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『粉糸営業』:新興携帯電話企業「小米」の急成長の秘密に迫る

海外研究員レポート

中国

2013年10月発行
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この1、2カ月間、モバイル通信業界で最も注目されるニュースといえば、老舗のノキアとブラックベリーがスマートフォン販売の業績不振のため相次ぎ買収されたことだろう。前者は、70億ドルでマイクロソフトによって買収され、後者は47億ドルでカナダのFairfax Financial社から買収が打診されている。しかし、ほぼ同時期に中国のある新興携帯電話会社は、株式上場に向けて新しいラウンドの融資を受けた際に、100億ドルもの資産評価を受けていた。コンシューマーエレクトロニクス業界の栄枯盛衰を浮き彫りにした出来事である。

表1 2011-13年における中国のスマートフォン出荷台数(単位:百万台)
順位 会社 2011 2012 2013上半期 2013予測
1 華為 19 33 22 48
2 聯想 4 32 20 48
3 中興 13 30 18 40
4 酷派 7 20 17 38
5 小米 0.6 7 7 19
6 TCL 1.4 6.5 5 18
7 金立   10 7 17
8 天語   10 8 16
9 OPPO   7 6 13
10 BBK   4.5 5 13
トップ10合計   45 160 115 270
その他中国メーカー   5 60 70 140
中国メーカー合計   50 220 185 410
注:内販と輸出のデータの双方を含む。2Gスマートフォンのデータを含む。
出所:潘九堂氏のミニブログ(元出所は赛諾/華強電子産業研究所 2013年7月推計)


この新興企業は2010年に創業した小米という会社である。当社は、2013年の上半期だけで前年を上回る703万台の販売実績を創出しており、セットアップ・ボックスやイヤーフォンなどの周辺グッズを含めた売上はすでに昨年(126億元)を上回る132.7億元にまで達している。表1は2011年以降の中国における地場企業会社のスマートフォン出荷台数の集計である。この表からも小米の驚異的な成長ぶりが窺える。なお、その他中国メーカーの合計の数字にも注目していただきたい。中国の雑多な中小携帯電話会社の出荷状況を示しているが、こちらも小米に負けないぐらいの伸び率を見せている。ダイナミックに変化している中国の携帯電話業界では、第2、第3の小米がいつ表れてきてもおかしくないような数字である。

小米の成功は、一般の携帯電話会社の成長の軌跡からすれば異例と言わざるをえない。この会社は、一応インテグレーターとデザインハウスの双方の機能を備えている。しかし、輸出もせずもっぱら中国の内販に特化している。専門店や量販店などの伝統的な販売チャネルは一切使用せず、テレビや新聞、インターネットなど、マスコミでの広告も全く出していない。しかも、その販売価格は同じスペックの携帯電話と比べると格段に安い。例えば、1.5Gのデュアルコアで、4インチのスクリーン、待機時間が450時間、800万画素のカメラ、というスペックの場合、HTCやサムスンなら3000‐4000元の価格設定をするが小米はわずか1999元で販売してしまう。単なる価格競争なら一時的に販売台数を増やすことは可能でも、投資家から認められ、ノキアを上回る資産評価を受けることはあり得ないだろう。小米の急成長を支える要因はいったいどこにあるのだろうか。

結論から言うと、小米はインターネットの恩恵を最大限に活用することで、今日の成功を手に入れた。小米は、チャイナーユニコムへの一部のオーダーメイド機種を除けば、すべての携帯電話を電子商取引サイトで販売している。物流は凡客誠品という大手B2Cサイトに完全にアウトソーシングしている。この伝統的な販売手法を放棄したやり方は、マーケティング面で必要な巨額の固定費を節約し、同社製品の価格の安さに寄与した。

インターネット販売を成功させるには、さまざまな要素が必要不可欠である。小米に関しても、IT業界での豊富な経験を有する経営陣の存在や、インターネット販売に適した組織体制の構築など、多くの要因が指摘できる。ただ、今回の報告では、「粉糸営業」(Fans marketing)という一点に焦点を絞って検討していきたい。

粉糸は中国語で本来、春雨のことを指しているが、その発音が英語のFansに似ているため、最近ファンの意味で使われることが多い。小米のファンは、「米粉」と呼ばれる。粉糸営業とは、企業がその優れた商品もしくは高い知名度を利用して多くの消費者をファンにして、ファン同士やその関係者間の口コミを通じて、営業の目的を達成するビジネスモデルである。

小米のすごさは、「粉糸営業」を極限にまで追求したことにある。小米携帯を取り巻く関係者の内訳を見ておこう。

小米フォーラムの登録ユーザー:700万人;
小米社や関連する製品のミニブログ(中国版ツイッター)のフォロワー:550万人;
小米の経営陣および従業員個人のミニブログのフォロワー:770万人;
WeChat(中国版LINE)のユーザー:100万人


相当の重複も考えられるが、ざっと計算して小米関係者が1000万人を超えていることは間違いない。この1000万人以上の関係者のうち、米粉にカウントされる小米の忠実なファンの数は100万から200万人に上ると指摘されている。2012年の約700万台の販売台数のうち、2~4台を購入した消費者が全体の42%に達していることからも、米粉の大きなプレゼンスが裏付けられる。

