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西ケープ州の農場労働者によるストライキをめぐる考察

海外研究員レポート

南アフリカ

2013年5月発行
PDFpdf (452KB)
2012年11月、西ケープ州デドァーンズ(De Doorns)の生食用ぶどう(以下、ぶどう)農場において起こった労働者のストライキにより、農場労働者の労働条件や待遇をめぐる問題が改めてクローズアップされることになった。南アフリカでは、賃上げを求める労働者が団体交渉の手段としてストライキに訴えることは珍しくはないが、同年8月に起こったマリカナ鉱山での鉱山労働者によるストライキとそれに対する警察による暴力的鎮圧という悲劇的な結末が記憶に新しい最中で発生した農場労働者によるストライキは大きな注目を集め、政府は迅速な対応を迫られることになった。本報告では、2012年11月以降の新聞報道と2013年4月~5月にかけて実施された農場労働者を取り巻く状況に関する社会的対話でのヒアリングをもとに、西ケープ州の農場労働者によるストライキについて発生から収束までの事実関係を整理し、このストライキが提起した2つの問題について考察を加える。

(1) 西ケープ州における農場労働者のストライキの経緯

西ケープ州の農場労働者によるストライキの震源地となったデドァーンズは、ケープタウンから国道1号線沿いにおよそ150キロ北に位置する。ヘックスリバー・バレー(Hex River Valley)として知られるこの地域はぶどう栽培の中心地のひとつであり、国内の総生産量の3分の1を担っている。ヘックスリバー・バレー生食用ぶどう協会の会長によれば、同地域ではおよそ1万6000人の農場労働者が雇用されている。このうち主に農場に居住する常勤の労働者は5000人ほどで、残りはトウズリバー(Touwsriver)やウースター(Worcester)といった近郊の町やデドァーンズにある2つの非正規居住区1に住み、ぶどうの収穫準備が始まる9月から収穫の終わる4月まで雇用される季節労働者である。非正規居住区の住人には、東ケープ州、ジンバブウェ2、レソトからの移民労働者が多数含まれる3

■デドァーンズにおけるストライキの開始と要求
デドァーンズの農場においてストライキが始まったのは、マリカナ事件直後の2012年8月末とされているが、この時点ではストライキは一部の農場に限定され、参加者も限られていた4。それに対して、デドァーンズで農場労働者による抗議行動が可視化(本格化)したのは2012年11月5日、農場労働者が国道1号線において抗議行動を開始した際である。国道1号線はトウズリバーとデドァーンズ間で閉鎖され、道路上ではタイヤが燃やされ、30ヘクタールを超えるぶどう畑が破壊された。翌日には抗議の参加者が警察発表で推定8000人に増加した5。農場主の目撃談によれば、抗議者は、道路を行進しながら道路沿いのぶどう畑や牧草地に火を放ち、消火を試みる農場主に対しては投石が行われた6

ストライキの原因については、当初、意見が分かれていた。警察は賃金を巡る争いであるとしたのに対し、西ケープ州の与党である民主同盟(Democratic Alliance: DA)と西ケープ州農業大臣は政治的な動機に基づいた行動であり、特にアフリカ民族会議(African National Congress: ANC)のローカルな指導者が西ケープ州の治安を悪化させるために暴力行為を扇動している、と非難した。だが、抗議行動が始まって1週間後には、農場労働者の要求が、最低賃金を日給69ランド7から150ランドに引き上げること、にあることが明らかになった8

デドァーンズで始まったストライキは、1週間と経たないうちに西ケープ州内の16の町・地域へと拡大し9、警察との衝突によりウォーズレイ(Wolseley)で1名の死者と6名のけが人が出た。一部の町では抗議行動が過激さと暴力性を持っていた。西ケープ州の農場主団体(Agri Wes-Cape)は、梱包小屋の破壊、畑の放火、農作物の損害などを報告している10。抗議行動が複数の町に広がったことで、ヘレン・ジラ(Helen Zille)西ケープ州知事は、治安維持のために軍隊の出動をズマ大統領に要請したが、大統領府はこの要請を受け入れなかった11

