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馬英九訪中の可能性と台湾の国際的地位

海外研究員レポート

台湾

2013年10月発行
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馬英九政権発足後、台湾と中国の関係改善が進んだ。中国は国際組織への参加など台湾側の希望を理解するとの立場を表明するようになった。しかし、台湾の国際社会への参加は中国との関係改善と比べると劇的な進展が見られない。この背景には中国の台湾に対する基本的な方針として、「二つの中国」や「台湾独立」に反対し続けていることがあげられる。

台湾は1971年の国連追放後、国連専門機関からも追放を受けた。台湾が国連専門機関からの追放後、初めて再参加を果たしたのが、2009年の世界保健機関(WHO)総会である世界保健大会(WHA)へのオブザーバー参加であった。これに続いて、9月には42年ぶりに国際民間航空機関(ICAO)の総会に台湾の代表が出席することが実現した。ちなみに、台湾が2002年に加盟した世界貿易機関(WTO)は国連の関係機関であるが、専門機関ではない。また、馬英九総統は今年7月、来年に中国で開催されるアジア太平洋経済協力(APEC)非公式首脳会議への出席を希望すると述べた。ただし、馬英九総統は後に内容を後退させ、その実現可能性は高くないと述べた。

しかし、これらは馬英九政権が中国との間で何らかの接触を行った結果に基づくものと理解されている。そして、馬英九政権は自らの実績を作るために、むしろ、中国側に大きな譲歩を迫られている、あるいは行うのではないかという懸念が野党や政権に批判的なメディア、学者から出ている。本稿では、馬英九政権時代における国際社会への参加と、これに関わる馬英九政権と中国側との妥協に対するについて取り上げる。


(1)ICAOへの参加
9月13日、台湾の外交部は第38回ICAO総会(同24日、カナダのモントリオールで開催)への招聘状が届いたと発表した。台湾からは交通部民航局の沈啓局長を筆頭とする代表団が同総会に出席した。これは1971年の国連追放に伴い、ICAOから追放されて以来、42年ぶりの参加である。台湾のメディアにはこれをICAOへの「復帰」と呼ぶ場合もあった1。しかし、ICAOにおける台湾の扱いは、あくまで理事会議長2による総会への「招待客」(invited guest)という扱いである。台湾はICAOにおける加盟資格の回復あるいは正式加盟を果たしたわけではない。台湾は「中華台北」(Chinese Taipei)と呼ばれ、国際組織の事務局からの招聘状を受けて、ようやく総会に出席できる。ただし、それは台湾の権利でなく、あくまで、事務局の判断による。将来、中国と台湾の関係が悪化するなどの政治情勢が変化すれば、招聘状が来なくなる恐れがある。今回ICAOが台湾に与えた「ゲスト」はWHO総会におけるオブザーバー3と異なる呼称であるが、その問題点は共通するところが大きい。

実はICAOにおいてもオブザーバーは存在する。従来、馬英九政権はこのオブザーバーとなることを目標としてきたが、今回は「招待客」に留まった。また、代表団の筆頭も、WHO総会での衛生署長(閣僚)と比べると、ランクが下がったように見える。とはいえ、ICAOでのオブザーバーも恒久的な地位ではない。出席者のランクについても、中国側の出席者である李家祥民用航空局長も閣僚でないことから、台湾だけが閣僚を出席させなかったとはいえない。やはり、WHO総会への参加と大差はない。しかし、外交部は台湾国内での批判を避けようとしたのか、「招待客」をあえて「特別ゲスト」(中国語では「特邀貴賓」)と翻訳した。

また、今回のICAO参加は昨年9月7日の連戦・胡錦濤会談4で、中国側が容認姿勢を示した結果である。中国の了承がICAO参加の一要因であったことは、史平外交部次長も言及している5。ロベルト・コーベICAO理事会議長も「台湾を招待客としたことは中国の提案であった」と認めた6。そもそも、中国はICAO理事会の有力なメンバーであり、こうした発言はある意味当然であった。ただし、林永樂外交部長も中国との妥協を余儀なくされたことを認めつつ、「中国側の条件をのみ込んだわけではない」と釈明し、台湾が将来、オブザーバーの地位を獲得できることを望むと述べた7。この発言がどのような交渉の過程を指すのか不明であるが、WHO参加時も「中華台北」よりも台湾にとって不都合とされる「中国台湾」などの名称を中国側が主張していた。今回もそれを繰り返していたのかもしれない。

