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ケニアの「不満の冬」

海外研究員レポート

ケニア

岸 真由美
2012年9月発行
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今年、ケニアの9月は教職員のストライキで幕が開けた。ケニアでは9月に小・中学校の3学期が始まり、大学には新たに学生が入学する。しかし、9月3日(月)にケニア全土で公立小学校の教員たちがストライキを敢行したのを皮切りに、9月5日(水)に公立中学校教員が、さらに9月6日(木)には国立大学の教職員がストライキに突入した。筆者が勤務するナイロビ大学でも教職員によるサボタージュやピケッティングがおこなわれた。この教職員ストライキは、大学では開始から約2週間後の9月21日(金)に、小・中学校では約3週間後の9月24日(月)にそれぞれ終結した。ここでは簡単にその経緯を報告したい。

ケニアの公立校・国立大学の教職員組合は次の4つである。小・中学校教員が加入するKNUT(ケニア全国教員組合 Kenya National Union of Teachers)、中学校・専門学校教員が加入するKUPPET(ケニア初等後教育教員組合 Kenya Union of Post Primary Education Teachers)、大学の教員と上級職員が加入するUASU (大学教員組合 Universities Academic Staff Union)、そして、大学の中級職員が加入するUNTESU(大学職員組合 Universities Non-Teaching Staff Union)である。KNUTはケニアの全労働組合の中でも最大規模を誇る。新聞等から得られた情報によると、約26万人いる小学校教員のうち約20万人がKNUTに加入している。KUPPETは教員数66,000人のうち約46,000人が組合員、UASUおよびUNTESUの組合員は約12,000人である。

各教職員組合が掲げた当初、要求は実現不可能ではないかと思える内容だった。KNUTは300%の賃上げに加え、基本給の50%の住宅手当、30%の医療手当、10%の通勤手当、30%の僻地手当、さらに職責に応じた基本給の30~50%にあたる役職手当の支給を、KUPPETは100%の賃上げを要求した1。UASUおよびUNTESUの要求は200%の賃上げだった2

この教職員のストライキの原因の一つは過去の政府の対応にある。1997年にKNUTは全国規模のストライキを決行し、結果として政府は5段階に分けて最終的には150~200%の賃上げと、基本給の50%相当の住宅手当、20%の医療手当、45%の役職手当、10%の特別支援学校手当、10%の通勤手当、30%の僻地手当の支給で合意した(1997年法定通知第534号)。しかし実際には予算不足を理由に賃上げが実施されたのは第1段階だけ。さらに2003年、法定通知(Legal Notice)第16号において諸手当に関する条項が修正され、手当は僻地手当と特別支援学校手当のみに制限、支給額は基本給に対する割合でなく教員が属する給与表上の等級(ジョブ・グループ)と勤務地に基づき固定額が支給されることとなった(しかも、これらの手当も2009年6月には凍結された)。この2003年の法定通知については、KNUT側は法律が定める組合との協議もなしに政府が一方的に官報掲載したとして非難していた。また、UASUおよびUNTESUは、30~40%の賃上げを規定した団体協約(2010~2012年の複数年)の不履行を批判していた(2011年9月から履行されるはずだった)3。教職員組合は長年にわたる政府側の不誠実な対応に不満を募らせてきたのである。

ストライキのもう一つの要因は他の公務員との給与格差である。今回、教職員組合は給与構造の調整も要求していた。ストに先立つ7月に、公共サービス部門の給与格差の調整を名目として公務員の賃上げがおこなわれた。7月1日から下級・中級公務員は17~22%の賃上げとなり、総額68億ケニアシリング(以下、シリング)が予算計上された4。しかし、同じ公務員である教員はこの給与調整から除外されていた。公立校教員の給与は公務員の中でも決して高くない。例えば、等級Rに属する公務員の基本給が月額145,000シリングなのに対して、同等級の教員は月額24,000シリングである。KNUTはこの公務員の賃上げを政府のダブル・スタンダードと批判し、KUPPETも他の公務員との給与格差の調整を訴えた5。これに対して政府がストライキ発生直後に発表した回答は、「予算不足なので賃上げ要求には応じられない、公立校教員に対しては僻地手当および特別支援学校手当のみ支給」大学教職員に対しては「0.5%の賃上げ(基本給に応じて月額200~825シリングの賃上げ)、住居手当は据え置き」というほぼ「ゼロ回答」だった6。ところが、ストライキが依然継続され交渉が手詰まりに陥っている最中の8月15日(日)、事務次官の賃上げが発表された。これで事務次官の家庭手当は15,000から50,000シリングに、住宅手当は80,000から100,000シリングに、接待費は80,000から100,000シリングに増額されることになった7。当然ながら、ストライキ中の組合は態度を硬化させることになった。