■賃金を巡る交渉の開始とストライキの一時停止
マリカナ鉱山の悲劇が繰り返されることを怖れ、かつ抗議行動が複数の町に広がったことで事態を重く見た政府は、11月14日、農場労働者の最低賃金の見直しに雇用条件委員会(Employment Conditions Commission)が着手することを条件に、ストライキを一時停止(2週間)することを南アフリカ労働組合会議(Congress of South African Trade Unions: COSATU)に対して提案し、事態の収束を試みた12

デドァーンズで発生したストライキは、COSATUやその傘下にある食品関係労組の食品関連労働者組合(Food and Allied Workers Union: FAWU)などの既存の労働組合によって主導されていたわけではないという意味では自然発生的なものであった。だが、COSATU西ケープ州支部の首脳部は、農場労働者によるストライキを支持する声明を出し、デドァーンズで抗議者との対話を試みるようになった。FAWUも各地でストライキの参加者と対話を開始し、逮捕された抗議者の釈放について警察との交渉にあたるようになった。これら二つの労働組合は、農場労働者のストライキを主導したわけではなかったが、農場労働者の賃金交渉において労働者代表の役目を果たすことになった。
労働大臣による最低賃金見直しの提案を受けて、11月16日にはストライキが一時停止された。翌週には雇用条件委員会がウースターで公聴会を開始し、公聴会は12月半ばまでに全国各州で開催された。同時に、ケープタウンでは、COSATUを含む労働者代表とアグリ南アフリカ(AgriSA)を含む農場主代表の間で、調停・仲介・仲裁委員会(Commission for Conciliation, Mediation and Arbitration: CCMA)の後援のもと、賃金と労働条件について交渉が行われた。CCMAでの交渉の目的は、労働者代表と雇用者代表が雇用条件委員会に対して共同提案を提出することにあった13

11月末、ミルドレッド・オリファント(Mildred Oliphant)労働大臣は、「雇用に関する基本条件法(Basic Conditions of Employment Act)」の規定により、最低賃金の改定は前回の改定(2012年3月)から12カ月後にしかできないため、12月4日までに農場労働者の最低賃金の改定を行うことは不可能であると発表した14。この発表を受けて、ストライキの一時停止期限が切れた12月4日、西ケープ州のいくつかの町でストライキが再開されたものの15、翌5日にCOSATU西ケープ州支部書記長のトニー・エイレンライヒ(Tony Ehrenreich)がAgriSAとの次のような合意を発表し、ストライキは再び中止された。合意内容は、(1)日給150ランドの賃上げ要求と利益分配スキームについて農場ごとに交渉を実施する、(2)労働者は仕事に戻り、好きな組合に加入する、(3)これらの組合が農場ごとに農場主と交渉をする、(4)1月9日までに合意が形成されない農場では労働者が再びストライキをする、というものであった16

■ストライキの再開から収束へ
年が明けた2013年1月9日、デドァーンズでストライキが再開された。再開したストライキは暴力的なものとなり、道路ではタイヤが燃やされ、車両や警察への投石が行われた。ストライキ参加者のほとんどが季節労働者と見込まれ、メイル・アンド・ガーディアン・オンライン(Mail and Guardian Online)紙の報道カメラマンの証言によれば、若者や子供が抗議者の最前線を占めるようになった。警察は国道1号線を再び閉鎖し、放水やゴム弾、催涙弾で応酬、少なくとも50人を拘束した17。14日には警察のゴム弾により抗議者の1名が死亡した18。フラボウ(Grabouw)やウォーズレイでも抗議行動が報告されている。

デドァーンズを中心にストライキ参加者と警察の間の対立が激化する一方で、FAWU、COSATU、AgriSAの間では農場労働者の賃金を巡る交渉が続けられた。FAWUは、農場主が交渉を放棄・無視しているとして農場主を非難した。それに対してAgriSAは、日給150ランドの要求は農場主の支払える金額を超えており、賃金が大きく上昇すれば、農業部門は持続不可能なものとなる危険があるとの警告を繰り返した19 。批判の応酬はDAと三者同盟の間でも行われた。ANC率いる中央政府はストライキ収束のための努力を怠っているとDAが非難すれば、ANCと同盟関係にあるCOSATUや南アフリカ共産党(South African Community Party: SACP)は、DAが農場主に対して正当な賃金を支払うよう説得すれば問題は解決すると主張した20