野党寄りのメディアは、馬英九政権、外交部の対応に批判的な報道の仕方をした。また、野党に近い国際法学者も「特別ゲスト」という翻訳の問題、WHO同様ICAOでも「ゲスト」にせよ、「オブザーバー」にせよ法的な地位を得たことにならないこと、航空政策上の支障がないにもかかわらず地位問題で中国と妥協する必要はなかったと批判した8。しかし、台湾国内の政局は「9月政争」9一色であり、野党である民進党は2009年のWHO参加時と違い、ICAO参加について目立った反応を示していない。


(2)馬英九総統のAPEC出席の可能性
台湾は既にAPECの正式なメンバーであるが、台湾は経済分野の人物を総統の代理として派遣することが求められていたほか、外相会議への参加も認められてこなかった。陳水扁総統時代、2001年のAPEC上海会議の際に陳水扁総統自身や李元簇元副総統、2005年のソウル会議の際も自身や王金平立法院長の出席を打診したが、いずれも拒否されている。

しかし、馬英九政権発足後の2008年から2012年までは連戦元副総統、2013年は蕭萬長前副総統の派遣が実現している。互いの国家要人としての肩書を用いていないが、連戦元副総統はAPEC出席の都度、中国の胡錦濤国家主席と会談し、蕭萬長前副総統も同じく習近平国家主席と会談した。

そして、2013年8月14日、馬英九総統は来年に中国で行われる予定のAPEC首脳会議への出席にも意欲を示した10。これに対して、中国の孫亞夫国務院台湾事務弁公室副主任は同19日に、その可能性を否定する発言をした11。しかし、2013年APECには対中国政策を担う王郁琦大陸委員会主任委員と中国側の対台湾政策を担う張志軍国務院台湾事務弁公室主任がそれぞれ同行し、その場を借りて会談を行った。その際、双方は互いの官職名を使って呼び合った12

これまで台湾と中国の関係は、半官半民の窓口組織である海峡交流基金会と中国側の海峡関係協会を仲介したものであった。しかし、APECの場を借りる形で、こうした窓口組織を仲介しない新しい関係が模索されつつあるようにも見える。特に今回のAPECでは、これまで両会に交渉を委託してきた中央省庁のトップ同士が直接会談した意味は大きい。また、蕭・習会談もその官職名の使用を避けたが、昨年2012年に退任したばかりの蕭萬長前副総統に交代している。これまでAPECにおける馬英九総統の代理を務めてきた連戦元副総統は自らを中国人であると述べたことがあるほか、中国との関係が悪化していた陳水扁政権時代に敢えて中国共産党との政党外交を始めたことから、国民党の中でも特に中国寄りと見られている。彼を外したことは、やはり台湾と中国の関係が新しい形態に移りつつあることを示唆しているのかもしれない。いずれにしても、馬英九総統のAPEC出席、そして中国訪問を実現させる可能性は高まっている。

しかし、中国と台湾の関係が、普通の国同士のような外交関係となる可能性は依然として低い。むしろ、馬英九総統のAPEC出席という成果を中国から引き出すに当たって、何らかの条件が中国側から付きつけられる可能性もある。そして、出席するAPECのホスト国がほかならぬ中国であることも、馬英九政権の対中国政策を批判する人々や野党からは不安材料と見られている。今のところ、具体的な交渉内容は漏れ聞こえてこないが、2011年に馬英九総統が言及した平和協定など政治分野の取り決めを行う可能性がある。少なくとも、中国側からは、それを強く求められているはずである。


(3)自由貿易協定の締結
自由貿易協定(FTA)では、香港が台湾よりも遥かに多く締結している。陳水扁政権時代、台湾は国交がある中米諸国とのFTAを締結したが、中国の妨害のためニュージーランド、シンガポールとのFTA交渉が中断した。一方、香港もニュージーランドとのFTA交渉を一時中止したが、これも中国政府の圧力のためと考えられる。そのため、香港も中国とのCEPAを除けば、第三国とのFTA締結ができなかった。その意味で、馬英九政権発足時、FTA交渉に関する台湾と香港のスタートラインはほぼ同じであった。

