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ケニアの高等教育事情

海外研究員レポート

ケニア

岸 真由美
2012年6月発行
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ケニアではこの数年大学への進学者数が急速に増えている。2007年から2011年のあいだに、年間の大学入学者数は11万8239人から19万8260人(約68%)に増加した。ケニアの教育制度は初等教育8年(2003年に無償化、2010年に義務教育化)、中等教育4年(2008年から無償化)、高等教育4年の8-4-4制で、次の教育段階に進むには国家統一試験に合格する必要がある。高等教育への進学に必要な統一試験は中等教育修了試験(KCSE: Kenya Certificate of Secondary Education)と呼ばれる。KCSE受験者数も年々増えており、2011年の受験者数は41万586人、増加率は前年比約15.9%と過去最大だった。人口約3800万人のうち4割強を15歳未満が占め、合計特殊出生率が4.7人ということを考えると、今後もしばらくはこの増加傾向が続くように思われる。


大学に進学するには一定の条件をクリアしなければならない。基本的には統一試験KCSEで平均C+以上の成績を取る必要がある。KCSEの成績評価はマイナスとプラスを含むA〜Eまでの12段階で行われる。平均B+以上の成績なら政府の学資援助を受けて国立大学に入学できる。これは「正規課程」(regular programme)あるいは「第1群」(Module I)と言われ、政府が学費の7割を負担してくれる。選抜は国立大学から成る入学者選抜委員会(JAB: Joint Admission Board)が行う。しかし、正規課程の受け入れ枠は大学入学者数よりもとても小さい。2009年の大学入学者17万7735人のうち、国立大学入学者が14万2556人(約80.2%)、私立大学入学者が3万5179人(約19.8%)。B+以上の成績で政府の学資援助を受けて正規課程に入学した学生は、2009年は2万1100人で、国立大学進学者の約14.7%にすぎない。

ではC+からBの成績だった大学進学希望者はどうするか。国立大学の「平行課程」(parallel degree programme)あるいは「第2群」(Module II)と言われる自費入学枠に進むか、私立大学に進むかである。実際、国立大学入学者の約85%を占めるのは平行課程で学ぶ学生である。しかし平行課程の学費は正規課程に比べるとかなり高額だ。例えば国立のナイロビ大学付属保健科学カレッジの学費を見ると(注:医療系の学部なので学費は他の学部より高い)、正規課程の学費は寮費込みで年間6万2500ケニアシリングなのに対し、平行課程の学費は年間47万4000ケニアシリングである。

最後に、KCSEの成績が平均C以下の場合そもそも大学進学の機会は閉ざされてしまうのだろうか。実は、高等専門学校(カレッジやその他の専門学校)の課程を修了し、ディプロマ(准学士号)やサーティフィケイト(修了証書)を取得すれば大学に進学できる。多くの高等専門学校や大学において、こうした課程が提供されている。

大学進学率上昇の要因としては、ケニアがそもそも学歴社会だということがあるだろう。この国では、就職時に学位・ディプロマ・サーティフィケイトがとても重視される。さらに、高い失業率と近年の経済不況による就職競争の激化や中流階級層の急激な伸びが、社会に出て数年あるいは十数年たった社会人の足を大学に向けさせているとも考えられる。実際、国立大学の平行課程には全日制と定時制があるが、国立大学入学者の約3割が定時制の学生なのである。さらには、「第3群」(Module III)と呼ばれる遠隔教育課程(distance learning programme)で学ぶ学生も増えてきている。

しかし、近年の大学進学率の急激な上昇の大きな要因は、政府が教育機会拡大に向けた政策を積極的に行っていることだろう。政府は、長期的開発計画「ケニア・ビジョン2013」の中で、経済開発を通じた国民全体の繁栄のため、質の高い教育・研究を国民に提供することを目指している。例えば、2009年にモイ大学の付属カレッジだったウェスタン科学技術カレッジがマシンデ・ムリロ科学技術大学に昇格して国立大学が7機関に増えたのに加え、2007年から2011年までに大学付属カレッジに昇格した高等専門学校は1機関から23機関となり、学位の授与が可能な高等教育機関が大幅に増えた。政府はまた技術・職業訓練・起業育成(TIVET: Technical, industrial vocational and entrepreneurship training)分野の専門学校教育への財政援助を強化しており、専門学校入学者数も2007年の7万6516人から2011年には10万4173人に拡大した。

国立大学の正規課程入学者は従来、3月のKCSE成績発表から翌々年9月の入学まで18カ月の待機期間があった。一方、正規課程に対して平行課程は学費さえ払えば希望する時期にすぐ入学できた。この待機期間については現行の教育制度の問題として以前から批判されており、この期間を短縮するため、政府は国立大学に年2回入学の実施を要請している。これを受けて、ケニヤッタ大学が2011年に実施に踏み切ったのをはじめ、多くの国立大学が現在年2回入学に向けた準備を進めているところである。

さらに、政府は高等教育融資委員会(HELB: Higher Education Loans Board)を通してTIVET分野で学ぶカレッジの学生向けに奨学金制度(返済不要)を新設し、2012/2013会計年度から運用を開始するなど、学資融資制度の拡充を図っている。この奨学金制度では、孤児、片親の学生、あるいは貧しい家庭の学生が優先される。

他方で、こうした急激な大学進学率の上昇には問題もある。一つには教育の質をどう担保するかということだ。入学者数が増えれば、講義室・図書館・学生寮などの教育設備の拡充や、増えた講義に対応するための教員の増員が必要になる。しかし、国立大学への政府の交付金は年々削減されていて、事はそれほど簡単ではない。例えば、ナイロビ大学図書館は平日は午前8時から午後10時、土曜は午前8時から午後5時、日曜は午前10時から午後4時まで開館しており、図書館員は2シフトで勤務している。学部図書館のある女性図書館員は朝8時の勤務開始に間に合うよう午前4時に起床するそうである。実際、大学側からは政府の年2回入学の要請に対して批判の声も出ている。設備とスタッフの問題が解決されない限り、安易に入学者数を増やすことは教育の質の低下を招くからだ。大学側も自主財源を増やすため努力しているが、その財源は主として平行課程の学生が支払う高い学費である。そして平行課程への入学者数を増やせば増やすほど、逆に教育環境は悪化し、教職員の負担を重くする要因になっている。また、ケニアの失業者の約7割が30歳以下の若者層ということからすれば、大学卒業後に雇用機会が得られるよう若者層の雇用拡大に取り組むことも急務だろう。そうでなれなければようやく手に入れた学位もただの紙切れになってしまう。教育機会の拡大を通して経済開発に結びつく人材をどう育成するか、より包括的な政策枠組みが必要なのではないだろうか。

【参考文献】
Statistical Abstract 2011. Nairobi: Kenya National Bureau of Statistics, 2012.
Economic Survey 2012. Nairobi: Kenya National Bureau of Statistics, 2012.
Kenya Yearbook 2010. Nairobi: Kenya Yearbook Editorial Board, c2010.
State of Kenya population 2011. Nairobi: National Coordinating Agency for Population and Development (NCAPD), 2011.
Daily Nation. Nairobi: Nation Media Group.



本稿の内容及び意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。