うに及ばず、約7000万人の人口を抱える隣国タイと比べても半分以下である。しかも、3000万人の人口は、中進国としては異例の高さの人口増加率(2012年1.56%3、インドネシアは1.2%、タイは0.3%)によって、ようやく到達したものである。

マレーシア政府の統計によれば、マレーシア半島部の1911年時点の人口は、わずか232万人に過ぎなかった4。イギリスの植民地統治下での、錫鉱山やゴム農園への華人、インド人労働者が大量に流入してなお、この人口である。1957年の独立時の人口が628万人、1963年にサバ・サラワク・シンガポールを加えて現在のマレーシアが成立(1965年にシンガポールが離脱)した時点の人口が892万人であった。その後、1000万人到達が1967年、2000万人到達が1994年、昨年、3000万人に到達した。国連人口部による中位推計5によれば、マレーシアの人口は、2070年前後に約4400万人となりピークを迎える(図1)。

(図1)マレーシアの人口の推移・予測 (1950-2100)
(図1)マレーシアの人口の推移・予測 (1950-2100)
(出所)国連人口部中位推計より作成

マレーシアの人口のもう一つの特徴は、人口構成が若いという点である。2013年時点で、65歳以上の人口は全人口の5.5%に過ぎず、生産年齢人口(15歳—64歳)が従属人口の2倍を超えるいわゆる「人口ボーナス」期にある。人口ボーナス期は、2040年前後まで続くものと見られる。

3.マレーシアにおける外国人労働者
マレーシアは人口が土地面積や経済活動に対して過少であったため、1980年代後半に本格的な工業化が進展すると、瞬く間に労働力不足に陥った。これを受けて、1992年にマレーシア政府は、それまでプランテーションや建設現場、家事労働などに認められていた外国人労働者を製造業やサービス業にも広げ、本格的な外国人労働者の導入を進める。これ以降、マレーシアでは失業者数を外国人労働者数が大きく上回る状況が続く。これは、労働市場に参加しているマレーシア人が全員職を得たとしても、外国人労働者がいなければ労働需要を満たしきれないことを意味し、「超完全雇用」とでも言うべき状況である。 

周辺国との賃金格差を主因とした外国人労働者の流入、産業界の労働力不足という需給両要因で外国人労働者が増加を続ける一方で、マレーシア政府は総数に歯止めをかけたい意向を持っている。これまで、マレーシア政府は外国人労働者の雇用に掛かる税金を頻繁に引き上げ、定期的に新規雇用の停止と再開、違法労働者の恩赦、合法化と送還を繰り返して現在に至っている。直近では、2011年10月から2014年1月まで違法労働者の恩赦・合法化プログラム(通称6Pプログラム)が実施され、130万人が申請、うち50万人が合法化され、33万人が国外退去となった6

2013年9月末の時点で、合法的な外国人労働者数は211万人に達し、部門別の内訳は製造業が73.3万人で最も多く、以下、表1のようになっている。また、国籍別では、インドネシア人が(93.5万人)と最も多く、表2のようになっている7

表1 業種別外国人労働者数(2013年9月末)
表1 業種別外国人労働者数(2013年9月末)

表2 国籍別外国人労働者数(2013年9月末)
表2 国籍別外国人労働者数(2013年9月末)

4.なぜ、大量の外国人労働者を雇用しても社会が維持できるのか
このように、マレーシアは、人口の比率に対して外国人労働者の比率が世界でも最も高い国の一つとなっている。外国人労働者への依存について、産業高度化の観点からの懸念が表明され、治安悪化や社会的軋轢といった観点からの批判もある。しかし、もし日本にマレーシアと同じ比率の外国人労働者がいたと仮定すれば、合法740万人、非合法870万人の合計1500万人以上となり、とても正常な社会運営を維持できるとは思えない。マレーシアの場合、外国人労働者のプレゼンスの巨大さとくらべれば、問題は「相対的に」小さいものに留まっていると言える。その要因としては、以下のようなものが挙げられる。

a) 外国人労働者は雇用のミスマッチを埋める
第一の理由は、雇用を巡ってマレーシア人と外国人が競合することが少ないためである。マレーシアは1990年代初頭には既に完全雇用の状態にあり、外国人が雇用されているのは、マレーシア人が働きたがらない、いわゆる3D(Dirty, Dangerous and Demanding)労働である。外国人労働者の39.8%が単純労働(Elementary occupation)と呼ばれる職種に就いている一方、この職種のマレーシア人は全体の8.1%に過ぎない8

JETROの投資コスト比較9によれば、バングラデシュ・ダッカの製造業ワーカーの賃金は86米ドル、クアラルンプールは429米ドルとなっており、約5倍の差がある。もし、労働者の権利が十分に保証されるのであれば、自国民に人気のない職種を、母国との賃金格差によって埋めてくれる外国人労働者の存在は、お互いにとってプラスとなる。

b) 多民族・多宗教の国家の懐の深さ
マレーシアにおける外国人労働者の最大の送出国はインドネシアである。インドネシアとマレーシアは地理的に近いだけでなく、言語も極めて近く、問題なくコミュニケーションが取れる。さらに、イスラム教徒が多数を占め、宗教的にも共通性が高い。したがって、インドネシアの外国人労働者は言語・宗教など多くの面で違和感少なくマレーシアで働くことができる。

