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スウェーデンの林業—持続的、高収益な産業としての林業—

海外研究員レポート

スウェーデン

2012年8月発行
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はじめに
前回の現地情勢報告では、スウェーデンを含む北欧諸国の電力産業を参考に、前方連関が強く、かつ分散力の強い産業を生かした工業化の可能性を考察した。前方連関が強い産業とは、生産されたものがその他の多くの産業に投入されていく産業を指す。分散力の強い産業は、たとえば立地が自然条件(ファースト・ネーチャー)に強く影響される産業である。人口規模が小さく、気候条件が厳しいことに加え、産業集積地(コア)から離れたスウェーデンでは、電力、鉱物資源及び林業が工業化を勃興初期から支えてきた。この中でも、林業は1999年以降2年おきに実施された意思調査では、17部門の産業の中、製薬、鉄鋼、輸送機器などを抑え、常にもっとも重要な産業という結果が出ている1。周辺国の工業化戦略への示唆的な点を中心に、電力産業に続いて、製材・製紙など含めた林業を取り上げたい。


1. 高い持続性
鉱物資源は採掘すればいずれは枯渇する。電力も水力・風力など再生可能なもの以外は、持続性が低い。しかし林業の主な資源である木材は、植林と伐採を適切に行うことができれば、持続性が高い資源となる。スウェーデンは2005年に非燃料(工業)用で約7553万㎥の木材を森林から伐採した2。これは同年でアメリカ、カナダ、ロシア、ブラジルに次いで、4番目に多かった。森林面積が10倍以上のアセアン10カ国に比べても、工業用伐採はほぼ同じ規模であった。森林面積当りの伐採量が非常に高いことが分かる。

より最近かつ詳細な原料の流れは、図1から確認できる。2010年にも主に林業の原料として、約7200万立方メートルの森林が伐採された。これを原料に、スウェーデンは容量(m2)ベースでは、カナダに次いで世界で2番目に多く、木材・紙関連製品を輸出した3。しかしスウェーデンの森林資源は20世紀初頭から減少するどころか、反対に増加しつづけている。1920年に比べ2008年の森林資源は、2倍弱に増えたのである(図2)。大量に伐採しているにも関わらず、計画的な植林によって、森林資源が持続的に再生されている様子が伺える。

図1 スウェーデンの林業における原料の流れ(2010年、単位:100万㎥)
図1 スウェーデンの林業における原料の流れ(2010年、単位:100万㎥)
(出所)スウェーデン林業連盟に基づき筆者作成(www.forestindustries.se)。

図2 スウェーデンの森林資源の推移(単位:100万㎥)
図2 スウェーデンの森林資源の推移(単位:100万㎥)
(出所)国家森林管理機構(www.slu.se/nfi)。

2. 圧倒的な収益性
スウェーデンの林業は外貨獲得力と就労者数の規模から収益性が高い。まず、外貨獲得力について、図3に2000〜2008年の商品別純輸出額が示されている。純輸出額でみる場合、林業は鉱物資源、電気・電子機器や機械産業よりも多くの外貨をスウェーデンにもたらしたことが分かる。林業は2000〜2008年では、少なくても正味で年間100億ドル以上の外貨を稼ぎだしているのである。スウェーデンの林業がもたらした外貨収入は、他の産業・国または両方で比較しても、大きいであることは明らかだ。

図3 2000〜2008年におけるCNコード別累積貿易収支(単位:1000 SEK)
図3 2000〜2008年におけるCNコード別累積貿易収支(単位:1000 SEK)
(出所)スウェーデン統計庁の資料に基づき筆者集計(www.sscb.se)。

たとえば、2009年にスウェーデンでは、林業だけで170億ドルを輸出した4。これは、鉱物資源、輸送機器、エネルギー、製薬よりも多いが、電子・通信機器とその他エンジニアリング製品よりは少なかった。しかし純輸出額では林業の約130億ドルは、全産業に比べ圧倒的な1位であった。原料のほとんどが国内で調達できたことが、そのもっとも大きな理由であろう。他国の主要産業の輸出額に比べてもスウェーデンの林業が大きな外貨獲得力を持っていることは明らかである。たとえば輸出額が世界一とされるタイのコメで、2010年ではその実績が約53億ドルに過ぎない5。2010年にアセアン最大であるベトナムの縫製品輸出総額も約112億ドルにとどまる6。ベトナムの縫製業の輸入部材依存度がまだ高いことを考慮すれば、実際に獲得した外貨がこれよりも大幅に小さくなることは容易に推測できる。このように、スウェーデンの経験からは製紙を含めた林業が大きな外貨獲得源になりえること示しているのである。

スウェーデンにおける林業の高収益性は、外貨獲得力だけではない。非常に少ない就労者数で成り立っているのである。表1のように、農林水産業の就労者数は約8万人でだが、林業に限れば、約7万人となる7。この人数の少なさは、スウェーデン国内の産業はもちろん、東南アジア諸国の諸産業と比較してもよく分かる。たとえば、タイではアユタヤー県だけでも32000人がコメ農家として登録されている8。ベトナムの縫製産業の労働者数は2009年時点で10倍の約80万人に上る9。この他、縫製産業の就労者数については、カンボジアでは約30万人、また、人口が比較的に少ないラオスでも就労者数が1990年代に6万人を超えた。もちろんこれらの国のこれらの産業も、輸出、または純輸出額ともスウェーデンの林業に遠く及ばない。