農場労働者のストライキを支持し、要求を代弁するようになったのは既存の労組だけではなかった。ストライキをきっかけに、これまで西ケープ州内の農場労働者のコミュニティに対して啓蒙活動や開発支援を行ってきた複数の市民社会組織により、農場労働者連盟(Farm Workers’ Coalition)というネットワーク組織が結成された21。同連盟には複数の団体・組織が参加したが、特にデドァーンズの労働者の間で影響力を持つようになったのがワイン蒸留酒産業黒人協会(Black Association of Wine and Spirits Industry: BAWSI)の労働組合部門、南アフリカ農業労働者組合(BAWSI Agricultural Workers Union of South Africa: BAWUSA)であった。両組織の代表を務めるノージー・ピータース(Nosey Pieterse)は西ケープ州内では有名な指導者であり、農場労働者の代弁者としてメディアに登場するようになった。農場労働者のストライキが始まってから1月半ばまでに、BAWUSAは組合員がそれまでの2倍の6000人に増加したとされる22

農場労働者の賃金を巡る交渉が膠着状態に陥るなかで、収穫の最盛期を迎えたデドァーンズの農場主は他の地域から労働者を確保するようになった。結果、COSATU西ケープ州支部は生産を停止できない以上、ストライキを続けても意味がないとして、ストライキの継続を主張するBAWUSAを説得し、1月末までに農場労働者のストライキは収束した。11月以降のストライキをきっかけとする警察による逮捕者は少なくとも150人に上った23

(2)農場労働者に対する最低賃金の改定と雇用への影響

労働者によるストライキが各地で毎年のように起こる南アフリカにおいても、農場労働者によるストライキは非常に珍しい。外部世界との交流が少なく、組合に対する敵対心が強いと言われる農場主のもとで雇用されている農場労働者は組織化が難しく、労働組合による組織化率は5~6%と推定されている。それゆえ他の産業と比べて、農場労働者によるストライキは稀であり、ぶどうの収穫期という農場主がもっとも労働力を必要とする時期に、西ケープ州の基幹産業である商業農業部門において発生した農場労働者のストライキは、中央政府、州政府、農場主団体、労働組合、市民社会組織、研究者の誰もが予期せぬことだった24。このストライキを収束するための政府の対応も迅速かつ類を見ない内容となった。

西ケープ州の農場地帯に平穏が戻って間もない2013年2月4日、オリファント労働大臣は、農場労働者の法定最低賃金25を日給105ランド(9時間労働した場合)に引き上げること、この賃金改定は3月1日から施行されることを発表した。この改定は今後、3年間にわたり有効とされ、2年目、3年目には消費者物価指数プラス1.5%の割合で最低賃金が上昇改定されることになった。さらに、財政状況が非常に乏しく、105ランドを払えば倒産せざるをえないということを証明できる農場主は、監査済み収支報告書などを添付して労働省に申請すれば、最低賃金の適用を免除されることも定められた26。3月1日に施行された農場労働者の最低賃金は以下のとおりである。


表1 農場労働者の最低賃金(2013年3月1日~2014年2月28日適用)
月給 週給 日給 時給
R2273.52
(R1503.90)
R524.70
(R347.10)
R105.00
(R69.39)
R11.66
(R7.71)
注)日給は9時間労働の場合。()内は今回の賃金改定以前の最低賃金額。
出所)Department of Labour (South Africa), “Sectoral Determination 13 – Farm workers, 1 March 2013”; Department of Labour (South Africa), “Correction Notice, Sectoral Determination 13: Farm Worker Sector, 24 January 2012”, Government Gazette, No,35067, 24 February 2012, www.labour.gov.za.


農場労働者が要求していた日給150ランドには満たなかったものの、以前の最低賃金体系と比べると、日給105ランドは50%以上の上昇率であり、大幅な賃金改定となった。もともと非常に低い金額からの改定であり、日給105ランドが南アフリカで人間らしい生活を送るために十分な賃金かどうかについてはもちろん議論の余地があるが、今回の改定により、農場労働者の最低賃金は、同じく低賃金の職種である家事労働者の最低賃金をはるかに上回ることになった27。限定的ではあるが、農場労働者によるストライキという直接行動は具体的な成果を上げることができたのである。