しかし、香港は既にニュージーランド(2010年)、ヨーロッパ自由貿易連合の4カ国(2012年)、チリ(2012年)とのFTAが締結済みである。さらに、中国の李克強副首相は2011年8月の香港訪問時に、香港の東アジア地域強力への参加および中国が既に締結したFTAへの香港の加入を支援することを検討すると表明した13。また、陳德銘商務部長はより明確に、香港とASEANのFTA実現を目指すと述べた14。香港とASEANのFTAが未だ実現していないのは、ASEAN側に反対の声があるためで、中国政府が政治的問題を提起したからではなさそうである15

しかし、台湾の場合は、馬英九政権発足後、ニュージーランドとの経済協力協定(ECA、FTAに相当、2013年7月締結)が締結されたのみである。シンガポールとは締結間近であるとされるにとどまっている。また、このニュージーランドとのECA締結は同国首都であるウェリントンで行われた。これに対して、中国は締結に反対しないものの、「一つの中国原則」の遵守を求め、ニュージーランド政府の庁舎で調印式を行わないよう要求してきた16。また、馬英九政権に批判的な日刊紙、自由時報はニュージーランドとのFTA締結が台湾を「香港」と同格に扱っており、さらには締結が中国(2008年締結)だけでなく、香港にまで先を越されたことを批判した17


(4)台湾の国際空間と地位
ICAOやAPECの事例をみると、馬英九政権と中国との関係改善は確かに台湾が参加できる国際組織や会議などの国際空間を拡大している。しかし、これには党からは参加にあたっての名義や地位について懸念も示されている。つまり、台湾の国際社会への参加を考える場合、その幅あるいは空間の広さと、そこでの台湾の法的な地位という二つの問題が存在する。

台湾の現状については、台湾においても様々な議論がある。国民党は中華民国の存在を支持、擁護する立場をとっているが、民進党はもともと中華民国という統治機構が台湾において外来政権であったとの認識を示すことが多い。しかし、与党の国民党や最大野党である民進党、世論の多数は、台湾が「中華人民共和国の一部ではなく、独立した主権国家である」という認識で一致している。

とはいえ、台湾あるいは中華民国は国際社会から国家として承認されていないため、現実にはその国際空間は極めて狭い。中国の中の特別行政地域である香港やマカオと比べても、そうである。例えば、香港の行政長官はAPEC非公式首脳会議へ出席してきた18。WHOでは主権国家でない香港に加盟資格はなく、同総会では中国政府代表団に香港政府から人員を派遣する形での参加となる。しかし、WHOの地域会議では香港やマカオが「地域」として参加をしてきた。他の国連専門機関においても、香港はWHOと同様の方法で参加をしている。また、一部の国連専門機関では準加盟しているほか、世界気象機関のように香港に「地域」として正式加盟を認めたケースもある。台湾には馬英九政権発足後も、まだ二つの国連専門機関への参加が実現しただけである。香港のようなこうした広い国際空間は未だ台湾に与えられていない。

仮に台湾が中国との協定の中で、香港やマカオに準ずる地位に甘んずると認めるならば、おそらく、国際空間は広がるかもしれない。野党はその可能性を懸念し、馬英九総統のAPEC出席を警戒している。しかし、それは台湾の世論に受け入れられず、また馬英九政権、国民党にとっても致命的な打撃を与えるはずである。おそらく、馬英九政権は香港やマカオ以上の地位をもとめ、中国は台湾に「主権国家」未満の地位を与えようとし、双方の間で妥協点を探っていると思われる。