それでは、小米はどのように膨大な消費者を忠実なファンに変えていったのだろうか。その経験を以下の5点にまとめてみた。

第一に、小米は、インターネット上の米粉の意見交換の場として、小米フォーラムを設立した。2012年時点で、同フォーラムの登録者数が707万人、一日当たりの投稿数が12万件、総投稿数が1.1億件に達している。通常のインターネットフォーラムとは異なり、小米フォーラムは、「同城会」というファンクラブを設立している。同じ都市に暮らしている米粉たちが定期的に集まって活動を展開している。現在、「同城会」の拠点は31省に分布している。各地の同城会は自発的に活動を展開する一方、小米としても2週間に一度、異なる都市で「小米同城会」を開催している。開催地の決定は、メンバー数の多寡によって決められ、毎回インターネットで募集した同じ市のメンバーから30~50名を選び、小米社のエンジニアと交流してもらっている。

第二に、ミニブログやWeChatなどのいわゆる新興メディアを活用することで、ファンを増やした。ミニブログはツイッターのように、非常に短い文章と、写真や動画などを組み合わせることで情報発信している。小米の新興メディア担当の黎氏はデザイナーの出身であり、プロダクトマネジャーとしての経験も豊富で、ミニブログの活用方法を熟知していた。これに加えて、小米が創業した2010年は、ちょうど中国でミニブログが爆発的に広がる年だった。小米はこのタイミングをうまくつかみ、様々なミニブログイベントを企画することで自社製品の知名度を一気に高めた。

たとえば、同社が初めて企画したのは「私が携帯電話マニア」というイベントである。創業者の雷軍氏はじめ、同社の経営陣はミニブログでいままで使った携帯電話を一通りおさらいした。その結果、ユーザーから大きな関心が寄せられ、およそ80万人のフォロワーが同イベントに参加した。2012年のミニブログで最高の転送数を誇る投稿も小米が企画したものだ。「新浪ミニブログが小米携帯電話2を発売」という投稿は、転送者に小米携帯が贈呈されるため、最終的に265万回転送され、フォロワーの数は一気に37万名増加した。

第三に、小米は「飢餓営業(Hungry Sales)」という独特の営業手法を駆使することで、消費者の小米携帯への期待を高めた。小米携帯は通常、金曜日にネットで予約した後、翌週の火曜日で購入できるようにしているが、それでもすべての予約者が手に入れられるわけではない。北京では、一時期、小米を手に入れることがコネのあることの象徴となるぐらいだった。このことは、かえって消費者の小米携帯への購買意欲を高めた。例えば、2011年12月18日に初めてこの販売手法を導入した際、わずか3時間で10万台の売上を達成した。そして、2012年4月6日の米粉祭りの際には、同じ10万台はわずか6分5秒で完売した。

第四に、オペレーティングシステムにファンの意見を最大限反映させることで、米粉の参画意識を高めた。小米携帯電話のオペレーティングシステムはMIUI(小米ユーザー・インターフィース)と呼ばれており、グーグルのAndroidプラットフォームをベースに開発されている。しかし、一般の消費者にしてみれば、MIUIのロゴやインターフィース、ユーザー体験はAndroidと全く異なるものになっている。それは、多くの米粉がMIUIの新規バージョンに対して、修正意見を提案しているためである。これまで、少なくとも70万人の米粉がMIUIに修正意見を出しており、MIUIの更新は週に1回のペースで行われている(Android自体は、3-5カ月に1回)。

携帯電話のロック解除の事例を紹介しておこう。通常のスマートフォンの場合、左から右へ指を滑らせることでロックを解除するのが一般的である。しかし、MIUIは、ファンの意見を受け入れることで数百に上る解除方法を考案した。例えば、トランスフォーマのファンなら、同テーマのロック解除方法を選ぶことができる。トランスフォーマのお腹を指し、その後手足の方向へ指を滑らせるだけでロックが解除される。このようなファンによる改善提案は100項目にも上る。

さらに米粉のなかには、「栄誉開発組(『栄組児』と略す)」と呼ばれる最高レベルのファンがいる。この人々には、未公開のMIUIの開発に対しても提案したり、新規バージョンを廃案にしたりすることが可能だ。極秘バージョンとされるMIUIV5の開発には、10名の「栄組児」が参加したが、小米との厚い信頼関係から開発秘密を厳守し、技術情報の漏えいは一切なかった。

第五に、小米はMIUIの開発時以外でも米粉の要望に真剣に耳を傾け、なるべく最高のユーザー体験を達成しようとしている。

この点は、小米携帯の独特の受信制限機能に象徴的に表れている。一般の携帯電話の場合、特定の個人からの受信を拒否するために、個々人ごとに設定をしなければならない。しかし、小米はある政府幹部の意見を受け入れ、よりユーザーにやさしい設定方法を開発した。具体的に、昼間にはすべての着信、退勤から就寝までの間は名簿に載った電話番号(つまり知り合い)からの着信、夜間にはごく一部の重要な電話番号からの着信のみ受信できるように、受信制限機能を工夫した。

米粉たちの意見を幅広く受け入れるために、小米はユーザーへのフィードバックを徹底している。小米フォーラムには一日当たり12万件の新規投稿があるが、うち実質的な内容がある投稿は8000件に上る。小米のエンジニアは一人当たり150件の投稿に回答しなければならない。すべての投稿に関して、収録済み、解決済み、検証済みといった進捗状況が明記されている。フォーラムのユーザーは自身のアドバイスがどのIDのエンジニアによってどこまで対処してもらえたのかが明確に把握できるため、自分が重視されているという満足感が十分に得られる。ミニブログに関しても、小米社ではフォロワーの意見に対して、15分以内に対応するというルールが確立している。創業者の雷軍本人も、毎日必ず1時間をかけてミニブログでフォロワー対応を行っている。


本稿の内容及び意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。