他方、農場主側のショックと反発は激しく、オリファント労働大臣による賃金改定の発表に対し、農場主団体の中でも保守派として知られ、日給80ランドを主張していたトランスバール農業組合(Transvaal Agricultural Union: TAU-SA)は、最低賃金の急上昇は労使関係を危険にさらし、農業部門の労働者の減少と賃金のインフレにつながるものであるとして強く非難した28。また、多くの農場主団体が農場主に対して免除申請の提出を促した29。労働省の報告によれば、3月中旬の時点で1432件の免除申請が提出されたが、その40%以上が西ケープ州の農場主から提出されたものであった30。申請の有効性については、現在、労働省が審査中である。

賃金改定を巡る交渉や労働省による公聴会において、労働者側と農場主側の主張は平行線をたどった。日給150ランドを主張して譲らない労働者に対し、150ランド支払ったら離農しなければならない農場主が続出すると農場主団体は警告し31、食糧農業政策研究所(Bureau for Food and Agricultural Policy: BFAP)による農業部門の賃金に関する研究報告書の成果を考慮するよう求めた32。2012年12月に公表されたBFAP報告書は、果樹産業を中心に正規雇用から季節雇用へのシフトが進んでいること、季節労働者の賃金が最大でも日給84ランドにすぎないことなどを明らかにした上で、かりに労働者の最低賃金が20ランド引き上げられたら、典型的な農場は操業費用を賄うことができないと結論づけた。同報告書によれば、南アフリカの農業部門では賃金上昇圧力に対処するために機械化と農場の合併が進みつつあり、同国の農業は低賃金の非熟練労働者に依存する産業から、数は少ないが技術を持ち、賃金も高い労働者を雇用する産業へと移行しつつある33

今回の賃金改定が農場労働者の雇用全体に与える影響が明らかになるのはもう少し先のことだろうが、いくつかの地域では雇用への悪影響がすでに現実のものとなっている。労働省には、リンポポ州とムプマランガ州の農場主がおよそ2000人の労働者を解雇する予定であることについてAgriSAから報告が届いているという34。また、ヘックスリバー・バレー生食用ぶどう協会の会長は、昨年11月のストライキ以降、デドァーンズの農場主は通常より2割ほど少ない労働者を雇用し、除草剤を使用するなどできるだけ労働者を減らす方法を採用するようになったとしている35。デドァーンズの農場労働者も、賃金改定後、一日当たりの労働時間が短縮され、少ない時間と人数で以前と同様の作業をこなさなければならないなど労働負担が増加したことを証言している。さらには、労働者の家庭内で病人が出た場合に以前は農場主が診療所まで病人を車で運んでくれていたが、賃金改定後は農場主がこういったサービスを拒むようになったという問題も報告されている36。ストライキを通じて、農場主と労働者の間のパターナリスティックな関係が崩れ、農場主が提供してきたある意味でのセイフティ・ネットが消失しつつあると言える。

(3)農場労働者の組織化と代表性

農場労働者のストライキが提起したもう一つの問題は、農場労働者の組織化と代表性に関するものである。西ケープ州のデドァーンズで始まった農場労働者のストライキは、同州内の他の町・地域へは拡散したが、他州には広がらなかった。このことは、西ケープ州の農場主や州政府を大いに困惑させ、ストライキが政治的動機に基づいたものであるとの誤解を生むことになった。西ケープ州の農場主からすれば、西ケープ州の農場労働者は他州の農場労働者と比べると賃金水準が高く、最低賃金の支払い準拠率も高い37。にもかかわらずストライキが西ケープ州に限定されていたことが不可解であった。DA党首のヘレン・ジラは、3月17日に「農場ストライキの背後にある本当の話」と題するエッセイを発表し、デドァーンズのストライキはローカルなANCの指導者により扇動されたものであり、その目的はDAの支持基盤となっている農場主と農場労働者の対立を煽ることにある、との持論を展開した38

だが、農場労働者側は政治的動機を完全否定している。メール・アンド・ガーディアン・オンライン紙の記者に対して、ある農場労働者は次のように答えている。「ストライキは誰が組織したものでもない。DAが西ケープ州の与党であることも関係ない。これは労働者と労働者の感情についてである。われわれ労働者の生活状態と賃金はひどいものである」39。ストライキ終焉後に開かれたNGO主催のワークショップに参加したデドァーンズの農場労働者も、ストライキが政治的動機を持っていたことを否定し、賃金と生活条件の向上を求める行為であったと証言している40

