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スウェーデンで見た国家の強さ—求心力で測る場合—

海外研究員レポート

スウェーデン

2013年9月発行
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求心力としての国家の強さ
“The Imperative of State-Building”で、Fukuyama(2004)は、国家には国家機能の範囲(scope)と国家機関の強さ(strength)があるため、国家の評価はこれらの異なった次元を考慮する必要があると主張した。その上で、例として、フランスとアメリカは共に強い国家機関を持つが、後者は国家機能の範囲がより狭いと評価した。一方、国家機関の強さではシエラレオネ、トルコ、ブラジルとも弱いものの、シエラレオネに比べ、トルコとブラジルの国家機能の範囲は、より幅広いとした。

今回の現地情勢報告の関心事は、国家機関の強さである。一言で国家機関の強さと言っても、税務署は税を集める能力、教育機関なら教育の質などその尺度は決して一元的ではない。それぞれの機関の強さは、組織の業務目的に依存するからである。しかしこれらの国家機関の強さのもたらす空間的な結果は同一であるというのが、私の主張である。官庁ならば人材をどのくらい引きつけけたか、学校ならどれくらい学生を集めたか、市町村(City)ならどれくらい人々を引きつけたかのように、一元的に評価できる。強い国家と一般に評価される先進国には、政治、経済、教育など様々な移民、難民を強く引きつけている力があることは周知の事実である。一方東南アジア、南米など比較的弱い国家には、国外への移民に加え、今なお国家権力が及びにくいところに意図的にとどまるゾミア(zomia)という人々がいる(Scott[2009])。

国家単位でも強さと求心力の関係が窺えるが、面である領土から見れば国家機関は点としての存在に過ぎない。国家機関の空間的な求心力を確認するには、多くの国家機関が集中する首都や大都市圏ではなく、末端の機関が立地する遠隔な市町村(city)を見なければならない。本報告では、特に末端で公共財を提供するか、それに深く関わる市町村役場の求心力に着目し、スウェーデンの国家機関の強さを考察する。


理論的背景
人々がcityに生活、または取引のために集まる経済的な理由とメカニズムについては、いくつかの仮説が提唱されている。Weber他(1958)では、領主及び市場から生まれる需要が人々を引きつける要因としている。この領主は近代国家でいう市長とそれをサポートする組織であることは容易に想像できる。一般に非農業活動で生計を立てる領主や公務員の農産物などの需要が、職人、商人、農民を引きつけるということである。後者の市場では引きつける需要の源泉が、領主や国家機関ではなく、市場となる。これをモデル化したとも言えるものは、例えば、Fujita and Thisse(2002)の公共財としてのcityなどがある。これらのモデルでは、行政または民間が公共財を提供するために特定の場所を選んだ場合、その公共財が持続的に提供されるための仕組みと人々がそれを中心に集まるメカニズムが示されている。具体的には移動コストが存在するため、その他の条件が同じならば人々はできるだけ公共財が提供される場所の近くに住みたいが、近くなるにつれ地代も高くなる。町に住む人の所得が同一であれば、人々は公共財が提供される場所を中心に広がるように分布する。集まる住民の数は提供される公共財の水準によって決まる一方、特定地点の経済規模が住民の所得と輸送コストを除いた公共財の合計になるため、公共財が提供される地点をピークにその経済規模は減少して行く。

このモデルからは少なくとも次のようなことが言える。末端の国家機関が特定の場所に立地し、公共財の提供を始めれば、それによって人々とそれに伴う経済活動を引きつける力が発生する。集まった経済活動の規模は、公共財が提供される地点をピークに減少しながら広がって行く。


末端国家機関の強さ:ラオス、タイとスウェーデンの比較
スウェーデンを車で移動するのにカーナビを使うと、アジアでは使ったことのないとても便利な機能が一つある。人口が数千人の小さな町から100万人を超える大都市まで、どんな町でもcity center(町の中心)を行き先として一つのボタンで設定できる機能である。町の中心に行けば、ほとんどの用はそこですんでしまう。中心部はその町最大の商業地区があると同時に、stadshus(市町村役場)と教会の所在地となっている。この3大権力の中心が見事に一致する様子には、いつも不思議な感覚を覚える。さらに訪れたことのある多くの東南アジアの町ではほぼ考えられない、市町村役場そのものが観光名所にもなっている。膨大な予算を抱え、そして、多くの場面で市民生活に責任を持つ点で、スウェーデンの市町村役場が重要な存在であることは確かである。市町村役場が空間的に、経済活動の中心にあるかどうか、実際に確かめたいと考えるようになったが、300以上ある市町村をすべて訪れることは極めて難しい。しかし、多くの場合市町村役場所在地は、インターネット上で公開されている情報なので容易に入手できる。であれば、経済活動の分布を示すデータがあれば、上記の仮説を検証することが可能かも知れない。Henderson他(2010)によれば、経済活動の代替指標として、衛星で観察される人工夜間光量が使える。この二つを使い、まず国家機関の強さが明らかに異なるラオス、タイとスウェーデンで評価してみることにした。これらの国の行政区は大まかに、第1の全国レベル、第2の地方(Laen)・県(Province)、そして、第3の郡(District)・市(stad,kommun)となっているが、第3行政区では3カ国で約1300にのぼるため、ここですべての結果を表示することできない。本現地情勢報告では、プロットした結果の考察を次のようにまとめることに留めたい。

