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ASEAN交通分野協力を巡る最近の情勢:第17回ASEAN交通大臣会合を踏まえて

海外研究員レポート

シンガポール

2011年12月発行
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東南アジア諸国連合(Association of Southeast Asian Nations: ASEAN)は2015年のASEAN共同体構築を目指して様々な取り組みを加速している。本稿では、2011年12月にカンボジアで開催された第17回ASEAN交通大臣会合(ASEAN Transport Ministers Meeting: ATM)の成果をもとに、ASEANの交通分野協力を巡る最近の情勢を整理し、今後の課題を展望する。

2010年10月のASEAN首脳会議で採択された「ASEAN接続性マスタープラン(Master Plan on ASEAN Connectivity: MPAC)」は、ASEAN共同体構築に向けた様々な取り組みを、「接続性」という概念で整理統合したものであり、今後のASEANの経済統合を方向付ける基本文書である。MPACでは15件の優先プロジェクトが合意されているが、そのうち、交通分野に関するものが、

  1. ASEANハイウェイ・ネットワーク未接続区間の完成およびトランジット輸送ルートの改善
  2. シンガポール・昆明鉄道の未接続区間の完成
  3. RoRoネットワークおよび短距離海運に関する調査
  4. 交通円滑化協定の運用開始
と、4件含まれている。また、ASEAN単一航空市場(ASEAN Single Aviation Market: ASAM)、ASEAN単一海運市場(ASEAN Single Shipping Market: ASSM)なども重要戦略に位置づけられており、交通分野の協力はASEAN共同体構築の鍵となっていることが分かる。

1.ASEAN単一航空市場
ASEANは1995年以降、段階的に航空自由化を進めており、近年では2004 年に合意された「航空輸送部門統合に向けたロードマップ(Roadmap for Integration of Air Travel Sector : RIATS)」がその中核に位置づけられてきた。2007年、ASEAN首脳会議が採択したASEAN経済共同体ブループリントにおいてASEAN単一航空市場(ASEAN Single Aviation Market: ASAM)が最終目標に設定され、RIATSを内包するより包括的な取り組みとしてのASAM構築に向けた準備が進められてきた1

第17回ATMでは、「ASEAN単一航空市場の実施枠組み(Implementation Framework of the ASEAN Single Aviation Market)」が採択され、ASAMの概要および実施に向けたロードマップが明らかになった。同実施枠組みによれば、ASAMでは、経済要素として、
  1. 市場アクセス
  2. チャーター
  3. 航空会社の所有と支配
  4. 運賃
  5. 商業活動
  6. 競争法と補助金
  7. 消費者保護、空港使用料
  8. 紛争解決
  9. 対話パートナーとの協同
技術要素として、
  1. 航空の安全性
  2. 航空安全保障
  3. 航空交通管理
などに取り組むことになる。さらにロードマップでは45項目の方策が示されており、そのうち13項目は2012年まで、19項目は2015年まで、残りはそれ以降に実施することが示されている。交通次官級会合(Senior Transport Officials Meeting: STOM)の下に設置されている航空ワーキング・グループ内に、上述の経済要素、技術要素を担当するサブ・ワーキング・グループがあり、今後はそこで詳細な議論、交渉が進められていくことになる。このASAM構築に向けた取り組みに関してはEUが協力していくことになっている。

ASEANとの多国間航空協定に関しては、中国が先行しており、2012年にも第5の自由(以遠権—外国で旅客または貨物の搭乗載を行い、さら第三国へと輸送する権利)について合意形成されることが期待されている。韓国との航空協定に関しては、第5の自由までを見据えて、ワーキング・グループでの議論が始められることになっている。インドとの航空協定についてはもう少し動きが遅れている。ASAMでも対話パートナーとの多国間航空協定においても、現時点では第5の自由までが目標とされており、EUが実施したような、第6の自由(本国をハブとする第三国間輸送の自由)、第7の自由(ゲージ権—第三国間輸送の自由)、第8の自由(カボタージュ—他国の国内輸送)までは含まれていない。EUでは、こういったより高度な自由化がローコストキャリアの成長を促し、航空市場の再編を招いてきた。フラッグキャリアへの影響を考慮して、多くのASEANメンバー国は慎重な姿勢を崩していない。