農場労働者連盟に参加したNGO余剰人口プロジェクト(Surplus People Project: SPP)のロナルド・ウェッソ(Ronald Wesso)は、「自然発生的」に見えたデドァーンズにおける農場労働者のストライキは、実際には農場単位で存在する農場委員会によって主導されていたと述べている。ところが賃金交渉が始まると、交渉力に長けたCOSATUやBAWUSAの指導者達が抗議者の代弁者としての役割を果たすようになった41。指導者交代がどのような形で起きたのかは不明であるが、COSATUもBAWUSAも、農場労働者の要請を受けて農場主との交渉に臨むようになったと主張している42

COSATUが組合員ではない農場労働者のストライキに介入せざるを得なかったのは、おそらくマリカナ鉱山での経験が関係している。COSATU西ケープ州支部書記長のエイレンライヒは、農場労働者のストライキとマリカナの鉱山労働者のストライキは、労働者が組合に組織されていないという点でのみ類似性があるとし、次のように述べている。「労働者が方向性やガイダンスなしに自分たちで行動を起こすときには、危険が伴う。なぜならば、彼らは法律のパラメーターなどを理解しないから。警察の介入を誘い込み、対立が暴力的になってしまう」43。エイレンライヒは、農場労働者のストライキが進行中、幾度も組織化の重要性を訴え、実際にBAWUSAという比較的新しい組合が特にデドァーンズの農場労働者の間で支持を拡大することになった。BAWUSAはCOSATUやFAWUと友好関係を保っており、その点ではCOSATUと同盟関係にある全国鉱山労働者組合(National Union of Mineworkers: NUM)に敵対する鉱山労働者建設組合協会(Association of Mineworkers and Construction Union: AMCU)が鉱山労働者の間で急速に支持を拡大しつつあったマリカナ鉱山とは状況が異なっているように見える。

ストライキが収束し、新しい最低賃金が施行された後も、農場労働者連盟は日給150ランドの実現を求めて3月23日に議会でデモ行進をするなど、ストライキをきっかけとする農村住民による社会的闘争のモメンタムを継続させようとする動きは続いている44。その一方で、農場主と労働者の代表を集め、農業部門の将来について考える社会的対話の試みも中央政府や州政府の主導でいくつか行われている。そこで明らかになりつつあるのは、COSATU、BAWUSA、FAWUといった組織が農場労働者の代弁者としてますます重要性を増しつつある一方で、農場労働者自身の声がどこまで反映されているかが見えづらくなってきていることである45。5月4日に開催されたワークショップに参加したデドァーンズの農場労働者は次のように述べている。「ストライキ中には労働組合が助けてくれたが、彼らはもうどこにもいない。最低賃金改定後、労働時間の短縮と労働強化など条件が悪化していることに対して自分たちだけで立ち向かわなければならない状況になっている」46

おわりに

農場労働者のストライキが始まった当初の2012年11月半ば、ティナ・ジョエマット=ピーターソン(Tina Joemat-Petterson)農業大臣は、ストライキは「農業における歴史的瞬間」であり、「われわれは挑戦に立ち向かわなければならない」と述べた47。ストライキ収束後、農場労働者の最低賃金が大幅に改定され、西ケープ州の農場労働者の労働条件や待遇に関する社会的対話の試みが複数、開始されるなど、確かにこのストライキは農場労働者問題を重要な政策課題に押し上げることに成功した。5月11日には、ハレマ・モトランテ(Kgalema Motlanthe)副大統領が中央政府の大臣(農業、通産、労働)、副大臣(農村開発土地改革、人間居住、法務憲法開発)ならびに州政府の3大臣(農業、文化問題スポーツ、社会開発)をデドァーンズに集め、農場主および労働者の代表との政策対話を行ったほか、大規模なコミュニティ会合も開いた48。こういったハイレベルな政策対話が直接、具体的な政策に結びつくわけでは必ずしもなく、参加した西ケープ州農業大臣は来年の選挙を見越した政治的パフォーマンスに過ぎないとの批判を後日、発表した。だが、西ケープ州政府自身も独自に農場労働者の待遇改善のための「12段階行動計画」を発表しており49、これまでANC政府による農業・農村開発政策においては必ずしも優先権を与えられてこなかった農場労働者の労働条件・待遇をめぐる問題に対して、かつてなく大きな資源が注がれようとしている兆しはある。