仮に馬英九総統のAPEC出席で、中国と台湾の関係が新しい形態に移る、あるいは新形態も併用した関係へと移行する場合でも、台湾の国際参加が大きく進展するとは限らない。その大きな要因は、台湾において政権交代が起きる可能性がある点であろう。国民党ではなく、民進党の政権ができれば、中国との関係が悪化ないし、停滞する可能性がある。民進党でも中国との関係を強化するべきか議論があるが、それには台湾の地位について同党の主張から妥協する必要があり、困難である。そのため、中国は台湾の国際空間拡大を小出しにして、後々、台湾側が中国側に交渉を求めざるをえない余地を残しておく必要がある。さらに、中国が台湾を主権国家と認めるようがない限り、国際組織への参加は限定的なものにとどまる。中国と統一せず、完全な主権国家としての承認も得られない現状を維持する限り、香港やマカオ以上の国際空間を得ることは事実上無理ではないか。

そう考えると、馬英九総統のAPEC参加、平和協定の締結は、双方の思惑が一致せず、実現しない可能性も少なくない。仮に実現しても、台湾の世論が評価する可能性は低く、既に支持率が低迷している馬英九総統は、自らの後継者に政権を引き継がせることは難しい。ならば、なおのこと中国が譲歩をする動機は小さくなるのかもしれない。その場合、双方の関係が、より政府間関係に近い新しい形態への移行もどの程度進むのか、不透明になるだろう。



脚 注
  1. 例えば、「暌違42年 我重返國際民航組織」『自由時報』2013年9月23日。
  2. ICAO総会の開催は3年に1回のみである。このため、総会のもとに主要加盟国の代表で構成される理事会が設置され、実務的な決定の一部を担っている。
  3. WHO総会における「オブザーバー」には、台湾のように事務局の招聘状を受け取る以外に、総会決議により招聘され、事務局の意向に影響を受けず参加する資格があるパレスチナなどの事例もある。
  4. 両者がAPEC首脳会議への出席のためウラジオストクを訪れた際に行われた。ただし、連戦は元副総統、胡錦濤は中国国家主席という国家要人の肩書の使用を避けた。
  5. 「外交部:3因素促成ICAO案」中央社 2013年9月13日。
  6. 「ICAO主席︰邀台灣出席 中國建議的」『自由時報』2013年9月25日。
  7. 「外長:參與ICAO未受陸條件」中央社 2013年9月25日。
  8. 「出席ICAO 學者批 台灣淪中國帶進場貴賓狗」『自由時報』2013年9月27日。
  9. 王金平立法院長(国民党)が曽勇夫法務部長(9/6辞任)に対して、柯建銘民進党立法党団総招集人(議員団長)が被告とされた企業の不正経理問題裁判の控訴をやめるよう電話で話した。この事を黄世銘検察総長から報告を受けた馬英九総統は王院長を非難し、辞任を要求。国民党も王院長を除名する処分を行った(ただし、王院長は同措置の保留を命じる仮処分を裁判所から勝ち取った)。
    しかし、馬総統の受けた報告内容が最高検特捜部による不適法な盗聴によって得たことや、特捜部の盗聴が柯建銘や王院長だけでなく、立法院全体に及んでいたとの疑惑が持ち上がった。このため、王院長や柯建銘および民進党だけでなく、与党所属の立法委員からも検察への批判が吹き出した。与野党間だけでなく、与党内でも馬英九総統および江宜樺行政院長らと、立法委員の間の不信感が高まった。
  10. 「馬總統:我不能去APEC 對台灣不公平」『聯合報』2013年8月16日。
  11. 「馬要親臨APEC 陸潑冷水」『工商時報』2013年8月20日。
  12. 「王郁琦張志軍互稱官銜 立委:請君入甕」『自由時報』2013年10月7日。
  13. 「李克强公布中央支持香港六大措施」『中国新聞網』2011年08月17日。
    「中央挺港共贏振中華 李六點繪港新藍圖」『文匯報』2011年8月18日。
  14. 「陳德銘:內地將助港與東盟自貿區談判」『文匯報』2011年8月17日。
  15. 「香港將與東盟尋求締結自由貿易協定」『新聞公報』2013年4月26日。
    「打造一國兩制的香港自由港「升級版」」『鏡報』2013年10月。
  16. 「中國阻撓 台紐明簽ECA 避開官方場所」『自由時報』2013年7月9日。
  17. 「又一個香港模式」『自由時報』2013年7月10日、
    「中國、香港先簽 馬政府才敢跟紐西蘭簽」『自由時報』2013年7月10日。
  18. マカオはAPECに参加していない。


本稿の内容及び意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。