まず、第1(全国)及び第2(地方・県)の行政レベルまでは、スウェーデン、タイとも国家機関が経済活動を強く引きつける力を示している。しかし第3行政レベルではスウェーデンの市役所が安定的な求心力を示している一方、タイでは郡役場が経済活動の中心になっていないか、経済活動そのものが特定な中心を形成している状態になっていない場合が散見できる。例えば図1はスウェーデンの最北端にあるノーボテン地方のルレアー市の図が示されている。市役所所在地である赤い点が、面積当たり人工夜間光量がもっとも高い濃い青色の枠内にあることが分かる。これは市役所である赤点を中心に経済活動が分布していると解釈できる。このような傾向はスウェーデンのほぼすべての市で確認できる。一方タイについては、確かに郡役場所在地が観測される夜間光の中心にある場合が多数であるが、郡役場所在地と周辺の差は小さい。また図2のように、郡役場が経済活動の中心から離れている場合もある。国家機関よりも民間の求心力が大きいことを窺わせる結果となっている。ラオスについては、明確な求心力が確認できたのは全国レベルにおける首都のみである。第2行政レベルである県では、空間的な集中が確認できないほど、求心力の弱い県が存在する。図3は東北にある一つの県全体を示しているが、赤い点が県庁を示す。県庁周り以外は、空間的な経済活動の集中さえ起きていないのである。第3行政レベルである郡には、求心力がほとんど確認できないということである。

求心力を単純な空間的な立地で評価した場合、国家機関の強さは降順で、スウェーデン、タイ、ラオスとなることが分かる。これは、一般的な評価と整合性が取れていると言える。しかし、強さの格差が大きく異ならない国で比較を行う場合、中心点に対する集中度や引きつける力を目視で評価することはできない。明確な数量的な尺度が必要であるが、これについては今後の研究課題としたい。


図1 スウェーデンのルレアー市(最北のノーボテン地方)
図1 スウェーデンのルレアー市(最北のノーボテン地方)
(出所)人工夜間光量はDMSP-OLS(http://ngdc.noaa.gov/eog/)。行政区地図はGAUL(http://www.fao.org)市役所所在地はSwedish Association of Local Authorities and Regions(http://www.skl.se/)及びGEONAMES(geonames.org)。


図2 タイのタイチャロウン郡(ヤソートン県)
図2 タイのタイチャロウン郡(ヤソートン県)
(出所)人工夜間光量はDMSP-OLS(http://ngdc.noaa.gov/eog/)。行政区地図はGAUL(http://www.fao.org)。郡役場所在地はタイ語版wikipedia (th.wikipedia. org)。


図3 ラオスのシェンクアン県
図3 ラオスのシェンクアン県
(出所)人工夜間光量はDMSP-OLS(http://ngdc.noaa.gov/eog/)。行政区地図はGAUL(http://www.fao.org)。


参考文献
  • Fujita, Masahisa, Jacques-Francois Thisse (2002). Economics of Agglomeration: Cities, Industrial Location, and Regional Growth. Cambridge: Cambridge University Press.
  • Fukuyama, Francis. (2004).The Imperative of State-Building. Journal of Democracy 11(2):17-31.
  • Henderson, J. Vernon, Adam Storeygard, and David N. Weil. (2012). Measuring Economic Growth from Outer Space. American Economic Review 102(2):994-1028.
  • Scott, James C. (2009). The Art of Not Being Governed: An Anarchist History of Upland Southeast Asia. New Haven, CT: Yale University Press.
  • Weber, Max, Don Martindale and Gertrud Neuwirth (1958). The City. New York: The Free Press.


本稿の内容及び意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。