農場労働者を取り巻く問題が一筋縄ではいかないことは確かである。BFAP報告書は、農場労働者の賃金が上昇すれば、農場主は機械化を進めて労働費用を削減するほかに方法がないという点に加えて、農場労働者の賃金に関してより大きな問題提起も行っている。それは、農場主にとって支払うことのできない日給150ランドの賃金をもってしても、ほとんどの労働者世帯は必要な栄養を得るための食料を確保することができない、ということである50。今回のストライキでは賃金が最大の争点であり、政府による直接・短期的な対応も賃金改定の問題に終始した。農場労働者が適切(ディーセント)な賃金を受け取るべきであることは言うまでもないが、それと同時に農場労働者を取り巻く問題は低賃金の問題に終始するものでもない。農場労働者をめぐる問題は、南アフリカ農業の再編過程と中長期的な将来像をめぐる議論のなかに位置づけて論じられるべきであり、現在の社会的対話における議論がその方向に展開していくかどうか、さらにはストライキを通じて支持を拡大したBAWUSAや農場労働者連盟が農場労働者の代弁者としてどのような役割を果たしうるかについては、今後も注視していきたい。



脚 注
  1. 非正規居住区とは、公的機関によって正式に認められていない居住区のことで、タウンシップ(旧都市黒人居住区)の周縁部や自治体所有地などに人々が流入し、鉄板などを利用して掘立小屋を建てて住みつくことによって形成される。デドァーンズの非正規居住区はStofland、Sandhillsとして知られ、いずれも国道1号線沿いにある。
  2. デドァーンズは、2009年11月にジンバブウェ人に対する暴力的な排斥事件が起こった町である。このときには推定3000人のジンバブウェ人が暴力から逃れるために避難を余儀なくされた(Jean Pierre Misago, “Violence, Labour and the Displacement of Zimbabweans in De Doorns, Western Cape”, Migration Policy Brief 2, Forced Migration Studies Programme, University of the Witwatersrand, http://migration.org.za)。現在でもデドァーンズにはかなりの数のジンバブウェ人が住んでいるとされる一方で、彼らは繁忙期に農場から農場へと移動を繰り返す非定住型の移民労働者であるとの報告もある(Jan Theron, “Changing Employment Trends on Farms in the Hex and Breede River Valleys”, A draft discussion document for the Cape Winelands District Municipality Roundtable Dialogue on trends in the rural economy, 10 May 2012, De Doorns)。
  3. Lynley Donnelly, “Sour grapes for farmers, workers”, Mail and Guardian Online, 18 January 2013.
  4. Sean Christie, “Leaderless farm strike is ‘organic’”, Mail and Guardian Online, 16 November 2012.
  5. “W. Cape farmer arrested after shooting at protesters”, Mail and Guardian Online, 7 November 2012
  6. Glynnis Underhill, “Grape valley remains on tenterhooks”, Mail and Guardian Online, 23 November 2012.
  7. 1ランドは約11円(2013年5月24日現在)。
  8. “Agriculture minister to hold urgent meeting on De Doorns”, Mail and Guardian Online, 12 November 2012.
  9. 新聞報道などで確認できたのは、デドァーンズのほかにAshton, Avian Park, Bonnievale, Broodkraal, Ceres, Citrusdal, Clanwilliams, Franschoek, Grabouw, Montague, Prince Alfred Hamlet、Riebeck Kasteel, Robertson, Simonsdium, Somerset West, Swellendam, Touwsriver, Villiersdorp, Wellington, Wolseley, Worcester。最終的には州内の22の町・地域に抗議行動が広がったとされる。
  10. “Joemat-Pettersson calls for end to De Doorns strike”, Mail and Guardian Online, 14 November 2012.
  11. Faranaaz Parker, “One killed in farm unrest as Cosatu calls end to strike”, Mail and Guardian Online, 14 November 2012; “Zille wants army in Western Cape’s rural areas”, Mail and Guardian Online, 28 November 2012.
  12. “Western Cape farm workers suspend protests”, Mail and Guardian Online, 14 November 2012; “Joemat-Pettersson calls for end to De Doorns strike”, Mail and Guardian Online, 14 November 2012; Jenna Etheridge, “Zuma: Zille must work with ministers on farm protests”, Mail and Guardian Online, 15 November 2012.