マレーシアは古くから交易の中心地であり、イギリス植民地時代にも「外国人」を受け入れてきた。その結果、マレーシアは多民族、多宗教、多言語の国家となり、マレー語(インドネシア語)、中国語、タミール語、英語のどれかができれば生活できる。また、イスラム教徒にとっては非イスラム教国に比べて不自由が少なく、その他の宗教であってもそれを信奉することは禁じられていない。マレーシアという国家の成り立ちが、外国人労働者との軋轢を小さくしている面は少なからずある。マレーシアにおいては、外国人労働者の犯罪率は、マレーシア人よりも低いという研究もあり、これは、滞在期間中めいっぱい働くことで十分に稼ぐ方が、国外退去のリスクをおかして犯罪を行うよりもリターンがあると考えれば、不思議ではない。

このようなマレーシアの「懐の深さ」は歴史的に醸成されたものであり、容易に真似できるものではない。

c) 外国人労働者は「移民」ではない
マレーシアにおける外国人労働者は、有期での帰国を前提に受け入れられており、移民とは明確に区別される。非熟練外国人労働者の受け入れは18歳から45歳に限られ、家族を同伴することはできない。非熟練の外国人労働者の労働許可は1年毎に更新され、最大で5年までとなっている10。マレーシア政府は10年の有効期間を持ち更新可能な長期滞在ビザプログラムMalaysia My Second Home(MM2H)を実施しているが、過去最高を記録した2013年でも認可は3675件にとどまる11。MM2Hの資格には、一定以上の預金残高(50歳以上の場合は35万リンギ以上、50歳以下の場合は50万リンギ以上)と月収1万リンギ以上が必要とされ、これはマレーシアでは所得水準の最上位10%に相当する。

すなわち、マレーシア政府は外国人労働者を主に単純労働の担い手として割り切っており、大量の移民を受け入れる意向は全くない。

おわりに
外国人労働者の増加に伴う社会的・経済的問題には、1)労働市場で競合する自国労働者の所得へのマイナスの影響、2)教育、医療、社会保障など公的支出への負担増、3)犯罪率の増加、社会的・文化的な摩擦などの影響などがある。マレーシアの場合、外国人労働者を有期の単純労働力に限定し、家族の帯同を認めないことで、1)と2)を小さくし、歴史的な経緯から、3)についても比較的小さいものにとどまっている。

一方で、本論では触れなかったが、外国人労働者の人権について問題提起をしておきたい。マレーシアでも、業者による外国人労働者の搾取やメイドに対する虐待などを中心に外国人労働者の人権問題が生じている。米国は、2014年6月発表の人身取引レポートでマレーシアを最低のカテゴリーにダウングレードした12。特に大量の非合法労働者が雇用主やエージェントに対して弱い立場におかれ、賃金の支払いを拒否されたりパスポートを取り上げられて労働を強いられたりしている点が問題視されている。

マレーシアの場合、外国人労働者の多数は問題なく働いている一方、あまりに大量の受け入れを行っているため、行政の事務や監督が追いついていないように思われる。外国人労働者については圧倒的に「買い手市場」であるが、それに甘んじて高圧的な態度が許されると政府・雇用主・エージェントが考えているとすれば、問題は大きい。

外国人労働者や移民政策について議論するとき、それを、単なる労働力の需給ギャップを埋めるための「数字」として捉えることは適切でない。一人の労働者が外国人として一定期間働くとき、受け入れ国は、「この国で働けて良かった」という経験を提供できるだろうか。この点が満たされなければ、外国人労働者や移民政策は、送出国・受入国双方にとって長期的にプラスにならない。

脚 注


  1. The Labour Force Survey Report, Malaysia, 2012 (http://www.statistics.gov.my/portal/index.php?option=com_content&view=article&id=1864&Itemid=169&lang=en
  2. 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ、厚生労働省 (http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000036114.html
  3. Demographic Indicators, Malaysia (http://www.statistics.gov.my/portal/download_Population/files/demo/Risalah_Indikator_Demografi_Malaysia_2013.pdf)
  4. Population Statistics (http://www.statistics.gov.my/portal/download_Economics/files/DATA_SERIES/2013/pdf/21Perangkaan_Penduduk.pdf)
  5. United Nations, World Population Prospects (http://esa.un.org/unpd/wpp/unpp/panel_population.htm)
  6. Astro Awani, “Major crackdown on illegal immigrants after Hari Raya - Zahid” 2013年7月23日付 (http://english.astroawani.com/news/show/major-crackdown-on-illegal-immigrants-after-hari-raya-zahid-18873)
  7. The Malaysian Insider, “Malaysians, not foreigners, behind most crimes, says Home Minister”, 2013年10月30日付 (http://www.themalaysianinsider.com/malaysia/article/malaysians-not-foreigners-behind-most-crimes-says-home-minister#sthash.GGQCHwxc.dpuf)
  8. The Labour Force Survey Report, Malaysia, 2012 (http://www.statistics.gov.my/portal/index.php?option=com_content&view=article&id=1864&Itemid=169&lang=en)「Elementary Occupation」は、「単一のルーチンワークで、主に手持ちの用具の使用を必要とし、時にかなりの肉体労働を要する」と定義されており、いわゆる単純労働である。
  9. JETRO、投資コスト比較 (https://www.jetro.go.jp/world/search/cost/
  10. Portal Jabatan Imigresen Malaysia - Foreign Worker ( http://www.imi.gov.my/index.php/en/main-services/foreign-worker
  11. Programme Statistics, MM2H Official Portal (http://www.mm2h.gov.my/index.php/en/home/programme/statistics)
  12. US Department of State, Trafficking in Persons Report 2014 (http://www.state.gov/j/tip/rls/tiprpt/2014/index.htm
本稿の内容及び意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。