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『経済民主化』で注目される財閥オーナーの裁判

海外研究員レポート

韓国

2013年1月発行
はじめに
2012年12月19日の大統領選挙は保守系で与党セヌリ党所属の朴槿恵候補の勝利で終わった。選挙戦では朴槿恵候補も、進歩系で野党民主統合党所属の文在寅候補も、共に「経済民主化の実現」を選挙公約としていた。「経済民主化」が何を意味するのか、政党や専門家の間でも考え方は微妙にことなっているが、一般には財閥改革や中小零細企業の保護・育成を指すものと理解されている。本報告では現在進行中のひとつの裁判を事例として、経済民主化で問われている韓国財閥の問題点を明らかにしていきたい。

SKグループの人事と組織改編
2012年11月26日、資産規模で財界第3位のSKグループはグループが持つ権限を、最高経営者(CEO)人事を含め大幅に系列企業に委譲する、「それぞれに、または共に3.0」体制を発表した。さらに選挙前日の12月18日にSKグループは、この経営体制の改編の一環として、グループの最高意志決定機構でありグループ系列企業のCEOたちで構成されるSUPEX追求委員会の議長を、事実上グループオーナーである崔泰源会長から専門経営者である金昌根副会長に交代することを発表した。その上で、崔泰源会長は今後、戦略的な大株主としてグローバル成長事業や次世代事業発掘など、「グループの大きな絵を描く」ことに邁進するとした。しかし、崔泰源会長は依然としてグループ持株会社であるSK(株)とグループの主力企業であるSKイノベーション(エネルギー)とSKハイニクス(半導体)の代表職を維持しているため、発表を額面通り受け止める向きは少ない。現在、崔泰源会長は裁判の被告人となっている。そのため、経済民主化の流れに積極的に呼応していることを裁判所及び世論にアピールすることにより、少しでも有利な判決を得ようとしているか、もしくは有罪判決・収監という最悪の事態に備えたのではないかとみられているのである。

会社資金の不正流用事件
2011年12月29日に崔泰源会長の弟である崔再源主席副会長が横領の容疑でソウル中央地検に拘束起訴された(後に保釈)。年が明けた2012年1月5日には崔泰源会長も在宅起訴された。事件の構造は単純である。SKテレコム、SKC&C、SKガスなどSKグループ系列企業18社が投資会社であるベネックスインベスト社(以下ベネックス社)に総額2800億ウォン(2013年初の為替レートは1円=約12ウォン)を投資していた。しかしそのなかで2008年10月と11月におこなわれた992億ウォンは実際には投資されずにベネックスのキムジュンホン代表の借名口座を通じてキムウォンホン元SK海運顧問に流れた。キムウォンホン氏は崔泰源会長の先物取引を請け負っていた人物で金融市場を専門にした占い師であるとされる。崔泰源会長は占い師の指導の下で先物取引をおこなっていたが、これにより多額の損失を出していた。2012年3月から始まった公判で検察側は、流れた資金が崔泰源会長の先物取引の原資とそれによる損失の穴埋めに使われたとし、一連の操作は崔泰源会長の指示のもとに崔再源筆頭副会長がおこなったと主張した。これに対して弁護側は各系列企業のベネックス社に対する投資は新事業発掘のための通常の取引であり、崔泰源会長は一切関与していないと反論した。しかし裁判の過程では新たに系列企業の役員に払われたボーナスが裏金として崔泰源会長に環流している事実が明らかにされるなど(弁護側は否定)、崔泰源会長にとっては厳しい展開となっている。

脆弱な所有支配構造
横領自体、グループ会長の一存で系列企業の資金を私的に流用できるという財閥の古い体質が現在も残っていることを示すものである。それにしても、なぜ財界第3位のグループ会長が占い師まがいの人物を頼って非常にリスクの高い先物取引に手を出したのだろうか。確かなことはわからないが、最も可能性がある理由はグループ所有構造の改善のために資金を必要としたというものだ。

SKグループでは1998年に崔泰源会長の父親である崔鍾賢元会長が死去した。その後暫定的な専門経営者中心の体制を経て2004年に崔泰源が正式にグループ会長に就任したが、この過程でグループの所有構造も崔泰源会長中心に改編された。それは崔泰源会長がSKC&C(ITサービス)を介してSK(株)(石油精製・化学)を所有し、SK(株)がSKテレコム(情報通信)、SKC(PETフィルム製造)、SKネットワークス(商社)などグループ主要企業の持株を保有するピラミッド型の構造だった。しかし、SKC&Cの持株を崔泰源会長及び別の家族のみですべて所有することはできず、ピラミッド構造の下部にあるSKテレコムやSKネットワーク株式を保有した結果、いわゆる「循環出資」も形成されていた(図1)。他方、SKC&CはSK(株)の持株を11%しか保有していないなど、崔泰源会長の持株によるグループ支配は盤石とは言えない状況だった注1