  13. “Farm public hearings to get underway”, Mail and Guardian Online, 22 November 2012.
  14. “Zille wants army in Western Cape’s rural areas”, Mail and Guardian Online, 28 November 2012.
  15. “Western Cape farmworkers gather to resume strike”, Mail and Guardian Online, 4 December 2012.
  16. “Western Cape farm workers end strike”, Mail and Guardian Online, 5 December 2012.
  17. “At least 50 Western Cape farm protesters arrested”, Mail and Guardian Online, 9 January 2013; “Western Cape farm protest: Journalist’s car set alight”, Mail and Guardian Online, 9 January 2013; “Western Cape farmers concede to union negotiations”, Mail and Guardian Online, 10 January 2013; Farannaz Parker and Nickolaus Bauer, “W Cape farm protests: Labour dept advises mediation”, 10 January 2013, Mail and Guardian Online, 10 January 2013; David Harrison, “De Doorns strikes: Media in the line of workers’ ire”, Mail and Guardian Online, 11 January 2013.
  18. Wendell Roelf, “Man dies from bullets during W Cape farm unrest”, Mail and Guardian Online, 15 January 2013; Benjamin Fogel, “De Doorns: Police action breeds hostility”, Mail and Guardian Online, 18 January 2013.
  19. Glynnis Underhill, “AgriSA: Western Cape farmworkers’ protest ‘politically motivated’”, Mail and Guardian Online, 10 January 2013;.
  20. Nickolaus Bauer, “Farm protests: Unions, DA plead for government intervention”, Mail and Guardian Online, 14 January 2013.
  21. “Memorandum of the farm worker coalition 23 March 2013”, SPP website, 4 April 2013, www.spp.org.za.
  22. Glynnis Underhill, “The pig farmer behind the Western Cape farm strikes”, Mail and Guardian Online, 18 January 2013.
  23. Jenna Etheridge, “Cosatu: We are calling the farmworkers’ strike off”, Mail and Guardian Online, 22 January 2013; Andiswe Makinana and Glynnis Underhill, “Farm unions pull together – for now”, Mail and Guardian Online, 25 January 2013.
  24. なぜデドァーンズがストライキの震源地となったのか、報道されたようにストライキ参加者の多くが季節労働者だったのかという疑問を含め、このストライキを理解しようとする研究者や中央・州政府による複数の調査研究の取り組みが、現在、開始されている。
  25. 南アフリカでは、産業ごとに雇用主代表と労働者代表の団体交渉により賃金改定交渉が行われる場合が多いが、労働者代表組織が不在あるいは組織率が低いため労組が労働者代表として交渉に臨むことができない産業・職業においては、労働大臣により法定最低賃金が決められる。産業・職種ごとに異なる法定最低賃金は、現在、11産業において定められている。
  26. “Farmworkers’ minimum wage upped to R105 a day”, Mail and Guardian Online, 4 February 2013; “Textile union Sactwu pledges R1m for farm workers union”, Mail and Guardian Online, 9 February 2013; Department of Labour (South Africa), “Sectoral Determination 13 – Farm workers, 1 March 2013”, www.labour.gov.za.
  27. ちなみに家事労働者の最低賃金は以下のように規定されている(2012年12月1日~2013年11月30日適用)。
      週27時間より多く働く家事労働者 週27時間以下の労働
    A地域(特定地域) B地域(その他) A地域 B地域
    時給 R8.95 R7.65 R10.48 R9.03
    週給 R402.96