表1 スウェーデンにおける部門別就労者数(2011年)
部門 就労者数
農林水産業 80001
鉱業、製造業 595113
エネルギー、環境 45114
建設業 300647
商業 546433
輸送、倉庫業 222647
ホテル、レストラン業 139040
情報通信業 166111
金融業 89789
不動産業 67193
科学技術機関 479953
行政・国防機関 246125
教育機関 461495
保健、福祉業 714597
美術、娯楽施設など 190871
その他 47591
(出所)スウェーデン統計庁(www.sscb.se)。


多国籍業が低賃金や大きな市場を求めて立地の最適化を追求するグローバル化時代の今日では、集約可能な労働力の重要性が増している。しかし工業化を目指そうとしている発展途上国で、人口規模が小さい国も存在する。スウェーデンの林業のように、少ない人数で大きな付加価値を生み出している事例は、縫製、電気・電子、輸送機器を中心に、工業化を目指してきた多くの東南アジア諸国に補完的な選択肢を提供しているのである。

3. 市場戦略の重要性
もちろん、スウェーデンで林業の持続性や高収益性は、どの国でも再現できるとは限らない。適切な伐採・植林などはもちろん、少ない人数で林業を効率よく行うためには、本稿であまり言及しなかったR&Dによる近代・高度化も必要になる。しかし何よりも重要なのは高収益性を確保するための需要の確保である。現在のスウェーデンの人口は約1000万人だが、産業勃興期ではその約半分に過ぎなかった。ホーム・マーケット効果を生かし、工業化を進展させるのは、現実的に難しい状況にあった。実際、林業を含めスウェーデンの多くの産業は、当初から外需によって勃興、または発展したのである。

スウェーデンは産業集積地域から離れている意味で、コアであったイギリス、または今日のドイツに対し、周辺国と位置づけできる。スウェーデンとって、イギリス、ドイツなどは言わばもっとも近く存在するコアである。このコアにおける成長とそれに伴う需要を有効に活用できたことが、スウェーデンにおける工業化の成功のカギだと考えられる。たとえば、イギリスとの交易の重要性を認識した国王は17世紀に、海運大国のオランダに依頼し、北海への出口として地方の小さな漁村に港町ヨーテボリの建設を命じた。ヨーテボリは今日では人口でストックホルムに次いで2番目に大きい町に成長している。

イギリスと同様ドイツにおける近代化、工業化もスウェーデンに大きな外需をもたらした。両国は19世紀からスウェーデンの主要な貿易相手国である。今日でも、スウェーデンの木材、または紙関連製品の主要輸出先は、イギリスとドイツとなっている。たとえば2010年では、容量ベースで、木材、紙、そして、パルプともそれぞれで約3割がイギリスとドイツ向けである10。また木材・製紙関連製品の輸出が、世界第1位のカナダでも、西ヨーロッパ向けに限定すれば、第2位のスウェーデンが圧倒する。地の利を生かし、もっとも近くにある経済発展の中心となる地域を最大限活用するために、適切な戦略を立案し、そして、それを実行する能力を持ち合わせたことが、スウェーデンにおける林業の発展をもたらした最大の理由であろう。

おわりに
輸出、就業者数、森林資源の利用や推移、そして、産業間、国際間の比較からスウェーデンの林業は、持続的で極めて高い収益性をもっていることが分かった。具体的には、多くの発展途上国で環境破壊が強い林業だが、スウェーデンでは適切な伐採と植林により、持続性が極めて高い。獲得した外貨の実績からは、スウェーデンの林業は多くの近代的な産業に比べても、勝るとも劣らない産業であることが明らかになった。また大量な労働力を必要としない点からは、労働力に制約がある発展途上国にも、採用しうる工業化のモデルを提供してくれる。そして最後に、林業を含め外需によって進展したスウェーデンの工業化からは、自国市場の小さい国にとって、適切な外需活用戦略が決定的に重要であることが、再認識できたのである。



脚 注
  1. The general public’s view on the Swedish forestry sector 1985-2007(www.forestindustries.se)。
  2. FAOのFRA2010(www.fao.org/forestry/fra/fra2010/en/)。
  3. スウェーデン林業連盟(www.forestindustries.se)。
  4. スウェーデン林業連盟(www.forestindustries.se)。
  5. The Nation電子版(2011年1月7日)。
  6. Vietnam Trade Promotion Agency(www.vietrade.gov.vn)。
  7. スウェーデン林業連盟(www.forestindustries.se)。
  8. Mass Communication Organization of Thailand (www.mcot.net)
  9. Goto (2010) ‘Is the Vietnamese Garment Industry at a Turning Point? Upgrading from Export to the domestic market’(http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Report/2011/pdf/410_ch2.pdf)。
  10. スウェーデン林業連盟(www.forestindustries.se)。


本稿の内容及び意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。