この問題が端的に表れたのが2003年の外資ファンドによるSK(株)への買収攻勢である。実は崔泰源会長が起訴されたのは今回が初めてでなく、2003年1月にSKネットワークス(当時はSKグローバル)の粉飾決算問題で崔泰源会長は逮捕起訴された。事件を契機にSK(株)の株式が急落したが、これに乗じて外資ファンド「ソブリン」が同社の8.6%の株式を買収した。ソブリンはSKグループの複雑な所有構造など不透明な経営体質を問題視して経営への参加を求めた。結局、2004年3月の株主総会での委任状争奪戦に外資ファンドは敗れて撤退したが、SKグループには大きな衝撃を与えることになった。SKグループは外部からの買収攻勢にさらされないような安定的かつ透明度の高い所有構造の確立をはからざるを得なくなったのである。

そこでSKグループが取った選択が、純粋持株会社を中心とする持株構造へのグループ改編であった。しかし、そのためには資金が必要だった。特に、純粋持株会社の導入にあたっては政府規制のクリアが課題となった。韓国政府は財閥経営の透明性向上のために純粋持株会社の設立に対する税制支援などをおこなう一方、事業の野放図な拡大を防ぐために、純粋持株会社を置く場合、子会社が事業と無関係な孫会社を置くこと、及び金融子会社を持つことを禁止した。SKグループはSK(株)を純粋持株会社と事業会社に分割することを想定していたので、SKC&Cに対するSKテレコムとSKネットワークスの出資を通じた循環出資、及びSK証券に対するSKCとSKネットワークスの出資を解消する必要があった。最も効果的な方法はオーナー会長またはその家族が直接出資することであった。しかしそのためには莫大な資金が必要であり、資産家であるオーナー会長といえども簡単に出せる金額ではない。そのために崔泰源会長が短期間で多額の資金を手に入れるべくリスクの高い先物取引に手を出した可能性があるのである注2

今回の大統領選挙では財閥改革に関連した公約として循環出資が話題となった。保守系与党の朴槿恵当選人が新たな循環出資の禁止を公約としたのに対し、進歩系野党の文在寅候補は新規に加えて既存の循環出資についても禁止する公約を打ち出していた。循環出資はもともと所有のピラミッド構造の頂点にある持株会社的な存在の企業をオーナー及びその家族の出資だけでは支えることができず、ピラミッド構造の下部にある企業に出資させることによって形成されることが多い。それだけオーナー家族にとって拡大を続けるグループを所有面で支配することが難しくなっていることを表した現象であるといえるが、今回のSKグループ会長をめぐる事件も、創業者家族が所有支配の困難を打開するために生じた事件、と言えそうである。

財閥に寛大な司法・行政に対する批判
従来、法務、司法当局は財閥のオーナーの犯罪に対して寛大な姿勢を取ってきた。崔会長は先にみたように以前も起訴されている。このときは1審では懲役3年の実刑判決を受けたものの、結局大法院(日本の最高裁判所に相当)では「国家経済に貢献したことを勘案して」執行猶予5年付きの判決となった。その後、崔泰源は特別赦免となっている。サムスングループは2007年に、現代自動車グループは2008年にそれぞれ会長が起訴される事件が起こった。現代自動車グループの鄭夢九会長は一審判決で実刑判決となったが、控訴審では執行猶予付きの有罪判決となり、後に赦免された。やはり執行猶予付き有罪判決を受けたサムスングループの李健煕会長は会長職から一時退いていたが、経営復帰を求める声がグループ内外から高まり、政府は「平昌オリンピック招致委員長として国に貢献させるため」やはり特別赦免にしている。赦免からまもなく李健煕会長はグループ会長職に復帰した。

こうした法務、司法当局の姿勢に対して「有銭無罪、無銭有罪」であるとして国民の批判の声が強まった。これを受けて大法院の量刑委員会は2009年7月に横領・背任罪に対する量刑について、犯罪に伴う利得額に応じた懲役年数の基準を定めた。これにより、特に減刑事由がない限り、50億ウォン以上の利得を得た被告人に対する懲役は4年-7年となり、刑法上、執行猶予は懲役3年以下の刑にのみ可能なため、従来のように執行猶予を漬けることが不可能となった。この新基準によって影響を受けた人物として話題になったのがハンファグループの金昇淵会長である。金会長は3000億ウォンの横領の罪に問われていたが、2012年8月16日の一審判決で懲役4年の実刑判決を受け、法廷拘束となってしまった。ハンファグループ会長の拘束はSKグループにとっても大きな衝撃であったはずである。