    R344.30 R285.62 R243.80

    月給 R1746.00 R1491.86 R1237.60 R1056.35

    注)週給、月給は1週間に45時間(ないし27時間)労働する場合の金額。
    出所)Department of Labour (South Africa), “Amendment – Domestic Worker Wages
    from 1 December 2012”, www.labour.gov.za.
  28. “TAU: New minimum wage for farmworkers will harm country”, Mail and Guardian Online, 4 February 2013.
  29. Lynley Donnelly, “Farmers take stock of wage hikes”, Mail and Guardian Online, 8 March 2013.
  30. Department of Labour Briefing for the Agriculture Portfolio Committee on Farm Workers Strike: 19 March 2013, Parliamentary Monitoring Committee (PMG) report on Farm Workers Strike’ in Western Cape: Update by Departments of Labour & Agriculture, Forestry & Fisheries, www.pmg.org.za.
  31. Lynley Donnelly, “Farmers face ruin as consequences of strikes take root”, Mail and Guardian Online, 23 November 2012; Glynnis Underhill, “AgriSA: Western Cape farmworkers’ protest ‘politically motivated’”, Mail and Guardian Online, 10 January 2013.
  32. Department of Labour Briefing for the Agriculture Portfolio Committee on Farm Workers Strike: 19 March 2013, PMG report on Farm Workers Strike’ in Western Cape: Update by Departments of Labour & Agriculture, Forestry & Fisheries, www.pmg.org.za.
  33. BFAP, Farm Sectoral Determination: An Analysis of Agricultural Wages in South Africa, A Report by BFAP, December 2012, www.bfap.co.za.
  34. Department of Labour Briefing for the Agriculture Portfolio Committee on Farm Workers Strike: 19 March 2013, PMG report on Farm Workers Strike’ in Western Cape: Update by Departments of Labour & Agriculture, Forestry & Fisheries, www.pmg.org.za.
  35. Lynley Donnelly, “Sour grapes for farmers, workers”, Mail and Guardian Online, 18 January 2013.
  36. 2013年5月4日にネイバレー(Nuy Valley)で行われた正義と和解研究所(Institute for Justice and Reconciliation: IJR)主催の「農場部門のストライキ:現在はどうなっているか?対話を開始しよう」と題するワークショップに参加したデドァーンズの農場労働者の証言。
  37. Benjamin Stanwix, “Minimum wages and compliance in South African agriculture”, Econ3x3, January 2013, p.3, www.econ3x3.org.
  38. Helen Zille, “Real story behind farm strikes”, Cape Times, 19 March 2013, (Originally, published in SA Today, the online newsletter of the DA on 17 March 2013).
  39. Glynnis Underhill, “AgriSA: Western Cape farmworkers’ protest ‘politically motivated’”, Mail and Guardian Online, 10 January 2013.
  40. 前掲IJRワークショップでの証言。
  41. Ronald Wesso, “Worker organising during the farm worker strike”, SPP website, 11 March 2013, www.spp.org.za.
  42. Glynnis Underhill, “The pig farmer behind the Western Cape farm strikes”, Mail and Guardian Online, 18 January 2013; Andiswe Makinana and Glynnis Underhill, “Farm unions pull together – for now”, Mail and Guardian Online, 25 January 2013.
  43. Andiswe Makinana and Glynnis Underhill, “Farm unions pull together – for now”, Mail and Guardian Online, 25 January 2013.
  44. Xolani Koyana, “Farmworker protest - fury after march bid turned down”, Cape Times, 1 March 2013; “Memorandum of the farm worker coalition 23 March 2013”; “Farm worker struggle update 15 April 2013”, 15 April 2013, SPP website, www.spp.org.za.
  45. 筆者は4月12日にパール(Paarl)で行われた「農業部門におけるすべての人々の繁栄」と題する社会的対話と5月11日にデドァーンズで行われた副大統領主導の政策対話を傍聴した。いずれの会合においてもCOSATU、FAWU、BAWUSAといった組織の代表者が農場労働者の代弁者として発言していたが、農場労働者自身の参加や発言はなかった。
  46. 前掲IJRワークショップでの証言。
  47. Jenna Etheridge, “Farm protests: We can’t wish away our problems, says minister”, Mail and Guardian Online, 26 November 2012.
  48. “Dialogue with the Farming Sector for the Advancement of Sustainable Agrarian Sector and Social Cohesion”, A policy dialogue process led by Deputy President, 11 May 2013, De Doorns.
  49. Ministry of Agriculture (Western Cape Government), “Minister Van Rensburg Concerned about Agriculture Dialogue Sessions”, 13 May 2013, www.westerncape.gov.za.
  50. BFAP, Farm Sectoral Determination: An Analysis of Agricultural Wages in South Africa, A Report by BFAP, December 2012, www.bfap.co.za.


本稿の内容及び意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。