政府はこの後もストライキを中止して職場復帰しなければ全員解雇との通告を出したりしたが、ストライキは依然として続き、最終的に政府と教職員組合が合意に達したのは9月も下旬に入ってからとなった。最終的な合意内容は次の通りである。公立校教員は、最も給与の低い教員で13,750から19,323シリング、最も高い教員で月額120,270から144,928シリングへの賃上げ、加えて、基本給の30%の僻地手当、10%の特別支援学校手当、等級P2の教員のP1への昇級を獲得した。国立大学教職員は33.1%の賃上げ、基本給の14.27%の住宅手当で合意した。最も給与の低い大学教員で54,582から72,649シリングへ、最も高い教員は105,766から140,775シリングへの賃上げである。ところで、国立大学教職員のストライキの方が数日早く終結したが、それにはナイロビ大学の学生による抗議デモが多少影響したかもしれない。9月20日(木)の午後から3時間以上に渡って、ナイロビ市内中心部ナイロビ大学メインキャンパスに近い大通りを学生たちが封鎖、付近通行中の車への投石などがおこなわれた。大学での早期の授業開始を訴えてのデモだったが、このデモは次第に暴動に発展し、警官が出動して空砲を打ったり催涙ガスを使ったり、数人の逮捕者が出たりする状況となった。

さて今回のストライキの結果、当初要求には程遠いとは言え教職員が獲得したものは大きい。しかし、その社会的影響は別の意味でもっと大きいように思われる。生徒の進路を左右する初等教育修了試験(KCPS)と中等教育修了試験は当初の予定を2週間程度遅らせて開始されることになった。また、2013年の学年度の開始は通常より1ヵ月遅れの2月4日となり、2013年3月4日に予定されている総選挙まで1ヵ月足らずという状況で、生徒の学習が遅れるのではと懸念する声もある8。さらに、教職員の賃上げの財源として、政府は開発予算の削減、地主・インフォーマルセクター・セックスワーカーへの課税を検討する模様だ9。もしそれでも予算が不足する場合は、物品税や付加価値税(VAT)の増税も検討されることになるだろう10。ケニアの付加価値税(VAT)は現在16%、所得税も(累進課税)10~30%である。増税となれば、教職員よりもっと安い賃金で働く庶民の生活を直撃することは間違いなく、それはそれで別の社会不安を引き起こす可能性もある。安い月給で働く教職員(特に小・中学校教員)の賃上げ要求も理解できるが、そうして教職員が獲得したものが遠からず別の問題の要因になるのではないか。必要なのは、もっと抜本的な公務員の給与構造調整なのではないかと思われてならない。ストライキ終結の翌日に職場の同僚がこう言っていた。「『不公平』がこの国の特徴。稼ぎの多いものはさらに多く得るし、稼ぎの少ないものはやはり少ない稼ぎしか得られない」

【参考文献】
Daily Nation (http://www.nation.co.ke/)
Capital FM (http://www.capitalfm.co.ke/)




脚 注
  1. Mayabi, L. (2012, July 18). "Kenya: Teachers in fresh September strike threat," Capital FM.
  2. Nation Team. (2012, September 5). "Union set to launch dons' strike at 8am," Daily Nation.
  3. Musembi. (2011, October 23). "Lecturers to go on strike in two weeks," Daily Nation.
  4. Siringi. (2012, July 3). "Public servants earn pay boost this month," Daily Nation.
  5. Muindi, B. (2012, July 18). "Teachers decry workers pay rise. Daily Nation," および、Nation Team. (2012, July 22). "Teachers vow to disrupt classes," Daily Nation.
  6. Nation Team. (2012, September 7). "Students sent home as tutors reject pay offer," Daily Nation.
  7. Kiberenge, K. (2012, September 15). "Permanent Secretaries get big allowance raise," Daily Nation.
  8. Muindi, B. (2012, September 24). "New exam, term dates set as schools re-open," Daily Nation.
  9. Nation Reporter. (2012, September 21). "Githae given tax tips to raise teachers’ pay," Daily Nation.
  10. Siringi, S. (2012, September 24). "Lecturers win fatter pay, allowances," Daily Nation.


本稿の内容及び意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。