2.RoRoネットワークに関する調査
ASEANは、インドシナ半島を中心とする大陸部とインドネシア、フィリピン等の島嶼部からなる。東南アジアの広域経済開発は、大陸部における幹線道路網の整備を中核とした経済回廊構想に沿って進められてきたが、近年では、大陸部と島嶼部、および島嶼部間の接続性を強化する必要性が認識されるようになってきており、海路を含む経済回廊構想が検討されるようになっている。また、域内格差是正という観点からも、従来のCLMV諸国一辺倒の立場から、離島など、島嶼部の低開発地域にも関心が寄せられている。MPACが優先プロジェクトと位置づけたRoRoネットワークおよび短距離海運に関する調査もその流れに沿ったものであり、ASEANにおける広域経済開発の新機軸である。

2011年11月18日の日ASEAN首脳会議で採択されたバリ宣言において、日本がASEAN海洋経済回廊開発を支援することが合意され、また、日アセアン行動計画において、「ASEAN RoRoネットワークおよび短距離海運に関するフィージビリティ調査」を日本が実施することが定められている。南シナ海における中国の動きを牽制したいという日ASEAN双方の思惑が一致したことも背景にはあるが、RoRoネットワークや短距離海運を通じた島嶼部の接続性強化は、ASEANの経済統合の地理的な拡大に直接的に寄与するものであり、域内格差是正への効果も期待される。

より包括的な取り組みであるASEAN単一海運市場(ASSM)に向けては、現在、韓国の協力により、基礎調査が進められており、2012年のATMに最終報告書が提出される見込みである。ただし、EUのような先行事例のある航空市場と異なり、海運市場の統合については、基本計画、実施計画の立案から実施に至るまで、数多くの困難が予想される。ASSMの具体的内容は現時点では明らかになっておらず、上記調査の報告書に基づいて制度設計がなされるものと思われる。


3.印麵泰三国ハイウェイとその拡張
インド、ミャンマー、タイを接続する三国ハイウェイ(Trilateral Highway) 構想は、2004年にメコン・ガンガ協力プログラムの一環として打ち出され、その後、ベンガル湾多分野技術経済協力イニシアティブ(Bay of Bengal Initiative for Multi-Sectoral Technical and Economic Cooperation BIMSTEC)に移管されていた。これは、インド北東部のミャンマー国境の町であるMorehから、ミャンマーを横断して、タイのMae Sotまでの1360kmをつなぐルートである。しかし、資金調達や国境地域の治安などが障害となり、実際には進展していなかった。

第17回ATMの議長声明によると、インド側から、
  1. 三国ハイウェイを建設すること
  2. 現在の三国ハイウェイ計画ルートをラオス、カンボジアまで延長すること
  3. インド、ミャンマー、ラオス、ベトナム、カンボジアを結ぶ新規ハイウェイを建設すること
が約束された模様である。まず第1点について、現在計画されている三国ハイウェイは、ASEANハイウェイ(およびアジア・ハイウェイ)の一号線と一致しており、ASEANが定めたトランジット輸送ルート(TTRs)にも指定されている。事実上の問題となるのは、ミャンマー国内の道路の改善である。具体的には、Chaung-Uから Kalemyoまでの379km区間、およびタイ国境のMyawadi付近の40km区間がクラス3以下と分類されているが、インドとの協力では、まずはこの前者が対象とされるものとみられる 2。このプロジェクトに関しては、インドのルックイースト政策、周辺国との接続性も重視するASEANのスタンスとも合致しており、大きな意義がある。第2点に関して、すでにタイからラオス、カンボジアに至るルートは改善が進められていることから、三国ハイウェイの延伸という視点は冗長ではないかと思われる。さらに第3点についても詳細はまだ不明だが、タイを通過しないことに主眼を置いているのだとすれば、その経済的意義には疑問が生じる。想定されるルートはASEANハイウェイの二号線(中国国境へ)と三号線(タイ国境へ)の分岐点であるKyaing Tongからそのままミャンマー・ラオス国境に向かうものであろうが、同地域は非常に山深く、少数民族問題等もあることから、大きな困難を伴うものと思われる。



参考文献
ASEAN Secretariat (2010). Brunei Action Plan 2011-2015: ASEAN Strategic Transport Plan.
花岡伸也(2010)「アジアにおける航空自由化の進展とローコストキャリアの展開」『運輸と経済』第70巻、第6号。

参 考
  1. ASEANの航空自由化の経緯については、花岡(2010)が簡潔に整理している。他に、ASEAN交通協力に関する現行の5カ年計画であるブルネイ行動計画(ASEAN, 2010)、およびそのバッググラウンド・ペーパーであるERIA Study Team(2010)なども参照されたい。
  2. インド国境にあるTamuからKalemyoまでの約100kmについては、すでにインドの協力により道路改善が実施されている。