しかし、思わぬ巻き返しもあった。同年11月26日の裁判で検察は求刑をおこなったが、崔泰源会長に対しては懲役4年(崔再源筆頭副会長には懲役5年)と、予想された量刑より軽かったのである。検察の論告通りならば崔会長は計約700億ウォンの会社の金を横領したことになるが、懲役4年は先の量刑基準では刑の軽減を加味した上での最低ラインにあたる。ハンファ会長が求刑9年で判決が4年だったことを考えても、今回の判決も軽いものになる可能性がある。その後、実は検察の捜査チームは7年以上の求刑をする方針であったのに対し、検察総長が4年を強硬に主張したと報道された。検察総長と崔泰源会長はテニス仲間であるとされる。こうした報道があって間もなく、検察総長は検察内部の不祥事との関係が取り沙汰されて辞任に追い込まれた。

判決予定日は12月28日であったが、21日になって1カ月後の1月31日に延期された。結審後も検察側、弁護側双方が多数の参考資料を提出したために、争点をさらに綿密に検討する必要が生じたと裁判所は説明している。検察としては、以上のような経緯が報道されただけに求刑通りの勝訴を得ようと追加資料の攻勢をかけ、これに弁護側も対抗しているともみられている。朴槿恵次期大統領も選挙公約に「特定経済犯罪加重処罰法上、横領等に対して執行猶予が不可能になるように量刑強化」、「大企業の支配株主や経営者の重大犯罪に対して赦免権を厳格に制限」を掲げていた。オーナーの犯罪に対して厳しい視線が集まるなかで判決に注目が集まっている。


(注1)現在の崔泰源会長が父親の崔鍾賢元会長からグループを継承するにあたって、崔泰源はまず1994年にまだ規模が小さい企業であったSKC&Cの株式の70%を取得した上で、SKテレコムを中心にグループの電算業務をSKC&Cに譲渡させた。その後もグループの電算業務を一手に引き受けることにより急成長を遂げたSKC&Cは1998年にSK(株)の私募転換社債を購入し、これを株式に転換するなどして同社の最大株主となった。しかし、市民団体からSKC&Cによる他系列企業、特にSKテレコムの事業機会の流用を指摘され、崔泰源はSKC&Cの株式をSKテレコムに譲渡することで解決を図った。これにより循環出資が形成されることになった。またもうひとつの循環出資は、崔鍾賢の妹婿である金俊一が保有していたSKC&C株の一部を2000年にSKグローバルが購入したことによって形成された。その理由は不明だが、親族の持株を系列企業が肩代わりしたことになる。また崔泰源は崔鍾賢から相続していた他の系列企業の株式の多くを、SK証券の不正取引事件、及びSKグローバル(現SKネットワークス)の粉飾決算事件への責任を取るために処分した。その結果、崔泰源のSKグループに対する所有支配はますます弱化することになった。以上について詳しくは、イウンジョン「財閥承継はどのようになされるのか(08号)-SKグループ」『経済改革リポート』(経済改革研究所)2011-16号、2011年10月、を参照。

(注2)SKグループは2007年7月にSK(株)を純粋持株会社であるSK(株)と事業会社であるSKエナジーに分割し、SK(株)がSKエナジーその他系列企業の株式を持つ持株会社中心のグループ体制に移行した(2011年1月にSKエナジーはSKイノベーションに社名変更)。さらにSK(株)の株式を保有するSKC&Cについては、2009年10月の上場を契機にSKテレコムとSKネットワークスがクウェート投資庁やKB金融グループに同社株を売却し、安定株主の確保によって循環出資の解消を実現した。SKネットワークが保有するSK証券株の問題については、2012年12月にSKC&CとSK証券従業員持株組合が引き受けることで決着をみた。



(図1)SKグループの持株構造(2006年4月)
(図1)SKグループの持株構造(2006年4月)
(注)数字は持株比率、%。
   SKC&C以外は上場企業、ただしSkC&Cも2009年10月に上場。
(出所)公正取引委員会。

表1 上位グループの内部所有比率(2011年4月)(%)
  オーナー家族 系列企業 その他(注) 合計
サムスン 0.99 41.97 2.70 45.66
現代自動車 3.75 44.43 1.01 49.19
SK 0.79 62.56 1.27 64.62
LG 3.89 34.66 5.72 44.27
ロッテ 2.24 56.87 0.34 59.45
現代重工業 1.49 68.98 3.10 73.57
GS 16.25 41.99 0.53 58.77
韓進 6.33 37.91 5.67 49.91
ハンファ 1.97 54.20 0.80 56.97
斗山 3.55 49.33 5.83 58.71
錦湖アシアナ 1.67 36.85 1.99 40.51
STX 3.28 53.62 2.40 59.30
LS 4.53 63.98 3.91 72.42
CJ 7.73 60.13 3.43 71.29
新世界 16.82 37.03 0.03 53.88
(注)家族以外の役員、非営利法人、自社株等。
(出所)公正取引委員会。


本稿の内容及び意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。